2. それでもボクはやってない
《ネタバレ》 素晴らしい。『シャル・ウィ・ダンス』などの甘ったるい予定調和は好きになれなかったが、この映画は全く別の次元。実に硬派で見応えのある素晴らしい作品。実は先日、自分も、非常に理不尽な職質を受けて「話を聞かせてくれ」と警察署に連れ込まれ、ちゃんと話せば分かってくれるだろうと同行したところ、向こうには端から話など聞く気は無く、あれよあれよと言う間に書類を作成されて送検されてしまった経験がある。軽犯罪法違反だかなんだかで拘留などは無く、お巡りの態度も映画のように傲岸では無かったが、それでもこちらの言い分などは全く聞き入れず、強引に自分で話を作りながら調書を作成して行く様子を目の当たりにした。3時間ほど拘束され、コトが終わった時の自分の感想は、警察など2度と信用しない。この世に正義など無い。といったものだった。TVでのインタヴューに監督が答えていたのだが、この映画はかなり綿密な下調べに基づいていると言う。つまりこの映画は、今の日本の司法の現実を描き出している。被疑者の敵は国家権力なのだ。国家権力としては、立件した以上無罪は敗北であり、なんとしても有罪にしようと画策する。捜査上の手落ちはスッ惚けて隠し、出せと言われた証拠は不見当と言い逃れてそれが通ってしまう。対する被疑者側は、検証ビデオを作り、証人を探し……、しかしあそこまでやってもダメなのか。判決では、屁理屈としか言いようのない理由で証拠が否定されていく。役者では、正名僕蔵演じる証拠を吟味して先入観を持つことなく判決を下そうとする裁判官と、彼から変わった小日向文世が良い味を出している。小日向は最初から被疑者を疑い、上から見下ろすような眼で偏見に満ちた口調で質問をする。司法モノと言うと、大岡裁きではないが人情味溢れた正義の味方的な裁判官が描かれることが多いが、そんなものは夢物語なのだろう。この映画は、司法の問題点を見せつけ、何らかの自衛の必要性を考えさせる傑作だ。 [地上波(邦画)] 9点(2008-03-02 13:31:30)(良:2票) |