1. コッポラの胡蝶の夢
《ネタバレ》 レビューが少ないのはなかなか理解、評価が難しいからかも知れません。やや大胆な解釈ですが、私はこの作品はコッポラ流の世界における「真善美」の表現であったように感じました。奇才スタンリー・キューブリックは、真善美の意味を映画「バリー・リンドン」で真(宗教)、善(バリーの生き方)、美(映像)という形で表現したと解釈しているのですが、コッポラは真(ドミニクが追求した学問)、善(人類が核戦争で滅びて新しい人類となってより高いステージに上るという未来予知を伝えるべきかで悩む)、美(ラウラ、ヴェロニカへの愛情)という内容を描いているように思います。 真を追求する学問については、ドミニクは言語の起源、紀元前のエジプト、インカ、メソポタミアなどの言語まで理解するに至り、もう少しで自分の研究を極める所まで行きますが、ヴェロニカへの愛情(美)を優先させることで断念します。 善については、ドミニクは未来を正確に予知する能力を得て、人類の未来を解読不能な文字で記述し、某所に保管します。これは未だに解読不能とされる奇書「ヴォイニッチ手稿」を連想させる描写ですが、人類が核戦争で一度滅びて新しい人類に昇華するという未来を「進化のために善である」という自分と、「多くの罪のない人が死ぬ事は善ではない」というもう一人の自分の板挟みにあって悩み、結局答えは出ずに終わります。「善」とは移ろいやすい物という結論なのでしょう。 しかし美についてはキューブリック同様「変わらない物」「真よりも優先される物」としてコッポラはとらえたように思います。ラウラを思い続け、ヴェロニカへの愛情で学問を捨てるという決断、雪の中で息絶えたドミニクの安らかな瞳は、「胡蝶の夢」の如く夢と現実を行き来しながらも、美を追求できたという満足を表していたように感じました。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2020-07-07 18:46:47) |
2. ブリキの太鼓
《ネタバレ》 原作では判りませんが、映画においてはサーカス団、後の慰問団でオスカルの師となるベブラ師との邂逅が大きな意味を持つように思います。身体は成長しないけど精神は成長するオスカルにとって、その存在を見抜いているベブラ師というのはオスカルの完成形でもある訳です。オスカルはブリキの太鼓を叩いて大人の欺瞞に近づく精神の成長をも拒否しようとするのですが、子供染みた行動でオスカルを保護してくれる周囲の大人を死に追いやってしまう狂気に、戦争と父親の死をきっかけに別れを告げて西側?の新世界で成長を再開して生きて行こうとする所で映画が終わります。私は反ナチズムとか反戦がこの映画の主題ではなく、この時代の狂気とオスカルの狂気が同じ位で違和感がない、と言う所がこの映画の主題なのかなと感じました。ややグロテスクで難解なのでこの点で。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2018-10-29 16:33:15) |
3. グリーン・ゾーン
《ネタバレ》 作品中では詳しく描かれませんでしたが、イラクの将軍は米政府と組んでサダムフセインの後を継ごうとしていた訳で、米政府は将軍から大量破壊兵器はないと知らされていながらそれを口実に開戦に踏み切った。どちらが悪かと言えば悪代官と三河屋のようなもので「両方悪」としか言いようがない。主人公のミラーは軍、CIA(将軍を生かす方)どちらに組みしても「悪に組みする」ことになる。それを現地人のフレディの最後の一発で知らされるという「落ち」は物語として理解するにはやや難解かも。政府の欺瞞をマスコミへの告発で正そうとするのは、現在のアメリカマスコミ事情を考えると劇中度々出てきた言葉で言えば『ナイーブ』すぎる希望的結末ではないかと思います。採算度外視で1億ドルかけて作った意気込みにこの点数で。 [DVD(字幕)] 7点(2013-08-06 11:16:25) |
4. バリー・リンドン
《ネタバレ》 穿った見方とは思いますがこの映画、キューブリック流「真・善・美」の解釈のように思いました。中世のカソリック、プロテスタントが交錯した国々を描く中で宗教問題は完全にスルー、牧師のラントは教育係に徹してます。つまり「真」は今も昔も不確かなものとして相手にせず片付けられています。淡々としたナレーションと現代人の我々が主人公に感情移入できない構成、しかも善悪の判断を描かないことで、何が「善」であるかも不確かなものと解釈していると思います。平民、貴族それぞれに善悪の解釈が違うし、現代人の観客とも違うと見るべきでしょう。一方で中世の城なんてもっと不潔きわまりないものだったはずですが、「美」については映像全てを壮麗な絵画の中で描くように徹底的に追求しています。虚実や善悪は人間が死んでしまえば同じでたいした問題ではないけれど「美」だけは永遠であるという監督の主張が最後のナレーションによってさらに強調されたようにも感じました。 [DVD(字幕)] 8点(2010-05-04 18:46:56) |
5. パリは燃えているか
原作を読むと自由主義連合軍とレジスタンス革命政府とドイツ占領軍の三つ巴の攻防でよくフランスは開放後社会主義国にならなかったなあという感想を持ったのですが、映画ではあくまで占領軍であるドイツがいかにパリから駆逐されて撤退するかに焦点があてられています。特に軍人として命令通りにパリを破壊するか、一人の人間としてヨーロッパの文化を守るかの決断を迫られるコルティッツ将軍の動静が焦点とも言えます。規模の違いはあれ日常生活でも意に反する命令の実行を迫られることはあり、自分ならどうできるかを考えさせられる作品でもあります。映画の出来も去る事ながら、困難な時代に軍人である前に文化人としての良識を持ちえた将軍を讚えてこの点数で。 [DVD(字幕)] 8点(2007-06-20 22:36:03) |