1.《ネタバレ》 父を亡くした若者・ミツルと若い息子が不治の病に侵されつつある男・高橋。恋人に別れを告げられ帰路を急ぐミツルと、駅前の路上で携帯を前に泣き叫ぶ高橋には実質的な接点は全くない。しかし、父への後悔の念はミツルを振り返らせた上に高橋に歩み寄って手を差し伸べさせる。そして、息子と同年代のミツルを仰ぎ見た高橋は、それに応え強く握り返す。
ミツルは死の直前の父からの電話を繰り返し無視し続けた。そして、冷たい言葉を投げかけた電話が父との最後の会話となってしまった。父親に愛情を感じていなかった自分。一方的に自分からの感情のみによって父親と接して来た。それでは自分は何をして来たのか。ただ自堕落な生活をしていただけではないのか。反省は内側にも向かう。そして見ず知らずの泣き叫ぶ高橋に父を重ね手を差し伸べる。
一方、差し出されたミツルの手を握り締めた高橋には何が伝わったのだろうか。常に厳しく接し続けて来た息子が、今や寝たきりの状態で発語さえもままならない。進行する病魔と死への恐怖。きっと父親のことを恨んでいるのだろう。息子への厳しい言葉や態度が悔やまれる。それは自分のことは顧みず息子に苦行を強いていただけではなかったか。もっと違う父子関係であれば息子は病床に臥せずに済んだのではないか。そこに差し出されたミツルの手。ミツルと我が子を重ね合わせ、逡巡しつつも差し出された手に我が子の手を重ね合わせ身と心を委ねる。
この先ミツルと高橋の歩む人生がどうなっていくのかは観る者に委ねられるエンディング。時として振り返ることが後の人生に如何に大切なことか。しかし、それでも人は振り返れない。だから常に後悔がある。そんな感想を抱きました。