281. 汽車を見送る男
本日クロード・レインズ誕生日と言うことで鑑賞。 スカーレット・ストリート(1945)を彷彿させる内容。 哀れでやりきれなくさせられたエドワード・G・ロビンソンに対して、坂道をブレーキ壊れた10トントラックが爆走するかの如く暴走するクロード・レインズに別の意味で哀れでやりきれなくさせられました。 生真面目な顔、猜疑心溢れる顔、美女を前に締まりのない緩みきった顔、鬼の形相、狂ってしまった顔。 名優の名演を堪能させてもらえました。 ザ・性悪女と呼ぶべきミシェル演じるマルタ・トーレンの美貌と迫力が特筆もの(31歳早逝が何とも惜しい) マリウス・ゴーリング、ハーバート・ロム、アヌーク・エーメ(やっぱりお美しい)が脇を固め、短い尺ながら濃密な物語で、全編で流れる汽車疾走音・汽笛が耳に残ります。 輸入盤DVDで英語字幕しかなく、大体筋立ては分かるとは言え、何故警部が捜査しているのか分からないところを始めとしてやはりもどかしいものがありました。 [DVD(字幕なし「原語」)] 8点(2021-11-10 16:32:49) |
282. 悪魔の美しさ
「ファウスト」未読。覇権主義への皮肉な視線も垣間見えるなかなかに重苦しい話でありながら名優ミシェル・シモンの怪演に楽しませて貰えました。互角に渡り合う27歳ジェラール・フィリップは天才ぶりを改めて実感するところ。結末の肩透かし感が物足りないものの、見応えがあった夢の共演に大満足の作品。 [DVD(字幕)] 8点(2021-09-27 09:22:17) |
283. 母の身終い
《ネタバレ》 邦題が示す通り「究極の終活」が描かれています。 折り目正しい毎日を送る母と刑務所帰りのアラフィフ息子との確執の末の「愛してるよ」「僕もだよママ」はいけません。涙腺決壊。 身辺整理がなされていない散らかった家で独り死んでいる自分の姿を思い浮かべると彼女の身終いは見事だと感じるところです。 淡々として静かな展開ながら切れの良い場面の切り替わりと、人物の心情が滲み出る演出に魅入りました。 「愛されるために、ここにいる」のステファヌ・ブリゼ監督・脚本というのに「なるほど!」納得の秀作です。 [DVD(字幕)] 8点(2021-09-24 10:07:05) |
284. コーマ
手に汗握ったサスペンスの秀作。向こう見ずにも程があるスーザンにハラハラさせられ通しで、昏睡に陥るバッドエンドの予感にビクビクしていたので結末に大きなため息が出ました。陰謀の目的が金儲けのみなのか分かり辛いところに物足りなさがあります。お目当てリチャード・ウィドマークの枯れてしまった感のあるお姿が少し残念。美術関連スタッフの仕事ぶりに拍手、あの光景は夢に出てきそうで怖過ぎる。 [DVD(字幕)] 8点(2021-09-15 01:32:05) |
285. 帰ってきたヒトラー
《ネタバレ》 現代に蘇ったヒトラーが巻き起こすドタバタコメディかと思いきや。彼がその昔国民の支持をどうやって得たのか、並びに、「ジャーマン・シェパードとダックスフントを交配させたらジャーマン・シェパードじゃなくなる」に見る純血思想を窺い知る事が出来ます。彼を後押しするゲッペルスのようなテレビ局長と併せて移民問題に揺れる自国に警鐘を鳴らす作品で、セミドキュメンタリーの手法で街に繰り出し市民と語らい挙げ句に極右政党本部に乗り込み幹部に説教する製作陣の気概に驚きます。例のパロディシーンは不要に思えましたが、恐ろしさを笑いにまぶした秀作です。 [インターネット(字幕)] 8点(2021-08-24 10:37:44)(良:2票) |
286. 座頭市と用心棒
《ネタバレ》 共に男盛りの 勝新太郎 VS 三船敏郎 まさに夢の対決。「用心棒」未見なので何とも言えませんが、用心棒の口汚い俺様具合が若干鼻に付いたのが残念ではありますがツーショットはスタッフの緊張も伝わってくる凄いオーラ。よく練られたストーリーでの精鋭選りすぐりな脇役陣の熱演が二人に劣らず素晴らしい。その中でのMIPは滝沢修さん。重厚であり終盤での細川俊之との絡みで見せる鬼気迫る姿が忘れられない。勝敗は決してつけられない対決の落としどころも味わい深く余韻が残ります。「企画倒れに終わらせてなるものか」気迫溢れる名作です。 [DVD(邦画)] 8点(2021-08-09 02:16:14) |
287. プロフェッショナル(1981)
《ネタバレ》 オープニングでの哀愁漂う音楽は流石御大モリコーネ。早くもワクワク。アフリカの大統領暗殺に送り込まれた工作員(ベルモンド)が政情の変化により国に見捨てられ売り渡され拷問・強制労働につかされ2年後に脱獄し、裏切り者と大統領に対する復讐譚。カーチェイスが自身によるというのに、こんな事も出来るのか驚きの見せ場です。また花屋の演出が粋な決闘シーンも大きな見せ場。そして最大の見せ場ラストシーン、別バージョンもあったそうですが、断然コチラ。深い余韻を音楽が後押しします。ベルモンド魅力たっぷりの秀作です。 今作の100へぇは、最後に鬱憤を晴らしたかのような徹底した噛ませ犬警部補役が「ザ・バニシング 消失」(傑作)のベルナール=ピエール・ドナデューだった事です。 [DVD(字幕)] 8点(2021-08-05 22:59:19) |
288. ワールド・オブ・ライズ
《ネタバレ》 食べながら子守しながら指令を送るホフマン、無辜の建築家を死に追いやる手口、ヨルダン情報局が1枚上手だった。イギリス人監督のアメリカへの視線を感じます。(イギリスも似たり寄ったりですが)精悍な顔つきでのキレある身のこなしに魅入ったディカプリオ。ノーアクション&怒鳴らない静かさでありながら無限大の嫌らしさを好演するラッセル・クロウ、美味しいところを持っていった超絶カッコイイ!MIPマーク・ストロング。単なる絵空事アクションCIAものではなく、今この時も監視している事を思わされる見所満載な力作です。「嘘はつかない、約束は守る」虚しく響く彼等の世界が何というか・・・ため息が出ます。 [インターネット(字幕)] 8点(2021-07-26 03:58:15) |
289. 恐怖のまわり道
短い尺で少なそうな制作費($30,000だそうで 驚)でありながら、1992年にアメリカ国立フィルム登録簿にB級作として最初に登録されたというのも納得の秀作ノワール超掘出物であります。冒頭から結末まで目が離せずMIPアン・サヴェージ登場からはハラハラし通し。初めてお目にかかる女優さんですが、スーザン・ヘイワードを思わせる顔立ちでベティ・デイヴィスを凌ぐ悪女っぷりが素晴らしい。とってつけたようなラストショット(-1点)はヘイズコードによるものなのか、無粋なことです。 [インターネット(字幕)] 8点(2021-07-25 09:56:27) |
290. 夜の大統領
《ネタバレ》 ジェームズ・キャグニー誕生日ということで鑑賞。主演はエドワード・G・ロビンソン。ギャングものでなく、田舎で理髪店を営むギャンブラーの成功と転落が描かれた物語は、ジメジメするところが無く、二人の持ち味である台詞回し同様の小気味よい展開。ラストでのロビンソンの「裏切るより裏切られるほうがマシだよなぁ、転落してもまたやり直すさ」と言わんばかりのカラリとした笑顔はまさに千両役者。撮影当時キャグニーは格下で弟分としての脇役で出番も少なく見せ場もほんのわずかですが、ロビンソンに劣らぬオーラを放っているのは流石。 ワーナー大看板2人が唯一共演したお宝作品を堪能しました。 [DVD(字幕)] 8点(2021-07-17 03:07:07)(良:1票) |
291. ヘブンズ・アバーブ
《ネタバレ》 事務手続き間違いで派遣された牧師(ピーター・セラーズ)が巻き起こす大騒動。今作に於けるセラーズは深い信仰心に基づく人間離れした神のような人物を、持ち味である「いかがわしさ」を封印して演じており、その語り口に魅入ります。チョコッと笑わされはするものの、大部分が皮肉な視線がチクチク刺さる風刺劇。「福祉で生活出来るから働くなんて(アホらしい)」な意地汚いド腐れ外道ホームレス一族を筆頭に全員が見せる、信仰 < お金、過激な姿が・・ 間違ってはいないのでしょうが・・もうね・・ため息が出ます。 一律平等で、働く事が出来る人にも神の名の下に施しをする、ここが間違っていると思わされました。 ここまでズタズタにされても変わらぬ穏やかさを見せる牧師が切ない。意外過ぎる幕切れも味わい深い秀作です。 [DVD(字幕)] 8点(2021-07-12 14:18:57) |
292. 日日是好日
茶道の奥の深さに圧倒されます。素敵ですが敷居が高くてガサツな私には手が出ません。ただ、ガタガタゴチャゴチャ理屈こね回してマウント取り合い吠えたててヘンな湿疹が出てしまう身も心もカサカサに荒れた時にこそ、「考えずに感じる」ひとときを過ごすのが有効だと思わされた樹木希林さんの姿でした。この国が持つ潤いにも考えが及んだ秀作です。 [インターネット(邦画)] 8点(2021-07-07 23:51:21)(良:2票) |
293. 空から赤いバラ
鑑賞後の確認で、監督、脚本、撮影、タイトルデザイン、それぞれが超一流というのも納得の仕事ぶり。地中海を舞台に眩い健康美ラクエル・ウェルチ心憎い粋な台詞での全編に亘っての大活躍。彼女に絡むイケメン、ブサメン(失礼)、悪はどっちか最後まで判断がつかなかった二転三転四転五転・・・見応えたっぷりの展開結末。ルパン三世実写版のような痛快冒険アクションを芯から楽しめた快作であり傑作です。 [DVD(字幕)] 8点(2021-07-01 13:58:05) |
294. オーメン(1976)
《ネタバレ》 記憶に残る西川のりおのギャグ、今でもレジでの「666円です」に「オッ」反応してしまう本作ですが、この歳にして初見となりました。神と悪魔、母親が犬というところに違和感あるものの、格調高くドライでゴシックな雰囲気漂うホラーにダミアン君とグレゴリー・ペックが見事にマッチしており魅入ってしまいました。とりわけ最後の狂気と正気の狭間にあるグレゴリー・ペック絶品演技は流石名優。どうして棺が3つじゃないのだろうと思った途端のラストショットはポランスキー作品のようで本作一番の恐ろしさでありました。傑作です。 [DVD(字幕)] 8点(2021-06-26 15:28:08) |
295. スペシャリスト/自覚なき殺戮者
《ネタバレ》 アドルフ・アイヒマン裁判を記録したビデオテープ350時間を2時間に編集し、デジタル加工を施している部分もある作品。「ハンナ・アーレント」で感じたそこらへんの無責任社員の言い訳を見せられるのかとゲンナリ状態でしたが。2時間に亘る証言模様で弁護士機能不全孤立無援公開処刑状態の中、背筋伸ばして感情的にならず整然と淀みなく証言する姿は決してそこらへんの無責任社員では無く、ユダヤ人への憎悪無きSS随一の実務能力を持つ怪物に見えました。ハイドリッヒの執事のようなアイヒマン(スタンリー・トゥッチ)「謀議」が浮かぶヴァンゼー会議の件で、ユダヤ人の運命を知らなかったと言うのに血圧激上がり。又、住民の引き渡しを拒否して処刑されたユダヤ人評議会員も居るというのに、傍聴人が叫ぶ「言葉巧みに我々を安心させ自分の家族だけを収容所送りから救った」輩の悪びれない姿にも激憤。人間の価値観・本質を見せられ、更に、ヒトラー型リーダーに従うアイヒマン型部下について考えさせられました。良作です。 [DVD(字幕)] 8点(2021-06-25 02:12:48)(良:1票) |
296. 雨の午後の降霊祭
《ネタバレ》 降霊ものとアッテンボローの組み合わせでおどろおどろしさに身構えていましたが。まさかの展開で憤りともどさしさに支配された2時間でグッタリ。精神は病んでいても犯行計画は理詰めで的確なマイラと、幼女とその母親への気遣いを見せながらも犯行実行役のビリー。妻の暴走を食い止めようとしても言い負かされて押し切られる夫にもどかしさで身悶え。引き立て役にもなっていない捜査当局ももどかしい。誘拐幼女殺害シーンは描かれていません。自主規制したのかもしれません。私はビリーが殺害せず発見されやすいあの場所に寝かせたと思います。彼のクレイトン夫人をマイラ同様に悲しませてはならないとの思いと、マイラを絞首刑にさせはしない思いを感じました。マルチな映画人アッテンボローの役者としての絶品振りが記憶に刻まれる傑作です。 [DVD(字幕)] 8点(2021-06-14 16:17:40) |
297. 愛憎の曲
《ネタバレ》 クロード・レインズ、ベティ・デイヴィス、ポール・ヘンリード共演。作曲家・大指揮者・大富豪・美食家と彼の教え子であり愛人であるピアニストと彼女の昔の恋人で戦争で行方不明になったチェリストの三角関係大愛憎劇。誇り高く粋で気品に満ち満ちた体面を保ちながらこれ以上は無いと言える底意地悪さで二人に憎悪をぶつけるレインズ。単に情けない男も彼が演ずると肩入れしてしまうのは贔屓目なのでしょう。レストランオーダーシーンを始めとして流石のデイヴィスも呑まれています。 素っ頓狂で恐縮ですが、 昭和56年暮れのザ・シーク vs タイガー・ジェットシン一騎打ちが浮かびました。入場シーンからワクワクし、シンがあっという間に大流血させられ、初めて見た必死な形相で反撃し最後は勝利を収めるも、始終押されっぱなしで感じた格下感が信じられなかった記憶が残っています。 こんな二人の間に入ったポール・ヘンリードが負けじと熱演していますが、空回り感が強い浅い人物像で、レインズ完敗の結末も併せて残念なところです。しかしながら、同じく3人共演の「情熱の航路」での毒にも薬にもならないキャラとは違い、毒々しさが見応えたっぷりで、デトロイトの帝王ならぬ元祖無冠の帝王クロード・レインズの貫禄に魅入った秀作です。 [DVD(字幕)] 8点(2021-06-10 01:11:22) |
298. 女ガンマン・皆殺しのメロディ
《ネタバレ》 ラクエル・ウェルチ繋がりでの鑑賞。再生1秒後にさぞかしお色気溢れる無双な活躍を見せるのだろうと苦笑したのですが、続くクレジットでロバート・カルプ、アーネスト・ボーグナイン、ジャック・イーラム、クリストファー・リーに「ひょっとしたら、当たりかも」座り直しました。ハイエナのような3人兄弟に亭主を殺され犯され家を焼かれたハニーと賞金稼ぎトーマスの出会いから結末までの、殺しの理論と気構えと虚しさの実に丹念な描写は、ウエスタン復讐話では初めて見るもので、恨み骨髄の相手を呪い殺しは出来ず復讐するには力をつけなければならない事を実感させられました。MIPロバート・カルプのこれ程までの漢な姿を拝めたのは大収穫で、浜辺のウェルチを眺めるカルプを見るクリストファー・リーの人殺しの虚しさが胸に刺さるシーンが絶品。スティーヴン・ボイドのような(でした 驚)黒づくめがもう少しだけ話に絡んでくれれば(-1点)並びに3悪人にもう少しだけ知性があれば(-1点)歯痒いところですが、大当たりの快作でした。 [DVD(字幕)] 8点(2021-06-07 15:07:32)(良:1票) |
299. マルクス兄弟デパート騒動
ウットリ見惚れてしまった、力の入れ具合が半端ないミュージカルシーンとチコ&ハーポの演奏シーン、追いかけごっこを始めとした思わず吹き出してしまうシーンも多々有り。芯から楽しめた快作です。 [DVD(字幕)] 8点(2021-06-06 22:25:57) |
300. 大地(1937)
《ネタバレ》 名著原作未読。オスカー受賞異議無しのルイーゼ・ライナー演ずる女の一生が描かれています。夫に「大地はお前だった」と言わしめる土地に対する意地を貫き通した生き様をあの桃の木が表しているようで鳥肌が立ちました。ただ、野暮な事を言うようですが、乞食に身をやつしていたのが、内乱の最中宝石を拾った事をきっかけとして大地主への道を歩むのに、今で言えば宝くじ1等当選したようなもので何だかなぁとひっかかるところであります。 「民族の精神は底辺の人々の生活に、より顕著に表れる。この中国の農民の物語に見い出せるのは、中国の魂……つつましさと勇気、古い伝承と明日へのたゆまぬ努力である」冒頭の一文偽りなしな内容の昭和12年製力作です。 蝗害の恐怖が生々しい映像も桃の木同様に忘れ難い。 [DVD(字幕)] 8点(2021-05-29 00:59:53)(良:1票) |