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六本木ソルジャーさんの口コミ一覧[この方をお気に入り登録する

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コメント数 823
性別 男性

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1.  ザ・ファイター 《ネタバレ》 
ミッキー・ウォードというボクサーについての知識は全くない。 そもそもボクシングについてあまり興味もない。 全く知識もないという状態だからだろうか、逆に新鮮な気持ちで鑑賞することができた。 肝心のボクシングの試合はそれほど熱いものではなかったが、ボクシング以上に熱いファイトが見られたのは、試合以外のその他の部分である。 兄と弟、母と子、恋人と男、娘と父の関係を、リアルで生の感情をむき出しにして、熱く描かれている。 それだけリアルで生の感情が表に出てくるのは、“世界チャンピオン”という栄光が彼らにとっての“夢”であり、自己の存在価値を認めるものであり、負け犬ともいえるような人生を変えることができるからなのだろう。 どん底から這い上がりたいという願う者の気持ちが渦巻いて、一つの形として成就する姿はやはり感動的と言わざるを得ない。 もろい物であり、円滑に働く物でもないが、それぞれの絆の深さ、太さが感じられ、“家族”という存在の大きさが浮き彫りとなっている。 ボクシング映画でありながら、ボクシングの試合がイマイチ盛り上がっていなかった気がするが、「ロッキー」のような映画ではないので、ボクシングの試合がやや地味でも仕方がないだろう。 現実に存在した選手の試合であり、試合を盛り上げようと思って、変な演出をしない方が逆によかったかもしれない。 試合よりも人間ドラマに重きを置いた監督の戦略でもあるだろう。 クリスチャン・ベールはアカデミー賞受賞も納得の演技。 最後に本人が出てきたときは、ほとんど同じ人としか思えなかった。 ただ単に似ているだけではなくて、登場人物の全ての者に影響を与えるほど、本作において重みがあり、本作の影の主役と言っても過言ではないだろう。 マーク・ウォルバーグもアカデミー賞から無視されたことが納得できる。 実際にファイトするのは本人なのだが、主役でありながら、板ばさみ状態で一番感情を押し殺さなくてはいけない損な役回りを引き受けたともいえる。 プロデューサーでもあり、仕方がないか。 カメラワークもなかなか凝っており、この視点からも楽しめるだろう。 久々に聴いた「ホワイト・スネイク」の曲も熱くなった。 タイトルは「ザ・ファイター」とシンプルだが、ミッキー・ウォードという固有名詞を使うのではなくて、戦っているのはボクサー一人ではないということを込めているのかもしれない。
[映画館(字幕)] 8点(2011-04-02 23:04:17)
2.  ザ・バンク -堕ちた巨像- 《ネタバレ》 
フィクションといえる内容だが、実際の事件を元にしているためか、100%フィクションと感じさせないリアリティのある仕上がりとなっている。 実際に本作で描かれているものに近い銀行があったにせよ、本作に描かれている荒唐無稽さを“荒唐無稽”と感じさせない点が本作の良さではないか。 社会派映画のテイストにエンターテイメント要素やヒューマンドラマ要素を上手く混ぜ合わせて、質の高い映画となっている。 テンポも非常に良く、緊張感も常に保たれている点も評価したい。 本来ならば、辟易するようなムチャクチャともいえるグッゲンハイム美術館の銃撃戦もこのような仕上がりのためか、何故かムチャクチャさを感じさせず、逆に感動モノの仕上がりとなっている。 また、この手の作品としては、ストーリーもかなり分かりやすく整理されており、初見でも全く問題なく付いていける。 ラスト辺りの展開はややリアリティから外れていくが、どこかでオチを付けざるを得ないため仕方がないところがある。 ややトーンダウンしているところはあるが、個人的には逆に上手くオチを付けたとも感じられた。 男としての生き様や美学が込められているのではないか。 “正義”のために法の外に出ようとしても完全には出ることができない男の“悲哀”、“正義”のための行動をしたとしても“強固なシステム”に対しては、一人の男のチカラの“無力さ”などを描くことによって、「チャイナタウン」のような虚無感を漂わせている。 行き場がなく出口のない“怒り”を放置する辺りは製作者の思い切りの良さも感じさせる。 クライヴ・オーウェンもかなり熱演している。 法の外に出ることを決意したオーウェンとワッツが向き合うシーンでのオーウェンの“眼”が非常に印象的だ。 “眼”や“雰囲気”だけで演技できており、改めて高い演技力を感じられる。 本作によって、オーウェンとワッツを高く評価したくなった。
[DVD(字幕)] 8点(2010-12-28 23:33:38)
3.  最高の人生の見つけ方(2007) 《ネタバレ》 
重くなりがちなテーマを、比較的軽めのコメディタッチに仕上げており、しかも軽い仕上げであっても、きちんと感動できるようになっている。 監督・俳優の高い技量の賜物だろう。 現実離れしたご都合主義という批判はあるかもしれないが、何もかも現実に即して描く必要はなく、ちょうどいい上手い具合に調理された映画だ。 いい年をしたオヤジたち二人の旅は本当に微笑ましい。 見ているこちらも、旅に出掛けたくなる映画だ。 旅に出掛けることももちろん意義があることだが、モーガン・フリーマンにとっては意識を改革することに意義を見出そうとしたのだろう。 病床で家族と向き合う期間をだらだらと過ごすことよりも、忘れてしまった妻への想いを取り返し、一瞬だけだとしても家族とかけがえのない時間を過ごすことによって、自分の人生に再び輝きを取り戻すことができると考えたのではないか。 妻への説得があっても帰ろうとせずに、ジャック・ニコルソンの色仕掛けのワナによって、ようやく妻への忘れかけた想いを再び感じられるようになるというのも面白い仕掛けだ。 ニコルソンにとっては、この旅は単なる道楽だったかもしれないが、旅を通して、かけがえのない親友を手に入れている。 女性にはモテるかもしれないが、本当の意味で親友と呼べる存在はモーガン・フリーマンだけなのだろう。 秘書とも深い絆で結ばれているが、対等の立場ではないので、親友とは呼べない。 親友だからこそ、誰もが言わないことを言ってやろうと思う(疎遠となった娘と会え)。 親友だからこそ、自分にとって難しいことを言われたとしても、それに応えてやろうと思う。 親友というのは、そういう関係なのだろう。 自分流の“最高の人生”とは、「自分の人生をできるだけ楽しむこと」だと思い、そういう生き方を今まで実践してきたが、それでは半分程度なのかもしれない。 自分の人生を楽しむことだけではなく、他人の人生を楽しませてこそ、本当の意味において“最高の人生”ということになるのだろう。 本作は、結構深いところを描いている。 妻(恋人)、家族はもちろんのこと、友人でも構わないという点がなかなか良い。 彼らは6ヶ月程度でそれを成し遂げたのだから、誰にとっても遅いということはない。 そして、誰でもそれはできるはずだというメッセージを込めたのではないか。
[映画館(字幕)] 8点(2008-05-18 14:12:04)(良:1票)
4.  SAYURI 《ネタバレ》 
この映画を見る前、タイトルは「Memories of a Geisha」かと思って、会長か延さんに一人の芸者についての「記憶」でも語ってもらうのかと思っていたら、「Memoirs(回顧録)」となっていて、タイトルから考えていたストーリーとはだいぶ違う展開だったので、ちょっと出鼻を挫かれた想いがした。 人間ドラマ、ラブストーリーという観点からみると多少モノ足りないかなという気がするが、とてもハリウッドの監督が作ったとは思えない素晴らしい美意識の高さ、日本の古き美に対する憧憬が感じられる素晴らしく美しい映画に仕上っている。 日本人監督が作るのとは違う日本の美しさを感じさせる映画となっているので、この試みは成功だったのではないか。 この時代や芸者については、自分はそれほど知識がないためか、時代考証については全く 違和感はなかったと思う(違和感があるとすれば字幕の問題か)。 しかしながら、人間ドラマ、ラブストーリーはモノ足りないと感じたが、これこそまさに「日本人らしさ」が描かれたためではないかと思う。 延さんは、自分が好きな女がいても、その感情を自分の奥底に押し留め、最後の最後まで表には出さない。どんなに金があっても、自分の好きな女を金で買うことなんてしない。権威も利用しない、金を失って一人の裸の男になったときになってようやく、自分の気持ちをさらけ出すことができる。まさに「侍」的な気質が描かれていた。 また、会長についても同じく、自分の気持ちを押し留め、恩を受けた相手(延さん)に対する気持ちを察して、恩を受けた相手を裏切ることはできずに、逆に譲り渡そうとする日本人的、侍的な精神がしっかりと描かれていたような気がする。 そのため、自己主張しない男同士によってラブストーリーは影を潜めて、人間ドラマとしての女同士の争い、一人の女が自分の気持ちを叶えられずに、他の芸者同様、女としてではなく芸者として生きる決意を固める(ハンカチを海に投げ入れる)までが中心になったような気がするが、男同士の影のやり取りが見て取れるのも見逃せないところだと思う。 ラストの締め括りは、個人的には賛否あり微妙だなとは思うが、あれで良いのかどうかは今のところ結論は出せずにいる。
[映画館(字幕)] 8点(2005-12-11 16:59:46)(良:2票)
5.  ザ・インタープリター 《ネタバレ》 
バスの爆発くらいしか派手なシーンもなく、あっと驚くようなラストや仕掛けもない。もちろんショーンペンとニコールキッドマンが恋に落ちるような話でもない。 そのような一見地味な映画であるが、脚本が練りに練りこまれており後半以降は素晴らしい作品に仕上がっている。 その理由としては、大統領暗殺計画を舞台としたサスペンスではあるが、それに留まらず、様々な視点が織り込まれていると感じる。 まずはその大統領と社会的背景。 その国に関する複雑な関係と大統領自身の過去や二人の政敵がストーリーをより一層面白くさせている。 そしてショーンペンとニコールキッドマンの二人の関係。 妻を失ったショーンペンと暗い過去を持つニコールキッドマンの哀しみを知る二人の関係は絶妙だった。当初はペンはキッドマンに対して疑いの眼をもっていたため対岸にいるような遠く離れた平行的な二人の関係であったが、徐々に近づいていき、結びついていく様は見事である。 そして憎しみに対する「復讐」と「許し」をテーマに掲げていると思う。 復讐(映画で言う「溺死」)をすることによって、哀しみを一生背負うのか。許す(「溺れさせずに助ける」)ことによって、人生の新たな一歩を歩むのか。このテーマはこの映画にとって必要不可欠なテーマである。 そして「暴力と言論」。 暴力によって物事を解決しようとした過去と言論を信じて通訳の道を進んだ現在。ラストのあれが彼女の信念になったのかは分からないが、言論の重要性が語られたラストは見事な展開だった。 表面的にしか映画を見ない人には多少退屈な映画に感じるかもしれないが、よくよく見るとこれだけ色々なものが詰まっている。映画が好きな人には面白いと感じる映画ではないだろうか。 結構色々な映画に出ているが、シドニーポラック自身も、ショーンペンの上司役にて登場。それだけでもちょっと嬉しい感じがする。
[映画館(字幕)] 8点(2005-05-21 23:27:59)
6.  ザ・ロイヤル・テネンバウムズ
多数のキャラクターが登場するが、各々のキャラクターに人間味や深みがある点が素晴らしいと感じる。 特に3人の息子と娘とイーライはそれぞれ悩みや弱さを抱えている。 チャスは、味方だと思っていた父親に子ども時代に撃たれたことを根に持ち、横領で父親を訴えたりと父親ロイヤルに対して相当怒りの感情を抱いている。 また、妻の死により、安全に対して敏感になっており、息子達を自由に育てることができていない。 マーゴは、養女ということを強調され続けられていることから、一人疎外感を抱いており、愛を知らない屈折した生き方をしている。 タバコを12歳のときから吸っているのも、誰かに構ってもらいたかった、誰かにとめて欲しかったことの現れのような気もする(禁煙を試みるも10年前のタバコをリッチーと吸うのはちょっと意味が分からないが)。 リッチーはマーゴのことを愛しているが感情を伝える術を知らずに苦悩している。マーゴの結婚を知ってテニスで大荒れの試合をしたり、マーゴの過去を知り自殺未遂をしたりと感情面の弱さを感じる。 イーライには両親がおらず、テネンバウムズ家族に常に憧れを抱いている。本は売れたが、続けては売れずに、結局はクスリに逃げて事故を起こす。 父親ロイヤルはどうしようもなく父親で、破産したあげく妻の再婚を食い止めるために一芝居打つ。ただ、その一芝居によって、家族と再び暮らすことが彼を変えていく。 大人になっても悩みや弱さを抱えるテネンバウムズの子ども達等だが、父親のロイヤルの変化によって、子ども達もそれぞれが微妙に少しづつ前向きに変わっていく姿が感動的だ。 しかし、孫達に無謀さを教えてやりたいと色々と連れまわすところはロイヤルという人間がよく分かるシーンだ。 また、妻のエセルと川沿いのようなところを二人で歩くシーンもロイヤルの人間像が分かり、結構良いシーンだと思う。 特にストーリーらしいストーリーはないけど、淡々とした流れの中に登場人物の様々な感情やその変化を感じることができる素晴らしい作品に仕上がっていると感じる。
[DVD(字幕)] 8点(2005-05-08 03:52:49)(良:1票)
7.  SOMEWHERE 《ネタバレ》 
ソフィア・コッポラ監督はそれほど好きではないので、ベネチア映画祭で賛否両論の本作を気に入ることは難しいかと思っていたが、これはこれで意外とアリということが正直な感想だ。 ハリウッドスターの日常や、父と娘が過ごすたわいもない日常が綴られているにすぎないので、ストーリー映画のような面白みを得ることはなかなか難しい。 しかし、無味乾燥な日常の中にみえる“空虚さ”、平凡なやり取りの中で父と娘が心を通わせる“穏かさ”が本作には欠かせないので、このようなアプローチは悪くはない手法だ。 ハリウッドスターが過ごす物足りない日常の生活や、父と娘が過ごすたわいもない日常の生活を、ソフィア・コッポラが極めて繊細に描いているため、自分はそれほど飽きることはなかった。 このようなストーリーがほとんど存在しないような映画を、一定の水準に保つには、監督としての技量を問われるはずだ。 ハリウッドスターとして全てを手に入れて、パーティーやレセプションをこなし、多くの女性とともに過すジョニー・マルコと、一人の父親として娘とともに過すジョニー・マルコの対比がうまくできている。 ポールダンスを見て飽きて寝てしまう姿と、娘のアイススケートを見て惜しみのない拍手をおくる姿をみるとまるで別人のようだ。 オチの付け方が難しく、中途半端な終わり方になると予想していたが、前向きになれる意外と良いオチを付けてくれた。 暮らしていた高級ホテルをチェックアウトして、高級車を降りて、何もかも捨て去り、自分の足で歩く男にはかすかな笑みがこぼれており、空虚な生活を送り、何も手にしていない男が再生し、再スタートを切る姿は美しい。 娘との再会で幕を閉じるわけでもなく、具体的な事象を描くことなく、曖昧なイメージのままで仕上げており、本作にとっては最良の仕上げではないか。 このようなラストにすることにより、自分はハリウッドスターでもなければ、子どももいないが、マルコの姿と自分自身をやや重ね合わせることができたので共感しやすかった。
[映画館(字幕)] 7点(2011-05-03 12:39:53)
8.  ザ・タウン 《ネタバレ》 
緊張感に溢れ、重々しくかつ渋めの作風となっており、自分好みの作品に仕上がっている。監督としてのキャリアが浅いこともあるのか、あまり変なところに凝ることなく、オーソドックスで分かりやすい構成ともなっている(リアリティにはこだわっているようだが)。クライムサスペンス、アクション、ラブストーリー、ヒューマンドラマという要素をバランスよく、重厚かつリアルに描き込んでおり、エンターテイメント作品としても人間ドラマとしても、どちらの面からも楽しめられる。アフレックは役柄的にぼんやりしたところはあったが、ジェレミー・レナーが“街”とともに生きるという決意が表れたような演技をしている点も評価できるところ。 父親との関係、幼なじみとの関係、元恋人との関係、現在の恋人との関係、街を仕切るボスとの関係など、自分が住む“街”、自分と切り離すことができない“街”について、あまり多くを語らずに必要最小限に留めているところも好感がもてる。 獄中にいる父親に会って、母親の話をするだけでよい。 幼なじみとは罪を犯し、むかつく奴を殴り、昔話をするだけでよい。 元恋人とはヤッて、泣きつかれるだけでよい。 街に仕切るボスとは交渉して、逆に脅されるだけでよい。 それぞれを詳細には描き込んでいないが、しがらみに絡みつかれていることがよく分かるようになっている。 幹と枝の部分をしっかりと描き、葉っぱのような部分をカットしていることはなかなかの思い切りの良さを感じられる。 エピソードも効果的に使われている。 母親に関するエピソード、自分のために獄中に入ってくれた幼なじみのエピソードなど、実際に描くよりもエピソードとして挿入することの方が心に響き、大きな効果を生んでいるように感じられた。 スケートリンク、土いじり、恋人との会話などもさりげなく描き、それらを効果的に使っている。 ただ、ラストのヒゲ面は多少蛇足かもしれない。 彼が警察に捕まったのか、野垂れ死んだのか、幸せに暮らしているのか、罪を償っているのかといったことはそれぞれの観客の判断に任せてもよいのではないか。 あまり描かないことが効果的だったので、手紙のナレーションだけでもよかったかもしれない。
[映画館(字幕)] 7点(2011-02-08 23:32:17)(良:1票)
9.  サンキュー・スモーキング
本作は「インサイダー」のようなタバコ業界の内幕を暴露するような映画でもなければ、マイケルムーア作品のようにタバコ業界を糾弾するような映画でもなく、「スーパーサイズミー」のようなタバコの害を体験しながら明らかにしていくドキュメンタリーでもない。 本作はタバコ業界を舞台にした人間ドラマである。しかも、タバコ業界に関与している者同士の利権や思惑が交錯する複雑なものではなく、根っこは「親子」の在り方を描いた作品である。なぜ、タバコ業界を描きながら、親子の話がでてくるのかと感じた人もいたのではないだろうか。<以下ネタバレ>タバコに害があるというのは、大人であれば誰でも分かることだ。害があると知りつつ、タバコを吸うのには誰に責任があるのだろうか。 本作では「本当にタバコ会社に責任があるのだろうか?」という問い掛けをしている。話を変えれば、「肥満の責任はマクドナルドにあるのか?」「クルマの事故は自動車会社にあるのか?」「殺人の責任は銃器メーカーや刃物製造会社に責任があるのか?」「飲酒運転はビール会社や自動車会社に責任があるのか?」という問題と同視できるのではないか。責任の一旦はあるのかもしれないが、(タバコには中毒性という問題があるかもしれない)これらに起因する責任は「自己責任」ではないかという問題提起をしているのが新しい。各人が自分の行動に責任をもてるようにするためには何が必要なのか?という答えに対して、本作では「教育」という問題を取り上げている。学校での教育ではなく、家庭での教育である。本作では、父と子どもが向き合って話し合い、ありのままの父親の姿を見せ、子どもに考えさせ、子どもを成長させ、時には、子どもに励ましてもらい、子どもに対して恥ずかしくない生き方を示していく。お互いがお互いを成長させるという理想的な姿をユーモラスに描き出している。訴訟大国アメリカにおいて、タバコにドクロマークをつけるかどうかというように問題をすり替えることで決着させるのではなく、本質的で当たり前の部分を突いているという点に対して、とても新鮮で驚かされることとなった。 本作の上映前に同監督の短編「In God We Trust」という作品も特別に併映された回を鑑賞することができた。結構、他の観客には大いに受けていたが、それほど笑いのレベルは高くはないと感じた。本作がDVD化された暁には、この短編も付録につくのかな。
[映画館(字幕)] 7点(2006-10-24 00:03:24)(良:1票)
10.  サルバドル/遥かなる日々 《ネタバレ》 
本作を観て、大きく二点について考えさせられた。「エルサルバドルの当時の現状」、「ジャーナリズムの在り方」である。 エルサルバドルという国自体は知っているものの、自分は国際情勢には疎いため、政府によって国民が殺されていたという映画において描かれている「事実」を全く知らなかった。 このような事実を世に知らしめる手段の一つに映画がある。ドキュメンタリーとは違い、フィクションが多少含められているとは思うが、映画の果たすべき役割の大きさを感じる。 また、本作では、共産主義を撲滅するという名目のために、アメリカがエルサルバドル政府を軍事支援し、軍事支援されたエルサルバドル政府は、共産主義だけではなく、無実・無害のただの国民までも皆殺しにしているという現実を告発するものだ。ベトナム戦争での反省が全く活かされておらず、歴史が繰り返されている悲劇には怒りを覚える。 さらに、アメリカが軍事支援することによって生じた多くの移民を強制送還してしまうという一種の「矛盾」が痛々しい。 そして、本作では「ジャーナリズム」とは何かを感じさせる。ボイルは、スクープ狙いで金儲けが目的だったのかもしれない。ジョンに比べて軽薄であり、思想や信念も強いものではなく、体制側にも依存するように、「ジャーナリスト精神」は薄弱かもしれない。 しかし、悲惨な光景を目の当たりにして、徐々に怒りに火がつき、「真実を伝えなくてはいけない」という精神が彼の中で膨らんでいった気がする。ジョンのような初めから真面目な男ではなく、ボイルのようなどうしようもない男だからこそ、何かを共感できた気がする。 国境付近での一悶着後の談笑には、自分を殺そうとした男たちと、談笑できるくらいの度胸と、後腐れのなさがないと、この仕事は勤まらないのだよというメッセージにも受け止められた。 ジェームズウッズがかなりの好演をみせていたが、危険な撮影方法などを巡り、現場ではかなり監督と揉めたようだ。完成後に、彼が映画館で鑑賞した際に、エルサルバドルの人から握手を求められたことで、少しでも自分の演技が何らかの役に立ったのならばよかった。そういう意味では本作に出たことを誇りに思うし、監督と仕事をできたことを感謝していると述べていたのが印象的だった。
[DVD(字幕)] 7点(2006-09-07 00:39:01)(良:1票)
11.  サタデー・ナイト・フィーバー
六本木にてデジタルリマスター版を見ました、画質はそれほど良くはなかった印象、音は確かに良いけど。 トラボルタはダンスがカッコいいだけではなく、今の一瞬一瞬を生きている若々しさ、髪型や服装をイチイチ気にするようなダサさ、ダンスや女性に対する真面目さ、相手を素直に誉める潔さ、将来に対する漠然とした不安、仲間と一緒にいてもどこかつまらなそうな感じを出していたように中々の好演。 ダンスシーンでは皆で同じダンスをするところは、見ているこちらも体が自然と動く。 アニキを連れて来た際に見せたソロのダンスも中々見せつけられた。 ただコンテスト中にキスしているようではちょっとマズイだろう、ダンス自体も二人の人生に対する甘さが出ているような甘い踊りで、プエルトリコの熱っぽさとは好対照だった。 全体を通してユーモアたっぷりに描かれていながらも、若者特有の人生に対する不安、焦り、夢への思い、現実の厳しさがちゃんと描かれていたと思う。 自分が本当にやりたかったことを見出せずに過度な期待を持たれ不本意な人生を歩んだアニキや自殺とはいえない自殺をした友人などがいい素材が多くあった割には、ラストはまとまりきれなくなった感を受けた。 ステファニーに対して友人でいようとか、男女の友情はあるの?とかはちょっと逃げた感じがする。 やはりダンスへの思いというか、夢に対する姿勢で最後は締めて欲しかった気がするんだけどね。 ステファニーも都会に憧れ夢が大きく背伸びはするけど、愛人として自分を売ることしか出来なかった現実の厳しさを感じさせてくれた。 エンディングロール中に外人さんとその彼女さんが画面の前で二人で踊ってくれました、ラストも右手を上げたあのポーズで決めて。 本当は迷惑なんだけど、サタデーナイトフィーバーだから許せるかな、ちょっと微笑ましかったし。
7点(2004-10-31 03:28:13)
12.  サイン
この映画を宇宙人モノや超常現象モノと考えればそのスケールのショボさから恐らく評価は0点に近いモノになるでしょう。 この映画の正しい鑑賞方法は信仰を失った人が信仰を取り戻す姿を描く感動ストーリーと捉えないといけない。 昨今、神の存在を信じない輩が増えてきている現代において、大切な家族を奪われた痛みと悲しみという大きな不幸から神への憎しみだけを募らせていく元牧師というのは中々いい現代の象徴だと思う。 壁にかかっていたと思われる十字架の跡がまた何とも言えないいい現代の象徴とも考えられる。 幸運や不運をただの偶然と考えるか、それとも神の啓示(サイン)と考えるかそれは確かに個々人が決めることだけれども、誰かに見守られていると考えれば生きる希望が沸くし、この世は自分一人で生きていると考えれば人間は孤独なんだという捉え方は今までの自分にない発想だけに意外と面白かったと感じる。 本作のテーマがこれなんで、テーマが分かれば水に弱い宇宙人とか、人間を食糧にするとか全てにおいてショボイ無茶苦茶な設定は逆に笑えるものになるんではないだろうか。 宇宙人や幽霊等の一見派手なオカルトチックな舞台で家族愛や信仰の回復等の人間の本質をテーマに描くというのはシャマランしか出来ないし、また、やらないだろう。 他の監督が出来ないことややらないことをやる、だからシャマランの映画は結構貴重な存在なのかもしれない。
7点(2004-09-05 19:25:47)
13.  誘う女(1995・米)
二コールが役になりきってはまっていた演技が好印象。 テレビに出るという夢のために道を外していくが、最終的にはリディアの方がテレビに引っ張りだこになってしまうという人生の皮肉も描いている。 夫が殺された時、カメラが自宅前に集まっているのを知ったときの表情や仕草がこの映画のポイントでしょう。 ベッドでホアキンに対して、夫殺しを強要するシーンも出来がいい。 ホアキンも若い時から相変わらずいい演技をしている。  
7点(2004-03-24 21:28:04)
14.  ザ・ロード(2009) 《ネタバレ》 
文明崩壊後に、親子が二人で南を目指して彷徨うだけの映画。 悪人から逃れるために隠れて、食べ物や物資を探し求めるだけで目立ったストーリーがないだけに、好き嫌いが分かれそうな作品に仕上がっている。 素晴らしい作品とは思うが、正直言って自分の好みの作品ではなかった。 ただ、本作に描かれているメッセージは深い。 生き残るために他人を襲い、あるいは人間ですら食べるということが当たり前の世界の中で、善という“心の火”を灯し続け、その精神を息子に叩き込もうとする父親の姿が心を打つ。 文明が崩壊して秩序が崩壊して混乱した世界になっても、人々が“心の火”を灯すことで秩序が回復できるのではないかと、かすかな“希望”が感じさせる。 唯一の“希望”が自分達を撃つための銃弾という設定も泣かせる。 平和だった日常生活が随所に回想として挿入されているが、何でもないようなことが実は幸せだったと思わせる。 ラスト間際の父親の幸せそうな夢を見たときに、「悪夢を見る者は生きる希望を失っていないから」という言葉を思い出して、彼の死期を悟ることができるようになっている。 本作中においては、文明が崩壊した理由も明らかもされず、最後に楽園に辿り着くわけでもない。 そういった映画らしい展開を無視する辺りも本作の個性ともいえる。 むしろ、そういったお約束を描かない方が本作にはプラスといえるだろう。 “心の火”を灯した親の子ども達が出会うことが、自分には希望と感じられた。
[映画館(字幕)] 6点(2010-12-28 23:16:56)(良:1票)
15.  ザ・ウォーカー 《ネタバレ》 
観る前は、文明が滅んだ後の世界で巻き起こるデンゼル・ワシントンによる激しいアクション作品、「北斗の拳」「マッドマックス」のような映画だと思っていたが、思ったよりも宗教色の高い作品に仕上がっている。 “一冊の本”という設定から鑑賞前からピンと来ないといけないのかもしれないが、オールドマンが“一冊の本”を求める理由を語るまで気付かなかった。 ストーリーを踏まえると、キリスト教を信仰している者には最適の作品ではないだろうか。 本作を観ることで、自己の宗教心を一層強めることができるとは思う。 自己の役割、自己の存在価値、自己の運命、神からの啓示を強く意識することができるだろう。 しかし、キリスト教信者ではない日本人が観ると、グッと来る度合いが異なることとなる。 世界観やストーリーや映像面など、よく出来た映画であり、評価はしたいところだが、さすがに受け止め方は難しい。 ワシントンとオールドマンの二人の存在感が際立っており、見事に対比されている点は面白い。 “一冊の本”を用いて、文明崩壊後の社会に“安定”を導こうとする気持ちは両者に相通じるところがあるが、一方は神になりたいと願い、他方は神のしもべ、聖地を目指す巡礼者のような存在になりたいと願っている点に根本的な違いがある。 その結果、一方は安定どころかより混沌とした世界を作り出し、他方は世界を再構築できるほどの影響力をもつことに寄与することができている。 たとえ殉死したとしても、自分の遺志を継いでくれるということも希望が持てる展開となっているようだ。 ワシントンに隠されたネタもかなり効いている。 神から自分に課せられたことには“意味”があるということだろうか。 歩いていて高速道路から落ちそうになったり、“音”が聞こえるかとしつこく言っているので、違和感はあったが、最後までさすがに気付かなかった。 ただ、オチが重要であり、このネタについてはあまり深く考えなくてもよいだろう。 どうやって銃撃に対応しているのかなどを考えても意味はない。 アクションにも多少見応えはあり、老夫婦の家を舞台とした銃撃戦はかなり見応えがある。 どうやって撮影しているのかと考えながら見ると、より面白みを感じるのではないか。 あのカメラワークを実行するにはかなり無理があると思うのだが、いったいどうなっているのだろうか。
[映画館(字幕)] 6点(2010-06-23 23:34:49)(良:1票)
16.  3時10分、決断のとき 《ネタバレ》 
個人的には狙ったわけではないが、「3時10分」から始まる回を鑑賞。 劇場の方は完全に狙っているだろう。 世間一般でも絶賛されている本作だが、なぜか上手くハマれなかった。 オリジナルを見ていなければ、もうちょっと高い評価をしたかもしれない。 予習用にオリジナルを見た直後に鑑賞したのが完全に裏目に出たようだ。 人間ドラマに焦点をあてて、西部劇らしからぬ西部劇だったオリジナルの良さに惚れこんだが、派手でありがちな西部劇に変化させてしまったことが引っ掛かってしまった。 オリジナルでは、冒頭の強奪の際に双方に多くの死傷者が出るほど派手な銃撃戦はない。 アパッチ族も出てこなければ、トンネル爆破もない。 護送中にベンが護送をしている者を殺すこともなければ、金目当ての住民から撃たれることもない。 派手さを“時代”が要求しているのかもしれないが、そういったことをしなくても良作ならば、観客は付いてくるのではないか。 派手な撃ち合いがあること自体に対して非難するつもりはないが、ベンという男に対して“感情移入”を妨げるような結果に繋がっているような気がする。 オリジナルでは意外と紳士だったベンは、このために極悪非道ぶりを露呈せざるを得なかった。 油断したといって仲間を殺したり、ブチ切れて次々に殺したり、訳の分からない奴に恨みを買われたり、助けに来た仲間を殺したりと、彼には“良心”がなく、はっきりいって好きにはなれないキャラクターだ。 ダンの“名誉”のために最後の列車には乗ったものの、馬を呼んで脱獄する気が満々というのもいかがなものか(これでは皆が無駄死になる)。 このような無法者の犯罪者と貧乏な牧場主では“友情”や“絆”は築かれないのではないかと思う。 オリジナルではベンはダンの姿に、成れなかった自分を投影していたが、ダンの“名誉”を守るほどの関係性がオリジナルほど深まっていないような気がした。 オリジナルではそれほど出番のない息子をクローズアップして、「自分に対する誇り」というテーマを重要視している。 そのテーマには惹かれるが、名誉ある“死”が心の中で上手く整理することができず、“感動”に繋げることができなかった。 自分自身に対する“満足”、自分に対して軽蔑の念を抱いていた息子や妻へ“自分の生き様を刻み付けた”という意味のある“死”ではあるが、ちょっとすっきりしないオチでもある。
[映画館(字幕)] 6点(2009-08-16 01:50:22)(良:2票)
17.  ザ・ムーン 《ネタバレ》 
映像は豊富であるものの、「月面旅行」を体感できるような類の映画ではなく、基本的にはコリンズ(アポロ11号に乗ったのに月面を歩けなかった人)を中心とした宇宙飛行士たちが語るエピソードがメインの眠くなる類のドキュメンタリーだ。 しかし、この手の分野には興味のあるものの知識がなかっただけに、“人類の進歩や挑戦”の苦労や興奮を体感できたり、「冷戦」を背景とした当時の“宇宙開発計画”の時代の裏側を知れたりと、非常に興味深い時間を過ごすことができ、いい勉強にはなった。 神秘的な映像を見られると思った人には、おっさん達のつまらない話としか感じないが、関心のある人には優良ドキュメンタリーとなるだろう。 本作を見ることで、ニール・アームストロングの『That's one small step for a man, one giant leap for mankind』(これは一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍である)という有名なセリフの深さや重さを味わうことができた。 このセリフには感動させられる。 先人たちの無謀ともいえるチャレンジスピリッツがあるからこそ、現在の豊かな暮らしに繋がっているとも感じられるとともに、人類や人間には不可能はないということも感じられる。 そして、“月”を描くということは、間接的には“地球”を描くということにも繋がっているとも感じられた。 本作の裏のテーマは“地球”であるのは間違いないだろう。 奇跡の惑星である“地球”の美しさは見事としかいいようがない。 “月”から“地球”を眺めてみれば、“地球”を汚染したり、ちっぽけなことで争いをしている人類の愚かさを改めて実感させられる。 “地球”の奇跡を享受することを当然のことのように考えるのは、間違っているとも感じさせられる。 確かに、眠くなるドキュメンタリーかもしれないが、本作を見ることで、人類や地球について何かを感じ取れることができるのではないだろうか。
[映画館(字幕)] 6点(2009-02-07 23:30:28)(良:1票)
18.  サイドウェイ 《ネタバレ》 
熟成されたワイン同様に、単純ではない深みのある味わいのある映画なのかもしれない。 この映画はワインを飲むのと同じようにその深みのある微妙な味の変化が分かる人には 素晴らしい気持ちにさせてくれるかもしれないが、ジャックのように何を飲んでも同じという人には向いていないのかもしれない。 何を言いたいかというと、ジャックは自分だということ。 自分はこの深い味わいを心から楽しむことはできなかった。 アカデミー賞ノミネートや各賞で受賞しているため、モノ凄い傑作を期待していたのだが、充分面白かったし、笑い転げたりもしたが、なんともハマリにくかった気がする。 ワイナリーを巡る旅を通して、中年の男が自分の人生のピークを過ぎたあと、もう一度自分の人生を見つめなおすという話かと思っていたが、個人的には正反対の性格を有する二人の男のユーモア溢れる友情ものがたりにも映った。 小説家を目指すも、別れた妻への想いを引きずる陰湿なワイン好きのマイルスと、落ち目の俳優でありながら、結婚を控えた陽気な女好きのジャック。 二人はお互いの陰湿さや女好きに辟易としながらも、どこかお互いを助け合ったり、心配している。 ジャックはジャックなりにマイルスのことを心配していたし、朝帰りのマイルスを彼なりに喜んでいた。 マイルスもムチャクチャなジャックの頼みを親友だからこそ、命がけで果たしたように見えた。 そんな二人の友情は微笑ましかった。 この映画は人生を見つめなおしていなかったというとそうではない。 別れた妻への想いを捨て去るために起こした61年物のシュヴァル・ブランに関連する彼の行動は 素晴らしい。 まさにあれこそ、前の人生の区切りをつけて、人生の再スタートを切るための祝杯にふさわしいだろう。 役者の演技は、マドセンやチャーチよりもジアマッティはずば抜けて素晴らしい。 顔だけで哀愁漂うし、雰囲気で演技できるというのは特筆すべき点だと思う。
6点(2005-03-05 21:58:32)
19.  サロゲート 《ネタバレ》 
素材は悪くないが、煮込み具合が足りず、全体的に中途半端な仕上り。ディズニー映画らしく変にマジメっぽく説教臭いところは個人的には嫌いではないが、アクションとしてもサスペンスとしてもSFとしても物足りない。科学技術の発達に伴う人間性の喪失、夫婦の絆の回復を描いたヒューマンドラマ的テイストが盛り込まれており、それがいい意味での裏切りとはなっているが、上手くハマっていないところがもったいない。土台よりもメッセージの方が大きすぎて、バランスを欠いている。 サスペンスがメインの作品ではないにせよ、伝道師の正体、殺人事件の真相、両黒幕の存在などの見せ方に工夫がないのではないか。ただ、ストレートに“事実”を伝えるだけというのはあまりにも無策。例えば、伝道師が殺された際に、伝道師の正体をあの場面においてわざわざ見せる必要があっただろうか。伝道師が殺されたと観客にミスリードさせておいて、博士の家に着いた際に再登場させてネタ晴らししてもよいはずだ。刑事の相棒の女性についても乗っ取られたことをあからさまに見せるよりも、終盤まで観客に違和感を与えておいて、ラストにネタ晴らしすることで観客に驚きを与えることもできたはずだ。事件の真相についても違和感が残る仕上り。特殊かつ貴重な銃を殺し屋に渡しておいて、依頼主がその殺し屋をきちんとフォローしないという展開が許されていいのか。 また、「サロゲートシステム=悪」という単純な図式についても違和感があるところ。 “痛み”を感じないように殻に閉じこもっているところに問題があるが、生身の体になれば心の痛みに対して向き合えるかというのは分からず、擬似体だからこそお互いの気持ちに素直になれるということもあるはずだ。ネットやメールの方が素直に自分をさらけ出せるということがあるだろう。 よくよく考えると、「サロゲートシステム」の恩恵を一番受けていたのは、ブルース・ウィリスが演じた男だったのではないかとも思える。本気で妻と息子の死について向き合いたければ、初めから扉を蹴破って妻と話せばよいはずだ。妻が「サロゲートシステム」に閉じこもったことによって、ブルースは子どもの死や傷ついた妻と向き合うことから逃げることができていた。現実と向き合っていそうで、現実から目を背けていたのはブルース本人だったという気がしてならない。だからこそ、ラストの決断に繋がったのだろうが。
[映画館(字幕)] 5点(2010-01-28 23:29:30)(良:2票)
20.  サブウェイ123 激突 《ネタバレ》 
オリジナル未見。 トニー・スコットに関しては、スタイリッシュかつなかなか凝った独特な映像を用いるので好みの監督なのだが、ときたまハズレの作品があるというイメージ。 今回はハズレではないだろうという期待があったが、どうやらハズレだったようだ。 極端につまらない作品ではないが、意外と捻りがなく盛り上がらない作品に仕上がっており、サプライズ感はほぼゼロに等しい。 予測どおりにストーリーが進み、予定どおりにストーリーが終わっている。 “地下鉄”という珍しくユニークな設定の割には“動き”がほとんどなく、地上で人質を取っている場合とさほど大差がなかったのもやや拍子抜け。 “地下鉄”という設定の良さを活かしきれていないように思われる。 “地下鉄”のプロとハイジャック犯との地下鉄を舞台にした頭脳戦が繰り広げられるという類の作品ではなかった。 本作は派手なアクションでもなく、濃厚なサスペンスでもなく、『かつて絶頂を経験した男が何らかの事情でどん底を味わうものの、再び這い上がって、男としての生き様・散り際をみせる』というテーマが本作の根底にあるように思われる。 これらのことはライダーもガーバーにも共通している。しかし、価値観は異なるものの、同じベクトルが向いているはずの二人の“出会い”が上手く表現されていないようだ。どん底を経験したガーバーだからこそライダーの気持ちは分かるはずだ。ライダーの気持ちを察してのガーバーの最後の行動という“エンディング”に向けての盛り上げ方がかなり足りないように思う。ベクトルが同じ方向なのか、それとも相対するものなのか、“家族”や“宗教的な要素”も交えながらまとめて欲しかったところだ。 また、“どん底を味わった”という想いを抱えているのは彼らだけではないはずだ。 不倫疑惑の市長、この事件で名前をあげたいはずのイタリア系の警察官、ガーバーの後釜の管理職、もしかしたら人質の中にもそういう者がいたかもしれない。 このような複雑に絡みあうはずの人間模様がカットされているのはもったいない。 ライダーとガーバー以外はほとんど“空気”と同じというのは良作とは言えないのではないか。 たとえ単純な事件であっても、それぞれの思惑を抱える登場人物が掻き乱すことによって、ダイナミックとなり、豊かで複雑なものとなっていくはずだ。
[映画館(字幕)] 5点(2009-09-23 22:43:04)
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