1. アバター(2009)
《ネタバレ》 衛星パンドラとナヴィには宮崎駿の「風の谷のナウシカ」や「もののけ姫」からの影響が感じられる(キャメロン本人もインタビューで言及しているが)、この星そのものがひとつの生命体であるという視点を西洋人はどう感じるのだろうか。 また本作の筋立てですぐに連想するのが「ダンス・ウイズ・ウルブス」「ラストサムライ」あたりだろうか。侵略者である人類の描き方は辛辣だが、自らを振り返ってみれば差ほど誇張でないことがわかる。突き詰めればこれは白人文明に限らず人類が辿ってきた歴史そのものでもある。 と、ストーリーやディティールに既視感はあるものの圧倒的な映像と軽快なテンポ、演出のうまさでぐいぐいと引き込まれる。観客の自分は「悪役」であるところの人類と同種なのに、鑑賞前は不気味ささえ感じた青い肌のナヴィに感情移入してしまう。 部族の娘ネイティリのけなげさ、力強さはこれも西洋白人文化の求める強い女性像なのだろうが、ナウシカにも通じる繊細さも併せ持つ。 映像は圧巻のひと言。3D立体映像と相まってまさにそこにあるかのように画面の隅々まで完璧に構築されている。どれ程多くの才能のある人々が携わり巨額の資金が投入されたのか、目眩がするほどだ。今後当分は技術面はともかくとして、ここまで念入りで手間のかかった分厚い映像にはお目にかかれないだろう。ただ、全体のテイストは狙ったのだと思うが、何か絵画のようで幻想的。緻密ではあるがライブ感というか匂いまで感じるような生々しさというものはあまり感じられない。僕が匂いまで感じる程リアルだなと思うのは「エイリアン」や「ブレードランナー」の世界だ。 2時間半以上の長尺だが、むしろ短いと思ったくらいだった。ハヤカワSF文庫の海外作家の作品を読んでいるような感慨がある。異文化、異文明交流の物語では、その過程を丁寧に説得力をもって描くことが非常に重要だと思うのだが、「ダンス~」や「ラストサムライ」でもそうだったが、本作でも短いと感じた。現実的にこの部分をこれ以上伸ばすことは出来なかったと思うが・・・。世界が非常に丹念に作り込まれているので、観客はいくらでも想像力を広げられる。映画が終わったエンドロールの向こう側でもあの世界が続いていると感じられるし、ナヴィと星の歴史だけでも長編の小説がつくれそうだ。 [映画館(字幕)] 9点(2010-12-09 14:05:27) |
2. アポカリプト
マヤ文明が舞台であること。これ以外の情報は全く知らないで観てきました。事前の予想では、マヤ、アステカ文明がスペインによって滅ぼされた時代の壮大な歴史絵巻を想像していたのですが、それは裏切られました。 歴史を俯瞰して描くと言うことよりも、もっとパーソナルな、ある男の勇気と生きる力が試される試練の物語でした。こういうテーマなら、何もこの地、この時代に舞台を持ってこなくてもいいのではないかと思いますが、メル・ギブソンには何か考えがあったのでしょう。しかし自分にはそれが何であるかはわかりませんでした。 主人公は卓越した度胸と体力、そして運を兼ね備えていますが、家族を持つ男性なら、彼に感情移入できるかも知れません。男として家族を守ること。試練に立ち向かうこと。どんな苦境でも諦めないこと。自分ならどうだろうかと。この物語ほど過酷ではない、平和な日本ではあるけれど、やはり自分に置き換えてみるのではないでしょうか。 ところでこの映画を観た後にマヤ文明について調べてみたのですが、公式サイトでははっきり「マヤ文明」と記述しているにもかかわらず、その中身はマヤ、アステカなど、メソアメリカ文明と呼ばれる中央アメリカの文明圏のディティールをごちゃまぜにしているようです。映画のような生け贄の儀式のやり方はマヤではなく、アステカ文明独特のものであり、言語もマヤ語ではありません。 「300」でもそうですが、米国の映画が他国の文化・歴史を題材にする時に、時に無神経ともいえる(製作側に悪意がなかったとしても)改ざん、脚色をして物議を醸します。本作も例外ではなく、この文明の末裔である主にメキシコの人々がどう反応するのか気になるところです。 本作は主にハイビジョンで撮られたと聞いていますが、やはり映画館の大きさではハイビジョンは解像度が足りません。最近観た映画で言うと、フィルムカメラで撮られた硫黄島二部作や「300」と比べると格段に解像度が低く、ディティールが甘いです。これはスター・ウォーズ最新3作でも、最近の邦画でも感じることです。 製作側にとってはコスト面やデジタル処理に都合が良いなど、メリットが多い規格かもしれませんが、劇場鑑賞にはやはり厳しいフォーマットであると感じました。 [映画館(字幕)] 7点(2007-06-19 17:00:50)(良:1票) |
3. 明日の記憶
誤解を恐れずに言えば、主人公佐伯は大変幸せな男です。アルツハイマーによって残された人生が一変した不幸よりも、一緒に人生を歩いてくれる妻や家族や仲間がいる幸せが再確認できた。もちろん現実はもっと壮絶でしょうけれど。私事ですが、父が数年前に脳梗塞になり、言葉が不自由になりました。リハビリを通じて随分回復しましたが、その間、母はつきっきりで父の世話をしました。父が病気になったことは不幸ですが、父は母の愛に支えられて今も元気に生きています。父は幸せものだと思います。 渡辺謙はまさに入魂の演技で、その気迫が凄まじい。脇を固める役者たちも素晴らしい。特に窯元の師匠の大滝秀治、告知する若き医師役の及川光博の存在感が印象に残りました。 10点でも良いのですが、冒頭のCGのクオリティが今ひとつだったので9点とさせていただきます。 [映画館(邦画)] 9点(2006-05-16 16:37:08) |
4. アイ,ロボット
まったく期待しないで観たのだが、そこそこ面白かった。さりげなく見せる未来都市もSF好きには興味深く面白い。ただ、あと30年ではあそこまでは進歩しないと思うけど。100年経ったらあのくらいいくかも。ところで「ロボット三原則」遵守は人と関わるロボットの基本中の基本だと思うのだが、それを声高に宣伝するロボットというのもおかしな話ではないだろうか。 [DVD(吹替)] 7点(2006-04-15 15:11:31) |
5. アウトサイダー(1983)
高校生の時、学校をサボって地元の映画館に観に行った事を思い出します。S・ワンダーのテーマ曲が素晴らしく、印象に残った。しかし地獄の黙示録を撮った巨匠がなぜこの映画を? [映画館(字幕)] 5点(2006-04-15 04:06:01) |
6. 愛についてのキンゼイ・レポート
当時の保守的な社会の中で、これだけ大胆にタブーとされていた分野に切り込んだキンゼイ氏はやはりただ者ではなかったのでしょう。しかし論理や学術的な視点だけではこの世界を全て単純化し、公式化してしまうことは出来なかった。人間とはもっと深くてはかりしれないものなのだということなんですね。 [DVD(吹替)] 7点(2006-04-13 20:47:27) |
7. アイランド(2005)
ここでの評価が低かったので全く期待せずに観たら、期待以上に面白かった。クローンというテーマはSFでは手垢がついているが、物語の運びがテンポ良く飽きさせない。贅沢な美術セットと美しい色彩、派手なアクション。スカーレット・ヨハンソンも美しい。ただ、やはりそこはマイケル・ベイ、中盤のカーアクションから暴走気味になり、別の映画を観ているような気持ちに。主人公達が奇跡のように生き残っていくところでは思わず笑ってしまった。おそらくガタカの監督がこの映画を撮ったら全く違う色彩の映画になったと思うが、これはこれでいいのではないかと思った。 [DVD(吹替)] 7点(2005-12-19 10:27:36) |
8. アビエイター
ハワード・ヒューズの凄まじいまでの生きるパワー、カリスマ性、時代の寵児となるもやがて精神を蝕んでいき、スキャンダルに翻弄される様を、スコセッシはゴージャスな映像、テンポのいい演出で169分の長丁場を全く飽きさせずにまとめ上げた。さすがだ。ディカプリオは童顔でヒューズ本人とはあまり似ていないので、これはミスキャストではと思ったが、素晴らしい演技力でそんな杞憂も吹き飛ばしてしまった。やはり彼はただ者ではない。 [DVD(吹替)] 8点(2005-09-02 15:46:54) |
9. アレキサンダー
オリバー・ストーンがどんな史劇を撮るのかと思ったが、やはり彼らしい生真面目なつくりだった。アレキサンダーの陰も陽も遠慮せずに暴き出している所が彼らしい。近年作られる古代劇もそれなりのリアリティを追求しているが、生々しさでは一番だったのではないだろうか。「グラディエイター」も良かったが、本作は更にスケールが大きく、その時代の空気や匂いまで感じさせる映像で製作者の苦労が偲ばれる。ただ残念だったのが肝心のコリン・ファレルがどうしてもらしく見えなかったところ。今まで現代劇の出演作ばかり観てきたせいだろうか、彼のハの字眉毛を見るとどうも現実に引き戻されてしまった。 [DVD(字幕)] 7点(2005-08-28 22:25:23) |
10. アメリカン・スプレンダー
「アメリカン・スプレンダー」というコミックのことは全く知りませんでした。自分の平凡でつまらない人生をコミックにしてそんなに面白いんだろうか。もし原作コミックを知っていたらもっと見方が変わるのかもしれないが、映画の彼はネガティブで、悪態をつき、不潔で・・・あまりに生々しくて、ちょっと気分が悪くなりました。変人でありながら成功する物語では「マン・オン・ザ・ムーン」を連想させましたが、トニー・クリフトン程の魅力を、僕はハービーに感じることは出来ませんでした。 ただ、曲者の中年男を演じさせれば右にでるものがいないジアマッティのぶよぶよの体からすえた体臭が漂ってきそうなほどの役作りが凄まじくて、彼の役者魂を感じられたのは収穫でした。 [DVD(吹替)] 6点(2005-08-22 18:07:54) |
11. アイアン・ジャイアント
「Mr.インクレディブル」つながりで。物語はシンプルでロボットがどこからきたのかなどの謎解きは省略されているが、起承転結がしっかり考えられている。ただ、ロボットが少年と心を通わすまでの過程がちょっと唐突で、ひねくれ大人の自分にはちょっと物足りなかった。ブラッド・バードはメカニカルアクションに非常にこだわりを持っているということが「Mr.~」と本作を見てよくわかった。ロボの変身もそうだが、F86Fのシーンなどのディティールのこだわりに現われている。 6点(2005-02-01 08:54:26) |
12. アフガン零年
同じ時代に生きていながらこんなにも違うものなのか。日本に生きる子供たちとのあまりの違いにまず、驚愕せざるを得なかった。この衝撃は「シティ・オブ・ゴッド」以来だ。しかしこんなにも違う世界に生きているのに、人を哀れむ心、勇気、欲望といった根本的なところは日本人と変わらない。出演は素人ばかりとのことだが、それがアフガンで生きるの人々のリアリティを一層引き立てていた。特に主演のマリナ・ゴルバハーリは素人とは思えない迫真の演技だ。いや、「演技」といってしまうのにも抵抗を感じてしまう。 物語は辛い結末を迎えるが、物乞いをしていたところを監督に見出されたマリナには是非幸せになって欲しいと願わずにはいられない。 8点(2004-11-28 00:55:53) |
13. 荒鷲の要塞
脚本が良く練られていて最後まで飽きさせないところはさすが。ただディティールの積み上げはやはり60年代の映画で、こちらの弾は百中だが敵の弾はきれいに逸れてくれたりするところはB級然としていて残念。 6点(2004-08-07 11:52:42) |
14. アバウト・ア・ボーイ
ウィルみたいなスカした男には感情移入できない。不労所得でのうのうと暮らし、女性はセックスの対象でしかなく、自分の損得のために平然と嘘をつく。そんな人生をなめきったような男が、たとえマーカスと出会って、自分の人生を見つめなおしたとしても、物語として魅力を感じない。男の器で言ったらマーカスのほうが数段上だ。同じダメ男でも「バッファロー'66」のビリー、「パンチ・ドランク・ラブ」のバリー、「の・ようなもの」のしんととの方が好きだ。彼らも不器用な男達だが、思い通りにならない人生にもがきながらも向き合っている。 5点(2004-08-06 21:53:09) |
15. アメリ
確かに絵作りやストーリーテリングは非凡なものがあるが、くどすぎて途中でお腹一杯になった。 それからアメリが自分の友人にそっくりなので妙な気持ちでしたw [DVD(吹替)] 5点(2004-07-29 20:59:33) |
16. アバウト・シュミット
この物語の主人公は米国では一般的なサラリーマン像なのかわかりませんが、彼の境遇を日本に当てはめると非常にしっくりきます。 ひとつの会社に定年まで勤め上げ、その間にささやかな家庭を築き、会社員生活最後の日を静かに終える。 送別会では後任の若手に持ち上げられて「退職後もいつでもおいでください」と言われ、真に受けて訪ねてみれば「何の御用ですか?」と言われてしまう。ゴミ捨て場には彼の書類がうち捨てられ、もはや会社には彼が存在していたことさえ忘れ去られたよう。 家に帰れば所在なく、年老いた妻にも長年積もり積もった小さな不満が一杯、結婚を控えた娘のフィアンセは標準以下の男で気にくわないが、彼の意見など娘は気にとめるでもない。 孤独な男、ウォーレン。自分の人生は何だったのだろう・・・。 この状況、日本のサラリーマンでも共感する人が多いのではないでしょうか。 米国の映画でこんな描写が描かれているというのは新鮮でした。 そんなことで、この映画は劇場では見逃したものの何度もDVDで観ているのですが、今回BSハイビジョンで放送されたので改めて観てみると、ニコルソンの徹底した役作り、歩き方、しゃべり方、仕草、ちょっとした表情まで、非常に計算され尽くされ、表現されていることにあらためて気付きました。 一番の発見は、妻を亡くし、彼女の浮気の手紙を発見して自暴自棄になるウォーレンが生前の妻の言いつけを初めて破ってトイレで小水をまき散らすシーン。当初は単なる復讐心からの行動だと思っていたのですが、ハイビジョンで観ると、彼の目に涙が光っているのがはっきり見えました。唸りました。そしてウォーレンの心情を察して切なくなりました。 今はこうやって分析的に観ていますが、最初はもうニコルソンが真面目な老紳士ウォーレンにしか見えませんでした。あれだけ毒のある役所が多い俳優なのに、それを一切消し去って役になりきっている。 アレキサンダー・ペインがニコルソンを主役に抜擢したのは、やはり彼の俳優としての素質を知っていたからなのでしょう。勿論向こうではニコルソンの実力は周知のことなのでしょうが。。。 今までジャック・ニコルソンという俳優は余り好きではありませんでしたが、本作を見て彼の俳優としての実力の高さを思い知らされました。 [CS・衛星(字幕)] 10点(2004-07-23 07:39:17) |
17. あの頃ペニー・レインと
特に目新しい所はないんだけど、製作者のこの映画に対する愛情が詰まっている感じがして観ていて気持ちよかった。ケイト・ハドソンはゴールディ・ホーンの娘だと知ってびっくり。このあいだ「続・激突カージャック」を観たばかりだったので。 8点(2004-07-09 11:20:56) |
18. アンダーワールド(2003)
どんなに見せる技術がしっかりしたかっこいいアクションも必然性が無ければドキドキもしないし手に汗握ったりもしないということが良くわかる見本のような映画です。監督は自分が見てきたかっこいいアクションシーンを真似してみたかっただけなのでしょう。 3点(2004-06-18 21:25:24) |
19. 青い恋人たち(1982)
これは昔テレビで放映していたのを一度だけ観ました。南欧を訪れたカップルが不思議な女性と出会い、奇妙な三角関係の中で3人の共同生活が始まります。ダリル・ハンナも美しかったのですが、共演のヴァレリー・クィネッセンが非常に魅力的で、強烈な印象を残しました。作品の名前は忘れていましたが、彼女のことがどうしても知りたくて、最近になってこの作品をなんとか見つけ出したのですが、ヴァレリーは既に亡くなっていました。大変残念です。 7点(2004-03-20 21:58:06) |
20. アウト・オン・ア・リム/自分探しの旅<TVM>
ベストセラーとなったマクレーンの著作を自ら主演して映像化。実際に彼女が体験したという不思議な運命や、霊的な目覚めがテーマ。彼女自身が体験したことをまた自演して映像化するというのはどういう気分なのだろう・・。彼女に関わる人々は全て実在の人物なのに。しかし原作の方がはるかにおもしろいし、限られた尺で映像化するのは無理があったように思われる。 5点(2003-12-27 03:03:52) |