41. 飼育(1961)
《ネタバレ》 大江健三郎の芥川賞受賞作の映画化。のっけから“大宝映画”なんて初耳の映画会社のマークが出てくるのですが、これはたった6本映画を配給しただけで消えていった、新東宝破たん後に製作部門を分社化したもの。なんでもこの会社が製作した映画で現在鑑賞出来るのは本作だけなんだそうです。大島渚もこの映画が独立後の処女作になります。大江健三郎の小説を大島渚が監督するなんて、大蔵貢時代の新東宝では絶対あり得ないお話しです。 太平洋戦争末期、山奥の部落に落下傘降下してきた黒人航空兵を部落の住民たちが監禁します。B29爆撃機に黒人搭乗員がいるなんて当時はあり得ない話なんですが、そこは寓話と考えてスルーしておきましょう。実はこの黒人兵はあまりストーリーには絡まない存在で、部落の長である三國連太郎とその小作人たちが、捕虜を媒介にして人間関係を崩壊させてゆく過程が実はテーマなのです。捕虜も村民たちとの接触はほとんどなく、物語の中盤であっさり殺されてしまいます。そうなるとなんでわざわざ黒人という設定にしたのか腑に落ちませんが、そこは原作通りなんで仕方ないでしょう。“異文化同士の対立”みたいなものを予想していましたが、描かれているのは今村昌平の映画の様な土俗的でドロドロした世界でした。 皮肉にも捕虜を殺したとたんに終戦となり責任のなすり合いになりますが、すべてを一人の厄介者に押しつけてみんなでお囃子を踊って目出度し目出度し、というあっさりした終わり方でした。でも村民たちが集まってくるシーンになると固定カメラによる長回しを多用するなど、大島渚の才気は十分に感じることは出来ました。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2014-02-01 18:47:17) |
42. 豹(ジャガー)は走った
《ネタバレ》 東南アジア某国の独裁者(明らかにインドネシアのスカルノがモデル)がクーデターで国を追われて日本に飛来してきた。三日間滞在してその後はアメリカに亡命する予定。独裁者暗殺を狙うジャガーと言うコードネームを持つ凄腕のスナイパーと、オリンピック出場経験がある警視庁一の射撃の腕前を持つ警部が、陰謀が渦巻くなか死闘を繰り広げる! この映画の宣伝コピーを書くとなるとこんな感じでしょうか。このジャガーなるスナイパーが田宮二郎、対する警部は加山雄三というのが東宝製作らしからぬ顔合わせです。そして陰謀をめぐらす総合商社の一員として加賀まり子がミステリアスなキャラで登場、ますます東宝らしくない顔ぶれです(笑)。 B級テイストの映画にしては珍しく豪華なキャストでけっこうキレ味がいい演出でもあるので、B級特有の安っぽさはあまり気になりません。何と言ってもそこは田宮二郎のクールなカッコよさのおかげです。まるでネイティブのように流暢な英語力にはもうびっくり、出来れば彼をデューク東郷にして『ゴルゴ13』を撮って欲しかったなと思わず嘆息してしまいました。ジャノメミシンのネオンサインから狙撃するシークエンスなんて、もう完全に『ダーティハリー』を先取りしてます。 対する加山雄三は意外とアクションと言うか身体の動きが鈍重で、イメージ悪くしてます。それでも銃に対する拘りは強く出ていて、大型ストックを装着したモーゼル・ミリタリーを使って田宮二郎と対決するなんて泣かせてくれます。加山雄三が撃たれて血しぶきが派手に飛び散るシーンなんかもあって、けっこうハードです。 でも脚本上のプロット構成の弱さはどうしても眼に付きます。加山雄三が警備陣と常に行動をともにしているなんて、警察を退職して職務上の制約から解かれて先制攻撃をかけるぞ、という設定が全然生かされていません。田宮二郎にしてもアメリカ人の姐ちゃんと仲良くなったりして、ちょっと脇が甘すぎます。あの当時の悲惨な邦画製作の状況ですから、まあこれくらいで上出来だったんでしょうね。 最後に疑問、豹は英語でパンサーなのになんでジャガーとルビがつくんでしょうか(豹とジャガーは別の生き物です)? [CS・衛星(邦画)] 6点(2013-06-27 21:42:29) |
43. 女王蜂の逆襲
4本撮られた、新東宝の女任侠ものシリーズの最終作。製作された1961年には新東宝という会社自体が倒産してしまったので、最末期のプログラム・ピクチャーと言えます。製作が大蔵貢ではなく、三原葉子が出演しているのに全然露出シーンがないのはそのせいでしょう。このシリーズは前期2本が久保菜穂子、後期は三原葉子が女親分を演じているのですが、本作は任侠ものというより日活風無国籍アクションのパクリと言った方が適切な感じです。 鬼怒川温泉が舞台で、元湯の権利を横取りしようとする暴力団を東京から来た女親分が成敗するというローカルなお話しです。脇に配したキャラが新東宝らしくてけっこう面白く、謎の男である天地茂が何というか軽妙な味が出ていて意外と良かったです。池内淳子の芸者も演技はひどいけど可愛らしかったし、三原葉子の子分である星輝美と鳴門洋二のゴールデンコンビを再び観られて星輝美のファンとしては満足です。もっともストーリー自体は他愛もなさ過ぎて語るべきことはないですけどね。ヤクザのくせして子供の喧嘩みたいにやたらと殴り合いするけど、そのアクション演出が学芸会なみではねえ… [CS・衛星(邦画)] 3点(2013-02-26 23:18:24) |
44. 少女妻 恐るべき十六才
《ネタバレ》 まずは驚愕のトリヴィアから、なんとこの映画は昭和35年度芸術祭参加作品なんです!! さすがに受賞したわけではないみたいですが、恐るべし昭和30年代! 冒頭シーンでは明るい音楽が流れ、セーラー服の少女たちが校庭でバスケをしながらはしゃいでいます、まるで『青い山脈』か『若い人』みたいな雰囲気ですね。大騒ぎしながら校庭を飛び出し繁華街に繰り出した彼女たちは、一軒の喫茶店に入ってゆきます。開店前の店内にはケバイおネエちゃんがいて少女たちを叱ります、「商売衣装着て遊んでんじゃないよ、お前ら!」 何とこの娘たちはバリバリの娼婦だったんですよ。新宿駅東口のハモニカ横丁あたりが縄張りのヤクザが仕切っている売春組織で、組のチンピラがそれぞれのヒモになっています。娼婦とヒモで疑似夫婦というわけです。このヒモたちを定期的に“人事異動”させて担当する娘を変えるというのがビジネスライクで実に面白い。でもユキと五郎は真剣に愛し合うようになって、何とか組織から逃げ出そうと苦しみます。 この映画、予想外に丁寧に撮られていて、とくにユキと五郎の破天荒なカップルの恋愛は、同時期の松竹ヌーヴェル・ヴァーグを連想させるような瑞々しいタッチなんです。でも新東宝らしいダサさはもちろん健在で、客分として組に流れてきた殺し屋天知茂がやってくれます。天知のヘアスタイルがまた変でして、ビートルズをはるかに先取りした様なマッシュルーム・カットが全然似合ってません。堅気になって引退した仇敵が宇津井健こと“ハジキのブラック”、名字が黒木だからなんですがこのセンスが新東宝テイストなんです。そしてラストは新東宝お得意の無理矢理対決で、今回は“拳銃日本一”を賭けたガンファイトでした。 というわけで色々ヘンなところはありますが、最近観た新東宝プログラムピクチャーの中ではかなりいい味出している一篇でした。 [CS・衛星(邦画)] 5点(2012-10-16 23:07:17) |
45. 死ぬにはまだ早い
《ネタバレ》 情事を終えた元レーサーと人妻。女を車で送りに行くが、街道では殺人犯を追っている警察が検問をしている。夜11時、喉が渇いたので山小屋風のドライブインに二人は入る。店内には新婚カップル、常連の医者、おつむの軽い若い娘ふたり、タクシー運転手、そしてカウンターの隅っこで黙々とマッチを積み重ねる陰気な男などの客がいた。そこに拳銃を持った男が乱入してくる… ここでネタばらしちゃいますけど、実は本作は64年製作の『恐怖の時間』を翻案した映画なのです。原作は菊村至の『閉じ込められて』という小説なんだそうですが、原作自体が『恐怖の時間』をネタにしたということなんでしょうか。 『恐怖の時間』と違ってこちらは男が立てこもってからは完全に密室、誰も入ってきません。客たちのエゴはだんだんむき出しになってきて、自分だけは助かろうとして醜い行動をする奴も出てきます。黒沢年男が演じる立てこもり犯は、浮気した恋人を射殺しその浮気相手を殺すために店に来たのですが、いきなり見回りの警官を射殺する凶暴な奴です。こいつは『恐怖の時間』の山崎勉とは違って鬼畜のような男で、医者に新婚の女をレイプさせようとしたり緑魔子には裸になることを強要したりでやりたい放題です。この頃の黒沢年男はこういう激情に駆られて身体を動かすキャラをやらせたらピカイチですよね、セリフは聞き取りにくいけど。 低予算ながらもほぼドライブイン店内だけで繰り広げられる密室劇としてはかなり濃度が高いと言えます。ジュークボックスがあって、そこから森進一の『花と蝶』やザ・タイガースの『青い鳥』なんかを聞かせるところなど独特のテイストに満ちています、この映画は。ラストにちょっとしたオチがあるのですが、『恐怖の時間』と比べても毒味がはるかに利いています(基本的には同じオチなんですけどね)。 こんな映画がソフト化されていないのは実に不思議。この映画の内容が、後におこった三菱銀行北畠支店の有名な事件に似ているからというあまり説得力のない説もありますが、真相はどうなんでしょうね。監督の西村潔には、ほかにも完成したのにお蔵入りさせられて観た人がほとんど皆無の『夕映えに明日は消えた』という正真正銘の幻の映画があり、まあ不運な人だったみたいです。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2012-10-08 14:33:41) |
46. 地獄(1960)
《ネタバレ》 肝心の地獄よりも、天地茂たち主要な登場人物がほとんど死に絶える現生の方が、不気味なんです。上から見おろす、下から見上げる、そんなとてもシュールで居心地の悪いショットが一時間の現生編の半分は占めているような気がします。何度も挿入される走る蒸気機関車や線路のカットがどんどん鬱な気分にしてくれます。 しかし新東宝でも屈指のカルトにこの映画を押し上げたのは沼田曜一のそりゃ鬼気迫る怪演に違いなく、この演技を説明するには適切な言葉が思いつかないぐらいです。彼が悪魔なのか天地茂のダーク・ハーフとして出現したのか、けっきょく最後までよく判らんところがまた良いですね。 地獄で苦しめられる天地茂に何か光明がさしてくるような雰囲気もあり、まさか夢オチの最悪なハッピー・エンドかと危惧させられるも、あまりに無常なラスト・ショットで締めてくるとはさすが中川信夫です。 この映画、未成年とお迎えが近い老人は、決して観てはいけません!! [DVD(邦画)] 6点(2012-09-08 20:04:12) |
47. 白い巨塔
《ネタバレ》 タイトルバックが実際に開腹手術をしているところを撮っているのにはびっくりです。この映画はその他の手術シーンも実写でカメラに収めていて、現代では絶対に不可能なことでしょう。モノクロだからまだましですが、けっこうグロいです。78年のTV版に衝撃を受けた年代ですので、「あれ、財前五郎はガンで死ぬんじゃなかったっけ?」と拍子抜けしましたが、本作は原作の正編だけの映画化だったんですね。 とは言え、上映時間2時間半でもかなり駆け足で物語を進行させていると言う印象はぬぐえないかな。それでも、田宮二郎のド迫力には終始圧倒されてしまいました。 でもやはりTV版をもう一度観たくなりました、ビデオ屋で探してみよう。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2012-07-28 23:07:37) |
48. ジャズ大名
《ネタバレ》 まさに岡本喜八と筒井康隆、夢のコラボレーションですな。この時期岡本喜八は映画がなかなか撮れない苦境の時期だったけど、初期の喜八映画に立ち返った様なアヴァンギャルドぶりはファンとしてはもう感涙です。おかげで数ある喜八ムーヴィーの中でもとびっきりのカルトとしてその名を轟かせています。 いつもの富士御殿場でロケしているのが見え見えの脱走黒人たちの珍道中パートはちょっとモタモタしているのですが、あのウナギの寝床みたいなお城で殿様に楽器を教え始めると、もうストーリーなんてどっかにぶっ飛んでしまい、後は狂乱のジャズ・セッションが延々と続くんですから観ている方も頭の中トランス状態ですよ。ブレイク前のタモリを始め当時のサブカル界から大挙出演者を引っ張ってきてるのは壮観でもあります。 ちょっと毛色の変わった映画をお探しのあなた、ぜひ一度ご覧あれ! [ビデオ(邦画)] 7点(2012-05-22 00:07:27) |
49. 白い刻印
《ネタバレ》 人生がドツボにはまった男のあまりに暗く陰惨な物語で、ある意味、ここまで夢も希望もないストーリーを、ポール・シュレイダーよくぞ考えついたなと感心してしまいました。ニック・ノルティは“雪原のトラヴィス”というよりは、ただひたすら粗暴でイタイ性格の男でしかなく、そしてなかなか見事なバカっぷりです。なんせ人から聞いた話をすぐ信じ込んで自分の苦境を癒す妄想に走ってしまうんだから始末に負えない。そのきっかけは弟のウィレム・デフォーが造った様なもんだから、考えてみればこいつも罪な男です。ただどう考えてもデフォーのキャラはこの映画の脚本の大きな欠点ではないでしょうか。最初はモノローグだけで一時間もたたないと画面には登場しないし、なんか不必要な登場人物の様な気がしてなりません。子供のころの回想シーンで登場する弟がデフォーではなかったと判ったら、ますますこのシナリオに?が加わりました。ジェームズ・コバーンはこの映画でオスカー獲ったのですが、これは演技に対してというより功労賞的な意味あいが強いみたいですね。 まあとにかく、とても後味が悪い映画です。 [CS・衛星(字幕)] 4点(2012-02-20 18:25:48) |
50. 心中天網島
《ネタバレ》 「日本のシェイクスピア」近松門左衛門の名作をモダニズムの極致とも言える演出で堪能させてくれます。自分は篠田正浩は好みではないですが、本作だけは別格。前衛的ながらオリジナルの基本的なところはきっちりと造っているのが良い。紙屋治兵衛がまた観てて情けなくなるダメ男で、名優中村吉右衛門がさすがの演技で唸らされます。 私の中では戦後日本映画界でもっとも妖艶な女優は岩下志麻だということになっています。若い人たちは『極妻』シリーズのイメージしかないでしょうけど、この人の60年代70年代の作品をぜひ観てください。その美しさ・色っぽさには眼が釘付けになりますよ。 [DVD(字幕)] 9点(2011-01-07 02:31:03)(良:1票) |
51. 七人の侍
《ネタバレ》 私の様な凡人が、シネマの神が降臨した大傑作を論じるのは実におこがましい次第です。何度も観ているのですが、それにしても最近のデジタルリマスター版はセリフが実に鮮明に聞き取れるようになっているので嬉しい。この映画は名セリフ・名言の宝庫なので、じっくり味わいたいところです。母国語で本作を鑑賞できるのは、日本人の特権ですよ。 侍の中では私は名参謀役の五郎兵衛が好きで、勘兵衛にスカウトされるシーンは屈指の名場面だと思います。「おぬしの人柄に惚れたからじゃ」、微笑みを返す勘兵衛、こんなカッコ良い出会いは他にあるでしょうか! 最近黒澤映画のリメイクと言う愚行がブームですが、頼むから『七人の侍』だけは手を出さないでください、森田芳光さん、角川春樹さん。 [CS・衛星(邦画)] 10点(2010-10-31 20:07:39) |
52. シンプル・プラン
《ネタバレ》 確かにコーエン兄弟的な世界ですが、ラストにあの夫婦がたどり着いた結末はちょっと肩すかしをくらった様な気がしました。ビル・パクストンはこの映画の中で結構人を殺していますが、あのまま平穏な生活に戻れるとはちょっと考えにくいですね。そういう風に感じさせてくれるラストでした。頭がきれるブリジッド・フォンダが指図すると、それがことごとく予想もしない展開になるのがおかしかったです。 [DVD(字幕)] 8点(2009-09-10 19:33:07) |