36.《ネタバレ》 監督の伝えたい事を念頭におきつつ、台詞からではなく
「映像上の隠された比喩や引用から意図を想像する」
そんな映画の楽しみ方を伝えてくれたという点で印象的な1本。
原題「体制順応主義者」とは主人公マルチェロその人を指すだけでなく、
イタリアのファシズム政権を誕生させてしまった数多くのマルチェロ
=社会に無関心・無責任な大衆への糾弾を伝えたかったのではないか。
年少期の出来事が影響したとはいえ信念の欠けた、未熟な生き方を
続けてきた男は(落語で言う「でも医者」ならぬ)「でもファシスト」。
反体制を主張する恩師の調査追跡によって感じたのは自身の生き方とは
真逆の、「人権を声高に主張し自由に生きている」人間の姿。
女性二人のタンゴ。平凡な生活を余儀なくされていた婚約者が
恩師の若い妻と踊るそのシーンは、女性としての真の生き方ってのか
心身の解放を教授してもらうというシーン、だと思ってる。
人間らしい生き方に触れたにも関わらず、全く動かない主人公。
恩師を暗殺する段になっても、その対応を同僚になじられる。
大勢の暗殺者によってナイフでめった刺しにされる恩師の様は
「無責任な大衆によって少数の良心は潰される」様を見ている様で
痛々しい。一度は気にかけた恩師の妻が惨殺されてゆく様子を
ただ車窓から見ているだけ。無関心が悲劇を増大させる。
でそんな情景を映し出す映像美。巨匠ヴィットリオ・ストラーロ30才。
青・赤・白を多用した色彩は主人公のフランス旅行に結びつくだけで
無く、国旗:トリコロールにも関連付けられてるとは今回知った事実。
青:自由/白:博愛/赤は平等なんだけど、どちらかというと暴力に
よる流血と合わせて、「血の色は同じなのに考えが異なる多様性」
を明示した隠喩と思っている。あと光と影の使い方。「カラヴァッジオ
(イタリアバロック絵画の巨匠)を参考にした」との事だが、絶対これ
エドワード・ヤン、影響受けてんだろ。「牯嶺街少年殺人事件(’91)」
ラスト、主人公夫婦にとってあのフランス旅行の喜びは一過性
でしかなかった事に愕然とさせられる。そしてファシスト政権の
崩壊と同時に目撃した出来事。何もかも失ってしまった主人公
はどう感じたか。「おまえら全員ファシストだ」
自分は無責任な傍観者になってないか?
映画館を後にする自分にも、その声は響いてるのだ。
長文失礼しました。