1. カランジル
《ネタバレ》 実際に囚人虐殺事件が起こったカランジル刑務所を舞台にして撮影されており、ラストはその刑務所が爆破される場面を映し出して終わるという、凄まじい映画。 そんな「本当に事件が起こった刑務所で撮影している」という強みゆえか、劇映画とは思えないほどのリアリティを感じ取る事が出来ましたね。 特にラスト30分の虐殺風景は圧巻の一言であり、観ている間、単純な嫌悪感だけでなく「ここまで凄い映像が撮れるものなのか」という、恐怖なのか感動なのか良く分からない感情まで芽生えてきたくらいです。 ・収容可能な人数は四千人の刑務所に、七千五百人もの囚人が押し込まれている。 ・選挙が近いから、警察側は暴動を徹底的に鎮圧して政治的アピールを行いたかった。 ・囚人にはエイズ患者が多数存在しており、鎮圧部隊には彼らに対する差別意識と偏見があった。 などなど「虐殺が起こった理由」について、丁寧に描いている点も上手い。 その為、観ている間も「どうしてこんな事が起こってしまったんだ……」という戸惑いに包まれる事も無く「これは、起こるべくして起こった悲劇なんだ」と納得した上で、より深く諦観と絶望を味わう事が出来たように思えます。 囚人のカップル(両方とも性別は♂)の結婚式を描き、幸せなムードに浸らせた後、囚人同士の殺人事件→暴動→虐殺と、段階を踏んで観客を負の世界に誘っていく構成になっているのも、お見事でした。 聖書とイエスの肖像画を手にして無抵抗だった男が躊躇なく射殺される場面も印象的でしたが、その一方で「息子に似ているから」という理由で警官に見逃してもらえた囚人や、咄嗟に死体の振りをして助かった囚人など、虐殺の中にも微かな「救い」があるというか「何とか助かった人もいるという安堵感」を与えてくれる作りになっているのも、嬉しかったですね。 特に、上述の「結婚式を挙げたカップル」が助かった事には心底ホッとさせられましたし「生存者となる人物を予め重点的に描いておき、観客に少しでも救いを与えるようにする」という作り手の配慮が窺えるかのようで、凄くありがたい。 「実際に起こった虐殺事件だから」と開き直り、ひたすら陰鬱で救いの無い話に仕上げる事だって出来たでしょうに、そこを踏み止まって「奇跡的に生き延びた喜び」も感じられる作りにしてくれた事には、大いに拍手を贈りたいです。 人間の死体まみれな刑務所の中で、犬と猫とが静かに見つめ合い「犬と猫は種族が違えど争ったりしないのに、同じ人間同士で虐殺を行っている」という皮肉さを醸し出している場面なんかも、実に味わい深くて良いですね。 「鎮圧部隊、万歳!」と連呼させながら囚人達を中庭に連れ出し、全員を裸にして整列させる場面なども圧倒されるものがあり、ここまで来ると一種の「悲惨美」すら感じちゃうくらいです。 比較するのは適当では無いかも知れませんが「虐殺を芸術的なまでに凄惨に描いた」という意味合いにおいては、かの高名な「オデッサの階段」に近しいものがあるんじゃないか、とすら思えました。 ただ……そんな「オデッサの階段」を描いた「戦艦ポチョムキン」と同じように、本作にも「虐殺の場面は衝撃的だが、映画全体としては退屈な場面も多い」という欠点があるように思えて、そこは残念でしたね。 虐殺が起こるまでの「刑務所の日常」が長過ぎて、二時間近くも「前振り」を見せられては流石に飽きて来ちゃうし、主人公である医師が不在の間に虐殺が起こる形になっているのも、ちょっと拍子抜け。 後者に関しては「実話ネタだから仕方無い」「その医師の著書が原作なんだから仕方無い」って事は分かるんですが、やはり映画として考えるとマイナスポイントになっちゃうと思います。 「囚人達の多くは、少しも罪悪感を抱いていない」と分かった上で、それでも医者として彼らを救うべきかと悩む姿などは良かったですし、診察の合間に囚人から身の上話を聞く件なども面白かったので、医師を主人公に据えたのが間違いって訳じゃないんでしょうけどね。 (出来れば医師の他にもう一人、虐殺の現場に立ち会う主人公格のキャラクターを配置しておくべきだったのでは?)と、そんな風に考えてしまいました。 そういった諸々を含め、総合的に判断すると「面白い映画」「好きな映画」とは言い難いものがあるのですが…… 本作が「一見の価値あり」な映画である事は、間違い無いと思います。 [DVD(吹替)] 7点(2019-06-11 00:56:22)(良:1票) |
2. カオス(2005)
《ネタバレ》 ジェイソン・ステイサムとウェズリー・スナイプスといえば、ヒーローも悪役も貫禄たっぷりに演じられるのが強み。 そんな二人の悪役っぷりを同時に堪能出来るという、非常に貴重な一本なのですが…… 改めて観返してみると、二人が同じ画面に映っているシーンが殆ど無かったりしたもんだから、ちょっと寂しかったですね。 この後「エクスペンダブルズ3」にて本格的な共演が果たされた訳だけど、あちらでは二人ともヒーロー側だった訳だし、出来れば本作にて「悪役同士」ないしは「刑事と犯人の対決」という形での共演を、じっくり披露して欲しかったものです。 とはいえ、映画単品としては手堅く纏まっており、変に期待値を上げたりしないで観賞すれば、充分楽しめる出来栄えじゃないかと思えましたね。 粗野な中年刑事と、大学出のスマートな青年刑事によるバディムービーかと思いきや、片方が途中退場して真の黒幕だったと明かされる展開なんかは、この手の刑事物を沢山観ている人ほど騙され易く、新鮮に感じられるんじゃないでしょうか。 とにかくステイサム演じるコナーズが周りから悪口ばかり言われるもんだから、普通なら彼が強盗事件を解決し、周りを見返してやる結末になるはずなのに、本作に限っては全く逆で「彼を非難していた連中の見解が正しかった」と言わんばかりの結末を迎えるんだから、実に皮肉が効いています。 1:犯人が人質を殺した事を、コナーズが責める。 2:コナーズの出した紙幣をシェーンが財布に仕舞う。 3:押収品の紙幣には、特殊な香りが付けられている。 といった場面が印象的に描かれており、それらが伏線だったと明かされる流れも気持ち良い。 本作は「主人公が犯人だった」という叙述トリックを用いているのですが、バディムービーという体裁を取って、自然な形で主人公格を二人用意し、観客が感情移入させる対象をコナーズから青年刑事のシェーンへと自然に移行させた辺りも、上手かったですね。 バイクでトラックを追いかけるカーチェイス場面なんかも良かったし「観客を楽しませよう」という意思が伝わってくる、丁寧に作られた一品だったと思います。 不満点としては、コナーズが逮捕されずに逃げ延びて終わってしまうので、後味が悪い事。 事前に見せておいた爆破シーンと、その後の種明かしシーンとで、それぞれの時間経過に差があるのは(ズルいなぁ……)と感じちゃう事。 人質を誤射してしまった元刑事のローレンツが、今度は自らが人質を取るような悪党となってしまったのを自嘲し「お前ならどうする?」とシェーンに問い掛ける場面が劇的で良かっただけに、それに対する答えを示す場面が無いのは片手落ちに思える事とか、その辺りが該当するでしょうか。 バッドエンドである事も含めて、観賞後はモヤモヤも残ってしまうんだけど…… とりあえず観ていて退屈はしなかったし、途中経過は楽しめたので、自分としては一応満足です。 [DVD(吹替)] 6点(2019-01-18 20:34:09)(良:2票) |
3. カニング・キラー 殺戮の沼
《ネタバレ》 ドミニク・パーセルが主演のワニ映画だなんて、それだけでワクワクします。 男臭くて恰好良いパーセルが、アフリカの巨大ワニと戦い、見事仕留めてくれるのを期待して鑑賞した訳ですが…… 色んな意味で、予想も期待も外れちゃう内容でしたね。 まず、思った以上に社会派というか、ワニよりも人間同士の争いにスポットを当てた作りなんです。 この場合の争いっていうのは「自分だけが助かろうと、遭難者グループ内で醜い争いが起こる」って代物じゃなく、文字通りの戦争であり、民族間の内戦。 そもそも巨大ワニのグスタヴが人喰いの味に目覚めたのは「内戦や虐殺で多くの遺体が河に捨てられた為」というのだから、云わばワニなんて内戦の副産物に過ぎない訳です。 映画の半分が過ぎても、パーセル演じる主人公は「俺はワニになんか興味無いんだ」って断言してるし、ヒロインも「ワニなんかより、ここで行われてる虐殺を世界に伝えるべきよ」と言い出すしで、作り手としてもワニより内戦にスポットを当てていたのは明白。 それが失敗だったとは言わないし、斬殺シーンや射殺シーンなどには(確かに、ワニなんかより人間の方が怖い)と感じさせる力がありましたけど…… やっぱり、普通の、王道のワニ映画が観たかったなぁって、つい思っちゃいました。 第一、社会派な内容にするのであれば、もっと事実に即した作りにすべきだったと思うんですよね。 「人喰いワニであるグスタヴ」以外は全て架空の人物ってのが、何とも中途半端。 そんな架空のドラマ部分は悪くなく「友人を失った代わりに、彼が救おうとした現地の若者を保護する事が出来たハッピーエンド」ってのは納得なんですけど、実話に即した「結局グスタヴを退治する事は出来なかった」ってオチまで付くのが、足を引っ張ってる形。 いっそワニの存在も架空にして「今回遭遇した個体は倒したけど、まだまだアフリカには巨大な人食いワニが残ってる」みたいな形にしても良かったんじゃないでしょうか。 ジャーナリストで知性派なパーセルってのも意外性があって良かったですし、カメラワークや演出なども洗練されていたのですが…… 何とも勿体無い、もうちょっとで傑作に化けてくれそうな一品でした。 [ブルーレイ(吹替)] 5点(2021-09-22 15:16:18)(良:1票) |
4. カンガルー・ジャック
《ネタバレ》 監督の前作「コヨーテ・アグリー」は好きだったので、期待を込めて観賞。 序盤からカーチェイスを盛り込んだりと、観客を楽しませようとしている作りなのは分かるのですが、今一つノリ切れなかった気がしますね。 全体の雰囲気などは好みなのに、細部に引っ掛かる点が多かったです。 例えば「義父のサルは主人公達を殺すつもりだった」と序盤で分かる以上、終盤にて何らかのどんでん返しがあるだろうと思っていたのに、全然そんな事は無かったりするんだから、これは如何にも寂しい。 それでも、そこをサラッと流すなら気にならなかったかも知れないけど、如何にも衝撃の事実を明かすかのように「分かってねぇな、坊や」と悪役が種明かしする形なんですよね。 観客の目線からすると「そんなの、とっくに分かってるよ」と呆れちゃうし、その告白に対して驚いている主人公達には、距離を感じてしまう。 映画のクライマックスにて、こういう事をされちゃうのは、大いに興醒めです。 カンガルーやラクダなども登場するけど、彼らを可愛いとも面白いとも思えなかったのも、辛いところ。 激辛キャンディーを舐めて悶えるとか、おならネタとか、何ていうか扱い方が下品なんですよね。 だから「画面に動物が映っているだけでも癒される」って事も無いしで、ちょっとキツかったです。 長所としては、飛行機内でのやり取りや、絶景の滝で水浴びする場面など、きちんと「旅行映画」ならではの魅力を感じ取れる内容であった事。 そして、主人公チャーリーとルイスの友情が微笑ましく、気持ち良いハッピーエンドであった事が挙げられそうですね。 特に終盤、崖から落ちそうなルイスをチャーリーが助け、子供時代に命を助けられたという借りを返し、二人が対等の関係になる流れなんかは、凄く良かったです。 「これでチャラだ」 「お前と俺とは、負い目だけで結ばれていたんだ」 と会話を交わし、いつも迷惑を掛けてばかりな相棒から離れようとしたルイスを「それは違うよ。ずっと必要だった」「これまでの人生で、人に話せるような話は、どれもお前と一緒だ」と言って、チャーリーが引き止め、笑顔でハグし合う場面は、本作の白眉かと。 二人の友情を描いた部分だけでも、観て良かったなと思えた映画でした。 [DVD(吹替)] 5点(2017-09-10 19:59:37) |
5. 隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS
《ネタバレ》 映画をリメイクするというのは、勇気のいる事だと思います。 それが原作小説や原作漫画の存在しない「オリジナル」の映画であり、しかも名作と呼ばれる品であるならば、尚の事。 本作に関しては、元ネタである1958年版の後に、立て続けに観賞する形を取ったのですが、中盤以降の展開を大胆にアレンジしているのが特徴ですね。 最初、主人公の名前は「武蔵」で松本潤が演じると聞いた時には「えっ、何それ? 全く新しい人物を主役に据えるの?」と思ったものですが、蓋を開けてみれば「太平」の名前を「武蔵」に変えただけ、と言っても差し支えない程度の変更でした。 アイドルに疎い自分でも知っているようなビッグネームが主人公とヒロインを演じている訳ですが、ちゃんとある程度「汚れた」デザインを心掛けており、役者当人の顔立ちの違いはあっても、全体的なイメージはそれほど離れてはいなかった事も好印象。 特に男性側に関しては、美男子であるにも拘わらず髭ぼうぼうで小汚い乞食のような格好で終始通した事には、思わず感心。 「追っ手を欺く為に」とか何とか理由付けして、途中で髭を剃って髪を整えて、小奇麗な身なりに変身するのも可能だったでしょうからね。 その点に関しては、オリジナル版の下層階級と上層階級の対比を守ろうとしたのだろうなと、誠意を感じました。 女性の肌の露出度が下がっているのは、残念といえば残念ですが、まぁコレは元々がサービス過剰というか「ちょっと黒澤監督、助平な観客に媚び過ぎじゃないか?」と思っていたりもしたので、肌を晒さない衣装にした気持ちも分かります。 他にも、色々と小ネタも盛り込まれているし、スタッフはオリジナル版を愛し、リスペクトした上で真面目に作ったのだろうなと思いました。 ただ、どうしてもある程度は比較しながら観てしまうので、気になる点も多かったですね。 まずは、演出が物凄く分かり易くて、大袈裟な点。 六郎太に斬られて死んだと思われた武蔵が、実は生きていたと分かる場面なんかも、勿体付けてさも驚きの展開みたいに描いているのですが、いくらなんでもそれは生きてるって分かるよと、ついつい苦笑してしまったのですよね。 こういう万人向けの演出は好ましいと思っているのですが、本作は流石に分かり易過ぎたのと、その頻度が高過ぎるように感じられて、食傷気味になってしまいました。 また、一本の映画として観た場合には意味不明に感じられる「オリジナル版のパロディ演出」も多くて、好きで盛り込んだのは分かるけど、何もそこまでしなくても……と思ってしまいましたね。 武蔵と新八が籤引きをするシーンなんて、オリジナルと違って目の前で姫様が無防備な寝姿を晒している訳でもないのに、道端で急に始めるものだから、唐突感が否めない。 極め付けは「裏切り御免」の使い方で、いやいや今までそんな喋り方してなかったじゃない、オリジナルにあった台詞を無理やり真似させてるの丸分かりだよ! と、冷めた気持ちになってしまいました。 でも、リメイクならではの長所も幾つかあって、関所をオリジナル版と同じ手法で通過出来てホッとした後に、突然呼び止められてドキッとさせられるサプライズなんかは、素直に驚かされて、嬉しかったですね。 阿部寛演じる六郎太も貫録があって良かったし、兵衛さんが元ネタと思しき悪役の鷹山なんかも、面白いキャラクターだったと思います。 何より興奮したのが、オリジナル版でほぼ唯一の不満点だった「クライマックスでの主役不在」が解消されている事。 ちょっとそこの「姫を助け出す」パートが長過ぎるよ! と思ったりもしたのですが、それでもやっぱり、喜びの方が大きかったです。 民を信じて金を預けた姫様が裏切られる事なく、笑顔で出迎えられた結末も、それに伴う主人公との別れなども、良かったと思います。 その他、友人から「ダースベイダーのそっくりさんが出るよ」と聞かされていたもので、覚悟して観賞していたら「これ、蒲生氏郷じゃん!」とツッコまされたという余談もあったりして、何だかんだで楽しい時間を過ごせた映画でした。 [DVD(邦画)] 5点(2016-06-08 11:32:52) |