1. 菊次郎の夏
才能の暴走。序盤からコントの“間”で映画の“間”を殺害。異常なほどのロングショットの多用。主人公二人がさえないおっさんとさえない子供。豊橋に着いてからはストーリーさえ放棄。でもこんなに優しい映画は久々に見た。月を背景にだるまさんが転んだで遊ぶ菊次郎たちの姿が浮かぶシーンなんて本来映画ではありえないけど、映画以外でだってありえない。北野武以外には不可能。「バカヤロー」って言葉を優しい言葉として描ける映画作家は世界中どこを探しても北野武以外には存在しない。「fuck you」で感動させられる映画作家がアメリカやイギリスにいますか?北野映画を原語で観ることができる幸福に感謝。 9点(2004-02-12 21:39:26)(良:6票) |
2. 市民ケーン
映画の演出法や撮影法は1930年代までにはほとんど開発されていた。しかもモンタージュ理論が駆け抜けていた時代。1940年代にこれだけ革新的なカットを開発し、長回しを駆使してみせたのは天才の所業としか言うほかない。「当時としては斬新だったからといって現在高評価するのはおかしい」という意見の人もだいぶいるが、この作品は斬新どころの話ではなくてエポックメイキングとなった革命に近いようなものなんだからそれなりの評価はされるべきだと思う。たとえばメリエスの『月世界旅行』やグリフィスの『国民の創生』のように。退屈な映画だという人が多いけど、ストーリー展開もテンポ良く、構成も見事で、はたしてそんなに退屈な映画だろうか?複数回の鑑賞に堪えられる味わい深い作品だと思う。単にビデオで見て暗い画面に眠気を起こしたという可能性も無きにしも非ずではないか(小さなテレビ画面だと確かに見づらい)。 9点(2004-02-08 10:51:02)(良:3票) |
3. ライムライト
映画を観てここまで泣いたのは初めて。一本の映画の中で2度泣いたのも初めて。 『素晴らしき哉、人生!』と「古今東西泣かせる映画ベスト1」を争う作品だが、まだ未見の人に是非とも助言したい。この作品を見るのは、それまでのチャップリンの作品をいくつか見て、チャップリンの人生について書かれた文章を軽くでも読んでからにしてほしい。そうすれば感動が何倍にもなるから。 この作品の醍醐味は、主役のカルベロとチャップリンとを重ね合わせて見ることにある。僕はチャップリンの作品を5~6見て伝記も少し読んでから今回の黄金町チャップリン映画祭に足を運んだのだが、作中カルベロが夢の中でヒロインとともにステージに上がって『虫に捧げる歌』を歌うというなんでもないシーンで泣いてしまった。「ラヴラヴラブラヴ……」とラヴを繰り返すだけなのだが、事前に見た『街の灯』のラストシーンや『独裁者』の演説シーンや『殺人狂時代』の有名な台詞が頭にあるので、カルベロ(=チャップリン)の口にする「ラヴ」という言葉に過剰に反応してしまったのだ。ただ「ラヴ」と言っただけで涙が出てくるのだから、ラストシーンなどもう口の中に涙がだくだくと流れ込んできてしょっぱくてかなわない。このときの胸が詰まるほどの感動を他の人にも味わってほしいので、事前の予習を強く薦める。 感動作品だからといって映画として優れているとは限らない。本作品も大まかなストーリーは典型的なお涙頂戴型で、有名なテーマソングもまた然り。昔のチャップリンが持っていた映像やアクションに対する異常な情熱は、本作品ではカルベロが口にする台詞に注がれている。やたらと説教臭い台詞は、全てチャップリンの人生観。人によっては押し付けがましく感じるだろう。サイレント期の作品に見られる、「どうやって映像だけで観客に伝えるか」という豊富なアイデアは、全くと言っていいほど見られない(バレエシーンやコメディ劇シーンは別枠で扱うべき)。チャップリンも衰えたのか……と哀しくなるが、だからこそカルベロとチャップリンとを重ね合わせてみたときの涙が光るというものか。 9点(2004-02-12 23:02:11)(良:3票) |
4. ベルリン・天使の詩
小津、トリュフォー、タルコフスキーをファーストネームで呼んだところに感動した。 「驚く」というのは生きている証だと作品内で語られるが、とすると僕はこの作品の鑑賞を通して「生きていること」を確認したことになる。悩むことも愚痴をこぼすことも生きているからこそ、と天使の視点から暴かれる生の実感。悩める人への救済の映画。人生に絶望している人はこの映画を見て、そして聞いてほしい、ピーター・フォークの言葉、「You are not the only one.」を。 9点(2004-02-20 08:11:41)(良:3票) |
5. キートンのセブン・チャンス
「結婚してください」と書いた紙切れを2階の女性の足元に放り投げて、その後破かれた紙切れがパラパラ降ってくるシーンは爆笑。チャップリンが舞台的な笑いなのに対して、キートンは映画的笑い。映画的空間、映画的時間に沿って繰り広げられるスラップスティックコメディはこのうえなく映画的。7時まであと30分しかないと慌てて外に飛び出し、何百人もの女性に街中を追い掛け回されクレーンで脱出したり、山の上から転がってくる岩をよけ続けたりしながら教会へ急ぐ一連のシークエンスはまさしく映画らしい映画。 9点(2004-02-13 13:04:57)(良:2票) |
6. のんき大将 脱線の巻
《ネタバレ》 ようやく観ることが出来ました。しかもスクリーンで!カラーバージョンの方です。あの強烈な色使いはまだ片鱗を見せている程度ですが、驚異的な演出力と音に対する感覚の素晴らしさは既に際立っています。まあとにかくこの作品、後のタチ作品と同じく徹底的に奥行きにこだわって作られています。ようやくの思いで立てたポールの上にはためくフランス国旗に広場に集まった人々が敬礼しているのを、二階から見下ろすフランソワが自分に対するものだと勘違いしてそれに答えてしまうシーンのあまりの素晴らしさに、手元に持っていたコーヒーをこぼしてしまいました。きっとタチなら、コーヒーをこぼしただけでまた一騒動起こしてくれることでしょう。 この作品の見所は、とにかくまだ若々しいタチによる体を張ったアクションです。自慢の自転車で町から町へと疾走しては行く先々で問題を起こすフランソワ。自転車で、また自らの足で全力疾走し、川にダイブまでしてしまう、こんなにエネルギッシュなタチは見たこと無い!是非是非、自転車に飛び乗る練習に励むタチを見てやってください! スラップスティックコメディはよく「チャップリン的」か「キートン的」かといった色分けがされますが、タチという作家は厄介ですね。過剰な動きと一つ一つのギャグはチャップリンを思わせますが、無口なキャラクターと映画的構造をフルに活用した演出はキートン的です。自転車一つをとってみても、木の柵の向こう側を手で押している自転車に乗ろうとするところで、木の柵が邪魔してなかなか乗ることが出来ない彼はチャップリン。坂道を意思を持った生き物のように転がっていく自転車を必死で追いかける彼はキートン。ひょっとしてジャック・タチはチャップリンとキートンの実の息子なのでは?と思ってしまいます。まあ、小男の二人からどうして長身のタチが生まれたのかという疑問は残りますが・・・(男同士だろ、というつっこみはやめてください(笑)) 9点(2005-01-30 18:23:55)(良:2票) |
7. 猟奇的な彼女
期待して見たのに残念。全てのセンスが10年以上古い。韓国の最高レベルのスタッフで作ったって本当?フジテレビのドラマ班で作ったんじゃないの?カメラの動き方が落ち着き無くて下卑。前半戦最後のヒロインの演説はどう見てもテレビドラマ。木の下に手紙を埋めるってショーシャンクかい。ハイヒールで追いかけっこするときの音楽は恥ずかしくないの?って批判ばっかりだけど、主役の女の子がかわいいから1点献上。 1点(2004-02-12 23:18:56)(笑:1票) (良:1票) |
8. 人情紙風船
昔、山中貞雄というすごい監督がいた、という話を聞いて早速大学の図書館で本作品を見た。生まれて初めての戦前の邦画だった。戦前の邦画なんて今の学生自主映画くらいのもんだろうという誤った認識を持っていた僕は再生ボタンを押すや愕然。画面には江戸時代にそのままカメラを持って行ったような生き生きとした長屋が映し出された。失礼ながら、想像を遥かに超える出来だった。呆気にとられながら見つづけ、見終わってしばらくは衝撃で席を離れることができなかった。これほどまでに心をえぐる映画を見たのは初めてだったし、しかもそれが戦前の邦画。山中貞雄が20代でこの作品を撮り上げ、そのまま出征して亡くなったという話と合わせて、その場で泣いてしまいたいくらいだった。その後すぐに図書館で山中貞雄関連の本を探してむさぼり読んだ。 ただただ、山中貞雄の最高傑作と言われる『街の入墨者』のフィルムがいつかどこかで発見されやしないかと心から祈っています。 10点(2004-02-12 19:32:13)(良:2票) |
9. ミツバチのささやき
《ネタバレ》 草原の一本道をトラックがやってくるファーストショットからやられました。最高です。再生して1分で9点決定してしまいました。あとの99分はただただアナ・トレントの超越的可愛らしさを瞳にとどめるだけで充分! 映像しか見ていなかったのでストーリーはあまり把握できませんでしたが、プロットで固めていくタイプの映画ではないので話についていけなくても辛くはありません。それでも、100分間できっちりストーリーを消化しているなということだけは分かってとても好感を持てました。 父親が毒キノコを踏み潰したとき、それを見つめるアナ・トレントの哀しげな瞳がなにか自分にも向けられているような気がして辛かったです。 9点(2004-02-23 11:48:15)(良:2票) |
10. 切腹
22人投稿して平均9点というのはちょっと過大評価のような気がします。ストーリーはよくできてはいますが、サスペンスとしてもミステリーとしても一流半だと思います。映像は平凡ですし、確かにへちょちょさんやSTING大好きさんのおっしゃるとおり、橋本忍の映画と言ったほうが正しいでしょう。個人的にこういう脚本先行映画はあまり好きではないので、この点数を付けさせていただきました。 3点(2004-02-25 15:54:38)(良:2票) |
11. モダン・タイムス
あくまでもマイムにこだわるチャップリンの誇り。「ティティーナ」を歌うシーンには鳥肌が立った。ポーレット・ゴダードはチャップリン映画のヒロインでは一番好き。 8点(2004-02-13 12:22:29)(良:2票) |
12. 散り行く花
守ってあげたい女性NO.1 リリアン・ギッシュ。彼女なくしてこの作品は成り立ちません。 9点(2004-02-19 09:24:05)(良:2票) |
13. 8 1/2
《ネタバレ》 この作品とタルコフスキーの『ノスタルジア』は映画芸術のある種の到達点だと思う。10点以外は考えられない。というより現時点での僕の生涯ベスト1作品。世間の重圧や誤解に悩み苦しんで最後自殺してしまう男の話なのに、見終わった後「人生っていいなあ」と思ってしまう。陰気な話なのにほとんど陰気に感じさせない。フェリーニの映像は常に暖かさを失わない。キューブリックの映像に常に被写体を突き放す冷たさが付きまとうのと対照的だ(そのわりにフェリーニとキューブリックは互いにリスペクトしていたらしいけど)。フェリーニの作品は全部好きだが、一番最初に見て一番衝撃を受けたこの作品が生涯最高。 10点(2004-02-12 19:52:00)(良:1票) |
14. アニー・ホール
次にくるシーンが全く予期できませんでした。切り替えが唐突なので、本質的にずっと同じことを繰り返しているだけなのに各シーンがとても新鮮です。それがこんな地味な話を90分持たせてしまった味噌でしょう。いろんな映像手法を使ってますけど、一番面白く感じたのはアレンと精神科医の会話、ダイアンキートンと誰かの会話を分割したマルチスクリーンです。二つの受け答えがシンクロしていて、よくできているなあと感心しました。それにしてもアレンはとんでもない皮肉屋ですね。無教養な人間を皮肉り、インテリを皮肉り、そして自分自身までも皮肉ってます。結局人間なんてみんなちっぽけな存在なんだ、ということでしょうか。最初のほうで少年が言っていた「どうせ宇宙は膨張して終わるんだから」というのは意外に本心なのかもしれませんね。決して面白いとは思いませんでしたが、アレンにしか作れないであろうオリジナリティーは素晴らしいです。 7点(2004-02-15 23:03:30)(良:1票) |
15. ソナチネ(1993)
最高の作品なのに、音楽が邪魔です。 8点(2004-03-07 17:19:29)(良:1票) |
16. スリ(1959)
ブレッソンさん、どうやったらこんなものが撮れるんですか?フレームに収まっているすべてのものが生きています。こんな映画二度と出てこない。 8点(2004-07-07 14:37:42)(良:1票) |
17. アイデン&ティティ
この映画は基本的に峯田を見るために存在する。峯田が好きな人は自然とこの作品を好きになれるだろうし、生理的に受け付けない人はこの作品も生理的に受け付けられないはずだ。峯田のアフロや朴訥とした喋り方が大好きな僕にとっては、無茶苦茶な設定やセンスの欠片も無い映像その他もろもろのマイナス要因はむしろ“不器用青春ど真ん中”として熱く心に響く。大きなスクリーン、大音響で誰にも邪魔されずに観るのが唯一の正しい見方。この映画を観て泣ける人はきっとクズ人間。 6点(2004-03-07 17:00:10)(良:1票) |
18. ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ
観て、すぐにサントラ借りました。直後に同じ音楽系ドキュメンタリー映画『永遠のモータウン』を観たんですが、雲泥の差ですね。もちろんこっちが雲であっちが泥です。へたな演出に走らなかったヴェンダースは正解ってことです。最後は彼が追い続けている「社会の進化とそれに伴い肥大する喪失感」というテーマにも自然とつながってきますし。とにかく、全国のおじいさん・おばあさんに見てほしい。そうしたら20%増しくらいでみんなイキイキすることでしょう。 6点(2005-01-25 19:08:09)(良:1票) |
19. 丹下左膳餘話 百萬兩の壺
ファーストカットからその頭抜けた映像センスに驚愕。省略法の使い方はルビッチよりもうまい。これは天性のものとしか思えない。映像、構成、テンポ、全てが完璧。ただ、さすがに古さは感じる。 <追記>戦後GHQの規制によってカットされ、現存しないとされていた殺陣シーンの一部のプリントが個人のコレクションから発見されました!元々約2分の殺陣シーンのうちの40秒ほどらしいです。5月に発売されるDVDに収録されるらしいので是非是非見たい!!待ち遠しいばかりです! (2004/2/28) 9点(2004-02-13 13:33:23)(良:1票) |
20. パリ、テキサス
完璧に統制された見事な構図、そつの無い正攻法の演出、よく練られた無駄の無い脚本、場面ごとに温度の変化まで伝えるカメラ。10点満点ほぼ間違いなしの傑作だと思いながら見ていたが、ラストで失速した。マジックミラー越しの長い会話は完成度を落とし、作品の方向性まで迷走させてしまった。ストレートに「人生は旅だ」という方向で良かったのに……。終盤は致命的な失敗だが、主人公がベランダで弟の嫁と話し合うシーンの赤いライトの使い方や、主人公が弟に連れられて入ったモーテル(?)で鏡を見てみすぼらしい自分に驚くシーンと金持ち風の服を新調して鏡に向かうときの誇らしげな顔との対比など、あまりに素晴らしい演出がいくつかあるので9点献上。 9点(2004-02-12 22:29:41)(良:1票) |