12.《ネタバレ》 勤め先の炭鉱は閉鎖、父親は自殺するわ出てきた都会で強盗に遭うわ、仕事は見つからないトコロに情状を一切酌量してくれない司法によって牢屋にぶち込まれるわ。
こう書き出すと目も当てられないほどに悲惨な主人公の境遇なのに、なぜこんなにユルくて悲壮感ゼロなのでしょう。
不運は呼んでもないのに来る。けれど幸運も「ちょっと気が向いたので」的にやってくるんですなカウリスマキワールドは。
“こんなことがありました”と、ぼそっとエピソードを差しはさんですぐ画面が切り替わる独特のリズム。会話より行間を汲んでコミュニケートする寡黙な人物たち。全部がザ・カウリスマキと呼びたくなる唯一無二の空間。
なんもかもパッとしないのよ。のっけから譲り受けたコンバーチブルの幌は北欧の冬だっていうのに閉じない(!)し。子持ちの彼女と3人でドライブしに出かけた先の海辺も岩場ばっかりの岸に波が愛想無く打ちつけるような映えないロケーション。音楽も絶妙にダサい。
だけどもね。収監された先で出会う妙な先輩マッティ・ペロンパーはもちろんのこと、外でも本を手放さない連れ子の男の子も愛さずにいられない。
人生の上手く行かなさも野暮ったさも何もかもが近しく親密に感じられる、好きすぎる一本。