1. 虹をつかむ男(1996)
主人公の(というか山田監督の)映画愛に満ち満ちた映画。ですが、性根の悪い私だけかもしれませんが、人が自分の好きなものについて熱っぽく語っているのを聞かされると、逆にだんだん冷めてきません? そんな作品です。 特に冷めたのは、小学校の文化祭で「禁じられた遊び」を出張上演する場面。あれは拷問もしくは虐待に近いと思う。たった1人の生徒が、いかにも硬そうな椅子に座らされ、しかも周囲を大勢の大人たちに囲まれ、別に本人が「見たい」と希望したわけでもない映画を強制的に見させられる。映画愛に満ち満ちた大人たちはよかれと思ってやっているのでしょうが、自己満足でしかありません。もう子どもが気の毒で気の毒で。もう田舎暮らしは嫌だ、早く都会に出たいと固く決意したことでしょう。 なんとなく、「時計じかけのオレンジ」の有名なあのシーンを思い出しました。そんな作品です。 [CS・衛星(邦画)] 5点(2025-01-08 01:21:37) |
2. ブルークリスマス
《ネタバレ》 宇宙から飛来者が表れたら、人類が一致団結して戦おう、もしくは使命感に燃える絶対的ヒーローの活躍に期待しようというのが一般的なハリウッド流だと思います。それに対してこの作品は、飛来者を追い払うどころか各国の為政者が便乗して陰謀を巡らし、権力基盤の強化に動くらしい。かなりの変化球ですが、それにしてもすごく無理があるように思います。 ホロコーストに象徴される民族浄化の動きを暗に批判しているようですが、いわゆる民族と、知らないうちに勝手に血の色を赤から青に変えられた一群とでは根本的に違います。いわばコロナ感染者を片っ端から抹殺するようなもので、そんな為政者が支持を集めるはずがありません。 それに何より、得体の知れない飛来者に対して何ら策を講じないところがすごい。打つ手なし、という設定なんでしょうか。それならいくら青い血を抹殺してもキリがないわけで、そのうち人数が逆転するか、または殺し合って人類全体が滅亡するかのいずれかでしょう。世の為政者もそこまでバカではないと思いたいところです。 [CS・衛星(邦画)] 4点(2024-12-29 01:48:51) |
3. PLAN 75
かなり昔に見た「ソイレント・グリーン」の日本版・SFじゃない版という感じ。身につまされるというか、明日は我が身というか、まるでドキュメンタリーのようにリアルに現代を切り取っているんじゃないかと。むしろ、これ以外の解決方法があるなら教えてほしいと思うぐらい。 それは個人の尊厳とか、倫理観とか、政治家が悪いといった問題ではなく、ひとえに財政の問題だから。周知のとおり、日本政府には1000兆円を超える借金があり、さらに毎年増え続けています。その主な要因は、少子高齢化やバラマキ政策で社会保障費が増大しているから。借金には金利がつきものです。従来は日銀が国債を片っ端から買うことで金利を抑えてきましたが、これからインフレが進行すれば、金利上昇は避けられません。「1000兆円」が意識され、日本の財政そのものの信認も低下すれば(こいつアタマ大丈夫か、と疑念を持たれれば)、金利はより上がります。その分、国家予算の歳出に占める国債元利払い(現在は3分の1弱)は増えるので、代わりにどこかの歳出を減らさなければ財政が回りません。そのターゲットは、国家予算の3分の1強を占める社会保障費以外にないでしょう。 今は所得を増やすとか減税とか喧しいですが、政府が本来取り組むべき財政問題の本丸は社会保障費改革です。しかしそれはどの政党もできそうもないので、結局ギリギリまで先送りされ、切羽詰まって「特攻作戦」もとい「プラン75」みたいな制度に頼らざるを得なくなるんじゃないかなと。しかしどなたが考えたか知りませんが、この制度、フィクションとしてもけっこううまく設計されているように思います。 ただし映画としては、ストーリーも画面もひたすら暗いばかりで、面白みはありません。まあ日本と自分の行く末を考える一助にすればいいんじゃないでしょうか。 [インターネット(邦画)] 7点(2024-12-23 04:47:51) |
4. 魚影の群れ
個人的に「舐めたらいかんぜよ」か深窓の令嬢かというイメージの夏目雅子が、まったく埒外のド田舎の市井の娘を見事に演じていたように思います。wikiによれば超多忙なスケジュールで、なおかつ体調が優れない中での撮影だったそうですが、そういう様子を微塵も感じません。さすがプロというか、生粋の女優さんだったんですね。 で、無骨で単純な物語もいい感じ。緒形拳は土着の漁師にしか見えないし、佐藤浩市もこんな時代があったんだなあと思わせてくれます。ただ、十朱幸代のシーンだけは冗長でやや退屈。佐藤浩市が現場復帰するまでの幕間つなぎ、といったところでしょうか。 しかし古い映画の宿命ですが、もう出演者の大半が鬼籍に入っているわけで、一抹の寂しさが残ります。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2024-12-01 21:15:05) |
5. 植村直己物語
西田敏行は、よくぞこんな過酷な役を引き受けたものです。どこでどうやって撮影したかは知りませんが、とにかく寒そうで辛そうで。 近年はいろいろな病気を併発されていたそうですが、この撮影が遠因ではないことを願うばかりです。 それはともかく、「物語」としてよくまとまっていたと思います。淡々と進行しますが、ある種のドキュメンタリーのような感覚で見ることができました。植村直己の人となりもわかったし、倍賞千恵子との関係もリアルでいい感じ。 しかし過酷な冒険をせずにはいられない人生というのは、選ばれた人に与えられた特権なのでしょう。私はただ、そういう人の「物語」を傍観して自らの卑小さを実感するばかりです。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2024-11-22 01:55:22) |
6. 金田一耕助の冒険
カネと会社の勢いにモノを言わせ、有名どころをかき集めてとことん内輪でふざけまくって作りましたという感じ。制作の現場は盛り上がったかもしれませんが、見ているこっちはドン引きするばかり。大林監督の作品をすべて見ているわけではありませんが、若かりしころとはいえ、この作品はかなり汚点の部類に入るではないかという気がします。 [CS・衛星(邦画)] 1点(2024-11-17 23:04:27) |
7. 天城越え(1983)
連行される場面とラストに映し出されるイメージショットのような田中裕子が、とてつもなく美しく見えます。ここが唯一最大の見せ場かなと。 しかし全体としては、見ていて辛くなるばかり。誰一人として悪意はないのに、誰一人として浮かばれません。そういう物語を作った松本清張が見事なのでしょうが、ジメジメした雰囲気とも相まって、見終わった後もどんよりした気分にさせられます。 [CS・衛星(邦画)] 5点(2024-11-11 02:33:35) |
8. 続・網走番外地
タイトルやテーマ曲の極寒のイメージからはほど遠い、完全なるコメディですね。 寅さんまがいの健さんをはじめ、いろいろ笑わせてくれるシーンが満載でしたが、とりわけ身を起こして見入ってしまったのが終盤の「火祭り」。お互いに松明を持って踊りながら戦うという、わけのわからない設定でした。しかもここ、笑わせようとしているのか、マジメに盛り上げようとしているのかも不明。なかなかカルトな体験をさせていただきました。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2024-10-26 15:10:08) |
9. 望み
失踪した息子ははたして加害者か被害者か。そういう両極端な舞台を設定したところが面白い。しかしそれだけで最後まで突っ走ってしまったというか、物語の展開としては特になしというか。結末を知りたくて見続けましたが、終わってみれば中身はあまりなかったような気もします。どう転んでも悲劇にしかならないし。 [CS・衛星(邦画)] 5点(2024-10-20 01:15:50) |
10. 影の車
予備知識完全ゼロで見ましたが、これは面白い。ある種のホラーというかサイコサスペンスというか。ヒッチコック風味に高度成長期の日本的な湿気や清貧を混ぜ合わせた感じ。「大岡越前」の影響か、超絶正義の味方&超絶イケメンの印象が強い加藤剛が、こういうマジメで神経質そうな主人公を演じているのもまた一興。幼少期の記憶とオーバーラップさせることで、物語の展開にも説得力があります。 ただし、このタイトルの意味はよくわかりません。 それからもう1点。結局、もっともハラハラしたのは冒頭のシーンだったりします。けっこう混んでいるバスの中で、岩下志麻が偶然再会した加藤剛に向けて、名前だの居住地だの出身地だのベラベラ喋りまくってます。個人情報保護の観点から、今日ではあり得ないでしょう。無神経だなあと思う反面、当時はそんなことをいちいち気にしないおおらかさがあったのかなという気もします。加藤剛の神経質を、現代人は笑えないかもしれません。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2024-10-13 20:49:34) |
11. 網走番外地(1965)
タイトルと高倉健主演ということ以外、ほとんど何も知らずに見ましたが、これは面白い。さすが、この後に続編が何本も作られただけのことはあります。 暗くて寒々しいだけかと思っていたら、さにあらず。貧乏くさいのは仕方がないとして、ときどき笑えるし、若い高倉健も元気がいい。牢内の人間関係も絵に描いたように醜悪。そして終盤の〝トロッコ・チェイス〟や機関車のシーンなど、とてもCGでは出せない迫力があります。さらに最終盤には、醜悪な人物に花を持たせてホロッとさせる。なかなか見どころ満載です。 [CS・衛星(邦画)] 9点(2024-10-07 21:06:06) |
12. 杉原千畝 スギハラチウネ
多くの方が指摘しているとおり、ものすごく物足りない感じ。特に緊迫も抑揚もなく、淡々と場面を繋いでいるだけ。取って付けたようなほんの一瞬のカーチェイス&銃撃戦の場面など、むしろ哀れみを誘います。比較するのも申し訳ないが、「シンドラーのリスト」の足元にも及びません。杉原千畝について知りたければ、ドキュメンタリーか評伝本を見たほうがよほど真に迫って面白いと思います。 しかしあれだけ虐げられた民族が、今やすっかり虐げる側に回ってしまったわけで。人の世はおそろしいですね。 [CS・衛星(邦画)] 3点(2024-09-16 23:10:52) |
13. 孤高のメス
《ネタバレ》 日本の医療系の映画やドラマというのは、どうしてこう天才的に優秀な医者ばかり出てくるんでしょうか。フィクションだからいかように造形しても自由ですが、〝奇跡〟があまりにも簡単に起きるので嘘臭さと幼稚さが漂います。「ブラック・ジャックの呪い」からいまだに解き放たれていない感じ(ブラック・ジャックは好きですが)。 ただし、夏川結衣演じる主人公が亡くなったという設定から始まるのは、ちょっと考えさせられました。当たり前の話ですが、生前の悩みも苦しみも喜びも、あるいは愛情や優しさや感動に満ちた言動も、亡くなってしまえばすべて無に帰すんだなあと。たまたま「日記」という形で生きた証は残され、息子に受け継がれましたが、こんな〝奇跡〟も滅多にないわけで。 [CS・衛星(邦画)] 5点(2024-09-10 02:19:06) |
14. 居眠り磐音
《ネタバレ》 〝居眠り剣法〟の意味がよくわかりませんが、まあ超大河小説の一部らしいので仕方ないかな。 しかし最大の見せ場は冒頭の刃傷沙汰で、いったいこれからどうなるんだろうと期待したのですが、その後は急速に空気が緩んでしまいました。だいたい固定相場と変動相場のサヤを抜いて云々という話は、映像的には地味にしかなりません。妙なところでインテリぶらずに、もっと裏金とか脱税とか政治資金規正法違反とか派手な話にしてくれればよかったのに。それに結局、お上に言いつけて取り締まってもらうという、なんとも冴えない顛末でした。 ある意味で衝撃だったのはラスト。花魁になった芳根京子の髪です。実際はどうだったのか知りませんが、櫛状のものが無数に刺さっていて、お前は武蔵坊弁慶の最期かよと。 [CS・衛星(邦画)] 4点(2024-09-07 23:12:14) |
15. まあだだよ
ものすごく時間をムダにした気分になります。老いてなお若い人に慕われたいというのは、老人の儚い夢なのでしょう。それを具現化したような作品ですが、時代の変化もあり、今さら見る価値はほぼゼロかと。 だいたい松村達雄の演技はいいのですが、古い教え子が寄り付くほどの魅力があるとは思えない。それに何より気持ち悪いのは、中盤にダラダラ続く「摩阿陀会」とかいうシーン。たいして面白くもないジョークで全員が大笑いし、いつの間にか合唱が始まり、隊列を組んで行進し。新興宗教の集会かよと。 後半のネコ騒動も「おいマジか」という感じ。気持ちはわからなくもないですが、この程度のことしか話題がなかったということでもあり、ご隠居暮らしはラクそうですねという感想しかありません。終盤に「お酌マシーン」と化した香川京子も哀れ。時代が違うといえばそれまでですが、でも平成の作品なんですよね。 [CS・衛星(邦画)] 2点(2024-08-30 23:05:32) |
16. シャイロックの子供たち
《ネタバレ》 最初に佐々木蔵之介と柳葉敏郎が出てくるあたりは緊張感があって期待しましたが、話が進むにつれてヌルくなります。阿部サダヲはたいへん稀有な役者だと思いますが、出てくるだけでバラエティ感・コメディ感が強くなるというか。なんかうまく立ち回って万事解決するんだろうなあと思っていたら、本当にそのとおり。むしろ予想以上の〝活躍〟ぶりでした。最近話題の「地面師たち」とも設定がちょっと似ていますが、あれほどのバイオレンスではないにせよ、もう少しお金絡みならではのヒリヒリするような緊張感を味わわせてほしかったなと。 [インターネット(邦画)] 4点(2024-08-19 02:29:16) |
17. 張込み(1958)
《ネタバレ》 「砂の器」と同様、前半から中盤にかけては、ひたすら刑事たちの徒労が描かれます。つまり「張込み」がいかに大変な仕事かがわかるわけですが、それは同時に物語が動くようで動かないことを意味します。見ている側もどっと疲れそうですが、なぜかそうはなりません。本筋とは関係ありませんが、日本の地方都市のあまりにも古い街並みや古い旅館、団扇しかない暑そうな夏など、つい郷愁を誘われる映像が多々あるからでしょう。 それに、「七人の侍」で超絶クールな武士を演じた宮口精二が、この作品ではモモヒキ姿で寝転がったり暑がったり。そんなふつうのオッサン姿が魅力的でした。 で、物語はようやく終盤に動きますが、ここから先はむしろ雑な印象があります。追跡はすぐにバレそうな距離だし、一旦見失っても奇跡的に再発見するし、それまで一緒にかんばってきた宮口精二は急に出てこなくなるし。あくまでも「張込み」の様子を描くのが主で、その後の逮捕劇はオマケみたいなものですかね。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2024-08-13 02:03:28) |
18. 空中庭園
《ネタバレ》 終始一貫して不穏な空気が流れていますが、結局のところ何も起きません。要は些細なサイコサスペンスということで。しかしつまらないわけでもなく、世の中の一部を切り取ってデフォルメした感じ。「思い込み」というフレーズは陳腐に思いましたが、「学芸会」はなかなか秀逸。家庭もそうですが、職場やその他の人間関係も、お互いにわかっていながら白々しく〝演技〟している部分が少なからずあるんじゃないかと。おかげで世の中は円滑に回っているわけで、そう思うとけっこう捨てたもんじゃないなという気がしてきます。 [CS・衛星(邦画)] 5点(2024-06-23 23:46:04) |
19. 華の乱
要するに与謝野晶子の半生記ということで。いかにも深作監督らしい騒々しいシーンもときどきありましたが、全体的には地味。有島武郎との逢瀬もなんだか中途半端で、あまり燃え上がっているようには見えません。結局、波多野秋子に全部持っていかれるわけで。むしろ与謝野鉄幹の出奔や帰還のほうがよほど真に迫っていました。 それはひとえに、吉永小百合の演技の幅の狭さにあるように思います。この方が汚れ役や背徳な役を演じても、どうにも嘘くさいのです。途中で成田三樹夫の「女はすべて人形だ」みたいなセリフがありましたが、吉永小百合こそ日本映画界の人形だったんじゃないかなと。 それはともかく、最終盤の松田優作と成田三樹夫が絡むシーンは、ストーリーとは関係なく感慨深いものがあります。つくづく、いいコンビだったなあと在りし日を思い出しました。 [CS・衛星(邦画)] 5点(2024-06-03 01:33:08) |
20. 鬼畜
噂には聞いていましたが、たしかに見ているとだんだん辛くなります。岩下志麻とか緒形拳とかも、さぞかし演じていて辛かったんじゃないかと思います。 特に中盤以降、緒形拳は〝解決〟に向けてある意味で一直線に突っ走るわけですが、他に方法があったんじゃないかと誰もが思うところでしょう。クソマジメな言い方をすると、経済的貧困もさることながら、知識の貧困・情報の貧困も悲劇を招くということで。前者はどうしようもない部分がありますが、後者なら自助があれば共助・公助で救われるはず。そうオトシマエをつけることが、この陰惨な物語を自分なりに浄化する唯一の手段かなと。 [CS・衛星(邦画)] 6点(2024-05-24 23:18:01) |