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1.  竜とそばかすの姫 《ネタバレ》 
ラッパーで映画評論家の宇多丸師匠がかつて、「映画の作中で現実離れした秀逸な歌を扱うとき、大多数の視聴者を納得、感動させる力をもつ歌を現実に作り出さねばならず、それは相当難しい」と言っていたのを思い出した。 そういう意味では、中村佳穂さんの歌は、堂々とその難問をクリアしているように思う。よく通る透き通った声と響き渡る声量、リズミカルで情感豊かな歌唱力にほれぼれしてしまった。 佳穂さんこそ、ベルの声を当てながら、Uの世界を実体験し満喫されていたのではないかと思う。  「U」と「竜」、「ベル」と「鈴」。ネーミングにセンスが感じられて、面白そうと思ったけれど、ストーリーには残念ながら引き込まれなかった。 私がこの作品に対して、ものすごくもったいないと思ったのは、日本最後の清流、四万十川をはじめとする美しい自然と、ベルの歌声が、なんら呼応するように作られていないこと。 呼応しているのは、デジタル処理されたきらきら光る文字だったり、紙吹雪もどきのデコレーションだったりで、それはそれで美しいんだけれど、 これらが「命としての生」を表現しているかというと、死生には縁のないアイテムだから美醜のサイクルをなんら持たず、結局還元されることのない一方通行の美でしかない。 ベルには、スピーカーを満載した仮想クジラのステージから降りて、本物の風が吹く清流をバックに、アカペラで歌ってほしかった。 そうすれば、印象的な対比として心に沁みた演出になったのではないかと思う。 (何十年も昔、胃薬「サクロン」のCMで、爽やかな緑の木々と清流の映像下でシンガーソングライターの谷山浩子が「風になれ ~みどりのために」を歌っていたのを懐かしく思い出した。ちょうどあんな感じのテイストになったと思う) もっと欲を言えば、高知県出身のキャラたちは現地の方言で喋ってほしかった。そうすれば、関東在住のキャラや仮想空間上の差別化がはっきり出る。 たとえば、同じすずでも『この世界の片隅に』の彼女は広島弁を喋り、土地柄がキャラの中に沁み込んでいてリアルな存在感があるのに対して、この作品の主人公は、まるで都会から田舎に移り住んできたような脆弱さ、よそよそしさがある。 スマホの小さな画面ばかりに視線を落としている彼女には、顔をあげて風光明媚な故郷を眺めるシーンがほとんど出てこない。 この透き通った声がデジタル機器に慣れ親しんで成長してきたものだとしたら、感動は大いに半減してしまうし、そもそも何のための自然描写なのだろう?  「現実はやり直せない。しかし、Uならやり直せる」  という冒頭の言葉に問いたい。やり直せるって、いつまで? 永遠に? 実態(当人)は現実世界にいるのだから、どうしたって引きずられる。Uの弱点はそこ。完全に切り離して意識だけを仮想空間に存在させることは不可能。 そこを、四万十川を絡めて突けばよかった。死を招いた川から始まり、命の再生の川で終われば非常にストレートで、観客の集中力もあちこち振り回されずにすんだろう。 『美女と野獣』を踏襲するために、竜をむりやり話にねじこんだ印象がぬぐえない。 こんな竜、必要だった?
[インターネット(邦画)] 6点(2022-08-09 22:28:21)(良:1票)
2.  リンカーン弁護士
別れた妻子、敵対する警察側、裁判所の職員、お抱えの運転手に、いかにもヤバそうな暴走族。主人公ミックが彼らと話す言葉には心に十分な余裕があり、テンポがあり、粋でさえある。ウケ狙いのジョークを飛ばすことなく自然に口にのぼるセリフばかりだが、これほど惹きつけられる会話も珍しい。また勝つためには依頼人相手でもコンゲームを挑み、暴力をも辞さないが、社会的に弱い者、はみ出し者、有色人種をかまわず対等に話すミックがふところ広くて頼もしい。彼らもまたミックに力をかし、そうした相互扶助の痛快さがいっそう話を面白くしている。松田優作主演ドラマ「探偵物語」の〝bad city〟の雰囲気をちらっと思い出した。
[インターネット(字幕)] 10点(2015-01-04 23:14:42)(良:2票)
3.  理由(1995) 《ネタバレ》 
前半で思い切りむかついた。「(有罪は)顔を見ればわかるじゃない」 なんていう幼稚なことを、法の世界に生きる関係者たちが平気で言いまくる。「黒人=悪人」という先入観を捨てて仕事できないのか!とイライラしていたが、作品の真ん中あたりで問題の青年(犯人)が釈放されて、「・・・あれ?」と内心冷や汗。見事にプロットにだまされた。「私(視聴者)ならこんな下らない先入観で人を犯人とは決め付けない」と思っていたのに、実は自分がさっきまでムカついていた人々と同レベルだったことに気づき、ショックだった。つまり、なすすべもなく集団リンチを受け続けた被害者、その青年の穏やかな目、学を積んできた知的な語りなどで、ああ、この映画は人種差別で苦しむ男性と、差別払拭のために奔走する弁護士の映画なのだな、と思い込んだ。それだけに、真犯人を憎んでいる人々に対して、不快な感情を持ち続けてしまった。つまり、いかにも「らしい」様子に、人間は簡単に気持ちを左右されてしまい、他の意見を全く顧みなくなる。しかし、最も恐ろしいのは、たいていの場合、愚考が間違いであったと気づく頃には、自分の先入観が暴走して周囲を深く傷つけた後だということ。この映画で最も訴えたかったのは、「自分だけは正しい」と決してうぬぼれてはいけないということでは? また、ショーン扮する弁護士が自分の大きなミスに気づいた後、最も連絡したくない相手に間髪入れずに連絡をとったシーンにも深く感動した。真のプロとは、非常時に自分のプライドに左右されず行動をとれることなのだろう。
[インターネット(字幕)] 9点(2010-08-10 09:32:42)(良:2票)
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