1. ウエスタン
《ネタバレ》 ジャック・イーラムら三人組がロングコートをヒラヒラさせながら駅にヌッーと現れる最初の瞬間からもう面白さ最高潮でワクワクしてしまいます。やや尺が長い気もしますが(にもかかわらず物語は驚くほど単純だ!)、間の取り方は最高ですし、いずれのシーンも切るわけにはいかないほど素晴らしく、チャールズ・ブロンソンの顔のアップにしても刻まれたシワの一本一本が格好良く見えるほど決まっていますし、ヘンリー・フォンダの悪役ぶりは最高ですし、モートンがフォンダへの犯行を決意する場面などは感動的ですらあるとおもいます。 またこれは主人公の名前がハーモニカというだけあって音が重要であり無音状態の張り詰めた緊張感に到るまで耳をすませて見る映画です。 それにしても終盤にさしかかり男たちがそれぞれ去ってゆく様に、あんなに踊っていた胸がキュンとなってきてセンチメンタルな気分になってしまうのですから堪りません。 [DVD(字幕)] 10点(2010-10-26 18:06:50) |
2. ウィンチェスター銃'73(1950)
《ネタバレ》 父親の敵を討とうと追って行く間に、当人たちのあずかり知らぬ所でウィンチェスター銃が人から人へと渡っていく様が巧みで面白いですし、カードを不器用に扱いながらポーカーで儲ける銃商人や、騎兵隊隊長、スティーブといった僅しか登場しない人物たちまでもが魅力的です(誰もがビビるワイアット・アープは少々温和すぎますが;)。 しかしこれは何と言っても銃撃シーンが素晴らしいです。度々、高・低の構図を使い、相当な距離があるにもかかわらず射撃する者の姿と射撃される者の姿を一つの画面に収めてしまっているところが凄く、何だか妙に気分が高揚してきます。ラストの銃撃戦にしても、私の残念なTV画面で見ると豆粒のように小さいのですが、しっかりと高い所から撃つ姿を映し出しているのです。そんな中でもお気に入りは、リンがダッチにウィンチェスター銃を奪われる場面で、それに気付いた相棒が階下から射撃しガラスがパシャンと割れるのを二階の室内から見せるシーンで、あれはワン・ショットで起こる諸々の出来事をまさにワン・ショットで捉えています。こういうのを見せられますと、距離のある銃撃戦を撮らせたらアンソニー・マン監督の右に出る者はいないだろうと断言したくなります。 [DVD(字幕)] 9点(2009-08-26 18:14:17)(良:2票) |
3. 運動靴と赤い金魚
《ネタバレ》 デ・シーカ監督は自転車だけで「自転車泥棒」を撮りましたが、本作もたった一つの物〝靴〟だけで物語を成立させたばかりか、サスペンスも喜劇も感動も盛り込んで豊かに物語ってしまったのが凄いところです。 例えば、片方の靴が水路で流されていくシーンなど下手なサスペンス映画など比べものにならないくらいドキドキ感がありますし、3等狙いという喜劇的な制約がかかったマラソン大会ではスローモーションが始まった瞬間、これはどうあがいても3等にはなれないんだなと予感をさせ、すると懸命に走るスローモーション姿が何だか妙に可笑しくなってくるのです(頑張って走ってるんだ笑っちゃイカン)。 しかし、最も素晴らしいのは兄妹による靴のリレーで、お互いを想い、パタパタパタパタ路地裏を全力で走る姿はそれだけで感動的です。お父さんの自転車に靴が積んであった時、どれだけ〝あぁ良かったねぇ〟と思ったことか。それにあの少年の泣きそうな顔は反則だと思います。 [ビデオ(字幕)] 9点(2009-06-23 18:33:32)(良:2票) |
4. 裏切りの闇で眠れ
ハード・ノワールなどという宣伝文句がついているのですが、ひたすら痛々しいエログロ映画に近いです。確かにブノワ・マジメルは良い。腹回りは危険地帯に差し掛かっているもののコートで身を隠せば一匹狼のクールさと寂しさを醸し出していますし、キャラクターもそれらしいです。しかし、ビジネスライクで裏切りも友情も浅い上に貸し借りもなければ、混沌世界で切迫した命の危機に瀕しているわけでもなく、はたまた運命的でもないのです。ギャングのボスが〝男がどこにもいない!〟とわめき散らしますが、もしやこれはフィルム・ノワールへの決別宣言なのではないか?と思ってしまうくらいです。現代ではそんな昔気質の男はもう絶滅して過去の遺物となったのだと。もちろんノワールのトレードマーク、降雨で輝く街路もありません。なにしろ現代パリの夜は闇ではなく人工的な光りに満ちているのです。その証拠に?日中に美しくも何ともない濡れた地面が存在し、水は高級マンションの水槽で光り輝きます。ですが…そこに新しい暗黒映画の可能性を秘めているようにも思えませんし、鎮魂歌にもなっていません。取り立てて印象的な場面もなければシーンの繋ぎの粗さばかりが目に付きます。とにかく暴力的で残忍で迫力ある女の裸もいっぱい出てきますが緊張感もえらく欠けているのです。また、これをノワールへの皮肉じゃなしにやっていたとしたら、暗黒世界を描くのにたとえノワールするつもりなどなくともこの配慮の無さはまさに犯罪的だと思います。 [映画館(字幕)] 5点(2008-03-03 18:06:46) |
5. 宇宙戦争(1953)
《ネタバレ》 スピルバーグのリメイク版を先に鑑賞したクチなのですが…まぁ50年という歳月で人類はどえらく進歩しましたなぁ。その進歩たるや今なら火星人が襲来しても大丈夫なんじゃないかと思えるほどです(火星人もどえらい進歩を遂げているわけですが;)。この特殊映像の雲泥の差ときたら!もし映像技術にも賞味期限なるものがあるとしたら偽造不可能なほどで、見えてはならぬ釣り糸が存在する宇宙船は現在見たらもう目が点です。でも本作はスピルバーグ版も受賞ならなかったアカデミー特殊効果ナンチャラをしっかり受賞しているわけで、当時としてはトップクラスの作品なのですよ。そんなわけで映像技術は致し方ないとしても、宇宙人が圧倒的パワーで侵略してきているというのに前半は良家のお子様のように人々が落ち着いていて緊張感の欠片も無い演出は退屈です(宇宙人の有無を言わさぬ攻撃性は凄いと思いますが)。ただ、暴徒に車が奪われるあたりからは圧巻。前半の不自然なまでの静から一気にパニックの動へ。やっぱりこうでなくっちゃね。それからスピルバーグ版に勝っているところが一つ、火星人が肩に手を置いて現れるシーンで一見ギャグっぽくもあるのですけど、これがなかなか怖い。 [DVD(字幕)] 6点(2007-12-21 18:05:23)(良:1票) |
6. 雨月物語
《ネタバレ》 朽木屋敷の幻想世界が最高の見せ場だとは思いますが、個人的にはその世界の入口と出口が印象深いです。入口は霧が立ち込める舟のシーンで、出口は妻の幽霊が待つ家に戻ったシーン、どちらも息を呑むほど素晴らしい。それから田中絹代さんが落武者に槍でつかれてしまうシーンは衝撃的ではないのに俯瞰気味に見せることによって傍観者のような冷たさを感じさせたまらなく悲しいです。…ただ一点気になるのが、説明台詞のようなものが何ヶ所かあることで完璧に近いからこそ逆に目についてしまいます。 [ビデオ(邦画)] 8点(2007-11-19 18:16:41) |
7. ヴェルクマイスター・ハーモニー
《ネタバレ》 これまた凄い奇妙な、いや奇妙な凄い映画だ。宇宙についての哲学的話を不器用なおっさんをグルグル回して語り出す始まりからして何とも可笑しい。しかもカット無しの長回しで撮ってしまっている!と思ったらこの後も長回しの連続でよくこんなの撮れたなぁと感動してしまうばかりである。極めつけのシーンは暴徒と化したおっさん達が行進して病院?に向かい暴れまわる一連の場面で思わず身震いしてしまった。この破壊活動シーンで長回しを止め規律を乱す手筈になっているのか…という浅はかな素人考えがあっさり裏切られるばかりか、モザイク一丁おじいちゃんの神々しい登場に圧倒されてしまった。モノクロームの映像も寓話的世界観を確立している…が、実はこれクジラの稚拙さをごまかすためだったりして。 何はともあれ私はこれまで三度観た。最初は興奮し細部確認のためもう一度と思ったが、二度目は一転して退屈さに睡魔に襲われた。で、久し振りに三度目の鑑賞をしたらやっぱり面白い。四度目はもう止めた方が良いのではないかと思うのだが、これは癖になってしまう麻薬のような作品だ。 [DVD(字幕)] 9点(2007-11-07 18:05:07) |
8. 宇宙戦争(2005)
《ネタバレ》 最初にトライポッドが現われ群衆が逃げまわるシーンから壮絶。その場にかがみこんでいるような臨場感に溢れ、あっという間にスクリーンに引き込まれてしまいます。親子三人の逃避行が始まれば、川を累々と流れていく死体の不気味さや何気なく顔を出す墜落した飛行機の残骸、火達磨の列車が目前を通過しようがもはや誰一人驚かない世界の異変を次々と描出し圧倒的に迫ってきます。さらに、まるで「ジュラシック・パーク」のティラノサウルスが咆哮するかの如くわざわざ奇怪な音を立てて登場を知らせるトライポッドが何ともにくい。しかしパニックに陥る人々の暴力的な、あるいは本能的な怖さはそのトライポッドと同等かそれ以上の恐怖があります。車を取り合うシーンの暴発寸前のバリバリの緊張感など凄いです。ですがトム・クルーズが手榴弾でトライポッドを撃破するシーンでは助け合う人々が登場し、その後は物語が急速に終結していきます。これは人類の攻撃性と愛を描いているのだと思いますが、そこに執着し妙に濃い人間ドラマにしたりせず、ただただ事の顛末を追って一連の宇宙人襲来劇を状況把握さえままならない一市民目線で見せているところが高ポイントなのです。・・・ただ欲を言えば一つ気になるのがティム・ロビンスを殺す重要なシーン。前出の車を取り合うシーンに比べ緊迫感に欠けている気がします。それはトムの立場が被害者から加害者へと変わったからかもしれないですし、もしくは途中から子どものダコタ視点に移るのであっさり処理されるのかもしれません。が、それにしてもティム・ロビンスの狂気もいまいち伝わってこず切羽詰った状況には見えないのです。 [映画館(字幕)] 9点(2007-10-12 18:38:16)(良:3票) |
9. 浮き雲(1996)
《ネタバレ》 リストラされレストランは潰れ、新しい仕事はダメで車に乗れなくなったり、レストランと呼べない店で働いて給料貰えなかったり、テレビや家具を差し押さえられてギャンブルで失敗と、悲惨な出来事の連続なのに前向きとは違うけど決して後ろ向きにはならない、挫けない夫婦の愛が素晴らしいです。妻「決して許さない」夫「帰ろう」妻「いいわ」のシーンなんか最高ですよ。彼らはほとんど言葉を発しなければ表情にも出さない。リストラをカードで決めるシーンやコックが治療費を払うシーン、レストラン仲間との別れのシーンなどの本来感情的な場面でさえ実に淡々と描かれています。それでも無言の中にある心の叫びがしっかりと聞こえて、喜怒哀楽をあまり見せてくれないのに観終わった後に心が温かくなるのがこの映画の凄いところです。色使いも素晴らしく、尻尾を元気良く振る犬が何とも可愛らしい。二人で始めたレストランに客が入ってようやく夫婦に晴れ間が訪れた時のあの様子の微笑ましさ。生きている事の幸せを静かに、だけどとても強く感じさせてくれる作品です。 [ビデオ(字幕)] 9点(2006-05-23 18:26:15) |
10. ウンベルトD
ウンベルトの金銭的な問題だけでなく孤独も描かれているから不安にさせられます。社会的弱者となると居場所すら不安定であり周囲の理解も得られない哀しみ寂しさ恐怖を味わいます。将来への不安が募る現代日本社会を思うと他人事ではすまされない悲惨な状況が刻々と描き出され悲痛な心持になります。それでも完全に悲劇的でなく希望を存在させたことが救いとなっています。人間は一人で生きていけるほど強くはないが、何であれ支えがあれば生きていくことが出来る。デ・シーカ監督は本作で「自転車泥棒」と「靴みがき」の二作で描かなかった救いを描いています。愛犬フライクが実に愛らしいです。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2006-04-12 17:23:55) |
11. ウィスキー
《ネタバレ》 真面目なハコボとマルタは定時にシャッターを開き電気をつけ、お茶をいれる決まりきった生活を送っている。その機械的に物事をこなす様子から、かなり長い間同じ事を繰り返していることが窺えます。そこへ起こる弟の訪問という外部からの刺激。積極的におめかしするマルタのリアクションは女心をしっかり捕らえたもので、少なからず何か変化が起こるのではという期待が感じられます。それに対して相変わらず無関心なハコボの様子が、部屋の説明をしながら電気をパチパチすることで示され、いつもの通りの事務的な出来事の一つと同じだと分かり男のダメさ加減を身につまされる思いになります。そして陽気な弟と過ごした後、マルタは定時にやって来ない。マルタ自身に変化が訪れたことと、ハコボには何の変化も訪れなかったことを暗示しています。同じ種族に見えていた二人は実は全く違っていて、二人がそろって笑えるのは〝ウィスキー〟という掛け声の時だけという淋しさ。少ない台詞ながら一定の行動様式で男女の心の機微を鋭く描出し、ついつい見守りたくなってしまう作りが巧いです。二人が〝ウィスキー〟なしで笑える日が来ると良いなぁと思ってしまいますね。 ところでウルグアイ(もしかして南米辺りではどこでも?)では写真撮る時に〝ウィスキー〟って言うんですね。なんか〝チーズ〟より良いなぁ。 [DVD(字幕)] 7点(2006-02-26 11:38:36)(良:2票) |
12. ヴェニスの商人
《ネタバレ》 『ヴェニスの商人』はユダヤ人を差別しているという見解があり、今作ではシャイロックをいわゆる〝悪役〟にせず悲劇の面もしっかり描いています。しかし、それが逆に鑑賞後の後味を悪くしてしまっています。シャイロックは確かに慈悲や情けと言ったものとは無縁だったかもしれませんが、それだけで信仰すらも失ってしまうのは観客として納得がいきません。ましてユダヤ人だからという理不尽な理由で酷な仕打ちを受けてきた彼の苦悩が描かれていれば猶の事です。その上、演じるのはあのアル・パチーノ。彼は善悪問わず悲劇的な役でオーディエンスを共鳴させてしまう第一人者でありシャイロックに荷担せずにはいられません。となると、ポーシャ側に素直に感情移入など出来る訳も無く、さらに指輪遊びがしっかり描かれると、人生を失ったシャイロックの悲劇が一層強調され物語自体が腑に落ちなくなってくるのです。唯一の救いはシャイロックの娘ジェシカがシャイロックから貰った指輪をしていたシーンを用意した事ですね。拠り所を失い、一人佇むアル・パチーノの悲しい目が忘れられないです。 出演者は皆実力派でヴェニスの街並みも良いのでクオリティは高かったんですけどね。 [映画館(字幕)] 6点(2005-11-04 18:28:25) |
13. 海の上のピアニスト
《ネタバレ》 とにかく理屈抜きで本能レベルで感動してしまいました!好きなシーンがいっぱいあります。個人的にベストと言っても良い作品です。(※注・以下トルナトーレ監督他作品のネタバレあり)トルナトーレは「一生地に足つけず、夢を追い続けてもいいのではないか」と言っておりましたが、このテーマは『ニュー・シネマ・パラダイス』や『みんな元気』でも描かれていたと思います。船が象徴するものは『ニューシネマ~』のトトにとっての映画館であり『みんな元気』の老人にとっての耳にしている子供達の姿だと思います。この前二作品ではトルナトーレは主人公を下船させ、厳しい現実への直面で無残さを味わわせましたが、本作ではついに1900を下船させなかったのです。1900とトトたちとの違いは実は外の世界を〝ある意味では〟知っていたという事でティム・ロスの物憂げな表情がそれを物語っています。彼の奏でるピアノが型破りなのは人間の無限性を、完膚無きまでに叩きのめされるジェリーの登場は陸の限界を匂わせ、想像には敵わない事を暗示させます。そして大勢の客を乗せる船は言わば小宇宙であり、そこを1900の全世界とする事により陸への思いを唯一の夢、欲望としています。それは同時に下船が全ての満ちたりと共に生きる目的、活力の喪失である事を意味するのです。本作には世界の大小に関わらず夢や欲望を喪失してはならないというメッセージが込められているのではないでしょうか。悲しくもロマンティックな美しい物語です。 [映画館(字幕)] 10点(2005-10-30 15:20:16)(良:1票) |