1. 熱泥地 [短縮公開版]
《ネタバレ》 二本立て・三本立て興行を維持するために、末期の新東宝は旧新東宝(大倉貢体制になる前の健全なころ)の作品を尺をぶった切って短縮版にしたうえで改題して再公開するという荒業というか禁じ手を使って配給作品を増やしました。50年代とはいえさすがに監督協会からは抗議されましたが、「脚本の著作権は原作者やオリジナル脚本にあるが、映画としての著作権は資金を出して製作した者、つまり映画会社にある」という強引な主張で押し切っていました。後にお昼の時間帯に東京12チャンネル(今のTV東京)が放映したいわゆる“東京12チャンネルver”の先取りみたいなものですね。『現金と美女と三悪人』という身も蓋もないタイトルに変えられた本作は、オリジナルの尺は100分余りで、つまり三分の一程度がカットされているわけですが、許せないのはこれらの短縮版たちは杜撰な体制だったのでオリジナル・ネガが喪失してしまっていることでしょう。まあどの作品も映画史的に貴重というわけではないのも確かですけどね。 さて本作、三分の一カットされている割にはストーリーは破綻していなくて、まあ編集としては上手いと言えるかもしれません。藤田進が酒浸りの現金強奪犯というキャラを演じているのは珍しい、まだ若いのに既に老け顔の東野英治郎のふてぶてしい悪役ぶりも板についています。唯一の女優である利根はる恵はデビュー直後の出演ですが、とても終戦直後の女性とは思えないそのグラマーな肢体には驚きました。でも細かい描写はほとんどカットされているので、やはりぶつ切り感は否めないかと思います。だいいち、“三悪人”とは誰なのか?という疑問が、二人は判るんですけどねえ。 監督・市川崑、音楽・伊福部昭という組み合わせは珍しいかも、でも伊福部昭の音楽にはすでにゴジラ風味があって笑ってしまいました。 [CS・衛星(邦画)] 4点(2023-03-13 21:49:58) |
2. 眠れぬ夜のために
《ネタバレ》 こんな決して大作とは言えない映画に、なんでこれほど大量のカメオ出演者がいるのかが不思議、それもハリウッドの業界人がやたら多い。これはたぶん、『トワイライト・ゾーン』の悲劇的な事故の後で、もう映画を撮れないんじゃないかとまで言われたジョン・ランディスを励まそうとハリウッド人脈が結集した結果かもしれません。とは言っても、デヴィッド・ボウイの無駄使い、あれはないよなぁ… 主人公が不眠症ということでしたが、どう考えてもこの設定が活かされた脚本とは言い難い。この出来事がやっと眠りにつけたジェフ・ゴールドブラムの見た夢でした、っていう最悪の夢オチになるのかなとさえ思いながら観てましたが、終わってみればただの巻き込まれ型アクション映画だったという事実の方が、私にはサプライズでした。人はバンバン殺されるし、イラン人・フランス人・英国諜報員(?)・謎の大富豪とあとからあとから登場するし、なんか理解しにくいストーリーです。唯一コメディ的な要素は、序盤から死体の山(犬まで)を築いてゆくジョン・ランディスも加わったイラン人四人組みたいですが、微妙過ぎてあれじゃクスッともできませんよ。全般的に洒落っ気が不足です。でもミシェル・ファイファーだけは良かったなぁ、チラッと側面からだけどヌードまで見せてくれてます。 [CS・衛星(字幕)] 4点(2023-01-19 22:43:59) |
3. 眠狂四郎 悪女狩り
《ネタバレ》 ついに狂四郎シリーズも最終回、死期が迫った雷蔵本人は自覚していたかもしれないが、大映はまさか本作でシリーズが終わるとは予想してなかったんじゃないかな。もちろん大団円として撮ってるわけじゃなく、今まで通りの通常運転のストーリー展開。でも雷蔵は体調はかなり悪く、立ち回りなんかはスタンド・インを使う場面もあったそうです。そういえばストーリー自体もかなり暗い滅びの物語に徹していました。奇しくも雷蔵最後のセリフが「貴様を救う神があるか、俺も確かめに行きたいものだ」というところが、結果的には意味深ですね。 大奥内での身ごもった側室と大奥総取締役との将軍後継者を巡っての争いがストーリーの基本。そこに邪魔な幕閣を消すために総取締役が操るニセ狂四郎や隠れキリシタンが絡むという大風呂敷を広げた脚本ですが、ニセ狂四郎が正体がバレた後でも本物を狙って襲う動機がイマイチ不明だし、将軍の跡継ぎ問題はけっきょくどうなっちゃったの?etc.けっこう粗が目立つ脚本なんですよね。今回のハニートラップはシリーズ中で随一のシュールな仕掛け、自分はてっきりこれは狂四郎の見ている夢なんだろうと観ているときは思いました。 こうして、私の“眠狂四郎マラソン”が一年かけて無事終了いたしましたが、全作を観てこのシリーズの感想は以下の通りです。●自分にとってシリーズ最大の謎は、若山富三郎が演じた陳孫です。初期の二作に狂四郎の好敵手として登場していずれの対決も決着つかず、シリーズを盛り上げるキャラになるかと思いきやその後はまったく登場せずで終わり。スタッフとしてはそろそろ再登場させようかと思っていたら、雷蔵の突然の死で機会を失したという感じだったのかも。●けっきょく、円月殺法って何だったんでしょうか?ただ剣を一回りさせて頂点で光を反射して眼潰しして斬りかかるって感じしかないです。殺陣が得意じゃなかった雷蔵なので迫力を出し切れなかったのかもしれません。●とはいえ約五年も続いたこのシリーズ、雷蔵=狂四郎がその後の時代劇に多大な影響を与えていることは疑いありません。徹底的に虚無的なそれまでの時代劇になかったスタイルは、70年代には木枯し紋次郎で華を咲かせたと私は思います。でも座頭市&眠狂四郎はやっぱ観たかったなあ… [CS・衛星(邦画)] 6点(2020-10-01 23:06:24)(良:1票) |
4. 眠狂四郎 人肌蜘蛛
《ネタバレ》 雷蔵も大映も予期していなかったでしょうが、『眠狂四郎』シリーズも終盤ラス前になってきました。冒頭からエログロな雰囲気が濃厚、今回の狂四郎の敵はまたもや将軍家斉の不肖の庶子である紫姫(例の菊姫ではない)と家武の兄妹です。紫は「血の伯爵夫人」エリザベート・バートリーの江戸時代版という設定、屋敷に若い男女を監禁してなぶり殺しにするサイコキラーで、妙に現代的な髪形の緑魔子がキャラにドはまりで今まで観てきたシリーズ中でいちばん妖艶でした。兄の川津祐介とは近親相姦の関係であることも匂わせており、要はドロドロというわけです。本作では狂四郎の個人情報も織り込まれており、舞台とされる甲州には母親の墓参りで立ち寄るという設定で、つまり狂四郎は甲斐の生まれだったというわけです。家武誅殺を狙う幕閣が接触してくるところやお馴染みの狂四郎へのハニートラップ攻撃はシリーズでの定番ですが、今までのとはちょっと違う風味で面白かったかなと思います。狂四郎が毒矢にあてられるシーンもあり、幕閣・渡辺文雄に解毒してもらわなければ死んでしまうというシリーズ最大のピンチもありました。まあ女にもめっぽう強い狂四郎も健在で、狂四郎に執心の紫姫までちゃんと肉欲を満足させてやり、「女は抱くもの」がモットーの狂四郎本領発揮でした。 それまでのシリーズで垣間見えた狂四郎の人間的な一面はほとんどなく、死屍累々となった現場を立ち去ってゆく狂四郎の姿は最高にニヒルで痺れます。ラスト、呪いの言葉を吐きながら燃え盛る屋敷に飛び込んで果てる紫姫は、『海底軍艦』のムウ帝国女王の最期が思い出されてしまいました。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2020-09-01 23:12:42)(良:1票) |
5. 眠狂四郎 女地獄
《ネタバレ》 シリーズ10作目にして初のダブル敵役、竹光侍の伊藤雄之助はちょっと微妙だけど田村高廣は初めて円月殺法をかわす偉業を成し遂げて、つまり田村がここまでのところシリーズ最強の敵ということになります。しかも田村を仕留めたのは小沢栄太郎の放った銃弾、けっきょく狂四郎との雌雄は決せられなかった結末は憎いですね。もっともチャンバラよりも伊藤雄之助のとぼけた演技に雷蔵も田村もイイとこ持ってかれた感は強かったですけど。ストーリーはお家騒動で争う城代家老ふたりと、その騒動によくわからないうちに巻き込まれると言うか首を突っ込む狂四郎という展開。お約束の敵方からのハニートラップ攻勢は健在で、もちろん「女は抱くもの」がモットーの狂四郎ですから愉しんでからの返り討ち、それにしても女の肌に触れただけで男の有無が判ってしまう狂四郎、ここまで来るとほとんど超能力です(笑)。高田美和以外の女性キャラはやはり定石通りにみんな死んでしまうのですが、やはりこのお姫様は良く考えると怖い。虫も殺さぬお上品さですが、藩の乗っ取りを図る二家老の対立を煽り抗争させて自滅させる作戦だったとも取れます。もちろん脚本家にはそんな凝った意図は毛頭なかったかもしれませんけど。けっきょく狂四郎は悪家老も二剣客も討取らず斬ったのは雑魚ばかり、徹底的に傍観者だったという珍しい一編でした。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2020-08-01 19:45:03)(良:1票) |
6. 眠狂四郎無頼控 魔性の肌
《ネタバレ》 なぜかシリーズ中で唯一「無頼控」がくっついているタイトル、どうしてなんでしょうね?でも観てみればわざわざ「無頼控」となったのも納得できる気がする、狂四郎のニヒルぶりはシリーズ中で最高レベルでした。成田三樹夫が率いる黒指組、天草四郎一派の末裔なんてキャラ付けはどこかに吹っ飛んでもうキリスト教とは関係ない邪教の新興宗教集団でございます。宗教集団と言うよりも忍者集団と言った方が相応しいぐらいです。「狂四郎にも弱点はある!」と女には見境がないと正しく見抜いてシリーズ恒例のハニートラップ攻勢、でもこれもお約束ですべて狂四郎はお見通しで全部返り討ち。本作で凄いところは、善玉・悪玉・善玉と見せかけた悪玉、登場する女性キャラが全部死んじゃうという展開でしょう。これこそ「俺と関わった女はみんな死ぬか不幸になる」と嘯く狂四郎の決めセリフ通りでした。成田三樹夫も頑張ってるんだけど黒指組リーダーとしての行動が穴だらけで、前作の天知茂には到底及ばずという感じでした。あの穴蔵に狂四郎を閉じ込めて爆薬で吹っ飛ばそうとしたシークエンス、バカみたいに簡単に逃げられたのには「これはギャグか」と悶絶させられました。金子信雄が善玉っぽいキャラで登場してきたのには?でしたが、ラストのネタばらしにはちょっとびっくり、まさに「そんなのって、アリ?」の一言です。でもロードムービー仕立てであの手この手のエピソードがテンコ盛り、全盛期の鰐淵晴子の美も堪能できたし、やはりシリーズ中でいちばん愉しめたかな。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2020-07-03 21:34:25)(良:1票) |
7. 眠狂四郎 無頼剣
《ネタバレ》 シリーズ八作目にして最強の敵である愛染・天知茂が満を持して登場、今まで二作に顔を出している若山富三郎もいるけど、役者の格は別にしてもキャラ付けからして迫力が違います。旧新東宝の残党組としては丹波哲郎は別格として天知茂・菅原文太・吉田輝雄がいわば三羽烏でありますが、けっきょく映画界で大成したのは文太だけで天知が70年代にはTV界に活躍の舞台を移してしまったのは残念至極です。愛染は大塩平八郎の残党を率いて老中・水野忠邦をつけ狙うテロリスト集団の頭領、復讐のためなら江戸を焼き払うことも躊躇しない過激さは、当時の学生運動が投影されていることは間違いなしでしょう。肝心の水野へのテロは見抜かれていて失敗、自ら放った炎を遠景として狂四郎に討ち取られて屍をさらす愛染とその一味の姿は、その後の全共闘運動の末路を予言しているみたいです。 というわけで本作に関しては天知が主役で雷蔵ですら脇で盛り上げ役に回っているような感じすらします。本作の狂四郎は妙に品行方正で愛染の方がはるかにニヒルなのがヘンな感じです。撮影中に雷蔵は「これじゃ天知茂が目立ちすぎ、主役は俺だ!」と怒ってマジにスタッフと険悪になったそうですが、本来温和な雷蔵をここまで嫉妬させた天知茂という役者は、やはりただ者ではなかったんでしょうね。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2020-06-03 20:01:03) |
8. 眠狂四郎 多情剣
《ネタバレ》 『女妖剣』に続いて、またもや将軍家の問題児・菊姫が登場でございます。今回は狂四郎への復讐に狂った完全なる主敵キャラとして再来です。そういや、あの越前屋徳右衛門=稲葉義男はどうしちゃったんでしょうかね、絶対シリーズでの狂四郎の宿敵的存在になると自分は踏んでいたんですがねえ。本作では音楽担当は何故か伊福部昭大先生なんですよ、緊迫したシーンの背景に低く流れる音色はまさしく東宝特撮、ていうか大先生これって使い回しじゃないでしょうか(笑)。監督はシリーズ初の井上昭です、ロング・ショットが効果的に使われていてこの人がこんなに映像派だったとは意外でした。ストーリーではけっこう登場人物は多いけど中谷一郎の正体を含めてすべてのキャラが一点に集中してゆく展開、狂四郎よ、お前の周りは敵ばかりかよ。今回のゲストスターはいちおう中谷一郎ということになるでしょうが、本家・円月殺法に自己流・円月殺法で挑むも秒殺されるというのはちょっと斬新でした。個人的にはシリーズ中でも脂がのった時期でもありけっこう愉しめたかなってのが感想です、脚本上の細かい繋がりはちょっと破綻気味でしたけどね。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2020-05-01 22:24:08) |
9. 眠狂四郎 魔性剣
《ネタバレ》 シリーズ六作目ではあるが、これは今まで観た中ではもっともツッコミどころが満載の問題作でした。唐突に「私を一晩買ってください」と夜鷹の様に迫った女が武家の出と見破られて狂四郎からニヒルなセリフを浴びせられて自害する。この手の捨て台詞は今まで散々女たちに吐いてきた狂四郎でも、さすがにその言葉で死に追いやるとビビっちゃうんでしょうか、あんがい普通の人間じゃんどこがニヒルなんだよ!そこから岩代藩の世継ぎの少年に出会うまでが怒涛のというか超ご都合主義の脚本には失笑させられます。ご都合主義と言えば嵯峨三智子と仲間たちが繰り出す狂四郎抹殺作戦のデタラメぶりで、毒蛇に提灯爆弾そして尼の色仕掛けと笑わせていただきました。どれも狂四郎にはハナからお見通しだったわけですが、「喰える女はとりあえずいただく」という本性には狂四郎も逆らえないみたいです(笑)。本作から円月殺法を披露するシーンでは刀の残像を見せる演出が始まったみたいですが、太陽の光を反射させて相手の眼を眩ますのが奥義としか思えないのはどうしたことだ。まあ円月殺法はウルトラマンのスペシューム光線みたいなものだと納得するしかないですね。やたらと流血シーンがあったりチラッとですが女優の全裸カットがあったりというアダルト指向を感じさせてくれますが、まるで同じ大映のガメラ・シリーズみたいに少年というか子供を前面に出したストーリーテリングはチグハグの極みです。 [CS・衛星(邦画)] 3点(2020-04-03 23:46:17)(笑:1票) |
10. 眠狂四郎 炎情剣
《ネタバレ》 このシリーズは五本目の鑑賞だけど、今のところ本作がいちばん面白かったかと思います。西村晃にしても中村玉緒にしても狂四郎の敵なのか味方なのか判断しづらい揺れ動くようなキャラなのが秀逸です。とくに玉緒はちょっと凄みを感じさせてくれる悪女ぶりが、50年後にすっとぼけた婆さんになっていることを知っている身には、不思議である意味新鮮な感じがするぐらいです。西村晃も完全に肩の力が抜けたような飄々とした悪役ぶりに人間臭さが出ていました。実は雷蔵は足腰が弱かったので殺陣が苦手だったそうで、チャンバラ映画で定番のぐるっと囲んだ雑魚敵を斬りまくる立ち回りには難があったようです。クライマックスの藤堂家の刺客たちを斬りまくるシークエンスでは、寺院の回廊や階段を使って一人ずつしか斬りこんでこれないシチュエーソンにしてその弱点をカバーし、映像的にも見応えを創ることに成功しています。ニヒルかつ無頼という狂四郎のキャラは一段と凄みが増してきましたが、最後には人助けをする桃太郎侍的な展開になってしまうのはこのシリーズの弱点かもしれません。でも多少なりともそういう要素を織り込まないと、ヒーローものとして成り立たないのでしょうがないのかもしれません。今回は海賊の生き残りの少女がキリシタンだと知ったのが狂四郎の善行の動機でもあり、悪魔崇拝に走って棄教した神父が父親というアイデンティティーが影響していると解釈していいのかもしれません。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2020-03-03 22:41:27) |
11. 眠狂四郎 女妖剣
《ネタバレ》 眠狂四郎シリーズも第四作目にしていよいよエロ要素が強めになってきました。悪役も今後のシリーズで宿敵となるらしい備前屋徳右衛門が登場、ラストの狂四郎に斬られもしない中途半端な退場は生かしておいて次作以降で使う魂胆だったわけですね。宿敵と言えば若山富三郎の懐かしの陳孫も再登場、狂四郎と再び対決いたしますがまたも決着つかずにフェードアウト、これじゃあ『キングコング対ゴジラ』のラストシーンと同じです。悪役といえば、今回はキリスト教そのものがその役目を担っている感じもします。狂四郎の父親が実は棄教して黒ミサを信奉する外人だったという衝撃の事実、でもキリスト教に対する憎悪としか言いようがない冷淡さをそれまで見せられてきたから、自身は薄々勘づいていたように見ることもできます。醜い容貌の菊姫も美しい聖女びるぜん志摩も、どちらも魔性の女でしたという結末は強烈でしたが、現代では下手したら男尊女卑だと炎上しかねませんね。狂四郎に斬られる敵に強いのが一人もいなかったのは、ちと心残りでした。 [CS・衛星(邦画)] 6点(2020-02-01 23:37:38) |
12. 眠狂四郎 円月斬り
第三作にして、題名に使われるぐらいで円月殺法がクローズアップされてきました。刀をグルっと一回りさせるだけの構えがなんであんなに無敵なのかは、私には剣道の嗜みがないのでさっぱり判りません。でも雷蔵が実演するといかにも凄い剣法みたいになるのは、さすがです。今回は冒頭から首が飛ぶは腕が斬り落とされるは、そして当時としては珍しく流血描写があるはでちょっとハードな路線です。狂四郎のニヒルさも徐々にダーク色を強めてきました。悪役は将軍ご落胤とその母親となりますが、それと狂四郎を取り巻く登場人物たちがけっこうキャラが立っていて、ストーリーに深みを持たせています。町場のセットやラストに炎上する橋などけっこう作りこまれていて、これぞ大映京都のスタッフの底力を見せられた感じがしました。肝心の円月殺法は劇中二回しか披露されなかったと思いますが、そこで一句。「狂四郎 雑魚は無視する 円月斬り」お粗末でございました。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2020-01-03 22:32:14) |
13. 眠狂四郎 勝負
《ネタバレ》 柴田錬三郎に原作を改変しないと約束させられて撮った前作はどう観ても失敗作となり、思い切って不義理をして大胆に脚色して臨んだのがこの第二作。試写を観た柴田は無言で去ったそうですが、後に「俺の負けだ」と述懐したそうです。 前作に比べると雷蔵のキャラは明らかにニヒルさと無常観を漂わせるようになり、眠狂四郎のスタイルを確立する方向に進んでいるのは判ります。やっと普通のチャンバラ映画の水準に達した、というところでしょうか。でもまだ狂四郎がイイ人すぎるし、だいいちよく喋る。原作との違いはわき役キャラを明確にしたところらしいですけど、そのバイ・プレイヤーたちがいい味を出しています。勘定奉行の加藤嘉が飄々としたキャラで魅了してくれるし、雷蔵との絡みがまた味わい深いものがあります。狂四郎をとりまく三人の女たちもそれぞれの個性を出していて、とくに高姫役の久保菜穂子の怪しい色気が良かったですね。突っ込むとすれば、高姫サイドが藤村志保を通じて五人の剣客を集めて勘定奉行と狂四郎を狙うところで、なんでそんな回りくどいことするんだろうというのは当然の疑問で、またこの五人の個性が希薄で活躍もしないところでしょうか。でも三隈研次らしい映像美には注目です。 [CS・衛星(邦画)] 6点(2019-12-02 23:20:15) |
14. 眠狂四郎 殺法帖
《ネタバレ》 ご存じ、眠狂四郎=市川雷蔵シリーズの記念すべき第一作目。このシリーズはまだ観たことなかったのですが、一作目ということもあって狂四郎のキャラが定まっていない感が濃厚。大してニヒルという感じではないし無頼漢というイメージも薄い、普通のチャンバラ映画の主人公という感じです。もっと判らんのは若山富三郎が演じる少林寺拳法の使い手である陳孫というキャラで、だいいち少林寺拳法と剣術というのはミスマッチも甚だしいところ。そんな陳孫でも最後の対決では円月殺法を真剣白刃取りしちゃうし、ぜったい若山富三郎の方が斬り殺されること間違いなしだろ!と激しく突っ込む次第です。雷蔵と同格の若山富三郎が出演している時点で若山が悪役に徹するわけないし、まして勝負で雷蔵に勝たすはずもない、つまり中途半端なゲストスターだったわけです。雷蔵に勝てずに「お前は手を引け」と命令されてすごすごと去ってゆく若山なんてほとんどギャグです。 この大映版の前に鶴田浩二が狂四郎を演じた東宝版(ヒットせず三作のみ)があったそうで、この第一作は恐る恐る撮ったパイロット版という性格があったのかもしれません。 [CS・衛星(邦画)] 4点(2019-11-02 22:45:37) |
15. ネレトバの戦い
《ネタバレ》 ユーゴスラヴィアが、天敵ソ連の『ヨーロッパの解放』に負けじと国軍総動員で製作した戦争大作です。ソ連と違って柔軟だったお国柄で、西側資本にも出資してもらいそのおかげで米・独・伊から出稼ぎ大物俳優が出演しています。 お話は枢軸国軍の攻撃をかわしてチトー率いる共産パルチザン軍がネレトバ河を渡河して生き延びたといういわば建国神話で、史実では決してドイツ軍を敗北させたわけではないらしいです。当時のユーゴ情勢はとても複雑で、枢軸側はドイツ・イタリア・ウスタシャ(クロアチアのファシスト)・チェトニック(ユーゴ王党派)に分かれていて、ウスタシャとチェトニックも敵対関係にあり、ドイツ兵の間ではユーゴ戦線に送られることはロシア戦線に行くことよりも嫌がられていたそうです。この映画でも悪役としてこの四者が登場しますが、中盤過ぎにはドイツ軍とイタリア軍との戦いにはけりがつきますが、ラストまでパルチザン軍を苦しめるのはチェトニック軍で、ここまで来るともう近親憎悪としか言いようがありません。 この映画はハリウッド映画を凌ぐ超大作戦争映画として公開されましたが、たしかに現役兵士大動員の人海戦闘シーンは見せてくれますけど、いまの眼で観ると「エキストラたくさんいるなぁ」と感じるだけです。戦闘シーンもけっこうミニチュア特撮が多いし、俳優たちも時代がかった大げさな演技が目立ちます。ま、ひとことで言えば“冗長”の一語です。兵器類もT34戦車何とかタイガー戦車に見えるように改造してますが、これも“似てない”の一言です。 オーソン・ウェルズ、ユル・ブリンナー、フランコ・ネロといった有名どころも出演しているんですが、みんな影が薄かったという印象でした。そう言えば、出てきた若い兵士やカップルはみんな死んでしまい、おっさんばかりが生き残るという結末がなんかヘンでした。 [CS・衛星(字幕)] 4点(2014-11-13 20:08:15) |
16. 熱砂の海
《ネタバレ》 長距離砂漠挺身隊(L.R.D.G.)とはこれまた英国映画らしい渋い題材です。特殊作戦大好きな英国人ですから、戦争とはいえ冒険を楽しむようなガッツが伝わってきます。この映画もまた女性がまったく登場しないいかにも英国戦争映画らしいストイックさ、北アフリカの砂漠が戦場なのだから当たり前と言えばそれまでですが、女優を使って無理矢理ロマンス要素をねじ込むハリウッド製戦争映画とはえらい違いです。そしてハリウッド製作の北アフリカ戦を扱った映画だとたいてい米国内の砂漠で撮るけど、この映画はちゃんとリビアのトリポリ付近まで行ってロケしてるのは偉いところです。戦闘場面とかもとにかく地味ですが、シボレー・トラックの実物を丁寧に映しているのは貴重です。後半になってドイツ軍のハーフトラックが執拗に追いかけてくるのですが、こういうところ観ると本作が『ラット・パトロール』の元ネタであることが良く判ります。 [DVD(字幕)] 5点(2014-01-16 22:08:15) |
17. ネットワーク
《ネタバレ》 70年代を代表する大芝居映画です。出ている役者がみな濃厚な演技をこれでもかと見せつけてくれますが、やはりP・フィンチのキ○ガイ演技には背筋が寒くなります。アメリカには実際TV伝道なんて番組が実際あるくらいですから、預言者ニュースキャスターがいてもおかしくないかも…。F・ダナウェイも節操のなさと安っぽさ加減も絶妙で、こんな演技をしちゃったらその後の彼女の芸歴が落ち目になったのも止むを得ないでしょうね。全体としては寓話なのですが、ここまでユーモアもなくストレートに押しまくられると、観終わって疲労感が残ります。そう言えばこの映画、ニュースショーのテーマ以外に劇中で音楽が全く流れないんですよ。ほとんど密室劇と言える『未知への飛行』でも使われた手法ですが、あまりに役者たちの演技が濃いのですぐに気がつきませんでした。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2010-04-14 02:41:45) |