1. バクラウ 地図から消された村
《ネタバレ》 近代化や開発の波に取り残され、加速化する人口減少なども相まって、世界から今にも忘れ去られようとしている村、バクラウ。インターネット上の地図からもその存在を消され、警察や行政からも見捨てられたこの村にある日、正体不明の部外者が訪れる。通りすがりの旅行者を名乗る彼らだったが、その日から原因不明の危機が村を襲うようになるのだった。給水タンクに撃ち込まれる銃弾、村を監視するかのように空を飛ぶドローン、そしていつの間にか惨殺される村人たち……。いったいこの村に何が起こっているのか?だが、村の住民たちも黙ってはいない。何故なら彼らは誇り高き革命戦士の末裔だったからだ。隠し持っていた銃を手に取り、自らの村を守るため立ち上がる住民たち。彼らの命を懸けた戦いの幕がいま、切って落とされる――。南米の荒れ地に囲まれた小さな村を舞台に、武装した村民と謎の襲撃者たちの血で血を洗う抗争を濃密に描くバイオレンス・ドラマ。カンヌで審査員賞なるものを受賞したということで今回鑑賞してみたのですが、正直僕はさっぱり楽しめませんでした。これってストーリーの面白さで見せるというより、多くの謎をまず最初に提示してその真相が何なのかを延々引っ張るというスタイルだと思うんです。謎の因習に満ちた村、怪しげな雰囲気漂う住民たち、そして彼らを執拗に狙う謎の襲撃者集団……。まあ確かに、全編に横溢するこのミステリアスな雰囲気に最後まで引っ張られて見てたんですけど、残念ながら最後に明かされる真相があまりにも弱く、肩透かし感が半端ない。こちらの想像したオチを全く超えてこず、「結局それだけのことやったんかい!!」と僕は思わずずっこけそうになっちゃいましたわ。さすがにここまで引っ張っといて、肝心のオチがこれではねぇ。もっと観客の度肝を抜くような一捻りが欲しかった。作品全体に漂うこのひりひりとした空気に+1点。 [DVD(字幕)] 4点(2021-09-04 01:31:13) |
2. アド・アストラ
《ネタバレ》 『インターステラー』の超絶劣化版映画。とにかくつまんなかったです。映像はキレイだったので、ぎり4点!! [DVD(字幕)] 4点(2020-10-10 17:30:58) |
3. 彼の見つめる先に
《ネタバレ》 ブラジルに暮らす生まれつき目の見えない青年の恋と成長を何気ない日常の中に描いた青春ドラマ。確かにこの全編に漂う品のいい空気感は、なかなかいいセンスしてると思います。主人公を取り巻く少年少女たちも等身大の魅力に溢れていて、彼らが悩み足掻きながらなんとか現状を打破しようとする姿は見ていて微笑ましくなりますね。そして、主人公である青年。目が見えないながらも必死で自立しようと、アメリカ留学を立案したり両親と喧嘩したりと奮闘するところは素直に好感持てました。自らが男しか愛せないと自覚しそんな自分を受け入れて成長してゆく彼と、そんな彼への淡い恋心にもがく親友の女の子との関係性も凄く繊細に詩情豊かに描かれていて大変グッド。あまりにもオーソドックス過ぎて若干物足りなくもありますが、監督の瑞々しいセンスが光る青春ドラマの佳作と言っていいでしょう。 [DVD(字幕)] 7点(2020-01-04 01:00:49) |
4. 君の名前で僕を呼んで
《ネタバレ》 イタリアの避暑地で出会った青年たちの男同士の恋愛を濃厚な映像で描いたラブロマンス。とにかく若い男たちの引き締まった肉体美が素晴らしいですね。滴り落ちる汗の匂いがこちらにまで漂ってきそうで、何とも官能的でいい。なんだか昔読んだ三島由紀夫の小説を思い出しました。この昔のヨーロッパ映画のような古風な作風が個人的にそこまで嵌まらなかったですけど、いい映画だったと思います。 [DVD(字幕)] 7点(2019-05-10 22:07:13) |
5. ビハインド・ザ・サン
《ネタバレ》 「あの血に汚れたシャツを見ろ。いいか、前の兄が流したあの赤い血が乾くとき、弟であるお前が兄の名誉を守るために復讐を果たすのだ」――。1910年、古くからの因習と旧態依然とした家父長制に囚われたブラジルのとある田舎町。貧しいサトウキビ農家の次男トーニォは、隣家の男に兄を殺されるという哀しい過去を抱えながらも必死に生きていた。何よりも名誉と外聞を重んじる彼の父親は、トーニォに殺した張本人である男に復讐を果たすように命じる。言われるがまま、男を殺すトーニォ。だが、殺された男の家族もまた彼に復讐を誓うのだった。幼い弟も抱え、生活のために同じところをぐるぐる廻り続けるような日々と、そんなふって湧いたような暴力の連鎖に心底嫌気が差していたトーニォは、ある日、全国を転々と移動興行しながら悠々自適の生活を送る美しい女芸人クララと出逢う。閉塞感の最果てを生きるような自分の人生から、何もかも捨てて逃げ出したい。トーニォは、いつしか彼女に惹かれてゆき、自分も一緒に旅立ちたいと願うようになるのだが……。監督は、南米映画界の俊英ウォルター・サレス。その後、若き日のチェ・ゲバラの南米各国を巡るバイク旅を乾いた映像と繊細な音楽とで瑞々しく描いた青春ロード・ムービーの佳品「モーターサイクル・ダイアリーズ」を撮ることになる彼の出世作は、南米版「ギルバート・グレイプ」と言った趣きの鬱屈した青春ドラマでありました。もう、見ているだけでこちらも全身から汗が噴き出しそうになる暖色系の乾いた映像で描かれた、この家族という牢獄から必死に抜け出そうともがく青年のドラマはなかなか見応えありましたね~。この監督の、社会の不条理に怒りを燃やす若者の心情を南米のからりと乾いた映像の中に繊細に描き出す手腕は、もうこのころから確立してたんですね。特に、トーニォとクララが次第に惹かれあってゆく初々しい恋愛描写は美しい音楽の力も相俟って出色の出来でした。そして一転して訪れるラストの悲劇……。家族とは人を縛り付ける牢獄にすぎないのではないか?ときに家族という社会的システムは弱き者の犠牲の上に成り立っているのではないか?そんな答えのない疑問を抱きながら、それでも人は家族を作る。そう、今より少しでも幸せになるために……。人間の生きることの悲しみと切なさを冷徹に見つめながらも、最後、広い大海原へと歩き出すトーニォの姿に、そんな苦しみを乗り越えうる微かな希望を見出したような気がします。マイナーながら、なかなかの良品でありました。 [DVD(字幕)] 8点(2014-07-11 21:29:30) |
6. オン・ザ・ロード(2012)
《ネタバレ》 第二次大戦終結後のアメリカ。作家を志す貧しい青年サルと、目の前にある快楽にただひたすら溺れる破天荒な生活を送る青年ディーン。未来も過去もなく、ただ“いま”という時間を実感するためにある日、彼らは何も持たず路上へと旅立ってゆくのだった。生きる喜びを全身全霊で感じるために――。酒とドラックとセックスに明け暮れる若者たちのアメリカ全土を巡る無軌道な旅路を乾いた映像とノリの良い音楽で刹那的に描き出す青春ロードムービー。日本でも根強い人気を誇るジャック・ケルアックの有名な小説を豪華キャストをそろえ映画化したということで今回鑑賞。監督は、若き日のチェ・ゲバラの青春バイク旅を乾いたタッチで描いたロードムービーの佳品『モーターサイクル・ダイアリーズ』を撮ったウォルター・サレス。相変わらずこの監督の南米特有のドライな映像のなかにときおり垣間見せる、詩情豊かシーンは心惹かれるものがありますね。前作の雰囲気がけっこう気に入っていた自分としては、こちらのセンス溢れる映像や音楽もなかなか堪能できました。ただ、ずっと昔に原作は読んだのだけど、はっきり言ってその良さがさっぱり分からなかった自分としては映画化された今作のストーリーもやっぱり受け付けませんでした。べつに僕は必ずしも映画にモラリティを求めているわけではありませんが、それでもこの誰であろうと気に入った女が居ればすぐに口説いてセックスし、友人を含めて乱交やりたい放題、知り合いが後部座席に乗っていようが構わず運転中に女にフェラさせ、金に困れば男とでもやる彼らの姿は、もう倫理観の欠落というより単なるケダモノとしか思えません。確かに映画としてある程度完成度は高いのでしょうが、彼らにこれっぽっちも感情移入できなかった自分としてはそこまで高評価できませんでした。『モーターサイクル~』のチェ・ゲバラのように、長い旅路の果てに未来に繋がる大切な希望のようなものを手に入れるだとか、あるいは自堕落な生活の果てに自業自得の絶望のどん底へと堕ちてしまうとか、そういった心に残る意味のあるラストが欲しかったです。 [DVD(字幕)] 5点(2014-06-30 15:44:31) |
7. 360
《ネタバレ》 芸術の都、ウィーン。大金を得るため、高級売春クラブで働くことを決めたブランカ。最初についた客に会いにホテルのバーへと向かうと、そこには妻のいる身でありながら初めて女を買おうとするエリートサラリーマンのマイケルが待っていた。一方、ロンドンで働くマイケルの妻は若い写真家との不倫に苦しんでいた。物語の語り手は、そこからその若い写真家と別れてブラジルへと帰ることを決めた恋人へとバトンタッチし、さらには飛行機で彼女と偶然隣り合わせた遠い過去に失踪した自分の娘を捜す老人、自分のなかに蠢く歪んだ欲望に苦しむ出所したばかりの元性犯罪者、同僚で人妻でもある女性への恋に苦悩する歯科医、ボスから犬のような扱いを受けているチンピラマフィア、と次々と移行していく。それにつれて舞台も、ウィーンから、ロンドン、パリ、ロシア、アメリカの各都市、ブラジルのビーチへとまるで奔流する大河のように世界を駆け巡り、最後は広大な大海原へと還元するかの如くウィーンの売春婦へと360度の円環を閉じてゆく。「シティオブゴット」で鮮烈なデビューを飾ったメイレレス監督が、豪華な俳優陣を起用しこれまでに培ってきた技巧を駆使して描き出した群像劇。と、聞くととても壮大でドラマティックな作品を思い浮かべるけど、今作は意表を突くほど地味な展開が最後まで淡々と続きます。それなのに相変わらずの見事なストーリーテリングで、最後まで観客を飽きさせないところはさすがでした。うまくいかない男と女、親と子、上司と部下、それでも人生は一度きりと幸せになるチャンスを必死に手に入れようとする人々の姿が、観終わったあとも良い余韻となって心に残ります。豪華俳優陣のわりに、あまりにも地味すぎて世間ではいまいち評判にならなかった作品みたいだけど、僕にはなかなかの良品に思えました。 [DVD(字幕)] 7点(2014-01-27 00:14:33) |
8. シティ・オブ・ゴッド
《ネタバレ》 映画が始まってから、ひたすら延々と繰り返される過激なバイオレンス描写と子供を含めた登場人物たちの盗みと殺し合いシーン、事実を基にしたとてつもなく重たいストーリーなんだけど、ブラジルという乾いた土地柄がなせる技か、最後まで一気に見せる。そして鑑賞後の気分は何故か爽快感さえあった。それは、冒頭の鶏を追いかけて走る男の姿に象徴されるように、人間の生きるエネルギーを良くも悪くも肯定的に描いているからだろう。ライオンが草食動物を噛み殺すのに理由など要らないように、ここの人間たちはただひたすら必死に生きている。まさに〝神の街〟としか言いようのない世界を濃密に描き出した俊英の手腕に拍手。 [DVD(字幕)] 8点(2013-04-03 10:32:33) |