3.密室劇+回想劇によるスペイン産ミステリー。
観客をミスリードする数々の要素や仕掛けが多分に盛り込まれ、ストーリー展開以上に、登場人物たちの印象が二転三転とひっくり返る興味深いサスペンス映画だった。
SNSのショート動画で紹介されていた情報を見て、ほぼ衝動的に鑑賞に至ったが、“掘り出し物”としての満足感も非常に高い作品だったと思う。
事件にまつわる人物たちの「証言」によって、事の真相が転じていくというストーリーテリングは、古くは黒澤明の「羅生門」から始まり、その映画タイトルから取って、「羅生門スタイル」とカテゴライズされたりもするが、本作も大枠で捉えればその範疇のストーリーだろう。
ただ本作の場合は、「証言」を行うのが、ある殺人事件の罪を問われている若手実業家一人に集約され、彼の発言とその行動が徐々に詳らかにされていくにつれて、映画冒頭の「印象」とは一転する趣向が新鮮だった。
本作があまり馴染みのないスペイン映画であり、出演する俳優たちの知名度も個人的に皆無だったことも、つくり手が意図するミスリードにまんまとハマっていく要因となり、功を奏していたと思う。
無論、鑑賞後にあれやこれやと突き詰めれば、無理筋だったり、道理が通らない要素も見えてくるけれど、ミステリーとしての整合性は保たれており、秋の夜長に楽しむには充分だったと思える。
スペイン人監督オリオル・パウロの作品は初鑑賞だったが、無駄のない画づくりで卓越したビジュアルをクリエイティブしていた。本作も含め、脚本創作も手掛ける注目すべき映画人だと思えた。他の作品もぜひ鑑賞してみようと思う。
日々SNS動画を見ていると、映画の内容を要約したり、ネタバレする情報も流れてきて慌てて飛ばさなければならないことも多々あるけれど、こういう隠れた良作の情報得られる機会も多いので、一長一短だなと思う。