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341.  アラビアのロレンス
「アラビアのロレンス」と言えばP・オトゥール。P・オトゥールと言えば「アラビアのロレンス」と言われるぐらい、他にも多くの作品に出演しているにも拘わらず印象が希薄なのも、彼がいかにこの作品で際立っていたかという証明でもある。彼もまたロレンスを演ずる為に生まれてきたような、そんな男のような気がする。とりわけ彼の端正な顔立ちとその美しい瞳。いかにも英国人らしいアクセントの喋り方などがその最たるもので、中でも酋長に衣裳を贈られ、砂漠でその白衣を纏い裾をひるがえして嬉々として舞い、ナルシズムを表現する姿が強烈だ。さらに映画史において、これほど全編に渡ってスケール感が突出している作品も珍しく、砂漠の雄大さ、美しさ、清潔さ、厳しさ、そして人間と自然との関わりあいをドラマの中で見事に融合させている。ロレンスが消したマッチの焔が、そのまま砂漠の真っ赤な空に変化する場面や、O・シャリフが馬に乗って陽炎漂う遥か彼方から登場し、初めてロレンスと出会う場面など、印象に残る名シーンは枚挙に遑がない。
10点(2002-06-30 17:35:26)(良:2票)
342.  旅情(1955)
イタリアを舞台にした束の間の大人の恋。広場に群れ飛ぶ鳩。夜空にくっきりと浮かぶ満月。波に揺れるゴンドラ。その思い出ひとつひとつを胸に刻もうとするヘップバーンの顔のなんと眩しく美しいことか。刺刺しいほどのオープニングと、ラストで見せる哀しくも穏やかな彼女の表情の変化が印象的だ。中年になって初めて知った燃えるような恋。果たせなかった恋にもかかわらず、人が人を想う優しさにふれ、彼女にとっての終生の思い出を胸に、新たな人生の旅立ちを予感させる幕切れの鮮やかな事。人間の情感というものをこれほど切なく描いた作品も滅多にお目にかかれるものではなく、D・リーン監督作品の中でも最も好きな、これぞ珠玉の名作。
10点(2002-06-30 15:47:31)(良:2票)
343.  少林サッカー
CGで映像表現できる利点を最大限に生かしきり、見事(?)なまでの劇画チックな作品に仕立てたチャウ・シンチーの、その些かの照れもない潔い姿勢と堂々たる志は、万人に拍手をもって迎えられたのも頷ける。それにしても近頃これほど笑わせてくれた作品は記憶にないが、日本の映画関係者はこれを観て笑ってばかりもいられないのでは・・・。
8点(2002-06-30 14:46:11)
344.  スパイダーマン(2002)
超低予算映画でその名を知らしめたS・ライミ監督としては、この超高額予算映画はいかにも不似合いで居心地悪そうに映る。金が掛っていても掛っていないように見せることにも才能のある人かも知れない。だいたいコミックブックからして、そのスケール感など微塵も感じないではないか。そしてそんな予算などとは関係なく、むしろ意外なほどキチンとした人間・青春ドラマになっていることに、一種の驚きと爽快感を覚える。T・マグワイアの特徴のある眼の演技が存分に生かされ、彼の言うに言えない気持ちは十分に伝わるし、そして彼女の唇に残っている微かなキスの感触が暗示的なこのエンディングには、切ないまでの情感が溢れている。たった一度だけTVスポットで見た、遠景の世界貿易センタービルにクモの巣を張った逆光のショットが、諸般の事情でやむなくカットされたのが何とも残念。あと、「大いなる力には、大いなる責任が伴う」の名セリフを吐いたC・ロバートソンの元気な姿が嬉しかった。
9点(2002-06-30 14:20:30)
345.  ロード・オブ・ザ・リング
とてつもなく膨大でイマジネーションの洪水とも言われる原作を、よくぞここまで映像化に成功したもので、まさしく現代テクノロジーの成せる技。ここにきてこの原作に見合うSFXの発達がようやく映像化を可能とし、その完成度の高さは堂々たるもので風格すら漂わせる。これがやはり只事ではない作品でそして好感が持てるのは、例えば某宇宙SFシリーズのような、これ見よがしの騒々しいだけで纏まりのないSFXと違って、映像効果的にはむしろ必要最小限ですらあり、しっかりと地に足がついた、そして節度を持った、さらに万人に納得させるだけの映像に説得力があるからに他ならない。ジャンルとしては冒険モノ+武勇伝モノといったところだが、一種の友情モノとしても実に良く出来ている。
9点(2002-06-24 00:13:00)
346.  アザーズ
本来なら恐怖を煽る常套手段として、夜中に雷鳴を轟かせるといった効果が典型的な例として挙げられるのだけれど、昼間の窓から射す光によってその恐怖感を出すという手法は、まさにこの作品のモチーフである、“逆転の発想”そのものだ。それにしても、窓にカーテンがないことで強烈なサスペンスを演出した映画って、おそらくこれが初めてなんじゃないかな。結末を悟られまいと、子供たちが光アレルギーだという設定にしたのも、トリックとしては実に巧妙だし、自分たちが死んでいることを自覚していない、浮遊霊たちの哀しみも十分に伝わってきて、実にクオリティの高い作品だと思う。スペインに天才多しだが、アメナーバル監督もまさしくその一人だと印象づけられた。個人的にはこういうタイプの作品は、あまり詮索しないで観たほうが楽しめるのでは・・・と思うのだが。
8点(2002-06-22 23:39:10)(良:2票)
347.  突入せよ! あさま山荘事件
長野県警と警視庁本部との衝突・軋轢・面子争いといった内部対立や、言葉の解釈の行き違いなどで起きる混乱ぶりといった、不慣れな事への懸命さの空回りといった、当時、恐らく実際にそうであっただろう事を、原田真人監督によって迫真力をもって克明に描ききった力作となっている。今、こういった群像劇を撮らせたら、おそらく彼の右に出る者はいないだろう。それほど極限状況下に置かれた男たちの、まさにその瞬間に生きているという生々しさは、まさに実録だからこそのリアリティを感じる。
7点(2002-06-21 00:42:12)
348.  パニック・ルーム
この作品を観て最初に連想したのは、ヘップバーンの「暗くなるまで待って」。アクション色が強くなった後半では、やや小粒の「ダイハード」ってとこだろうか。それ以外にも連想する作品はあるにはあったが、それはあくまで連想だけの事で、言わんとしているのは、夫と別れて娘と二人で自立していくには、女は斯くあるべしといった教訓だろうか。それにしてもコソ泥たちに比べて、J・フォスターの頭の良さ・行動力・強靭さはどうよ。これぞまさしく“女マクレーン刑事”!いやそこまでいかなくとも、引退して家庭の主婦になった“クラリス”そのものではないか。これでは、はなから勝負にならずサスペンス映画としては余りにも弱い。彼女だからこの程度で済んだのだが、もしS・ウィーバーだったら、全員皆殺しにされていたかも(笑)。しかし女の強さばかり強調されているようだが、微かな犯罪の匂いを感じとり駆けつけた元夫や警察隊、最後はたぶんそういう行動に出るだろうと誰しもが予測できるF・ウイティカーの存在など、頼れるべき男性像をもきっちりと押さえている点、演出に抜かりがない。こだわりのオープニング・タイトルは、今回もお見事!
7点(2002-06-21 00:13:43)
349.  ハッシュ!
この作品の面白いところは、あるゲイ・カップルを通して、その対極にある女たちとを対比させていくことによって、男や女を超越した、今までとは違ったまったく新しい生き方の可能性を示したことにある。彼等の部屋は隅々までキチンと整理されていて、それだけで彼等というものが解かろうというもので、また女性に対して妙に優しかったりするものだから、誤解を招いて右往左往してしまう。これは自分の性癖を悟られないためのカムフラージュであるのと同時に、自分がゲイであることを認めたくないという気持ちがどこかにあって、彼等のそういう気分を橋口監督が実に巧みに説得力をもって描いている。このひたすら女性的で優しい彼等に対し、女たちは威勢がよく行動的な反面、なんと身勝手でだらしないことか。コミカルに流れていく中、終盤、唯一血を分けた兄の突然の死に直面し、猛烈な孤独という現実に慟哭するシーンに、作者の深い思い入れを感じた。
8点(2002-06-17 00:56:00)
350.  ザ・ワン
「マトリックス2」への出演以来を断ってまで本作に拘っただけの成果があったのだろうか。期待していたのは“125人のJ・リー”とやらの一大バトルだったのに、肝心のその部分はストーリー上で語られるだけで(要するに映画的には既に決着済みで)結局最後の“もう一人のJ・リー”と闘うことだけに焦点が充てられるという、見事に肩透かしを喰らってしまった。それならそれでもう少しストーリーに工夫やヒネリがあってもよさそうなものなのに・・・。これでは所詮、普通のアクション映画(どこかで見たような)の域を一歩も出ていないではないか。
6点(2002-06-14 23:29:22)
351.  活きる
栄枯盛衰。一日たてば立場が逆転してしまうという、なにが起きても不思議ではない時代。映画はそういう激動の中国を舞台に、時代に翻弄されながらも尚且つ逞しく生きていく、どこにでもいそうなある家族の姿を中心に描いていく。次々と襲いかかる運命の悪戯。中でも「人の死」は身内や旧知の間柄の区別なく、実に唐突で呆気なく描かれていく。それは人生の流れの中のほんのひとコマに過ぎないとでも言いたげだ。象徴的なのは、娘のお産の一見ユーモラスでありながら結果的にはなんとも皮肉でブラックなエピソードが強烈で、まさしくこの時代が生んだ悲劇だと言える。それでも彼らは決して運命に逆らわず、むしろ甘受しているようでもある。そして終始、彼らの生活ぶりを克明に描いているという意味では「生きる」ではなく、やはり「活きる」というタイトルに大いに納得してしまう。数奇な運命を経て、それでもこれからも幾多のことがあって人生というものが流れていくということを暗示したラストに、爽やかな余韻を残して映画は終わる。ひたすら正攻法で丁寧に、そして少しも深刻ぶらず決してユーモアを忘れない。こういう作品を撮らせたらチャン・イーモウ監督のまさに独壇場だと言っていい。
9点(2002-06-14 00:53:28)(良:2票)
352.  ミニミニ大作戦(1969)
クインシー・ジョーンズの甘美なメロディが流れるオープニングから一転して、想像もつかないような過激な展開で、我々観客は画面にくぎ付けになってしまう。ストーリーは金塊を強奪したイギリスの強盗団と、それをイタリア警察と別のギャング組織が追っかけるという、よくある話。ただ、この作品の凄いところは、まだ“カーチェイス”という言葉すらなかったこの時代に一切のトリックなしで、車(ミニ・クーパー)を実際にビルとビルの間を飛び越えさせたり、下水管の中を走行させたりと、かなり大胆で画期的なことをやってのけたことにある。交通渋滞の難所と言われるトリノの街中を、そして迷路のような石段を駆け降りるといったアクロバティックなシーンは後年、日本の車のCFでパロディになったほどで、まさにこういったジャンルの先駆的作品だったと言える。まんまと大型バスに乗り換えてアルプス越えを計った彼らを待ち受けていた皮肉なオチに、当然続編を期待したのだけれど・・・。唯一その点だけ不満が残っている。
8点(2002-06-09 16:21:01)
353.  ファイナル・デスティネーション
この映画を観ていて、例えば地震や火災で災難に遭うという事は、それらの現象そのものよりも、その影響で生じる建物の倒壊や密閉状態で脱出不能といった、いわゆる物理的な作用によるものだと言うことを改めて感じた次第で、そういう意味で本作は、まるで科学の実験を見ているかのような(一見、理に適ったように)、見えざる力により物理的・偶発的に殺されていく過程がなんとも丁寧に描かれていて、その部分がこの作品の唯一興味深くて面白い点だろう。
6点(2002-06-07 23:40:19)
354.  タイム・マシン/80万年後の世界へ
「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のスポーツカー型タイムマシンとは違い、その位置を動かない極めてオーソドックスな固定型のマシーンだけに、時空を越える瞬間がいかにも解説的で実に分かりやすくて説得力がある。原作は読んだことはないが、おそらく忠実に視覚映像化したその部分においては、一応の成功をみせているのではないだろうか。とりわけマシーンに乗った主人公の周囲だけが光速で変化していく様(例えば太陽と月とが交互にぐるぐる回転していく様子や、或いは洋品店のショーウインドウに飾ってある服のファッションの変わりよう等々)を、フイルムのコマ落としによる手法で表現した視覚効果は、当時としては斬新でありスリリングでさえあった。ただストーリーそのものは、かなり陳腐な内容だったように記憶している。
7点(2002-05-24 23:23:32)
355.  ブラックホーク・ダウン
“戦場映画”という触れ込みだけあって、それはそれは視覚的に良く出来ている作品で、その臨場感たるや、我々観客ともども戦地に放り込まれたような感覚に陥るほど。しかし要はそれだけのこと。ブラック・ホークが撃墜されたあと市民が次々と襲いかかるシーンなどは、「アラモの砦」でのインディアンのそれと酷似していて、アメリカ映画お得意の伝統ともとれるが、それら全編に渡る戦闘シーンは、凄まじさを通り越して滑稽ですらあるのは、そもそもわざわざ敵陣にやってきて絶望的な戦いを強いられる破目になったのも、相手を見くびった事に拠る米軍の傲慢さに他ならないからだ。「俺が死んだら妻や子に、勇敢に戦ったということを伝えてくれ・・・」「自分で言えばいいだろぅ」という戦争映画お定まりのセリフを用意するあたり、本作を見る限り被害者意識だけは十分だが、作戦の失敗の本質がなんら見えてこない。
6点(2002-05-19 16:30:15)(良:1票)
356.  地底探険
冒険モノのジャンルの中でも文字通り地底を舞台にした本格的な作品というのは、本作以外にはほとんど作られていないような気がする。地熱の影響からか、巨大に成長したキノコや植物の煌びやかさ。トカゲを大きくしたような恐竜たちの生き残りが襲いかかる戦慄。さらに地の底の闇に美しく花びらのように広がる波紋の神秘性。壁の一部を削り採ったところが徐々に崩れていき、大洪水に見舞われるというスリル。やがて遭遇した地底での大海原とその向こうに輝くもう一つの太陽という摩訶不思議な体験。そして、火山のマグマの噴出を利用した奇想天外な脱出のクライマックスまで、視覚効果満点、アイデア満載で一気呵成に観せてくれる。未知の神秘な世界に対する憧れと冒険心、そして夢とロマンを存分に叶えてくれたという意味でも、映画史において稀有な作品だったと言える。
8点(2002-05-19 15:40:36)(良:1票)
357.  クール・ランニング
南国のジャマイカ人が冬季オリンピックに選手として出場する為に、奮闘するというお話。単なるカルチャーショックだけを描いているのではなく、彼らもやはり他の国の選手と同様に悩みや苦労があるのだと言うことを、コミカルではあるものの実に真面目に丁寧に描いている点には好感が持てる。真夏のラフなスタイルで空港から一歩出た彼らを待ち受けていたのが猛吹雪という、未だかつて遭遇したことのない事と、彼らの行く末をカメラの横移動だけで的確に表現したシーンは秀逸。
7点(2002-05-16 14:48:15)
358.  恐怖の報酬(1977)
オリジナルが世界映画史に残る傑作だけに、リメイクに挑戦するには相当の覚悟とプレッシャーがあったに違いない。そういう意味では、名作に果敢に挑戦したフリードキンの意気込みが十分感じとれる作品とはなっているが、如何せん、登場人物たち個々の描き方にはどうしても物足らなさを覚えてしまう。さらに重要ポイントでもある豪雨による濁流の中、今にも落ちそうな吊り橋を渡るシーンも、視覚的には実に効果満点だが、いくらなんでもあれだけ揺れたらニトロの影響は避けられまい・・・と思うのだが。ビデオに完全版が出ていたとは全く知らなかったが、ここではあくまでも劇場公開されたものを批評した。
7点(2002-05-12 17:20:40)
359.  恐怖の報酬(1953)
「その爆風は、燃え盛る炎をも一瞬にして消し去ってしまう。」ニトログリセリンというものを、これほど端的にそしてその威力がいかにもの凄いかを強調した表現はない。そこがこの映画の着眼点の素晴らしいところで、観客はまさに髪の毛が逆立つほどの恐怖を体感させられる。すべては「恐怖の報酬」から始まった・・・と言えるほど、まさに“スリルとサスペンス”の原点であり、ハリウッド映画とはひと味もふた味も違う、フランス映画だからこその人間描写の深みは、今日に於いてもアメリカ映画のかなわない点だろう。この世紀・世代を超越した傑作に満点の評価をつけることに、些かの躊躇もない。それほど良く出来た作品だった。
10点(2002-05-12 16:57:31)(良:1票)
360.  新・黄金の七人=7×7
「黄金の七人」シリーズ中、個人的には本作が一番のお気に入り。ブレイン以外、前2作からがらっとメンバーを代えての今回の作戦は、英国を舞台に監獄にいる事をアリバイにして、本物のお札をこれも本物の英立造幣局で堂々と刷ろうと計画するお話。メンバー以外に心臓発作の持病を持つサムという男を道連れにしたばっかりに、予想外のピンチに見舞われるエピソードが実にユーモラスに展開していく。英国人がサッカーに熱中することを巧みに利用したり、監視モニターの映像をすり変えたりと、後年この種の犯罪モノの定番の基礎ともなった作品。コミカルで泥臭さくスマートさに欠けるが、それだけ余計親しみの湧く作品だったと言える。
8点(2002-05-09 23:48:05)
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