1. コッポラの胡蝶の夢
《ネタバレ》 てっきり本作がコッポラの最新で最後の監督作だと思っていたんですけど、よく見るとこの後に話題にもならなかった小品を二作監督していたんですね(もっとも十年近く前になりますが)。でも正直コッポラは本作を遺言作みたいにして、ここで監督業から引退した方が良かったと言えるほど、全編に人生に対する諦観を感じさせてくれます。ほぼ同年代のスコセッシがいまだに脂ぎった映画を創り続けているのとは対照的で、親子三代と甥で7個もオスカーを獲得し何度も破産を乗り越えてきたコッポラには自分の人生も邯鄲の枕だったんじゃないかという心境にすでになっているのかもしれません。ストーリーラインはなんか『プラーグの大学生』と『ある日どこかで』をミックスしたような感じです。ヴェロニカがサンスクリット語や古代エジプト語を喋りだすあたりからちょっとわけが判らないストーリー展開のような気もします。ヴェロニカがラウラの転生だということはしっくりきますが、ヴェロニカが雷に打たれて古代インド人の女性の生まれ変わりになってサンスクリット語で話し出すと、ストーリーとしては飛躍しすぎという感もあります。そしてドミニクと彼のドッペルゲンガーが核兵器について議論する件には、ちょっとコッポラの趣味が強すぎるなと感じてしまいました。できればとことん掘り下げて言語の根源というか始祖までたどる大風呂敷を広げてくれたら面白かったんじゃないでしょうか。そうなるとバベルの塔のお話しになっちゃうのかな。 「コッポラ、老いたな」というのが正直な感想ですが、彼が得意の映像美だけはまったく衰えていないのが救いでした。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2020-08-10 23:36:44) |
2. コレリ大尉のマンドリン
《ネタバレ》 さすがモードの国イタリア、良く見るとカッコ良いデザインの軍服ですね、戦争には向いてないけど(笑)。“歌うイタリア兵”と言うところが強調されていますが、ドイツ軍でも日本軍でも軍歌を歌わせるのは団結力を高める統率手段で、これは世界の軍隊ではごくありふれたことです(もっともオペラを歌うってのは珍しいけど)。兵隊に引っ張られるのも人生、人生は楽しまなくちゃ損、という感じなのがいかにもイタリア人らしくて好きです。 それに対して「地震と戦争について語ろう」という冒頭のモノローグがあるように、戦争と天災を同列に考えるのがギリシャ人で、これは両者の辿ってきた歴史の違いがうかがえて興味深いところです。 あまり評判が良くない本作ですが、わたしはけっこう好きです。P・クルスは今まで観た彼女の出演作でもっとも垢ぬけないキャラでしたが、ラジー賞にノミネートされるとはちょっと可哀想じゃないですか。脇を固めるJ・ハートやI・パパスはいい味出しているけど、どうもC・ベールのキャラが曖昧かつ中途半端なのはマイナスでしょう。彼が戦後どういう境遇になったのかというあたりがスッパリ抜け落ちているので、N・ケイジが戻ってくるラストもイマイチ盛り上がりませんでした。 それにしてもエーゲ海の青い水と空は実に美しく、ケファロニア島に一度行ってみたくなりました。 [ビデオ(字幕)] 7点(2013-06-21 20:47:05) |
3. 恋するシャンソン
《ネタバレ》 ヒトラーに「パリは燃えているか!」と電話で怒鳴られたコルティッツ将軍が受話器を置くなり、“私が愛するものは二つ、祖国とパリの街♪”なんて女性の声で歌い出すオープニングは、予備知識なくて観てしまった人はきっと度肝を抜かれるでしょうね。私でも知ってる様なシャンソンのフレーズが数多く使われていますが、どのタイミングで歌がでてくるのか予測不可能なのが面白いところです。良くこれだけセリフにあったシャンソンを集めたなと感心してしまいます(それとも、集めたフレーズに合わせてストーリーを作ったのかな)。ジェーン・バーキンの出演シーンでは彼女のオリジナルの歌を使うなんて実にシャレてますね。これがかつて“世界一難解な映画を撮る男”だったアラン・レネの映画とは、まあ時代は変わるもんです。お話し自体は他愛のないもんですが、さすがレネの映画だけあってさりげないシーンにも彼の絶妙なテクニックが感じられます。 [ビデオ(字幕)] 7点(2012-01-10 00:49:39) |
4. 恋人たち(1958)
《ネタバレ》 まるでモーパッサンの短編小説のヒロインの様な奔放な衝動に駆られる女が主人公ですが、演じるのがジャンヌ・モローですからこれはありです。ジャンヌ・モローはルイ・マルが撮るともっとも美しくなると再確認いたしました。ジャン・クロード・ブリアリと肌を交わしてからの彼女の表情・仕草の妖艶なことと言ったら、ちょっと頭がくらくらするほどでした。彼女が生きる田舎のブルジョア生活も、ブルジョア階級出身のマルだからとってもリアルに描いています。同時期のヌーヴェル・バーグ作品とは明らかに違う質感の作品です。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2011-03-26 23:32:44) |
5. コックと泥棒、その妻と愛人
《ネタバレ》 本作はグリナーウェイの最高傑作だと思います。 まるで舞台劇を見せている様な平行移動するカメラ、ボーイソプラノの歌声、腐る肉と悪臭、早くも本作にはグリナーウェイ的な要素がすべてぶち込まれています。実は全然予備知識を持たずにこの映画を観てしまったので、観終わってあまりの凄まじい映像体験に呆然とさせられました。「食欲」と「性欲」、「悪徳」と「無垢」、この世にあるものはシメントリーに分けて対比することがグリナーウェイの映像表現の基本みたいですが、この映画ぐらい悪趣味になると「美」を感じさせられます。そして特筆すべきはヘレン・ミレンの役作りで、あの熟れきった裸身はきっと本作のために逆シェイプアップ(?)したのでしょうね。腐った食肉が詰まったトラックの荷台に隠れるシーンは、豚の頭と一緒に撮られても違和感が全然ないところが恐ろしい。出来れば、ラストは「特別料理」を旦那と一緒に食して欲しかったところです。 [CS・衛星(字幕)] 10点(2010-06-23 22:12:39) |
6. 氷の微笑
《ネタバレ》 初見時は、犯人は果たして誰なのかと真剣に?だったのですが、最近観直したらシャロン・ストーン以外にホシは考えられないという撮り方だったのに気がつきました。例の足の組み直しやらソフトコアポルノなみのエロエロシーンに気をとられてしまいますが、これミステリーとしては大した話じゃないんですね。マイケル・ダグラスも余りにアホッぽいキャラクターで、これじゃ感情移入のしようがないです。 [ビデオ(字幕)] 5点(2009-07-31 22:29:26) |