1.雨に濡れた暗い路地。バーを出た男を尾行していく犯人の主観ショットの緊迫感から一気に映画に引き込まれる。
50年代に一気に名声を高めるクルーゾー監督の優れたサスペンス演出は、戦中の処女作(コンティナンタル製)から随所で光る。特に冒頭の刺殺シーンを始め、幾度か登場する殺人場面はいずれも見事。(『悪魔のような女』的な浴槽殺人も登場)
大写しとなるシルエットの用法や「3」の記号の活用などは、ラングからの影響もあるのだろうか。
一方で、ピエール・フレネーとお転婆ぶりが可愛いシュジー・ドゥレールの掛け合いや、手品師とのスリ合戦など、楽しい見所も充実している。
「ミモザ館」住人達のキャラクターもそれぞれ個性的だ。
ナイフ、マッチ、ステッキといった小道具の扱いも各所でアクセントとなっており、特にラストショットでピエール・フレネーがマッチを擦る粋な仕草は鮮やかに映画を締めくくっている。