1.《ネタバレ》 これより2年後に公開された、あの『いまを生きる』を先取りしているかのような、高校が舞台の「詩」が大きなポイントとなるドラマ。開巻と同時に、いかにも危険なスラム街という感じの、車道や壁の寒色が目に焼き付いてくるような街並み。登場する高校生たちは、男女とも喧嘩っ早くドラッグに手を出し、バスケットボールのスリー・オン・スリーのようなゲームやボクシングに興じていますが、その服装や顔付きと言い、街並みとは対照的にどこか洗練されている感じさえして、不思議な画になっています。
彼らが通うオスモ・ハイスクールは、日本のいわゆる課題校以上に暗く、乱雑な雰囲気ですが、教師たちは一様に「ひからびた」顔付き。そこへ転校して来るレックスは、往年のフランス男優ジェラール・フィリップのような面影を持つ、風采の上がらない生徒。登場するや、早くも「トロ公」とからかわれ始めるも、日本のような陰惨さはなく、周りもそういう奴と割り切っているようで、これも妙に彼らの洗練さを窺わせています。レックスは、一風変わっていながらも、次第に仲間たちにも受け入れられるようになり、そんな彼の影響か、エルズワース先生の国語の授業でも、詩のテストでの彼ら成績は、みるみる向上して行きます。
クライマックスは、即興詩人のレックスに徐々に触発されたビリーとケイトの兄妹が、学校の文化祭 (タレント・ショウ) で自作詩の見事な朗読をするところ。「ビーッ・ザ・ビーッ (Beat the beat) 、バ!バ!」というチャンツに乗って、対立していた街の不良グループ同士までもが1つになって行く辺りは、『いまを生きる』に比べれば確かに荒削りなプロットかも知れませんが、率直に気持ちの良いものです。ラストで、忽然と姿を消したレックスを探して、かつて彼と来た海岸に来る一団を照らす、目に鮮やかな夕陽と、聳え立つビル群。オープニングとの見事な対比は、素晴らしいと思います。「今、私は誰?」「誰になりたい?」詩の世界では、みんな自由に誰にでもなれる、という手ほどきを残して、風のように消えたレックス。これぐらいの粗さは、却って想像力を心地よく刺激してくれると思います。日本では劇場未公開、ビデオ発売のみ (DVD発売なし)、ケーブルテレビで放映されただけの、知られざる佳作です。