1. レヴェナント 蘇えりし者
《ネタバレ》 冒頭でまずレオナルド・ディカプリオがほとんど瞬きをする事なく銃を撃つショットに少し驚き、この映画で彼はほとんど瞬きをする事が無いだろう事を なんとなく予感しその通りに進行していくのだが、そのディレクションの意味も中盤でより明瞭となる。 スコープサイズ画面の半分を遠景、半分を極端なクロースアップで占める構図の多用によっても、人物や動物の見開いた眼へのこだわりは特徴的だ。 もっとも、目を瞑る度に妻や息子の回想シーンや気取ったイメージショットが頻繁に現れてはドラマを引き延ばしにかかる訳だけれど。 そうした中、アルフォンソ・キュアロン『トゥモローワールド』の長廻しからさらに難易度を高めたアクションシーンの機動的なワンショットは やはり圧巻である。 樹上からの人体落下、顔面を貫通する矢、林間の乱戦から騎馬戦への視点切り替え、それらを繋いでゆく高難度のカメラワークの合間に陽光を瞬間的に入れ込んで生々しさを際立たせるところこそルベツキの本領だろう。 評判のよい「美しい景観」のロングショットはただ美観にとどまる限り、それ以上のものにはならない。 [映画館(字幕なし「原語」)] 6点(2016-04-29 21:37:01) |
2. REDリターンズ
それぞれの俳優のキャリアをパロディ的に活かすあたり、 『ギャラクシー・クエスト』の監督らしい味だ。 ロケーションのスケールを広げつつも、テンポは軽快であり、 続投組も新規キャラクターも見せ場を与えられ、そのバランスも申し分ない。 新規組では、イ・ビョンホンがアクティブな魅力と色気を放っている。 前作の『ガントレット』シーンを今回担うのは彼だ。 逆に続投組ではヘレン・ミレンら女性陣が光る。 ポーカーフェイスで大見栄を切る彼女の射撃アクションも前作を継承して爽快である。 カーアクションで滑稽に弾けつつも、一方では堅気の健気さを覗かせる メアリー=ルイーズ・パーカーはその絶妙なバランスで今回キャラクターが 豊かに膨らんだ。 彼女がラストにサンバを踊りながら見せる陽気な笑顔がいい。 [映画館(字幕なし「原語」)] 7点(2014-01-05 21:42:48) |
3. RED/レッド(2010)
質素な居住空間の中、6時起床、7時朝食、12時昼食の定時行動を示すショットを反復した上で、翌日早朝の異変を旋回のショットと時計のショットとで仄めかす。 ここで示されるブルース・ウィリスの鋭敏な時間感覚の設定は、カール・アーバンとの電話の逆探知シーンやCIA本部の脱出シーンでの伏線ともなる。 フライパンで炒られ暴発寸前の銃弾や、蜂の巣となる家屋から悠然と歩み出てくる主人公の図が、波乱の幕開けの演出として効果的だ。 ハイテク対ローテク、理論対経験則、理性対直感といった頭脳戦の要素は薄く、CIA本部の包囲網脱出のアイデアなどを始め、『レオン』や『ミッション・インポッシブル』の二番煎じで意外性がなく物足りないが、強引な力技も悪くはない。 特に3人のREDがそれぞれ見得を切る射撃シーンの貫禄がいい。 旋回する車を降り立ち、躊躇無くカール・アーバンの車に弾丸を撃ち込んでいくブルース・ウィリス。 炎上する貨物を背景に仁王立ちで暗殺者と対峙するジョン・マルコビッチ。 そして、白いドレスを纏い瞬きひとつせずにマシンガンを撃ち込むヘレン・ミレン。 銃撃の反動にも姿勢を崩すことない、その立ち姿が凛々しい。 廃車にカモフラージュした隠れ家といったアイデアなども奇抜で楽しい。 [映画館(字幕)] 6点(2011-04-30 16:01:42) |
4. レオニー
海辺の情景。それを窓辺で見つめる女性のシルエットが、屋内側から捉えられる。 映画は、部屋の奥側から明るい窓際あるいは縁側に向けたローポジションの構図が主体。 屋外背景のキーライトに対して、暗すぎず・明るすぎずの控え目な補助光によって、人物の表情や部屋の内装も逆光に潰れることなく、落ち着いたコントラストを作り出している。 そして障子や襖や丸窓のフレーム内フレームが、憧憬としての外の世界を対比的に切り取ってみせる。 一方で、随所に挿入されるイサム・ノグチらしき彫刻家(勅使河原三郎)の作業光景のショットでは、強い直射光によるハイコントラストが彼の顔半分を真白く浮かび上がらせ力強く印象的なイメージを形づくる。 いずれも黒澤組の照明・美術スタッフの技の冴えである。 CGの濫用は控え、実景主体で再現した20世紀初頭の風俗も非常に丁寧な仕事だ。 エミリー・モーティマー・中村獅童の主演二人のみならず、出番は少ないながら大地康雄・山野海ら脇役陣の芝居も充実している。 前半では時制の無駄な倒置などが冗長さを感じさせる一方、後半での親子関係の描き込みに不足が感じられてしまうのが難点か。 [映画館(邦画)] 7点(2010-12-09 22:08:50) |
5. レッドクリフ Part II ―未来への最終決戦―
風・濃霧によるカモフラージュ・次々と突き刺さる弓矢のインパクト・武骨なコスチューム・騎馬戦闘等などのビジュアルは一見すると黒澤時代劇『蜘蛛巣城』を、炎の落城は『乱』を、身分違いの男女やラストの台詞などにみられる観念性は『七人の侍』の変奏をそれぞれ思わせ、スペクタクル性は申し分ない。しかし例えば『七人の侍』後編の最終決戦は、事前に図面や実地による検証を反復し、地形を観客に整然と理解させておくことで逆にマルチカメラによる目まぐるしい混沌が際立つ名クライマックスとなったのに対し、『レッドクリフ』は二大軍勢の直線的ぶつかり合いという明快な図式の割には、間者による図面や模型やパノラマショットの挿入にも拘わらず上陸後の両軍の位置関係をうまく提示できていない。黒澤の「ここぞ」のスローモーションやワイプには文脈上の確固たる意味(転調・省略等)があったのに対し、違った趣旨でただ漫然と繰り返される本作のそれは単なる装飾と堕し、上映時間を無駄に引き伸ばしている。幾重ものクロースアップ反復による心理の強調も過剰。小喬の決意などは本来ワンショットで事足りる。 [映画館(字幕)] 7点(2009-09-05 21:10:53) |
6. レッドクリフ Part I
観客の多様な嗜好に対応しスペクタクル・アクション・史劇・ロマンスといった多要素を網羅した、香港ノワール出身の監督には明らかに不向きな典型的ブロックバスター型作品。本来ならば、戦争映画『ウインドトーカーズ』でそうした限界は明らかなはずなのだが。第二部とも共通して、VFXによる天・地・河はいずれも物質感を欠き、その「どこでもあり」の誤った視点の数々は却って箱庭感を露呈する。動かない対象に対し必然性もなく動き続けるキャメラは偽のスペクタクルを画面に与え続け、「オールスター」への配慮と思しきクロースアップの過多は、終始画面を閉塞させる。『ハードボイルド』や『フェイス・オフ』等の傑作であまりに印象的な、赤子を抱いてのバイオレンスも「善人」ではインパクトがない上、アクションつるべ打ち状態の中ではなかなか高揚をもたらさない。そうした大作につきものの不自由を抱えながらも、やはりマルチカメラよって多角的に繋いだ主役陣の武俠アクションは明瞭性があり素晴らしい。ショットを細断して誤魔化すモンタージュ悪用の似非アクションとは違う。重量感のある矛を主体とし、キン・フー的に様式化した円形の動き、黒澤的な馬上のアクションなども良い。 [映画館(字幕)] 6点(2009-09-01 22:37:22) |