1. グロリア(1980)
《ネタバレ》 止まらないタクシーを銃声を媒介させる事で停車させてから、グロリアは空間と時間を自由に移動し、支配するようになる。 タクシー、バス、電車。それらは寸分の狂いもなくやってきて、彼女の為に機能する。 乗り物は彼女の特権的な空間となり、そこでは男たちの自由な動きは奪われる。 彼女は墓地に眠る故人をも移動させる。そして時にはカットが変われば、時間も空間も移動し既に行動は終わっている。 彼女を追う者も、そして映画すらが彼女を捕らえる事は出来ない。 真の強者であり自由な女の魅力がそこにはある。 ラストでフィルが電車にタクシーにすんなりと乗る時、フィルは彼女と同一化する。 墓地で祈る彼の前にはすでに距離は無い。 そして、ウェイトレスとのとりとめないやり取りの後ろで、ドラマが繰り広げられる時、映画は背景、遠近感を捨て、映画という枠を逸脱し、今までは背景となり得た黒人の大柄なタクシー運転手が、ホテルマンが、バーのマスターが、町の雑踏が緊張感を作り出し、世界は平面化する。 その時グロリアとフィル、そして観客には気の休まる場所も時間も存在しない。 [DVD(字幕)] 7点(2017-03-25 02:22:29) |
2. クリムゾン・ピーク
《ネタバレ》 ギレルモ・デル・トロ監督は、多くの作品で共通して、幽霊や普通の人間とは異なる異形なる者を負の象徴や恐怖の対象としてではなく、人間を導く者、救う者として描く。 そして同時に、それらが良き事をどれだけしようとも、真の意味で救われてはいないという悲哀も映す。 世間では普通、優れているとされている人間に対する憎悪や劣等感、憧れ。 異形なる者への底知れない愛情。 しかしその愛情は決して盲目的なものではない。 大多数である普通の人々の中では、異形なる者は陽の目を見る事がないかもしれないという無慈悲な事実を常に客観した視点で捉える。 その自己批評を含んだ客観性があるからこそ、内輪向きではない作品の魅力に繋がり、詩的な情景、映像美と相まって悲哀はより増す。 そして共通する思いを感じ生きる自分の心にいつも響いてくる。 [DVD(字幕)] 6点(2016-10-11 16:09:06) |
3. クリーピー 偽りの隣人
《ネタバレ》 「CURE」の萩原聖人が癒しを与える者なら、今作の香川照之は破壊、不和をもたらす者。 目的の違いはあれど、思想としては共に自分の手を染めることなく殺人を犯す。「ダークナイト」におけるジョーカーのように、人間の弱み、悪意に付け込む悪魔として描かれる。 しかし、CUREと今作では殺人という結末に向かう過程が全く異なる。萩原聖人が使う武器が話術であるのに対して、香川照之は薬物という武器を使う。その武器の違いは、そのまま作品の質の差、恐怖の種類の違い、危うい魅力の差としても現れる。 それは香川照之を偶像化したくなかったからだろうか。あるいは犯罪者を類型化したくはなかったのか。 風、霧、カーテンなどの遮蔽物、明暗を使った恐怖演出。不意を突く銃殺場面。玄関(家と外を隔て、他人と自分の間に立ちはだかる壁)を巡っての攻防戦、人間関係の描写。シーンごとの長回し。大学構内での学生の動きや視線、画面を行き交う通行人への多層的な興味の惹きつけとその積み重ねから生まれる、違和感、不穏感。それらは今まで観てきた黒沢映画そのものだった。 だが今作には、人間や社会に内在しうる悪意、脆弱性を映し出す恐怖がない。少なくとも身に迫る説得力は感じなかった。 [映画館(邦画)] 7点(2016-06-19 01:37:01)(良:1票) |
4. 黒い罠
《ネタバレ》 冒頭の長回しの凄さ。それは、ただ時間の経過をおさめるだけではない。 そこには、空間の移動があり、人物や車、出来事がまるで計算されていないかのように、絶妙のタイミングで横切る。 そして、カップルから別のカップルへの視点の移行が伴う。一度離れた、二つの視点は検問という舞台装置で再び出会い、観客の意識が別のカップルへ移りかけた、その瞬間に爆発が起こる。 本当に美しく、濃厚な映画体験をする事が出来た。 常に提示され続ける、多重の出来事、人物配置による画面の深度の深さ。 音や、フェードイン、フェードアウトを使うことで、画面の外への興味の引きつけも、尽きる事がない。 画面を構成するアングル、人物の占める比率による、心理描写、登場人物の関係性の変化なども、常に暗示され続ける。 音と映像の互いが決して譲り合うことも、迎合するこもない、相関関係。光と影による演出などもすごい。 台詞や展開も加えて、とてつもない情報量による、非常に濃密で贅沢な映画だった。 [DVD(字幕)] 8点(2016-05-15 00:11:51) |
5. クレイジー・ハート
《ネタバレ》 ラストでの大人の男の余裕と懐の深さ、いさぎよさに憧れました。 [DVD(字幕)] 6点(2011-02-23 20:02:39)(良:1票) |
6. グラン・トリノ
《ネタバレ》 タオとウォルトの関係は赤の他人だからこそ、もっというと人種が違うからこそなりえた関係なのかとも思えた。そういう意味では父と息子は最も近い存在だが、一番遠い存在のような気がした。 暴力の連鎖に無抵抗の死という形で見せた結末は、これまで様々な映画で様々な死と生の形を見せ続けたイーストウッドだからこそ深みを持たせる事のできる結末。今まで綺麗事を撮らなかった人だからこそ出来る、究極の綺麗事だと思った。 [DVD(字幕)] 6点(2009-12-08 00:27:04)(良:2票) |
7. クローバーフィールド/HAKAISHA
《ネタバレ》 この撮り方で臨場感を出して観ている側の心を主人公たちの視点に持っていきたいのだろうけど、その方法の利点と欠点を感じた。 利点は、一市民に焦点を当てた事でただの怪獣映画にならず謎の存在のまま終わらせ、その謎の存在に混乱している人達の空気がそのまま伝わってきたので、その事は面白いと思った。 欠点は個の力では出来る事が限られているので、話が膨らみにくい。話を膨らませようとすると登場人物を戦場の真っ只中に放り込まないといけなく、そうするためにはただの一般人ではなく、かなり勇敢に動ける人物にしなければならないので、漫画的なキャラになってしまい臨場感が薄れてしまう。最後に怪物と対峙させたことでより特別な存在になってしまい、その事でさらに臨場感が薄れてしまうというジレンマを感じた。そして何よりも画面がブレ過ぎて観にくかった。 [DVD(字幕)] 5点(2009-11-19 18:31:16)(良:1票) |
8. グーニーズ
自分も小さい頃、ここまでの大冒険はしたことはなかったけど、小さい探検はたくさんしてました。今なら車ですぐいける場所も、子供のときにはちょっとした冒険気分でした。今ではなんとも思わない事も、直ぐに事件になったし、ただの街も広い遊び場でした。 感傷に浸るのはあんまり好きではないけど、時々そんな頃の感性がうらやましくなります。 [DVD(字幕)] 5点(2009-10-31 19:00:14) |
9. グッバイ、レーニン!
《ネタバレ》 今まではベルリンの壁や東西統一についての知識といえば壁の上に乗って統一を喜んで壁を壊している人達の映像ぐらいしか知らず、その出来事によって起こる問題も統一に対する人それぞれの思いも知りませんでした。そんな一見、悲劇になってもおかしくない状況や出来事をただのそれにしなかった事も家族の絆を引き立たせる為の一つの出来事に留めた所も素晴らしかったです。また自分が確認できただけでも「甘い生活」「時計じかけのオレンジ」「2001年宇宙の旅」へのオマージュらしきものも感じられ、そういったものを探しながら観るのも一つの楽しみ方の気がしました。 [DVD(字幕)] 6点(2008-03-11 21:56:52) |