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1.  列車に乗った男 《ネタバレ》 
それぞれの人間関係や過去は、全て語られるわけではなく、視聴者が想像できるぎりぎりの流れだけを見せてくれる。そのぼかし方が絶妙に上手い。マネスキエがジグゾ―パズルをいじっているシーンがあるが、この映画自体がまさにパズル。映像の端々や台詞で垣間見せてくれるヒントを頼りに人間関係を解けとでも言っているようだ。  たとえば、強盗仲間であっても心を許して抱擁するほどの、実は人一倍人情の深いミランだからこそ、ルイジをかばって撃たれてしまうわけだし、マックスとドライバーのサドゥコは、警察と司法取引でもして仲間を売ったと思われる。初め、マックスは警察の潜入捜査官なのかと思ったが、ミランが彼に「太ったな」と昔馴染みをうかがわせる言葉を出しているから、違うだろう。抜けようとしたミランを無理に引き込もうとしたマックスのタチの悪さは計り知れない。  また、マネスキエもミランも、土曜日にのっぴきならない「用事」があり、この時間制限が、ドラマの明確な設計図でもある。自身の死を賭けたXデーを控えて、2人が次第に互いの人生を「隣りの芝生」視点で眺め始める。彼らの思いが、じわじわと交差していく。その流れが、小憎らしいほど自然で、台詞がまた上手い。ジョークを挟んだり、しないと公言していた質問をするなどして、饒舌と寡黙の単調なリズムが、少しずつナチュラルに変化していく。それは食事風景にも言えることで、最低限の料理と酒しか載っていないだだっ広いテーブルだったのが、ラストデイには、驚くほど小さな食卓となり、その上に果物、水差し、ヤカンとぎっしり物が載った状態となる。初日にはミランが酒を遠慮しており、最終日にはマネスキエが湯?ティー?を断る。しかも、ホスト側ではなく客のミランが最後の食事を用意しているのだから、2人の関係の変化もここまできたかというユニークさがある。こうした細々な仕掛けが台詞・映像を問わず、さりげなく張り巡らされている。何度見ても何かしらの発見がありそうな作品だ。   ラストの一見不可解な映像は、2人の叶わなかった願望をファンタスティックにシミュレーションしたもの、つまり演出家による、視聴者へのサービス映像に見えた。また、ミランが乗ってきた列車は、単なる交通機関である車両に過ぎないが、マネスキエが乗り込んだのは、ユーラシア大陸から直接北米の、例えばワイアット・アープが活躍したトゥームストーンへでも向かう夢の列車だったろう。ただ、ミランがこの街に来なければマネスキエの乗車に繋がらないわけで、タイトルの「列車に乗った男」はやはり両者を指すのだと思う。しかし、2人同時の乗車はありえないので、「男たち」ではなく単数形なのだろう。
[インターネット(字幕)] 10点(2017-06-10 02:14:18)
2.  善き人のためのソナタ 《ネタバレ》 
悪役が次第に心変わりして人を助ける話に弱い。決して感情を顔に出さないヴィースラー大尉だが、意気消沈しているクリスタを励まし、恋人たちの危機を救い、2人が愛と信頼を回復しているさまを確認して、自分が冒した冒険の成果に酔いしれる。シャンパンのコルクが弾ける音に耳を痛打され、体制批判を繰り返す劇作家たちの言動に、「こらえろ」「みのがしてやる」とぶつぶつつぶやき、彼らの部屋が捜索される際には気をもみながらハラハラする。こんなかわいらしいおじさんが、泣く子も黙るシュタージ関係者とは驚きだ。無表情の彼の心情をどこまで視聴者が汲めるか試すような、決して饒舌ではない脚本の素晴らしさに舌を巻く。また、劇作家が自分の生活を盗み聞きしていた体制をクズと呼びながら、その実行犯に対して謝意を示すという複雑で繊細な心理を、この映画はとてもしなやかに、粋に描いている。人を許すこと、愛に生きること、人のために、自分のために生きることの尊さ等が、『善き人のためのソナタ』というラストの「書名」に収れんされていく…。 (「ソナタ」とはあるが、これは音楽、演劇、小説を問わず、あらゆる芸術の象徴として選ばれた言葉ではないかと思う)
[DVD(字幕)] 10点(2012-03-13 10:34:19)(良:2票)
3.  バベル 《ネタバレ》 
4つの物語の共通事項は、主要人物たちが、突然思いもかけぬ絶望の淵に立たされること。バベルの塔は、建設中にいきなり人々の言語が分かれて意思疎通ができなくなり、工事が中断された忌まわしきオブジェだ。元々人々は同じ言葉を話す同一文化人だったが、突然予期せぬ災難に遭い、世界各国へと放浪を余儀なくされる。聖書のこのエピソードを考えたとき、この作品のタイトルの巧みさに舌を巻いた。幸せを求めて挫折し、孤独な魂を抱えて放浪せざるを得ないという人間の性は、正しくバベルそのものだ。また、4つの国をまたいでグローバルな視点をうながすことも、安易にインターネットを用いていないのが気に入った。国と国とが連携するとき否応なく時間がかかること、インフラの整っていない地での絶望的な医療や、見はるかす大自然の脅威などで、地球という惑星の大きさをずっしりと重く感じることができた。
[DVD(字幕)] 10点(2011-02-18 23:35:21)(良:1票)
4.  かもめ食堂
おにぎりを握る、ちゃっ、ちゃっ、ちゃっという音、フライを揚げるじゅわ~っとジューシーな音。さくとん、さくとんと鳴る包丁とまな板のリズム。料理の載ったお皿をテーブルに置く、ごとっという音。それらを聞かせるために、料理中はBGMを排除していたようだ。小林さんの美しい手の動きとこれらの音を楽しみたくて、またこの映画を見たいと思ってしまう。同じく食べ物を扱った癒し系「ショコラ」では、視聴したあと特にチョコレートを食べたいとは思わなかったが、今回は黒い海苔を巻いたシンプルなおにぎりが無性に食べたくなった。それと何より、箸とおにぎりに何の違和感もなく食事を楽しんでくれるフィンランド人のお客の姿が日本人として嬉しくて、最高の癒しになった。
[DVD(字幕)] 10点(2010-03-17 10:41:38)
5.  フィクサー(2007) 《ネタバレ》 
人物の相関図がほんとややこしくて、2度見てどういうドラマかやっと分かった。 だけど、アーサーの長々としたセリフが、かなりすごい。たくみに、狂人のたわごとに見せかけていながら、実は、恐ろしい事実をちゃんとしゃべっているという、このセリフマジック!「天才と狂人は紙一重」という真実を利用して仕掛けた伏線だったとは。一度全ての事情を完全に掴んでしまってから、つまり、アーサーは、「躁うつ病だった」という先入観を完全否定してから、改めて再度視聴すると、アーサーの全セリフが、面白いほどすらすらと解読できてしまう。この感覚は、急に暗号が解けて文章が解読できるというか、全く聞き取れなかった英語が、突然日本語になって耳の中に飛び込んでくるというか・・・・・・。と同時に、急にマイケルにイライラしてくる。「何て鈍いフィクサーだ、必死でアーサーが説明しているのに」と。(でも、最初は私も確かにマイケルと同じ立場だった) 一度先入観が解けてしまうと、二度とアーサーの支離滅裂ぶりを味わえない。一言一句、まともに聞こえてしまう。では、なぜ一度目の視聴のときに、彼の演技が本物の躁うつ病に見えたかというと、「彼はふだんから薬を処方されていた」という設定があったから。マイケルはしつこいほど、「薬を飲め」「薬を飲むのをやめるときは」と強調する。これは脚本家の巧みなテクだと思う。2度目の視聴ではっきり分かる。アーサーが自分で壁に書いていたように、彼は精神など病んでいない、と。それにしてもトム・ウィルキンソン、台本を見て卒倒しなかったろうか、そう状態でしゃべるセリフだから、饒舌になるのも無理ないけど、古畑任三郎どころじゃない早口で、何ページ分もの量を一気にしゃべる、あれは撮影も、声優さんも大変だったんじゃないかと。クルーニーの相槌のタイミングがちょっとでもずれてNGが出たとしたら、そのときのトムの落ち込みようが目に見える(笑)。また、この作品は二度失笑するシーンがあった。1つ目は、アーサーが「フル・モンティ」のジェラルドよろしくいきなり服を脱ぎ出したとき。2つめは、「オーシャンズ11」の時限爆弾のドジを彷彿させる殺し屋たちのミスで、クルーニー自身が命拾いをしたこと。(オーシャンズではクルーニーがドジったのだった)「フィクサー」はコメディではない、と言い聞かせながらも、つい笑ってしまった。
[DVD(字幕)] 10点(2009-09-28 23:59:32)(良:1票)
6.  パフューム/ある人殺しの物語 《ネタバレ》 
誕生から死まで『オーメン』のダミアンを見るようだった。自ら殺人を犯すまでもなく、主人公に関わる人間は皆ろくな死に方をしない。搾取する側の貪欲な人間として描かれているから、彼らの哀れな末路がいかにもエンターテインメント。また、主人公が職人気質を残酷なまでに貫き、最高傑作を制作後、虚無感に陥り自ら命を絶つさまは、芥川龍之介の『地獄変』と酷似している。けれどもグルヌイユの決定的な個性は、臭覚で得るもの以外は無関心であること。名誉欲、物欲、性欲、人を困らせて快感を得ようとも思わない。ラストでも香水の威力を確かめれば満足で、支配欲はない。これぞ究極の職人気質では。さらに絶世の美女より、匂いの初恋ともいうべきプラム売りの少女の方が、彼にとってはその死が重い。視覚で得る美は臭覚の美より下だからだ。ただ、殺害される前にローラが投げた眼差しの意味は大きい。彼女が見た侵入者の表情は極悪非道には見えず、しかし体は棍棒を振りあげている、そのギャップにぴんと来なかったというところか。グルヌイユのためらいは、無邪気で美しいものを壊す罪悪感を呼び起こしたことから来たものだ。退化した尾の名残として人間に尾骨があるように、無意識に人間らしい躊躇が脳裏をかすめたのだろう。その瞬間の表情を、グルヌイユ本人のではなく、ローラの顔が鏡のように表現しているのだ。媚薬の香水をかぎ、また人々の愛の享楽ぶりを見て、彼自身もプラム売りの少女から癒しを受けたいという気持ちにつながったのかも。グルヌイユの不幸は、欲してやまなかった至高の香水が決して心の渇きを癒すものではないと知ったこと。生甲斐を失った職人ほど哀れな者はいない。
[DVD(字幕)] 10点(2007-10-02 11:00:19)
7.  モンスター(2003) 《ネタバレ》 
自分を愛してくれる人のために、という一心から自己犠牲を払いつつ、善人をも殺さざるを得なかったアイリーンの胸の内には、すさまじい葛藤があったに違いない。極度の不安から短気になり、体を震わせ、体を縮めて泣きじゃくるモンスター。似顔絵を公開されてセルビーを解放する彼女が、たまらなく哀れだけれども立派だった。幼い弟たちを養った経験のある彼女だからこそ、ソウルメイトを手放す勇気が持てたのかもしれない。自己犠牲を払って他を救い、主人公が自滅するストーリーは、昔はドラマやアニメ、映画などいくらでもあったと思うけれども、久々にお目にかかった気がする。目が腫れあがるほど泣きました。
[DVD(字幕)] 10点(2007-07-15 23:01:55)(良:1票)
8.  息子のまなざし
音楽も、セリフも極端に絞られていて、どうしてこんなに彼ら(オリヴィエ・別れた妻・少年)の悲鳴がつんざくように聞こえるんだろう。しかも、視聴が終わった後でも、ずっと頭の中で響いている。
10点(2004-09-21 21:09:36)
9.  ファインディング・ニモ
お話も面白かったけど英語が楽しい! 中学生レベルの英会話にはうってつけかも。声優さんたち上手いの何の、キャラを見てるだけで体がリズミカルに揺れてきそうだった。早口の英語って、まるで音楽みたいだなあ。マーリンとドーリーのやりとりは日本の漫才ですね。大真面目と楽天家がコンビを組んだら、やることなすこと凸凹でおかしいったらありゃしない! ドーリーのくじら語「カムバアアック!」には涙が出た。・・・・・・ただニモがさらわれるシーンはたまらなかった。乱獲というよりあれは「拉致」。擬人化されてる物語なんだから。舞台は海だし、北朝鮮に拉致されていった人の辛さをこのシーンでびりびり感じてしまった・・・・・・。
10点(2004-02-10 16:49:01)
10.  フード・インク
 10年前に堤未果氏の『ルポ貧困大国アメリカ』を読んだとき、貧困者になぜ肥満体の人が多いのかを初めて知って衝撃を受けたことを思い出す。映画評論家の町山智浩氏の語るアメリカ事情にもこの手の話が絡むことがあり、もちろんこのドキュメンタリーを含め、問題の本質が異口同音で耳に入ってくると、さすがにアメリカの食事情の深刻さを信じないわけにいかない。この映画で一番ぞっとしたのは、食問題で集まった人たちを相手に、家族に糖尿病患者がいる人に挙手させていたところ。ほぼ全員が手をあげ、「2人いる人」「3人いる人」と質問が続くけれど、誰も手を下げない。鳥肌が立つほど恐ろしかった。いつのまに、この国は糖尿病大国になってしまっていたのだろう。欧米人はインスリンの分泌力が優れていて糖尿病になりにくい体質だと聞いていたのに、一家族に複数人もの患者がいるなど、とても信じられない。   大腸菌に汚染された食材が商品に紛れ込んでいたとしても、企業は謝罪しないどころか、声をあげる消費者を次々と告訴していくという。日本でもO-157感染で国中が大騒ぎになったことがあったが、被害を受けた限定消費者だけではなく、一般人もマスコミも社会をあげて感染経路の特定と予防対策を求めた。この一連の動きがどれほど正常な流れだったのかを改めて思い出した。  また、『インサイダー』『エリン・ブロコヴィッチ』『フィクサー』など、巨大企業を相手に国民の命を守るため戦う映画を何本も見たが、遺伝子組み換え大豆の話が本作で出てきたときは、真っ先に『ゴルゴ13』の「害虫戦争」を思い出して、これまたぞっとした。遺伝子組み換えとは、あくまで気象条件に耐え抜く強い作物を生み出すための技術だと思っていた。それでも何やら落ち着かないのに、人為的に作物の特性を、それも明確な方向性をもって遺伝子レベルで操作するなど冗談がすぎる。そんな物騒な話はコミック上にとどめておいてもらいたい。   思うに、資本主義、共産主義など諸々のイデオロギーを問わず、アメリカ、中国、ロシアなどの大国は、一国民の小さな声をいちいち拾い上げるには図体が大きすぎるのかもしれない。巨大な富と権力が集中する一握の輩が政経を動かしている以上、怪しい加工食品しか口にできない貧困層は、今後どうやって健康を維持していけるのだろう。それでも、声をあげようと活動している人たちの勇気と行動力に深く感動せずにいられない。
[インターネット(字幕)] 9点(2019-08-18 23:08:54)
11.  茄子 アンダルシアの夏 《ネタバレ》 
ドーピングに染まった女子チャンピオンが主人公の「レーサー/光と影」という映画を観たことがあるが、本作とを絶えず心のどこかで比較しながら鑑賞していた。ペペたちが追い込みに入ったシーンは、これが原作者の構成した架空のレースだと忘れそうになるほど、緊迫したすばらしい走りだった。ゴールを超えて各選手が息も絶え絶えに徐行している様子が爽やかで清々しい。放心状態の牛馬となり果てた者や、「やるだけのことはやった」としゃがれ声で漏らす者。彼らは姑息な手段を一切使わず、全力を出し切って戦った。そこには粘着質な嫉妬や悔しさ、怒りすらないように見える。ただ完全燃焼の疲労感あるのみで正しく無我の境地、ペペと言わずヘトヘトにくたびれた誰も彼もがカッコいい。「レーサー/光と影」もドーピングの恐怖が生々しく描かれ、それはそれで興味深く観たけれども、二度三度と見直したいと思うのは間違いなく「茄子~」の方だ。 カルメンが兄を選んだ悔しさ、哀しさをレースにぶつけたペペは、挫折を乗り越えた穏やかな表情をしていた。彼の精神的な成長を垣間見れる深いシーンで、濃密な時間の経過を感じさせる。巨大な牛の看板が裏向きになっていて最後まで表を見なかったのは、ペペの未知数な伸びしろを暗示している気がする。 最後に、ペペが小さな茄子をまるごと口に入れようとしたとき、何となく両目の入った小さなだるまのイメージがきた。つまり、何か1つ達成した証のようなもの。もしくは、辛い思い出の残る地元の名物。それをパクっと食べてしまう。この茄子はいろいろな読み方ができて面白い。その後、唐突に流れてきた忌野清志郎の調子っぱずれな歌がまた最高! 本当に面白かった。今まで見てこなかったのが悔やまれる。
[インターネット(邦画)] 9点(2019-08-12 00:29:36)
12.  ブタがいた教室 《ネタバレ》 
動物好きの小学生相手に、哺乳類に「名前をつけるな」というのは、まず無理なんじゃないかと。中学生でも無理な気がする。高校生なら、なんとか名前なしで、家畜としての哺乳類を世話できるかも。  ペットとして育ててしまった豚を、食べる、食べないと論争になってしまった。それでいいじゃないかと私は思う。もし家畜として育てたのなら、そもそもこんな論争になっていない。花火大会に豚を連れ出したりしないし、楽しい思い出をわざわざクラス単位で作る必要もない。教師だって、それを許さずに「餌やりと掃除だけしなさい」と命じなければならない。それで、本当に食育になるのだろうか。いや、食育以前の問題だと思う。「命」という概念を、これだけ真剣に子供たちが自発的に考えることができたのは、名前をつけて、愛情をかけて、一生懸命に育てたブタを、名づけ親である自分たちが、殺さなければならないから。このことの、何が間違っているのだろう。現実に、子供たちは、Pちゃんの命に責任を持つことで、命の重さ、尊さを、いやというほど学んだ。3年生に世話を委ねようとしたり、反対意見を言う相手に全身でぶつかっていったり、失敗、希望、挫折を、何度も何度も繰り返した。その悩みの深さ、出口の見えないしんどい思いを、半年近くも引きずってきた。社会人顔負けの悩みっぷりだ。その半年間で、彼らがどれほど精神的に成長したことか。ブタを飼育せずに過ごした無難な小学生ライフと比べて?  人や動物を問わず、救うことができない命があるという不条理な真実を、彼らは苦しみながらもしっかり学んだ。  また、Pちゃんがブタだったからよかったのだ。魚釣りでは、完全にエンターテインメントになってしまうし、ふだん私たちが食べない(食べる国もあるけれど)犬や猫なら、そもそも命を奪うわけにはいかない。人が食べる動物を、「可哀そうだ」と言って通らない残酷な世界があることに、子供たちは気づかなければならない。そこを乗り越えないと、感謝して命をいただき大切に生きる、ということが理解できないし、謙虚な心が生まれない。この作品では、どの子供たちもPちゃんの短い命を思って涙を流した。いっぱい泣いて、他者が受ける痛みを肌で感じて、子供たちは強くなればいい。
[インターネット(邦画)] 9点(2019-03-30 00:21:40)(良:1票)
13.  あなたになら言える秘密のこと 《ネタバレ》 
クロアチアの国情とはいいながら、この話はどの戦争でもあてはまる。国から無理やり出兵させられた男たちは、殺らねば殺られる戦いを前線で強いられ、精神を病んだ者が大勢出たと思われる。ハンナを始めとする女たちは、彼らの狂気を文字通り体中に浴びたのだ。ハンナは、「親友は自分とは正反対の性格の子」と言った。つまり惨事が起こる前までは、彼女は陽気で明るい笑顔をふりまく女の子だった、ということ。親友の名前が「ハンナ」なのだから。「(親友が)早く死ねるように祈った。彼女の悲鳴を数え、うめき声や痛みの深さを推し量った」という言葉から、ハンナが幽体離脱の感覚を味わっていたことがわかる。体を痛めつけられている間、狂気から逃れたい一心で意識が宙に浮いたのかもしれない。男女の別なくこうした人格破壊は、世界大戦を経た国の如何や時制を問わず、大量殺戮が行われる地なら当然のように起こり得るだろう。  ハンナが工場内で、リンゴとライスの味気ない昼食を取っているとき、彼女の背後の壁に、「健康への5ステップ」と書かれた栄養学の知識が掲示されている皮肉。また、彼女が海岸で海を眺めているとき、岸壁に「NO PARKING」とペイントされている。この「NO」という文字は偶然映像に入ったはずがない。生を拒否する彼女を強く暗示する演出だ。  ハンナがジョセフを受け入れたキー・センテンスは、「泳ぎを練習する」。このひと言は、とてつもなく深い。海上での労働者が泳げないといって、ハンナが初めて声をあげて笑ったシーンがあった。「泳げない」は彼女の唯一のツボ、そこをジョゼフはいく通りも意味を含めて見事に突いた。キスも、まず唇が重なるのではなく、互いの肌のぬくもりを確かめるように額や鼻が触れ合う。私は顔全体が重なるキスを見るといつも、どちらか一方、あるいは両者が深く傷ついているように感じてしまう。それほどに寂しく心に沁みとおるキスだ。2人が結ばれ、ハンナの架空の娘も、本物の子供ができてからは存在が希薄になりつつあるよう(完全に姿を消すことはないだろうが)。しかしこの症状は、統合失調症ではないのか。  ただ、この作品でひとつだけなかなか納得できないことがある。ハンナはなぜ、男性恐怖症にならなかったのか。看護師とはいえ、あんな目に遭わされれば男の股間など触るのも身の毛がよだつだろうに。ましてやジョセフは大男。この点だけはちょっと無理がある気がする。
[インターネット(字幕)] 9点(2019-03-28 00:22:06)
14.  バンク・ジョブ 《ネタバレ》 
うわ、これって本当に実話!? 舞台はロンドン、ベーカー街、地下を掘って銀行の金庫室へ・・・って、まるっきりシャーロック・ホームズの、ある作品に出てくるクレイ一味そっくり。 なによりすごいと思ったのが、三つ巴の思惑が絡んでいながら、刻々と変わる主人公たちの窮地がどういう状況なのか、もつれることなく手に取るようにわかること。全ての勢力がバランスよく引き合い押し合いしていて、その真ん中にテリー一味がいる。ここら辺の拮抗具合が妙にシェークスピアっぽい。イギリスが誇る2大文学のテイストが感じられて、うーんすごい、これ、本当に「イギリスで」あった話なんだと唸りつつ、かなり脚本が練られていると思った。  ただ、この作品に対する矛盾点が3つほど。 一味は素人集団かもしれないが、テリーの手腕はハンパじゃない。さすが元裏社会で生き抜いてきただけあって、どの勢力のプレッシャーにもつぶされることなく相手の弱みを鋭く突き、かえって有利な交換条件を相手側に呑ませるあたり、駆け引きがうまい。それに、緊急時に別の車を用意しておくなど隙がない。これだけ企画力があって、交渉術にたけ、リスク回避の勘どころも冴えている。臨機応変に動けて、ここぞというときの決断を下す度胸もある・・・・・・ビジネスマンとしては最高の人材だと思われる。しかるに、なぜ本業の中古車販売が繁昌しない? 表の仕事ちゃんとしろよ、テリー! それに、厄介な写真ネタを世間に公表しないための騒動が起こったというのに、今さら王女の実名をあげてエンターテインメントに仕上げるって・・・・・・どうなの? 薨去後に映画化しているから時効ってことかもしれないけれど、現代風にいうなら、完全にリベンジポルノでしょこれ? でも、その作品に9点も計上する私も私か・・・・・・
[インターネット(字幕)] 9点(2017-07-28 23:06:08)
15.  マザー・テレサ(2003) 《ネタバレ》 
冒頭の、混み合っている駅のホームで、誰にも看取られずに命尽きようとしている男性のそばに、マザーテレサがうずくまるシーン。そのとき、すっとカメラが引いて、周囲の人々が姿を消す。貧しい人に愛を注ぐのに、周囲の雑踏が全く目に入らなくなる、これが彼女の類まれな集中力。1人1人の頬を両手ではさみ、声をかけるマザーの慈愛のこもったしぐさは鳥肌ものだった。彼女が亡くなった当時、世界各国に散っていた元孤児たちが「マザー、マザー」と実母のように嘆き悲しんでいた報道を思い出す。 イギリスやスペイン等のキリスト教がらみの時代劇を観ると、宗教と国家権力がどろどろと癒着した残酷極まりないエピソードがいくらでも出てきて、そのたびぞっとさせられてきた。本来キリスト教は、貧しき隣人を愛せよと人類愛に満ちた教義で説くはず。それなのに、神に仕える神父や修道女が虐げられた人々に直接奉仕することが、どうしてこんなにも難しいのだろう。マザーが修道院を出て、自ら神の家を設立する過程を初めてこの映画で見て、そこからしてガツンと大きな衝撃を受けた。つまり、冒頭から私は驚かされっぱなしだった。真の意味で、神に自らを捧げている聖職者が、どれほど存在するのだろうか。 3ドルの水の価値に言及する彼女は、『シンドラーのリスト』で「これだけあれば○人救える」と人の命を金に換算して苦しむシンドラーの姿と重なる。神の鉛筆になる者の苦悩は凡人にははかりしれないが、彼らは何と尊い存在だろうと深く考えさせられた。
[インターネット(字幕)] 9点(2017-05-18 01:21:40)
16.  フラガール
日頃の入力生活がたたりドライアイのひりひり痛む目で鑑賞。泣ける映画はストレスの浄化作用に加えて二重にお得。
[DVD(邦画)] 9点(2014-11-10 20:49:12)
17.  once ダブリンの街角で 《ネタバレ》 
女性の 「マチガイが起こるかも」 の一言の重さに、そして男性との約束をすっぽかした行為に驚いた。よくぞ紙一重で耐えたなあ、と感動・・・・・・。この寸前で身を引く潔さは、「源氏物語」の空蝉のイメージが頭の隅にすっときた。男性がやけになって怒りもせずに、彼女にピアノをプレゼントするサプライズも心憎いばかり。あのとき女性が身を引いていればこそ、2人は泥沼化せずに美しい思い出だけを残すことができたのだ。そう思うと、恋愛のかけひきは、まさにギャンブルに等しい。どちらの方向に進めば何が待っているか知れたものではないということ。幸せになるためには、常に何かを犠牲にしなくてはならず、その犠牲を最小限にするにはどういう選択をすればいいのか、恋人たちはいつも答えを探しあぐねる。この物語では、CDが完成した時点で2人の別れは自然の流れになっただろう。別れてこそ、収録されている音楽の価値が希少性を帯びて上がるというもの。男女関係を続けて思い出がCDからはみ出るようでは、この映画の中の「CD」という小道具が活きてこないのだ。ほろ苦くて寂しいけれど・・・・・・。
[インターネット(字幕)] 9点(2014-09-28 22:46:13)(良:1票)
18.  告発のとき 《ネタバレ》 
戦友を殺害後空腹を満たすという話が出たとき、殺人後にカニを食べたというオウム真理教の犯罪を思い出した。遠い昔の事件でも類似の話が出たら瞬時に思い出すほどの強烈な異常性だ。 『プラトーン』を見て戦争がいかに人間性を破壊するかを、『理由』ではいかに先入観が恐ろしいかを、『戦火の勇気』では恐怖心を克服することの難しさを学んだ。この作品においては、それらを併せてさらに愛国心とは何かを深く考えさせられた。さまざまなテーマが詰まっているのにこれらが見事に融和している上、謎解きの意外さあり、トミー・リー・ジョーンズをはじめ各俳優陣の真に迫った自然な演技あり、これ以上ない国旗の演出で締めくくられたラストありと、圧倒されるばかりだった。この映画では、敵国であったイラクを悪く描かず、むしろ身内側の人道的な問題点を潔く世に問うている、その姿勢が素晴らしい。自国の愛国心を促すようなプロパガンダ映画は、どこか慈善的でざらついた妙な違和感が残ってしまうものだ。 
[DVD(字幕)] 9点(2014-02-27 11:22:11)
19.  フローズン・リバー 《ネタバレ》 
一方は車を盗み、一方は家に発砲する。激しくエゴをぶつけ合った女性2人が、いつか互いに自己犠牲を申し出て、単なる相棒だったはずの相手の窮地を救おうとする。奇跡を起こしたのは、凍った川の上で置き去りにされた1人の赤子だ。死んだと思われた赤子が生き返り、動き始めた。思えばあれが、ほろ苦くもささやかな希望をにじませるラストを暗示していたのかもしれない。生の原点は母性を激しく揺さぶるものだ。母性は、過酷な現実に追い詰められていてさえ、自分以外の人間に愛を与えられる力を持つ。その究極のエネルギーに深く感動させられた。 
[インターネット(字幕)] 9点(2012-01-10 00:03:24)
20.  007/カジノ・ロワイヤル(2006)
ボンドが「Mというのは」と切り出したところ、「それ以上続けたら殺すわよ」と言ったM。ボンドが彼女のプライベートの部屋を出入りし、彼女の叱責を感情的にならずに受け止め(むしろ叱られるのを望んで彼女の元へ戻るような気も)、「この仕事は早死にする」と甘えたことを言ったりし、危機に陥ればコンタクトを取り、「敬愛するM」と呼ぶ。MとはMotherの頭文字の意味もあるかも。それにしても、こんなに母性本能をくすぐられる007も初めて見た。
[DVD(字幕)] 9点(2009-04-12 11:23:26)
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