1.《ネタバレ》 南米エクアドルの映画である。監督が同国の出身で、キャストは娼婦役が隣国コロンビア、相手の男役はボリビアの出身だが、ほかに地元の役者も出ているようだった。外部情報によると場所は首都キトとのことで、高地の街(標高2,850m)であることを思わせる映像も見えた。なお最初に起きていた地震というのは、エスメラルダス県やマナビ県で被害を出した「エクアドル地震」(2016)のことかと思われる。
テーマに関して、日本国内向けの宣伝では「性的搾取」として一般化した印象だが、特にこの映画が焦点を当てていたのは人身の拘束を伴う「性的奴隷」(esclavitud sexual / sexual slavery)の問題だったらしい。多くは人身売買や誘拐によるものらしく、具体的な場面はあまり出なかったが、被災地からの孤児の誘拐というのはストーリーの根幹にも関わっていた。これは他の国の話としても聞いたことがあり、決してエクアドルだけの問題とはいえない。
普通に映画として見た場合、エロい場面もなくはないがそれほどではなく、また「性的搾取」に関しても、良識ある人間が見て嫌悪を催すほどのショッキングな映像はない。物語の面では、最初から結末が見えているとまでは言わないが、普通に想像可能な範囲の(少し無理を通した形の)終幕になっている。主人公本人は罪深い人間とも思えないので邦題の「贖罪」は意味不明のようだが、「江戸の敵を長崎で討つ」的な雰囲気表現だったかも知れない。
ジャンルにある「ドラマ」「サスペンス」「エロティック」という面で十分かどうかは不明だが、特に上記esclavitud sexualを告発する社会派映画として見るべきものかと思った。
なお映画の撮影は2017年とのことだが、娼婦役のNoëlle Schönwaldという人は1970年生まれだそうである。もともと美形の人であって、劇中人物としてもまだ美貌を保って愛嬌のある表情も見せていたが、営業面ではさすがに厳しい雰囲気もあり、そのうちどうにもならなくなる行き詰まり感も出していた。ラストがこの人物なりの幕引きになったというのはわからなくはない。
ほかどうでもいいことだが原題に関して、"La mala noche"とは(特定の)「悪い夜」(単数)の意味だが、これは字幕の「店には行かない」という言葉やエンドクレジットの表示からしてポールダンサーのいた店の名前だったらしい。この映画以外では、18世紀のメキシコの鉱山名(転じて鉱山主の邸宅名)や米TVドラマのマフィア組織の名前にもマラノーチェという言葉が使われているが、どういうイメージを持たれている言葉なのかが結局わからず、映画の題名に込めたニュアンスも受け取れなかった。少し突っ込んで調べても結果が出なかったのは心残りだ。