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1.  周遊する蒸気船
アン・シャーリーを連れ戻しに来た男たちを、「甥の嫁は渡さん。」と撃退し、 粗末な身なりの彼女に妹の形見のドレスをプレゼントするウィル・ロジャース。  口の悪い彼に反発していた彼女も、その一件を境にいっぺんに彼を大好きに なってしまう。  彼の右頬にキスし、もらったドレスを大事そうに抱きかかえる彼女の仕草の 何と可憐なことか。  その心変わりを大いに納得させる彼女の素直な瞳が美しい。  絞首刑判決となり護送されるジョン・マクガイアとの別れの際、 駅の丸柱に寄り掛かって悲しむ 彼女の左手の薬指にはめられた指輪をさりげなく映し出すカメラは、 その表情以上に彼女の心情を語る。  偉人の蝋人形を窯にくべていく、といったアナーキーな賑やかさの一方で ヒロインの心情を繊細に演出する細部の気遣いが尚のこと光る。  文句のない傑作だが、ダン・フォードの『ジョン・フォード伝』によると、 就任間もないダリル・ザナックが、すでに完成していた本作の「編集にハサミ を入れてテンポを速め、野放図な所作が見受けられるギャグシーンのあれこれ を切り捨てた」らしい。  確かに映画は展開が早く、グリフィス的救出と大団円後の 後日談などはわずかに2ショットだ。 現在の主流シネコン映画とは真逆の潔く鮮やかな〆具合の現行版も悪くないが、 本来のいわゆる「ディレクターズ・カット版」はどんなものだったのか。 興味はつきない。  「脇道にそれたり、道草を食って筋に関係ない何かに焦点を合せたり、そんな 類のことを軽くやるのが好きだった」(ナナリー・ジョンソン) それがJ・フォード作品の魅力なのだから。   
[DVD(字幕)] 10点(2014-09-06 15:33:49)
2.  曲馬団のサリー
ホークス『ハタリ!』の遥かな先駆けともなる小象のアクション。 迫力の白煙と放水の中で繰り広げられる列車と自動車の痛快アクション。 加えてキャロル・デンプスターが身体を張って懸命に走る、飛ぶ、よじ登るの クライマックスの大アクション。 そして随所に散りばめられたユーモラスなギャグに、華やかなダンスシーン。  その盛りだくさんのエンタテインメント精神も感動的だが、 それ以上にこの原初的アメリカ映画が胸を打つのは、 その快活なヒロインがふと垣間見せる、人を恋う孤独の表情だ。  南部のカーニヴァルにやってきたデンプスターが街中を一人で歩く。 誰のものとも知れぬ「母を悼む」墓石に彼女は一輪の花を手向ける姿が愛しい。 育ての親W・C・フィールズを慕い、幾度も抱き合い、全身で情愛を示す。 招かれた祖父母の家で、それと知らずに祖母と見つめ合い、触れ合うショットが美しい。  人を恋う、その普遍的・根源的なエモーションとアクションとの一体化が 強く心を引きつけてやまない。  ラスト、一人去りゆくW・C・フィールズに必死にしがみつくデンプスターの 見目はばからぬ懸命な身振りには涙、涙だ。 
[DVD(字幕なし「原語」)] 10点(2014-02-13 00:42:32)
3.  スージーの真心
密かに献身し慕っていた幼馴染みウィリアム(R・ハーロン)が他の女性との結婚を 決めてしまう。 溢れてくる涙を扇で隠しながら硬った笑顔を見せるスージー(リリアン・ギッシュ) の仕草がいじらしい。 そんな彼女の純朴でせつない表情・身振りの釣瓶打ちだがそれがまるで媚にならない。 単なる可憐さだけでなく、品位そして愛すべき愚かさといったものまで 豊かに表現しているからだろう。 グリフィスが彼女にひたすらクロース・アップしたくなるのも無理はない。  ハーロンの後をついて小道を歩くリリアンが、右足をふっと真横に蹴るような 仕草をする。そのあまりにも何気ないささやかな動作ひとつで、架空のキャラクターに 一気に魅力的な生命を吹き込んでいる。 彼女の自伝によると、やはりこのシーンの演技などは批評家にも評価されたらしい。  二人が並んで村の小道を歩いていく。並木がやさしく揺れ、道端で子牛が一頭寛いでいる。 この詩情あふれる1ショットの美にも打たれる。    
[DVD(字幕なし「原語」)] 10点(2014-01-26 02:06:04)
4.  僕の彼女はどこ?
鮮やかなテクニカラーが全編に亘って画面を彩る。  アバンタイトルの背景イラストと文字を始めとして、ステンドグラス・屋外の木々・屋内装飾・ベレー帽・衣装・劇中絵画・ポーカーテーブルなどなど、光の三原色(赤、青、緑)が徹底的に駆使されているあたりは、D・サークらしいこだわりぶりだ。  その混合であるシアン、マゼンタ、イエローもまた乗用車、ストロベリーシェイク、ドレスなどにそれぞれバランスよく配され、映画をさらに楽しくカラフルに染めている。 そしてその配置もポイントごとなのでケバケバしくなく、極めて上品だ。  その光の三原色が、映画ラストにおいて素晴らしい雪の「白」へと結集するのもテクニカラーの必然的帰結と云って良いだろう。  チャールズ・コバーンのユーモラスな演技も楽しいが、彼になつくおしゃまなジジ・ペルーもまた実に愛らしい。  質素な暮らしに戻ることを喜び、二人が興じるダンスシーンの幸福感は最高だ。  犬のペニーもまた素晴らしい。単に人間に仕込まれた芸を披露するだけの『アーティスト』のアギーなど足元にも及ばない。  演出家も予想できないような巧まざるリアクションを見せてくれてこそ、優れたアニマルアクターといえるだろう。  
[DVD(字幕)] 10点(2012-05-13 23:52:47)
5.  陽気な中尉さん
予想した展開を軽やかに裏切りつつ、納得のハッピーエンディングに収めてしまうシンプルな脚本の良さもさることながら、ストーリーそのものよりもその軽妙洒脱な映画的組み立て方こそがルビッチ作品の魅力だ。  時間経過を記す冒頭のランプや、王女の衣装の変化を簡潔に表すオーヴァーラップのスマートさ。 ミュージカルでありながら、屋敷内の会話を窓外から捉えたサイレントの1ショットの挿入によってアクセントをつけドラマに引き込んでいくテクニックの鮮やかさ。  階段の登り降りやドアの開閉が存分に駆使され、映画に様々なリズムを刻む。  そして、二人の女優の引き立て方が断然素晴らしい。  クローデット・コルベールと、ミリアム・ホプキンスが互いにビンタし合う後半の対決シーンからの流れは、特に二人の魅力が存分に引き出されている。  ハンカチーフを介して共感し、共にピアノを弾きデュエットし合う二人。  王女にファッションを指南すると、振り返ることなく別れを告げ去っていくコルベールの後姿のショット。  セクシーに変身したミリアム・ホプキンスが煙草をふかしながら艶やかにピアノ演奏し、モーリス・シュバリエに視線を投げるショット。  最高にカッコいい。 
[DVD(字幕)] 10点(2012-04-16 21:19:55)
6.  ローマの休日
半醒半睡状態のヘプバーンがグレゴリー・ペックのアパートのらせん階段で見せるサイレントギャグの冴えを始め、ワイラー印の「階段」の数々は本作ではロマンチックなアイテムとしてある。  一方で得意のパンフォーカスによる縦構図も、夜の別離のシーン(駆け去るヘプバーンと、それを手前の車中から見送るG・ペック)や、ラストの記者会見シーン(画面奥から手前へと順々に握手していくヘプバーン)などに活かされているのだが、その用法は実にさりげなく抑制的であり、技巧が前面に出てくることはない。  その代わりに際立つのが、(本作以前と比して)ワイラーらしからぬ「通俗的」切り返しのモンタージュの多用である。  そのエモーショナルなクロースアップの数々と視線の劇は結果的にスター映画として主演二人のスクリーンイメージのアップに大きく貢献すると共に、その「物語」を最も効果的に語り切ることとなる。  自身の持ち味である映画的技法を抑制し、突出させぬこと。説話に徹することで原作(Story)の美点を最大限に引き出すこと。  それこそが、赤狩りの渦中ワイラーへ累が及ぶのを懸念しノンクレジットに徹した原作者ダルトン・トランボに対する映画作家の敬意と報恩だったのではないか。  密告と不信の時代に「信頼と友情」(「faith in relations between people」)の主題を王女とアメリカ人記者とカメラマン(エディ・アルバート)の間にさりげなく忍ばせた脚本の声高でない慎ましさ。  それは劇中の会見の場で、主演二人が交わす短い台詞の背後に込められた万感の真情とも響き合う。  恋愛劇・ビルドゥングスロマンとしての魅力と、劇中でヘプバーンが飲むシャンペーンのような軽妙なコメディの奥に、時代の切実なテーマ性を含ませたストーリーの豊穣。  そしてそのストーリーに奉仕する為、自らの技巧を透明化してみせたワイラーの矜持に打たれる。  50周年記念ニューマスター版において、デジタル修復によって初めてクレジットされたStory by Dalton Trumboの記名が感慨深い。 
[DVD(字幕)] 10点(2012-03-21 17:33:34)
7.  素晴しい哉人生 《ネタバレ》 
冒頭部分に映し出されるベルリン市内のポーランド避難民の点描は、ほぼドキュメンタリーと見てよいだろう。  劇映画部分も含めて、第一次世界大戦後の荒廃で痩せこけ飢えた人々の眼の生々しさが強烈だ。それがフィルムのクライマックスとなるクロスカットのサスペンスにも活かされることとなる。  前半は、戦争後遺症と窮乏生活の苦難の描写。ヒロイン:キャロル・デンプスターが肉屋に行列するも、その間にボードに書かれた価格は釣り上がっていく、そのカットバックが切ない。  また、彼女が病床の恋人ニール・ハミルトンを気遣い、自身の両頬に詰め物をして栄養不良を隠すいじらしい仕草はまさしくグリフィス的で胸を打つ。  後半は一転、晴れやかなシーンが続いてゆく。 恋人の建てた一軒家の新居をみて嬉しさのあまり家の周りをはしゃぎ回るC・デンプスター。全身で喜びを表現する彼女の姿が感動的だ。 たっぷりのポテトや卵やレバーソーセージによる会食シーンと、それに続くダンスシーンの賑やかな幸福感と躍動感もまた素晴らしい。  そして、飢えた浮浪者たちから逃げる月夜の森のアクションシーンに高まる切迫感。 さらに月光が照らす岸辺のツーショットの静かな美しさ。後日談の大団円の晴れやかさ。  全編にわたって忘れ難いショットが連続する。  一般的にはリリアン・ギッシュとの最後のコンビ作『嵐の孤児』までが全盛期とされるグリフィスだが、その純粋な生命賛歌と具体的画面の映画美において本作も決して引けを取らない。 
[DVD(字幕なし「原語」)] 10点(2012-02-11 17:54:43)
8.  ビッグ・パレード 《ネタバレ》 
トラックに乗って前線へと進軍していく米軍兵士(ジョン・ギルバート)を必死に追うフランスの村娘(ルネ・アドレー)。 ようやくお互いを見つけ抱き合う二人の背景をせわしないスピードで行軍していく兵士の流れ。その対比が、僅かな時間の中での切羽詰った別れのエモーションを最高潮に高める。 娘はトラック上の彼の足に必死にしがみつき、トラック後部のチェーンごと引きづられつつも追いすがる。その滑稽なまでに健気な姿は、逆に見る者の胸を熱くさせずにおかない。  トラックが走り去り、一本道に一人取り残される彼女を小さく捉えたロングショットの切ないまでのリリカルさ。 ラストの再会シーンで彼に走り寄っていく、その懸命な走りのアクションの素晴らしさ。二人に差す光の美しさ。  リリアン・ギッシュ自伝によると、『ラ・ボエーム』(1926)製作にあたっては本作のラッシュの一部を見て監督と主要キャストを選んだという。 一途な思いをひたすらアクションによって表現する女性像の素晴らしさは確かに両作品に共通だ。  同時に本作は戦争映画としても一級であり、映画後半を占める各戦闘シーンはスペクタクル・サスペンス・人間ドラマ三拍子揃って圧巻である。 狙撃兵の潜む林間を戦闘隊形で進軍する様が横移動と縦移動で捉えられる中、一人また一人と無機質に倒れていく兵士たち。その冷徹な感覚が、戦争の無情を印象づける。  照明弾が飛び交う夜の塹壕戦。若い敵兵にタバコを差し出すエピソードも忘れ難い。
[DVD(字幕)] 10点(2010-12-26 01:09:13)
9.  ラ・ボエーム(1926) 《ネタバレ》 
リリアン・ギッシュ自身が強くこだわったというパンクロフィルムの特性が活かされ、光の溢れるピクニックシーンから夜の暗い街路まで色調が豊かで幅広い。彼女の表情のクロースアップショットも艶やかで麗しい。  アパート隣室のジョン・ギルバートらに歓待された彼女が戸惑い、恥じらいつつも嬉しさが滲む表情の可憐さ。 彼らとの初めてのピクニックで無邪気に跳ね回り、踊り、アパートの窓をはさんで二人じゃれ合う身振りが伝える幸福感。  一転して、悲愴極まりない終幕では薄倖の死相が真に迫って痛ましい。 クライマックスでは荷車後部の鎖につかまり舗道を引きずられるという、キートン、J・チェン顔負けの過激なアクションまでも華奢な身体で演じきる。  全身映画女優の底知れない表現力にただ圧倒されるしかない。  
[ビデオ(字幕)] 10点(2010-11-24 21:48:35)
10.  市民ケーン
当時の慣習的な映画話法を尊重しつつ、同時に技法的革新性を模索するパイオニア精神の発露こそ、この映画が時代を超えて支持される所以だろう。音響・撮影・美術・編集・俳優・脚本、諸々のパートが織り成す複雑精妙な知的魅力によって観るたびに新たな発見を与えられ、飽きることがない。  ケーンのポジティブな前半生は順光を基本とした照明、スキャンダル発覚から後半の晩年期および現在期は逆光と陰影を多く取り入れた表現主義的照明で対比させる画面設計。 構図をガラス玉等の小道具やアングル選択、カメラ移動で不安定に歪ませる特異で大胆な感覚。「拍手」のショットを挟んだ場面転換によって多重の意味を付与する秀逸な編集。終盤での、複数の鏡面とそこへの虚像の反映を用いた主題提示の鮮やかさ。幻想的なタッチが強調されたザナドゥの重厚な美術と音響設計(エコー)。複数の役者たちによって矢継ぎ早に交わされる台詞の応酬のスピード感と活劇性。朝食の場面にみられる見事な時間省略法。  語りきれないほど充実したこれらの要素をさらにドラマ的効果として高めたのが、撮影監督G・トーランドの貢献だろう。被写界深度の浅い画面が主流の当時、ストーリーに寄りかかる映画が大半である中、ルノワールら一部の監督が用いていたディープ・フォーカスと長廻しを基本とする撮影をドラマとより密接に連関させることでウェルズは自らのルーツといえる舞台的自由空間を提示する。これによって画面の奥行きを引き出しつつ、手前と奥で同時並行するドラマ対比によって物語の奥行きをも醸成している(母親と、窓外で遊ぶ少年時代のケーン等)。  舞台的演出と映画的演出。それぞれの優位を同時に尊重し、融合させ、発展させているのがこの映画のなによりの美質だ。
[ビデオ(字幕)] 10点(2009-10-10 21:23:38)
11.  東への道
ドラマティックな展開をさらに盛り上げる幾重ものクロス・カッティングによって、あっという間の134分間。個人的には、同じリリアン・ギッシュとリチャード・バーセルメスのコンビ作『散り行く花』よりも人種や年齢的な違和感がない分、主演二人への感情移入がよりスムースであるというのもあるが、何よりもショットの一つ一つが見せ場といって良いほど魅力的であり、その画面の充実ぶりが観る者を引き込んでいく。一見、何気ない家屋や農場の情景ショットの、そのフレームの中で戯れる犬や猫、鶏、雛たち、あるいは風に揺れる枝葉、雪、ドア、揺り椅子など数々の要素が常に画面を息づかせ、活気づけている。とりわけ美しいのは、第二部で河辺に佇む二人を包む夏の夕暮れの光。そこに、終盤のクライマックスへのさりげない予告ともなる滝のワンショットが静けさ(音)の演出として挿入され、一際叙情を満たす。そして、文字通り命懸けのショットが織り成す解氷のスペクタクルと救出劇の高揚感。観る側がエモーションを共有する奇跡的なアクション。これぞ、映画。
[DVD(字幕)] 10点(2009-09-07 21:14:20)
12.  殺人捜査線
あらゆるカットにパースペクティブが活かされており、その構図取りの卓越した感覚が素晴らしい。冒頭から数多くのエキストラや車両を画面手前と奥に行き交わせ、深い被写界深度によて臨場感と世界の重層化を演出する。また、サウナ室の蒸気や、水族館の光の揺れ、スケート場や展望室のモブ(群衆)など、遠景には動きを取り入れる工夫が様々に凝らされており、活力ある空間が連続する。カットにはまるで無駄が無く、初っ端のスピーディなカーアクションから、クライマックスのスクリーン・プロセスと実景を見事に組み合わせ奥行きを活かした逃走アクションまでタイトに纏まり全くテンションが途切れない。特に最後の追跡劇は、ハイウェイの奇抜なロケーション、水平と垂直のパースペクティブ感覚、スピード感の演出が総合し傑出した活劇となっている。
[CS・衛星(字幕)] 10点(2009-08-02 16:55:25)
13.  ヒート
カフェで対峙する主役二人の対話が二人の後方からそれぞれごくシンプルな切り返しによって捉えられる。その構図は二人がまるでお互いに自分自身の鏡像と対話しているかのような印象も同時に与える。立場としては対極にある相手に自分との同質性を認め合う場面とも解釈できようか。かつてのノワール映画では、低位置のキーライトで人物の相似形の影を作り出し、オルター・エゴ(もう一人の自我)を仄めかすスタイルがあるが、これに近い印象でもある。終盤の最終対決にみる光と闇のモチーフも同様、背後の誘導灯の点灯によって逆光の中に浮かび上がるロバート・デニーロの黒いシルエットは、対照的に照らし出されたアル・パチーノ自身の投影でもあろうか。対極でありながら一体でもある光と闇の領域の対立、実景主体の写実的市街犯罪と、俯瞰撮影も交えながら印象的な夜景を捉えた都会的ルックはまさに大戦直後(1945~1949)のノワール第二期作品群を髣髴とさせつつ、シネスコ画面の水平ラインをより意識した新たなノワール様式を創出している。
[映画館(字幕)] 10点(2009-03-28 17:31:42)
14.  極北の怪異
ロバート・フラハティによる記録映画の魅力は、狭量な「民俗記録」でも「資料的価値」でもなく、ジャンルや手法や国境に囚われぬ自由な精神に基づく映画感覚といえる。一般的には記録映画としてもの珍しさを第一に要求するであろう映画会社に対し、フラハティはそれ以上に「人間と自然」の魅力の活写に大きな力点を置いていることが画面から明らかに伝わる。ローポジションが緊張感を煽るあざらし漁の撮影。酷寒の猛吹雪の迫力と寂寥を伝えるモンタージュ。一方でナヌーク一家がカメラに向ける大らかで人なつっこい表情やユーモラスな仕草が断然素晴らしい。カメラが全く警戒の対象とはなっていない。これは日本でいえば小川紳介(山形)、佐藤真(阿賀)等の傑作ドキュメンタリーに受け継がれていく、腰を据えた共同生活というアプローチあってこその魅力的な表情といえる。勿論それは単なる長期取材・長期撮影という手法のみで成し得るものではなく、一定期間はカメラを回さず肌で喜怒哀楽を共にすることによって獲得される対象との親和性や、映画的各瞬間を的確に捉える手腕と資質があってのものだ。
[DVD(字幕)] 10点(2009-01-10 18:38:59)
15.  グレイテスト・ショーマン 《ネタバレ》 
新婚生活を始めたヒュー・ジャックマンとミシェル・ウィリアムズの、アパート屋上でのダンス。 少年少女時代の交流をミュージカルでモンタージュしたシーンに続き、時間の経過をシンプルかつ鮮やかに描写すると共に、 二人の舞踊に合わせて屋上に干されている白いシーツを舞い踊らせるという細やかな心得が嬉しい。 さらに次のシーンでは、これらのシーツを再び活用して子供たちに幻燈を見せるという芸当も披露してくれる。 海辺に佇むミシェル・ウィリアムズの青いショールは風にたなびくし、ドレス類はダンスによって華々しくダイナミックにひるがえる。 そこに風があるか無いかで、ショットの情感はまるで違うのだ。  ヒュー・ジャックマンとザック・エフロンのカウンターを舞台にしたダンスの素晴らしさをはじめ、 長すぎず、短すぎず、寄りすぎず、引き過ぎず、程よく編集されたダンスシーンの画面は舞踊と音楽が融合する快感を存分に味わわせてくれる。 その中で、ここぞというシーンで入るスローモーションもすこぶる効果的だ。  劇中での別離、再会のシーンには常に階段の段差が配置され、斜めの動きを呼び込むベクトルを仕込むというような 奥行きのある空間づくりも達者である。 怪我をして横臥するザック・エフロンと見舞うゼンデイヤの位置関係も、決別シーンとの対比として 演出されているのだろう。
[映画館(字幕なし「原語」)] 9点(2018-02-18 22:00:17)
16.  南部の人 《ネタバレ》 
ザカリー・スコットとベティ・フィールドの夫婦が玄関先のポーチに二人並んで腰を下ろして語り合うシーンが幾度もある。 空の星を、あるいは家の前の川をみつめながら。 暖炉の炎をみつめながら顔を寄せ合う家族のショットなどと共に、アメリカ映画的な情緒が溢れている。  雨が降り出す中、意固地な祖母はポーチの揺り椅子に座ったまま、屋内には入ろうとしない。 画面手前の屋内でテーブルを囲む夫婦と姉弟、そして画面奥で雨に濡れている祖母というルノワール的な縦構図のショットは、 そのうちに祖母が家族の輪に加わるだろうことを示す。  寄り添ったり、殴り合ったり、身体の触れ合いが充実した作品だが、それは人同士だけに限らない。  雨に濡れる、川に浸かって魚を獲る、土地を耕す、綿花を摘む、大地に突っ伏して嗚咽するなど、自然とのスキンシップも同等である。 河に流された牛を助けようと苦闘するクライマックスは、過酷さと共に『素晴らしき放浪者』的な大らかさも同居している。
[DVD(字幕なし「原語」)] 9点(2016-12-23 23:55:37)
17.  裏切りの街角(1949) 《ネタバレ》 
しかるべき見所の数々はまぶぜ氏が以下に具体的に一通り挙げられているのだが、 とりわけ特徴的なのはやはり縦構図の効果的な取り方だろうか。 バーの長いカウンターが形づくる鋭角的なラインや、現金輸送車の出入りスペースと手前の控室との組み合わせ、駅の売店越しに佇むイヴォンヌ・ ダ・カーロなど、深い奥行きを構成して人物の相関を示し、ドラマに緊張をもたらしている。 単なるエキストラに見えた一通行人が、ふと違和感のある動きをする。後にその人物が意味あるキャラクターとして登場してくるという巧さ。 病院のベッドに固定され、身動き出来ないバート・ランカスターが鏡を使って死角である病院廊下を覗く。 そこに映った、ソファに座っている男。その距離感、鏡面の歪みが生みだすサスペンス感が堪らない。  ドラマ上の必然からレイアウトされた厳密な構図の数々に魅入る。
[DVD(字幕なし「原語」)] 9点(2016-12-11 23:47:22)
18.  五本の指 《ネタバレ》 
中立国を舞台にしたスパイのドラマということもあり、無駄な殺しのシーンも無いが、頭から最後までサスペンスが目一杯詰まっている。 実話であること、実際の現場での撮影であることを冒頭で提示し、イギリス側、ドイツ側、そしてスパイのジェームズ・メイスンそれぞれの 思惑と駆け引きを観客にほどよく了解させつつ、ドラマを進める。 ファム・ファタルがいずれは裏切るであろうこと、金庫に仕掛けられた警報装置を出しぬいたつもりが手違いで鳴ってしまうだろうこと。 それを観客は、抱擁する彼女の表情のショットから察知し、上がったブレーカーを戻そうとする清掃係の行動によって焦らされる。 判らされているから、観客側はハラハラドキドキしてしまう。  次第に嫌疑をかけられていくジェームズ・メイスンの、それでもなお沈着冷静な表情と大胆な行動もさらにサスペンスを煽る。  イスタンブールの市街、マーケット、港湾などのロケーションを活かした追跡劇も生々しい迫力だ。
[DVD(字幕なし「原語」)] 9点(2016-11-30 03:24:41)
19.  突然の恐怖 《ネタバレ》 
時間を可視、可聴化する振り子運動のオープニング。その予告通り、クライマックスは極上の時間のサスペンスである。 モノクロ画面の光と影と音響が相乗して緊迫感を盛り上げ、後半はもう目が離せない。  部屋に設置されていた録音機が録音していた、ジャック・パランスとグロリア・グレアムの密通と共謀の会話音声が流れる室内。 音声のみであることが、それを聞くジョーン・クロフォードの絶望感を際立たせる。 グレアムの部屋に侵入し、家探しするクロフォード。突然鳴り出す電話の着信音や、郵便配達員の影と呼び鈴にこちらもドキリとさせられる。  結婚の歓びから一転しての困惑、悲嘆、絶望、そして復讐までの神経症的な感情の流れを的確に表現するヒロインの素晴らしさ。 照明のオン・オフを駆使して黒い陰影を投げかけるチャールズ・ラングのカメラもまたその感情表現を画面に乗せている。 クローゼットに隠れた彼女の額に浮かぶ冷や汗、真っ暗なベッドの上に光る彼女の妖しい眼の光など、異様なまでに優れた出来栄えだ。  ラストのアクションもまた、坂道や隘路などの工夫を凝らしたロケーションが不安定なノワールムードを醸す中、 ジャック・パランスが次第に狂気を帯びて最後までスリリングである。  別荘の崖路を下り、階段落ちを演じ、坂道を逃げ降ったクロフォードは、ようやくラストで夜明けの陽を浴びつつ坂道を登り始める。
[DVD(字幕なし「原語」)] 9点(2016-11-23 21:19:07)
20.  その女を殺せ 《ネタバレ》 
正味71分ながら、スピードとスリル感が満載である。 護送されるマリー・ウィンザーが二階部屋から出るとネックレスがほどけ、真珠が階下に落下する。その真珠が散らばる床は二階からは死角となっており、 その陰の中に殺し屋の足元が浮かぶ。その音響と陰影が生むサスペンス感。パースをつけた階段の縦構図の素晴らしさ。 その手狭な感覚は、舞台が列車に移るとさらに強調され、その通路やコンパートメントを忙しなく移動し、格闘するチャールズ・マックグローの 動きによって全くテンションを途切れさせない。  ジャクリーン・ホワイトとの対話シーン、マリー・ウィンザーの撃たれるシーンなど、窓ガラスの反射やドアによる遮蔽が効果的に 使われており、本物-偽物の主題を提示しつつクライマックスのドア越しの銃撃戦に巧く繋げている。
[DVD(字幕なし「原語」)] 9点(2016-11-16 23:52:20)
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