361. 少年H
《ネタバレ》 映画化に少し今更感があるが、90年代末期に話題になった妹尾河童の自伝的小説が原作。戦時中のカトリックの家族が描かれた映画ということで「この子を残して」のような堅苦しくてとっつきにくい映画かと思っていたが、そうでもなくすんなりと見れる無難な反戦映画という印象。戦争という激動の時代を一人の少年の目を通して分かりやすく描いており、降旗康男監督の演出もそつなく丁寧。肇の父(水谷豊)がやたら先見性のある人物に描かれていてやや不自然な気もするが、ひょっとしたら当時本当にこういう人がいてもおかしくはないと思える程度の描写で、お前は未来人かとツッコミを入れるほどの違和感は感じなかった。鬼教官だった男が戦後になって態度が豹変し、質屋になるというのも終戦直後のあの時代ならば普通のことだったのだろうと思わされる。ただ、演じているのがお笑い芸人の原田泰造なのでどうしてもコントっぽく見えてしまい、つい笑いそうになってしまった。この役にお笑い芸人は使わないほうが良かったのではないか。その他、戦争が終わったことで突然世の中が変わってしまったことに対する肇の怒りももう少し掘り下げて描くべきだったと思う。「火垂るの墓」を思い出すような神戸空襲のシーンで父親のミシンを運び出そうとするシーンは感動させようというのが見え見えで少々冷めてしまった。でも、その後の焼け野原と化した町に立った父親の無常感はよく表現できていたと思う。最近では世間的には「相棒」の杉下右京のイメージが強い水谷豊なのだが、あまり「相棒」を見たことがないせいか、ハマっている云々は別にして特定の先入観なくこの父親役を見れたのも良かった。リアル夫婦の夫婦役共演もさほど変な感じはない。ただ、映画として全体的に考えてみるとドラマとしての物足りなさや中途半端さを感じてしまうのも事実で、もう少し深みがほしかったところか。しかし、子供向けの教材戦争映画としてはこれくらいがちょうどいいのかもしれない。最後に、あまり好きな監督というわけではないのだが、本作が高倉健という相棒を失った降旗監督の遺作にならないことを願う。 [DVD(邦画)] 5点(2015-08-20 23:18:34)(良:1票) |
362. 清須会議
《ネタバレ》 歴史マニアでもある三谷幸喜監督が織田信長が死んだあとにその跡目をめぐって行われた評定である清須会議を題材に執筆した小説を自ら映画化した時代劇。いつものコメディー調は控えめで、実在の人物(かなりデフォルメされてはいるが。)を登場させ、真面目に歴史の一幕を描いているのがこれまでの三谷監督の映画と比べれば異色な感じがするが、会議をめぐる駆け引きなどがうまく描かれていて、そのあたりは面白い。しかし、それゆえに三谷監督が本来得意とするコメディー部分が足を引っ張っていて、そのおかげでかなり間延びした印象がある。とくに旗取り大会のシーンは笑わせようという意図があるのは分かるのだが、なかったほうが良かった気がするし、会議終了後にもダラダラと映画が続くのは前作「ステキな金縛り」以上のくどさを感じる。もっと清須会議だけに的を絞ったほうがドラマとして面白くなったのではないかと思うのだが。でも、三谷監督の映画では恒例となっている前作の登場人物の登場は今回は更科六兵衛(西田敏行)で、これまでは若干の違和感を感じてしまうこともあったが、これは時代劇であるせいかこれまででいちばん違和感がなかった。いつも豪華な面々が登場するわりに印象に残るキャストが少ない三谷監督の映画だが、昔からの常連のひとりである鈴木京香演じるお市の方はなかなかはまっていたし、松姫(剛力彩芽)と寧(中谷美紀)が言葉を交わし、松姫が金平糖を食べるシーンも印象的で、代表作になるというほどではないが、女優陣はけっこう印象に残る。それにしても秀吉(大泉洋)の軍師である黒田官兵衛を寺島進が演じているが、去年のNHK大河ドラマ「軍師官兵衛」をちょっとでも見ているとやはりこの役は岡田准一のほうが良かったかもとか、印象はまるで違うんだけど中谷美紀は秀吉の妻じゃなくて官兵衛の妻だよなと思えてくるのは仕方ないか。 [DVD(邦画)] 6点(2015-08-13 15:22:28) |
363. 夕やけ雲
《ネタバレ》 木下恵介監督が自身の妹でもある楠田芳子の脚本を得て手がけた青春映画。主人公の青年が数年前の出来事を回想する形式で、青年の過ぎ去りし日の思い出を描いているが、いかにも木下監督らしい抒情にあふれた佳作となっている。父(東野英治郎)の死や親戚の家にもらわれていく妹、そして望遠鏡でのぞいていた少女や親友ら主人公の大切な周囲の人々との別れや、夢を持ちながらもそれをあきらめ家業の魚屋を継ぐ青年の姿が切々と描かれており、人間が生きていくためにはいろんな別れや時としては自分の夢も捨てなければいけないという人生の厳しさ、そういうものがリアリティーを持ってこちらの胸に迫ってくるのだ。中でも妹との別れのシーンで、いったん帰りかけた青年が引き返し、「必ず迎えにいくからな!」という言葉をかけるところは思わず泣かされた。青年の姉(久我美子)の夫の電話に出た後に倒れた父親の死ぬシーンを直接的には描いていないのもいい。北海道に旅立っていく親友との別れも二人の友情の深さを感じられるような丁寧な演出が良かった。この二人の関係を同性愛的な描き方と評しているものもあるようなのだが、そうは感じなかった。出演者に目をやると青年を演じる田中晋二と彼が望遠鏡でのぞく先にいる病弱な少女役の有田紀子は未見だが木下監督の代表作の一本である「野菊の如き君なりき」の主演コンビというある意味ではお遊び的なキャスティング、それに「女の園」で高峰秀子の恋人役として出演していた田村高廣が本作ではその共演者のひとりである久我美子の恋人役というのが面白い。それにしても木下監督は自身で脚本も手掛けることのほうが多い監督だが、新藤兼人監督が脚本を手がけた「お嬢さん乾杯」しかり、ほかの脚本家から提供を受けた作品でもきちんと良作を作れる監督なんだとこれを見て思う。そういえば本作は監督と脚本に加え、音楽(木下忠司)も撮影(楠田芳子の夫である楠田浩之)も木下監督の親類縁者だ。 [DVD(邦画)] 7点(2015-08-07 01:01:25) |
364. 遠い雲
木下恵介監督が「二十四の瞳」の次回作として手がけた恋愛映画。高峰秀子扮する未亡人と彼女を想う義弟(佐田啓二)、そして未亡人のかつての恋人(田村高廣)との関係というともすればドロドロの恋愛劇になってしまいそうなところをそうはせずに逆に味わい深く描いているのが木下監督らしい。ただ、「二十四の瞳」という名作の次回作ということもあるのか、話そのものは平凡な印象で、映画としても凡作という感じ。でも、ラストシーンはけっこう良かった。ヒロインを演じる高峰秀子は先週見た「名もなく貧しく美しく」でも素晴らしい演技を見せていたが、こういう役を演じていても見事にハマっていて、やはりものすごい名女優であると感じさせてくれる。そういう意味で本作は高峰秀子を見るための映画なのだと思う。木下監督と共に脚本としてクレジットされている松山善三と高峰秀子はこの年に結婚した。この二人はこの後、脚本家と女優としても、監督と女優としても数々の映画でコンビを組んでいくことになるのだなあ。 [DVD(邦画)] 6点(2015-07-31 20:34:14) |
365. 名もなく貧しく美しく
《ネタバレ》 聾唖者夫婦の十数年間の人生を描いた松山善三監督のデビュー作。こういう映画はつい身構えて見てしまうのだが、松山監督が助監督をつとめていた木下恵介監督からの影響も見られる年代記もので、聾唖者(に限らず障害者)が世の中で生きていくとはどういうことかということがよく描かれていて、最後まで素直な気持ちで見ることができた。産まれてくる子供が聾唖者だったらという不安、妊娠したことを母親(原泉)に笑顔で報告に行った秋子(高峰秀子)が母親から出産を反対される辛さ、産まれてきた子供を聾唖者であるがゆえに事故死させてしまった辛さ、次に産まれてきた子供である一郎(島津雅彦)から聾唖者であるがゆえに避けられてしまう辛さ、耳が聴こえたらという秋子の苦悩、そしていわれのない差別。そういう辛さが見ている側であるこちらにもじゅうぶんに伝わってきて主人公夫婦につい感情移入させられてしまうし、そんな中でも二人で力を合わせて生きていこうというこの夫婦の生き方は本当に美しく、勇気づけられる。「私たちは一人では生きていけません。お互い助け合って普通の人に負けないように生きていきましょう。」という秋子のセリフにも心打たれた。既に書かれている方もおられるが、弟(沼田曜一)にミシンを持っていかれ、失意のうちに自殺を考え、家を飛び出して電車に乗った秋子を道夫(小林桂樹)が追いかけ、車両の窓越しに手話で説得するシーンは本当に名シーンで、道夫が秋子に言われた言葉を今度は秋子に言って説得するのが泣けるし、このセリフにあらためて「人はひとりでは生きていけない」ということを考えさせられた。松山監督の代表作ともされている映画だが、ハンディを持っているからといってけっして特別な人間(←こういう表現は個人的にはきらいだ。)などではなくたとえハンディを持っていてもそれ以外は普通の人間と変わらないのだという松山監督のメッセージのようなものが感じ取ることができて良かった。賛否両論ある秋子が交通事故死するラストだけは安直なお涙頂戴に走った気がしないでもなく、普通にハッピーエンドでも良かったような気がするが、(でも、意図としては分からないではない。)それでも本作は紛れもない名画で、本当に見て良かったと心から思える映画だったと思う。また、昭和36年というまだ今よりも障害者への理解が進んでいないと思われる時代に作られたことも評価したい。 [DVD(邦画)] 8点(2015-07-24 01:52:31)(良:1票) |
366. Wの悲劇
《ネタバレ》 原作は推理モノらしい(未読)のだが、本作は原作のストーリーを主人公・三田静香が研究生として所属する劇団の舞台劇として表現し、メインストーリーは研究生の静香が女優へと成長していく青春ドラマとなっているというのが非常に大胆。静香の年齢を当時の薬師丸ひろ子本人と同じ二十歳に設定することによって役柄と実際に演じる女優をダブらせているのが見事で、薬師丸ひろ子のアイドル時代の出演作は何本か見ているが、本作で三田静香を演じる薬師丸ひろ子はそれらとは違う印象を残していて、とくにラストシーンの静香からはもう映画の役柄とかは無関係に、これからはアイドルとしてではなく、本格的な女優としてやっていこうという薬師丸ひろ子本人の決意のようなものが感じられて、映画と現実をシンクロさせたようなこの配役は成功していると思うし、このラストシーン自体も素晴らしい。本作は紛れもない薬師丸ひろ子の代表作といえるだろう。(以前、何かのインタビューで薬師丸ひろ子が自身の出演作で忘れられない作品として「セーラー服と機関銃」とともに本作を挙げていたが、本作で静香を演じている間はそうとう苦しかったのではないかと思う。)劇中劇として登場する舞台「Wの悲劇」は、劇中にも本人がモデルと思しき演出家役で登場する蜷川幸雄が監修した本格的なもので、劇中劇という扱いなのが勿体ないと感じるほど作り込まれていて、つい最初から最後までこの舞台を見ていたいと思ってしまうほど。(この舞台で刑事役を演じている三田村邦彦演じる五代を見て「危険な女たち」を思い出してしまった。)舞台のストーリー展開と演じる側のドラマが二重構造になっている点も凝っていて、ドラマとしても見ごたえがあるものになっている。そして忘れてはならないのが自分のスキャンダルの身代わりになる代償として舞台の主役を菊池かおり(高木美保)から静香に交代させる大女優・羽鳥翔役の三田佳子の悪女ぶりもすごくハマっていて、苦手な女優なのだが、静香に話を持ちかける長回しのシーンなどはこの人が演じるからこそ出せる迫力というのが確かにあって、印象に残る名シーンとなっている。本作は先ほど書いた薬師丸ひろ子の代表作であると同時に三田佳子の代表作でもあると思う。とはいえ今見ると、「私生活と舞台となんの関係があるの?」という翔のセリフはこの映画の数十年後に次男が逮捕され、それがスキャンダル化して干された三田佳子本人の本音のような気がしてしまう。劇中劇の舞台をもっと見ていたかったのと、後半が少し駆け足気味に感じたのでもっと上映時間が長くても良かったのではと思ったので少し低めの点数にするが、映画としてはじゅうぶんに面白く、今まで見た角川アイドル映画の中でも傑作のひとつと言える映画だと思う。 [DVD(邦画)] 7点(2015-07-18 17:20:30)(良:1票) |
367. 早春物語
《ネタバレ》 原田知世主演の角川アイドル映画の一本。17歳のヒロイン(原田知世)と42歳の独身中年男(林隆三)との恋を描いていて、アイドル映画としてはかなり内容が大胆だが、その大胆さも角川映画らしいと思えば納得がいく。しかし、脚本はグチャグチャで、ドラマとしては面白くもなんともないし、感情移入のしようもない。ヒロイン役の原田知世に対して相手役が林隆三というのはあまりにも濃すぎでこの二人のラブシーンもドキドキするというより、ただただ気色悪いだけで、ラストの空港での林隆三が原田知世に告白するシーンも本当に本心とは思えなかった。それに原田知世の魅力もあまり感じられなかったのも残念だった。ただ、澤井信一郎監督の演出は丁寧で、印象に残るシーンもいくつかはあるのが本作の救いかもしれない。 [CS・衛星(邦画)] 4点(2015-07-15 18:20:01) |
368. 潮騒(1964)
《ネタバレ》 BSプレミアムで再放送中の「あまちゃん」に今頃ハマり、その中の劇中劇として登場した架空の映画「潮騒のメモリー」が気になってモデルと思しき本作を見たのだが、今まで見た三島由紀夫原作モノの中でもとっつきやすく、高尚な文芸映画というよりは無難なアイドル映画という感じで、軽い気持ちで安心して見ていられるつくり。この後も山口百恵や堀ちえみといったその時々の旬のアイドルを起用して映画化されているのも分かる。全体として甘さを感じる部分も多いのだが、アイドル映画だと思って見るとまあこんなもんだろうという感想で可もなく不可もなくというところか。ヒロインの「その火を飛び越してこい。その火を飛び越してきたら。」というセリフが有名なのだが、どういう風に出るのだろうと思っていると、なんかえらくあっさりとしていたのは逆に驚かされた。音楽がギターで通されているが、ちょっと雰囲気的に合ってなかった気がするし、これは比べるのもどうかと自分でも思うが、「あまちゃん」を見ているさなかにその影響下で本作を見たせいか、吉永小百合扮するヒロインは海女という設定なのに海に潜っているシーンがほとんどないのが少し物足りなく感じた。 [DVD(邦画)] 5点(2015-07-09 18:05:15) |
369. ルパン三世 ルパン暗殺指令<TVM>
《ネタバレ》 ファーストシリーズの初期の監督だったおおすみ正秋監督を迎えたテレビスペシャル第5作。さすがにファーストシリーズのような渋さはないが、いつものテレビスペシャルに比べればある程度はハードボイルドを感じさせる作風で、作画もきっちり丁寧に作り込んでいるあたりにおおすみ監督のこだわりのようなものを感じられるし、テレビスペシャル最終回の予定で企画された作品でのおおすみ監督の起用にも最後に原点回帰を狙おうという製作側の意図が感じられる。しかし、次元とゲストヒロインの過去の因縁が描かれているのだが、その話にもう少し深みが欲しかったところでそこが物足りないし、そもそも「ルパン暗殺指令」というタイトルなのに次元が話の主軸になっているのはなんとなく違和感があるのも本当のところ。敵であるジョン・クローズを演じる野沢那智はこの間見た「生きていた魔術師」では役者の無駄遣いに感じてしまったが、本作ではハマっていてこの人らしい悪役演技が楽しい。(まったく関係ないが本作放送の翌日に劇場公開された「クレヨンしんちゃん」の劇場版第1作「アクション仮面VSハイグレ魔王」の悪役であるハイグレ魔王の声も野沢那智だ。)それにルパンが山田康雄なのでこの二人の共演を見ているとクリント・イーストウッドやマシリトの新旧対決に見えるという少しマニアックな楽しみ方もできる。冒頭のルパン専任捜査を解任された銭形がルパン、次元としんみり酒を飲むシーンは妙な味があって良いし、印象にも残る。ルパンも銭形も声が弱々しく、そのうえ、ルパンと次元が序盤で「老後の計画」とか「年を取った」とか言うので演じる声優たちのことをリアルに考えてしまった。とくに山田康雄に関しては既に最晩年に近く、(この翌年に放送された「燃えよ斬鉄剣」が遺作。)この頃から体調が良くなかったんだろうなと考えるとこの序盤は見ていてつらいものがあった。 [DVD(邦画)] 6点(2015-07-02 23:08:45) |
370. 競輪上人行状記
《ネタバレ》 兄の死によって実家の寺を継ぐことになった中学教師の男(小沢昭一)が競輪にハマり、堕ちていく様を描いた作品だが、坊主になった聖職者がギャンブルにはまり込むというこの設定自体がまず面白く、原作を書いた作家が住職というのにも驚かされる。今村昌平監督が参加した脚本は下世話だが、深みがあり、味わい深く人間ドラマとしても見ごたえのある映画になっていて、ただ下世話なだけというふうにはなっていないのが見事だった。主演の小沢昭一も見事にハマっていて、こういうダメな男を演じていてもどこか愛嬌があり憎めないところがあり、こういう演技はこの人ならではだろう。それよりすごいのはやっぱり南田洋子演じる主人公の兄の妻。夫の棺の前で夫の幻影に鞭打たれて悶えたり、死んだ犬の肉を焼き鳥屋に入れてしまうという行動が強烈なインパクトを残しているし、絶対に秘密にしなければいけないような過去をサラリと主人公に告白したりするのもものすごい。葬儀の最中に主人公に葬儀屋(加藤武)が耳打ちするシーンなど、寺や葬式に対しての皮肉めいた批判がストレートに描かれるのも良いし、これと併せて父親(加藤嘉)の死で真面目に坊主になろうと決意し、本当に真面目になった主人公が兄の妻から前述の衝撃的な告白をされたことから再び競輪にのめり込むという展開もどんな聖職者や上人でも結局は一人の人間なのだということがひしひしと伝わってきて素晴らしく、本作で作り手がいちばん言いたかったのはこういうことだと思わずにはいられない。主人公が競輪の予想屋になる(ここでの小沢昭一の口上も素晴らしい。)ラストはどこか主人公に哀愁が漂い、印象に残るものとなっており、この物語を締めくくるには最高のラストシーンだったと思う。また本作は主演の小沢昭一にとって間違いなく代表作の一本といえるだろう。 [DVD(邦画)] 8点(2015-06-27 14:07:03)(良:1票) |
371. ルパン三世 生きていた魔術師<OVA>
今現在再放送でまさにファーストシリーズを見ていて「魔術師と呼ばれた男」もついこの間見たばかりなのだが、かなり面白く、劇場映画にも負けないようなクオリティの高い傑作だと思った。さて、本作はその「魔術師と呼ばれた男」に登場する敵であるパイカルがルパンの敵として再登場する作品ということで取りあえず見たのだが、OVAだからというのもあるのか、なんかこう、印象としては最近のテレビスペシャルのノリのまま無理やりファーストシリーズを意識している感じで痛々しく感じるし、「魔術師と呼ばれた男」がさっきも書いたように傑作だっただけにどうしてこのような作品を作ってしまったのか大いに疑問に感じる。やり方がとにかく中途半端で、どうせファーストシリーズを意識するならもっと徹底的にやってほしかった(例えば音楽はいつものように大野雄二が担当しているが、オープニングは仕方ないにしてもほかの劇中音楽をファーストシリーズのスコア(山下毅雄)にするとか。)し、こんなんで本当に「魔術師と呼ばれた男」を超えられるともしスタッフが思っていたとすればそれは「ルパン三世」という作品をバカにしすぎだし、いい加減にしろと言いたい。あともう一つ、「魔術師と呼ばれた男」に登場していない五右衛門と銭形の扱いに差がありすぎるのも気になる。とにかく見終わった後「魔術師と呼ばれた男」をもう一回見返したくなったのは確か。 [DVD(邦画)] 1点(2015-06-16 01:29:41) |
372. WOOD JOB! ~神去なあなあ日常~
《ネタバレ》 これまでオリジナル脚本で個性的な映画を次々と世に送り出してきた矢口史靖監督が初めて手掛けた原作モノということで若干の不安はあったが、最後まで明るく楽しめる映画という矢口監督らしさを損なうことなく、青春ドラマとして締める部分はしっかりと押さえてあって面白かった。主人公の平野(今回は主人公の名字が鈴木ではないのね。)勇気(染谷将太)が最初はいかにも現代的な若者(ゆとり世代と言うのか。)に描かれていて、最初は好感が持ちづらいのだが、そんな彼が新しい環境の中で次第に林業という未知の世界を知っていく過程を見ていくうちにだんだんとこちらも引き込まれた。目隠シストさんが仰るように新しいことを知った人が周囲にひとりもいないという状況の中ではじめるのは相当に勇気のいることで、新しい場所でうまく信頼関係が築けるかが本当に重要になってくる。本作は勇気とヨキ(伊藤英明)の関係を通してそれをうまく描いていたと思うし、これがあるから見ているうちに勇気に対する印象が変わり、ぐっと好感度も増すのだと思う。勇気とヒロイン・直紀(長澤まさみ)とのロマンスもあざとさを感じさせず自然なさわやかさがあり、良かった。(「愛羅武勇」と書かれたタオルを使った告白シーンは強烈。)ラストの別れのシーンは勇気とヨキの抱擁もそうだが、やはり電車に乗った勇気とバイクに乗った直紀がお互いに向かって「さようなら。」「さよなら。」と連呼するところには思わず感動してしまった。でも、この後、勇気が再び村へ向かうというエピローグが存在していたのは「ウォーターボーイズ」や「スウィングガールズ」でラストにエピローグを描かずにパッと終わらせていた矢口監督だけにこの別れのシーンで終わってほしかったと少々残念な気がする。クライマックスの祭りの躍動感がものすごくここだけでも映画館で見ておけば良かった。ヨキ役の伊藤英明は(「海猿」は見たことがないので比べられないが。)いかにも野性的な感じで山男役が見事にハマっている。 [DVD(邦画)] 8点(2015-06-13 00:49:28)(良:1票) |
373. 博奕打ち 総長賭博
《ネタバレ》 東映任侠映画の中でも三島由紀夫が絶賛した不朽の名作と言われている映画で、以前から気になっていたのだが、ようやく見ることができた。ストーリーは任侠映画によくある跡目をめぐる問題を描いたものなのだが、主人公・中井(鶴田浩二)が跡目問題で苦悩し、ついには兄弟分の盃を交わした義弟でもある松田(若山富三郎)に手をかけなければならなくなるという重い悲劇にまるでシェイクスピアでも見ているかのような見事さを感じたし、中井にだけは自分の気持ちを分かってほしかった松田を思うと切なくて仕方がない。仙波(金子信雄)にいいように利用された上に重傷を負わされてもなお立派に二代目としての責任を果たそうとする石戸(名和宏)にも感動させられた。そしてそんな石戸が虫けらのように殺されてしまう展開も悲しい。中井に言われて音吉(三上真一郎)を匿っていたつや子(桜町弘子)が松田の熱意に押されて音吉を引き渡したあとに自らの命を絶つのもつや子の葛藤を考えると泣けてくる。また、その後の雨の中のつや子の墓のシーンで音吉が中井に向かって土下座するシーンは絵的にも美しく印象的だったのだが、やはりここも音吉に感情移入させられてしまった。それから離縁した松田の妻・弘江(藤純子)を宿に呼び寄せたのも音吉の気持ちが痛いほど伝わってくる。そこで弘江が実の兄が夫を殺す場面を目撃してしまうというのもなんとも言えない悲劇だ。「人殺し」という弘江のセリフが胸を打つ。これがあるからラストの中井の「俺はケチな人殺しだ。」というセリフが生きてくる脚本の見事さ。男たちだけではなく、女性側もしっかりとドラマを描いて見せたこの笠原和夫の脚本には本当に隙がないし、山下耕作監督の演出も文芸映画のように格調高く、単なる任侠映画に納まらない深さを持ったまさしく名作と呼ばれるに相応しい本当に素晴らしい映画だったと思う。 [DVD(邦画)] 9点(2015-06-06 17:45:04)(良:2票) |
374. トラック野郎 御意見無用
《ネタバレ》 「仁義なき戦い」と並ぶ菅原文太の代表作となるシリーズの1作目。今回シリーズ自体を初めて見たが、得体の知れない勢いとパワー、そして全体からほとばしる熱さにひたすら圧倒されまくりの約1時間40分だった。桃さんが単純バカなのだが、とにかく熱い男で、演じている菅原文太にもヤクザ役とは一味違う良さがあり、賛否は分かれるかもしれないが、個人的にはこういう菅原文太もいいなあと思うし、見事にはまっている。(むしろ「仁義なき戦い」の広能よりも個人的には桃さんのほうが好きかもしれない。)それに愛川欽也演じるやもめのジョナサンとのコンビぶりも1作目というのに既に出来上がっているのがすごい。桃さんとジョナサンの二人を見ていると元気が出るというだけでなく、もう「惚れる」の一言で一気に映画に引き込まれた。脚本の筋書きとしては「男はつらいよ」シリーズのパターンを踏襲しているが、寅さんシリーズにはない派手な大立ち回りが見どころになっているのが東映らしいし、中でもドライブインの食堂を舞台にした関門のドラゴン(佐藤允)と桃さんのバトルはコントのように店が無茶苦茶になるという凄まじさでとくに印象に残る。それに今回のマドンナ 洋子(中島ゆたか)の初登場シーンが汚いトイレから出てくるというのも強烈だった。(この汚いトイレから美人が出てくるというのがギャップがものすごくあって笑える。)ラストは洋子に好きな男(夏夕介)がいることが分かって二人を会わせるために11㌧トラックを爆走させる桃さん。惚れた女のためならばたとえ自分の気持ちがどうであれ、その人のことを考えて行動する姿に男気を感じずにはいられないし、そんな桃さんがとてもカッコ良かった。はっきり言って映画としての完成度は低いのだが、そんなことは関係ない。久しぶりに心底惚れられる映画を見た、もうそれだけでこの映画を見て良かったと思えたし、このシリーズにもはまれそうだ。 [DVD(邦画)] 8点(2015-05-28 23:57:30) |
375. 兄貴の恋人
森谷司郎監督による加山雄三主演の青春映画。ヒロインが酒井和歌子というのもあってか、翌年からはじまる若大将シリーズ社会人篇のパイロット版と思えなくもないが、若大将シリーズと違ってコメディ色はそれほど強くなく、ある程度のリアリティのある映画になっている。本作では主人公の妹(内藤洋子)が主人公の縁談になると相手にケチをつけまくるというのが若大将シリーズにはない展開で新鮮だった。森谷監督の演出もこの前「動乱」を見たせいか、それとくらべると変に力みがない演出で最後まで安心して見られるホームドラマといった感じの映画に仕上げているのもいい。ヒロインの兄を演じている江原達怡が江口とはまるで違うガラの悪い男を演じていて、最初はだれか分からなかったが、こういうのも若大将シリーズとは違うところでやはり新鮮に感じられる。 [DVD(邦画)] 6点(2015-05-23 17:16:37) |
376. シルクハットの大親分 ちょび髭の熊
《ネタバレ》 熊寅こと熊坂寅吉(若山富三郎)を主人公に据えた「緋牡丹博徒」シリーズ番外編第2作。今回も前作と同じ鈴木則文監督が手がけているだけあって任侠映画定番の展開の中でも喜劇色が強くなっており、熊寅のキャラクターの良さも出ていて面白かった。とくに熊寅が運転している自動車が止まらなくなるシーンはサイレントの手法が取り入れられていて本作の笑いどころとしては特に印象に残る。前作でお竜さんの舎弟を演じていた伊吹吾郎が違う役で登場していて東映の映画ではよくあるパターンだが、前作で演じていた役柄の弟という設定で少しの強引さは感じるものの「悪名」シリーズでもあったパターンなのでとくに違和感は感じなかった。(ひょっとしたらこの設定は若山富三郎が勝新のシリーズである「悪名」を意識した上でのことかもしれない。)前作同様熊寅のピンチにどこからともなく現れるお竜さんは今回も主役の熊寅を食うことなくあくまで引き立て役に徹している(登場シーンはさすがにハデだが。)のが潔く、これもこのシリーズはあくまで熊寅が主人公というのを実感させてくれる。このシリーズは本家のシリーズに比べてあまりヒットしなかったのか、熊寅を主人公にしたシリーズはここで終了。個人的にも前作のほうが好みだが、せめてもう一本くらい熊寅主役の作品を見たかった気はする。 [DVD(邦画)] 7点(2015-05-15 21:24:00) |
377. 動乱
《ネタバレ》 高倉健と吉永小百合が初共演した森谷司郎監督による歴史大作。226事件を題材にしているが、本作はそれを起こしたひとりである青年将校 宮城大尉(高倉健)と脱走し処刑された彼の部下(永島敏行)の姉である薫(吉永小百合)のラブストーリーを軸に描かれていて、歴史的事件を描いた骨太な大作映画というよりはまずこの二人の共演ありきの映画という印象が強い。映画としてはこの手の大作にありがちな大味な作品だと思うし、上映時間は2時間半だが、それでわざわざ二部構成にする意味がよく分からないし、その時間配分もちょっとおかしく感じた。高倉健はヤクザ映画やアクション映画で見ることが多くなっていたせいか、ちょっと心配だったのだが、やはりそれらとは違う魅力があってカッコいいと思わせているのはさすがといったところ。あまり映画自体に深みは感じないが、主役ふたりのラブストーリーとしてはそれなりに見れるし、この2年後に同じ監督・主演トリオで東宝で製作される「海峡」よりは高倉健と吉永小百合の共演作としては見どころのある映画にはなっている。しかし、話自体は「海峡」のほうがまだ面白かった気はする。ところで森谷監督は吉永小百合の単独主演映画の監督というのはやっていないんだなとふと思った。 [DVD(邦画)] 5点(2015-05-07 17:58:44) |
378. ルパン三世 ロシアより愛をこめて<TVM>
《ネタバレ》 テレビスペシャル第4作。まずまずといったところだが、90年代の作品なのに絵柄がテレビ第2シリーズよりも古めかしく見えてしまったのはちょっと残念。五右衛門はテレビスペシャルだとあまりいいところがないという印象が強いのだが、この作品では最初からなぜかラスプートンの元にいて、斬鉄剣を竹光とすり替えられてしまい、あげく終盤でヒロインに惚れて最後にはルパンたちを裏切るとかほとんどいいところがなく、テレビスペシャルでは昔からこういう扱いだったのねと妙に納得してしまった。銭形もあまりストーリーに絡んでおらず、せめて中盤のルパンたちが銀行に立てこもるシーンで登場するのはあの保安官ではなく、銭形であってほしかった。悪役である不気味な教祖はインパクトがあるし、二人組の男もいい味を出している。銀行の頭取 デュークを納谷六朗が演じているが、兄である納谷悟朗が演じる銭形と一緒のシーンがないのは少々もったいない気がするし、こういうキャスティングならば繰り返しになるがよけいに銀行を包囲する役回りは銭形のほうが良かったのではないかと感じる。五朗、六朗の二人ともわずか一年半ほどの間に亡くなってしまったのは本当に惜しかった。 [DVD(邦画)] 5点(2015-05-02 12:24:15) |
379. 超高速!参勤交代
《ネタバレ》 参勤交代から帰ったばかりの小さな藩が、その直後に再び5日以内の参勤交代を命じられ、ないないづくしの中、知恵を駆使してそれを切り抜けるという昔からよくあるような娯楽時代劇。タイトルのインパクトに駆られて見たのだが、けっこう楽しめた。主演の佐々木蔵之介演じる殿様や西村雅彦演じる家老もコミカルにいい味を出しているし、伏線の回収の仕方も違和感がなく、よく出来ている。今まで竹光のために刺客に襲われても満足に戦えなかった一行がクライマックスでは真剣を持って戦うというカタルシスもありがちかもしれないが、時代劇として心地の良い展開で、見ていて気持ちがよく、全体的に予定調和な映画かもしれないが、逆にそこがよく、安心して見ていられる。ラストシーンもすっきり晴れ晴れとしていて、さわやかな気持ちで見終われるのもいい。ただ、少し難点をあげれば本筋としてはシリアスな部分も多く、それはいいのだが、本木克英監督はどちらかといえば喜劇映画の監督というイメージが強いだけにもう少しコメディーにてっしていても良かった気はするし、いちいち回想シーンを入れてくるのも少し気になった。深田恭子が女郎を演じているというのもちょっと違う気がする。でも、気軽に楽しめて安心して人に薦められる時代劇映画で、好きな作風の映画だった。もっとこういう時代劇は作られてほしいと思う。 [DVD(邦画)] 6点(2015-04-23 23:44:08)(良:1票) |
380. シルクハットの大親分
「緋牡丹博徒」シリーズのコメディリリーフ的存在である若山富三郎演じる熊寅を主人公にした今でいうスピンオフ作品。「緋牡丹博徒」の登場人物の中でも熊寅というキャラクターは好きなので、こういう外伝的映画の存在は正直嬉しい。緋牡丹シリーズの脚本をずっと手がけ、生みの親でもある鈴木則文監督が演出を手がけている(ちなみに脚本はのちに緋牡丹シリーズ完結編「仁義通します」を手がける高田宏治。)だけあって熊寅の良さはじゅうぶんに出ているし、ハチャメチャな喜劇要素が強く、何より熊寅を演じる若山富三郎も主役で演じているからか脇役の時よりも演技がイキイキとしているように感じる。後半登場するお竜さんも熊寅を食ってしまうのではなく、あくまで脇役として熊寅を引き立てる役回りに描かれているのが逆に良かったし、これによって本来の主役と脇役を入れ替えたような構図になっているのが新鮮。緋牡丹シリーズはすべて見ていて東映のヤクザ映画のシリーズものの中でも好きなシリーズなのだが、そんな自分にとっては本作もやはりじゅうぶんに楽しむことができる映画だった。 [DVD(邦画)] 7点(2015-04-16 23:36:01) |