401. ヒッチコック
ホラーやサスペンスというジャンルにおいて、当該ジャンルの流れを一変させるような傑作は、主にインディーズから現れると言われます。作品の内容に口出ししてくる人間の数が少ない、また、倫理コードという制約条件の影響を受けづらいという自由な製作環境が革新的な映画を生み出す素地となるためですが、例外的に『サイコ』は、大手スタジオにおいて生み出されたホラーの傑作でした。監督の自費で制作されたとは言え、大手スタジオの看板を背負う以上、スタジオの重役達は口を出してくるし、検閲官だってあれこれ文句をつけてくる。そんなハイプレッシャーな環境の上に、愛妻の不倫疑惑や、過去に因縁を抱える主演女優との微妙な関係、さらには自身の体調不良まで、本当に多くの問題を抱えながら、それでも意地を通して傑作を作り上げた天才監督の姿には非常に興味深いものがありました。ヒッチコックのフィルモグラフィーは傑作揃いであり、息を吸うように名作を撮っていたというイメージがあっただけに、これだけの苦労をしながら、それでも映画に拘っていたという点は、個人的に意外でもありました。。。 また、本作は老人映画でもあります。40年超のキャリアを持つスピルバーグや、70代のリドリー・スコットがハリウッドのトップに君臨する現在とは違い、50年代・60年代の一般的な映画監督の賞味期限は10年程度でした。生き神様の域に達していたデミルやワイラーならともかく、無冠の帝王にして、50年代には何本もの映画をコケさせていたヒッチコックは、「そろそろ引退しては?」という周りからのプレッシャーを受け続けていました。しかし、彼は「まだまだやれる」ということを証明しようとします。『世界最速のインディアン』の主人公のように。ヒッチコックが『サイコ』に拘ったのは、原作や題材の良さだけではなく、これが誰もやったことのない、まったく新しいものだったからであり、自分の感性の若々しさを証明するためには、これしかないと考えたためでしょう。時代遅れと言われていた者が、自己の存在をかけて大仕事に挑む、なかなか燃える話ではありませんか。。。 以上、素材は硬派なのですが、終始ユーモラスで肩肘張らない本作の演出は独特でした。テンポが良くて非常に見やすいのですが、それ以上のものになっていない点が惜しくもあり、決して悪い映画ではないものの、点数的には7点がせいぜいかなという印象です。 [DVD(吹替)] 7点(2013-12-05 01:16:22)(良:1票) |
402. ユナイテッド93
私は、911陰謀説にはまったく賛同しないのですが、それでも、当日の状況を考えた時に、ユナイテッド93便は米軍によって予防的に撃墜された可能性はそれなりに高いと考えています(永久に証拠は出てくることはないので、事実を確認することは不可能ですが)。なので、本作で描かれるユナイテッド93便内でのドラマについては、映画としての面白さは買うものの、その内容をあまり好意的に評価することはできません。断片的な情報を掻き集めて、アメリカ人にとって都合の良い物語を作り上げただけではないのかという思いがどうしても残ります。実際、荷物運搬用のカートでコックピットの扉を破るクライマックスなんて、現実的にはありえないトンデモ描写だったわけだし。。。 本作で評価できるのは、空の異変に気付いた管制官達のパートです。政府・民間・軍部の複数の管制室が舞台となり、誤情報までが飛び交う混乱した現場でありながら、ポール・グリーングラスは破綻なくこれを再現してみせます。『ブラディ・サンデー』においても、複雑な事実を時系列順に整理して、丁寧に観客に伝えるという手腕を披露していましたが、本作はその何倍もの情報量を的確に扱っています。これはもはや神業の域であり、これだけの映画を撮れる監督は、世界広しと言えどグリーングラスだけではないでしょうか。。。 また、事後的な記憶の上書きによる影響を排除し、事件当日の空気感を徹底的に再現したという点でも感心しました。現在からすれば常識であっても、当日、WTCに旅客機が突っ込んだという事実を理解できる人はいませんでした。私は、WTCから煙が上がっているという第一報の直後からテレビ中継に噛り付き、二機目が突っ込む様は生中継で目撃したのですが、飛行機がビルに突っ込む様をはっきりと見たにも関わらず、あまりに想定外の出来事だったために、何が起こったのかを理解できませんでした。それはテレビのリポーター達も同様であり、その光景を見た者全員が、今見たことが理解できなかったのです。この映画は、そうした当日の混乱までを正確に切り取ってみせています。ハイジャックされた旅客機がNY上空で忽然と姿を消し、直後にWTCから煙が上がった。因果関係は明確なのに、プロの管制官すら、この二つの事象を繋げて考えることができなかった。こうした些細な部分に、本作の出来の良さを感じました。 [DVD(吹替)] 7点(2013-12-03 00:58:59) |
403. キャプテン・フィリップス
ポール・グリーングラスの代表作と言えばジェイソン・ボーンシリーズですが、実はこの人はジャーナリスト出身であり、その経歴を活かして『ブラディ・サンデー』や『ユナイテッド93』といった実録物でも才能を示しています。本作もその系譜に連なる作品なのですが、同時に『ボーン・アルティメイタム』や『グリーン・ゾーン』で得た娯楽アクションの手法も存分に活かされており、圧倒的な迫力と臨場感で観客をその現場に立ち会わせるという空前絶後のスリラーとして仕上がっています。序盤で登場人物の簡単な紹介が終わると映画は一気に本編に入り、クライマックスまで一瞬の緩みもなくフルスロットルで突っ走るという絶倫ぶり。海賊の乗る救命艇と彼らが目指すソマリア海岸、そしてそれを追う米駆逐艦の位置関係、救出作戦の進行具合など、現場の概要や事件の推移といった情報を簡潔に整理して観客へ伝える技術は超一流であり、観客の側が意識せずとも物語が自然と頭に飛び込んでくるという親切な作りになっている点でも感心しました。また、海賊の側にも同情すべき背景があること、彼らが主人公に対して乱暴するのも、受容可能な量を遥かに超えるストレスを受けたためであること等、海賊達が絶対悪として描かれていないことも好印象でした。撮影にあたって米海軍の全面協力を得られているという事実が示す通り、本作がアメリカ万歳映画であることは間違いないのですが、それでも、安易な勧善懲悪という図式は避けて、多面的な見方ができる社会派映画として作り上げた点は大いに評価できます。とにかくこの映画、貶す点が何ひとつ見つからない程よくできています。。。 ここしばらくは大物臭が漂い、『キャスト・アウェイ』以降は骨身を削るような演技からも遠ざかっていたトム・ハンクスですが、そんな彼が本作ではかなり体を張っています。彼ほどのクラスの俳優がここまでやるのかと驚いた程であり、久々のオスカーノミネートもありうるのではないかと思いました。凄いと言えば、主人公と対峙する海賊達も同様であり、アメリカ在住のソマリア人から選ばれた演技経験ゼロのど素人でありながら、ハンクスと堂々と渡り合ってみせています。 [映画館(字幕)] 8点(2013-12-01 00:39:44) |
404. コズモポリス(2012)
近年はヴィゴ・モーテンセンとのコンビでドラマ性と娯楽性を両立したバイオレンスを製作し、意外と引き出しの多い監督であることをアピールしていたクローネンバーグですが、本作では小難しい上に面白くない、いつものクローネンバーグに逆戻りしています。生の実感を持てない者が、新しい何かに変化しようとする物語。『ビデオドローム』以来、しつこいくらいに繰り返されてきたテーマなのですが、表現の引き出しも80年代以来ほとんど変わっていないので、本作には何ら見るべきものがありません。。。 本作の9割は難解で哲学的な会話で形成されているのですが、これは何度でも読み返しの利く本というメディアでこそ楽しめるものであり、観客の理解度とは無関係に物語が突き進んでいく映画というメディアにおいてこれをやられると、非常に厳しいものがあります。何か良いことを言ってるっぽいんだけど、その内容を味わう前に次のセリフが流れてくる。こんな調子で2時間が過ぎてゆくので、見終わった後には頭に何も残っていません。せっかく映画というメディアを使っているのだから、視覚的にテーマを語るという工夫をして欲しかったし、クローネンバーグが惚れ込んだであろう原作のセリフの数々にしても、観客が飲み込める形で提示して欲しいと感じました。『ファイト・クラブ』や『マトリックス』は、10年以上も前にそれをやりきっていたというのに。 [DVD(吹替)] 3点(2013-11-28 19:00:55) |
405. セデック・バレ 第二部 虹の橋
ついに日本軍との大決戦がはじまる第2部ですが、アクションはとにかく凄いことになっています。物量で劣るセデック族は、地の利と持ち前の敏捷性を活かしたゲリラ戦で日本軍に対抗するのですが、彼らの流れるようなアクションの数々には圧倒されました。特に、断崖絶壁に日本軍を誘い込み、身動きがとれなくなったところで一網打尽にするという前半の見せ場は壮絶そのものであり、非常に危険な撮影を敢行したことが画面越しにも伝わってきます。また、クライマックスの白兵戦もハリウッドレベルの迫力であり、台湾映画史上最高額の製作費は画面にきっちりと反映されています。。。 ただし、話の整理がきちんとできていないので、映画としてはイマイチでした。反乱部族は2手に分かれ、彼らの妻子は別に移動。さらには体制側についたセデック族も現れ、複数の集団が入り乱れるややこしい話に突入するのですが、戦況の動きが丁寧に説明されないため、誰が何をやっているのかが分かりづらくなっています。感動的な音楽をバックにあるキャラクターが壮絶な死を遂げても、それが一体誰なのかが分からないということが何度もあり、ドラマが盛り上がるほどにこちらのテンションが下がるという悪循環が発生しています。台湾の人たちにとっては、今更個々のキャラクターを説明する必要もない程有名な事件なのかもしれませんが、外国人にとっては少々厳しい内容でした。 [DVD(字幕)] 5点(2013-11-26 01:20:19) |
406. セデック・バレ 第一部 太陽旗
大日本帝国の支配に耐え兼ねて反乱を起こしたセデック族の物語であり、国民党政権時代には抗日の英雄として敬われていたモーナ・ルダオの生涯とくれば、日本人の我々としては大いに不安な題材だと言えます。おまけに、プロデューサーには『南京1937』を手がけたジョン・ウーも名を連ねており、これは久々に反日超大作が来たかと覚悟して鑑賞したのですが、そんな不安とは裏腹に、内容は極めてフェアなものでした。さすがは親日国・台湾。。。 内容は『ラスト・オブ・モヒカン』と『アポカリプト』と『ラスト・サムライ』を合わせたようなものであり、滅びゆく種族が体制に絶望的な戦いを挑むという、この手の映画としては非常に典型的な形にまとめられています。テンプレートに当てはめて手堅く作られているおかげで話は非常にわかりやすく、しかもエモーショナルです。また、良い日本人も悪い日本人もいたという点や、植民地支配は負の面だけではなかったという点にもきちんと光があてられており、政治的に偏らないよう細心の注意が払われていることにも感心しました。さらには、セデック族は日本人の女子供にも容赦なく手をかけたという事実からも逃げておらず、台湾側にとって都合の良いことも悪いことも、すべて映画にぶち込んでやろうという作り手の気概を感じました。台湾映画史上最高額の製作費が投入され、絶対にコケることができない本作において、これだけやりきってみせた崇高な姿勢には尊敬の念さえ抱きます。。。 また、演技の質の高さも必見です。主人公・モーナ・ルダオを演じるリン・チンタイは演技経験ゼロのド素人。原住民の若者をオーディションする際に案内人として雇ったおじさんが監督の目に止まり、そのまま主人公に起用されたという滅茶苦茶なキャスティングであり、しかも彼はセデック語が分からないのでセリフ丸暗記で挑んだらしいのですが、そんな彼がモーナ・ルダオになりきり、ベテラン俳優をも超えるほどの威厳とカリスマ性を放っているのですから、これぞ映画のマジックです。日本人キャストも、そこいらの邦画以上の熱演を披露しており、すべての演技が必見と言えます。セデック語に日本語と、台湾人の監督にとっては馴染みのない言語が入り乱れる内容ながら、きちんと演技指導をやっているのですから、その手腕には驚かされます。 [DVD(字幕)] 7点(2013-11-26 01:19:30) |
407. エンド・オブ・ホワイトハウス
《ネタバレ》 ローランド・エメリッヒの『ホワイトハウス・ダウン』と本作との競合が話題になりましたが、他に『GIジョー/バック2リベンジ』でもホワイトハウスが敵組織の手に落ちており、なぜか今年はホワイトハウスブームの1年でした。他の2作が大手スタジオによる製作だったのに対して、本作のみ独立系スタジオでの製作だったために製作費はもっとも控えめであり、異常なレベルでホワイトハウスを再現した『ホワイトハウス・ダウン』などと比較すると、セットやVFXが時に安っぽく感じられました。さらには、その欠点を隠したいのか画面がやたら暗くされており、何が起こっているのかが分かりづらいという問題もあって、視覚的には少々厳しい映画だったと言えます。。。 内容は、この手のアクション映画としては並レベルでした。序盤のガンシップによる大殺戮や、特殊部隊を積んだブラックホークが撃墜される場面など、記憶に残る見せ場をいくつか作り出せている点は評価できるのですが、それでも全体としては地味な場面が多く、さらには連続活劇にもなりえていないので、観客をハラハラドキドキさせるというレベルには至っていません。基本設定もバカバカしくて、国籍不明の軍用機がワシントン上空に易々と侵入してしまう序盤にはじまり、異常な人数のテロリストがホワイトハウスを取り囲んでいたり、北朝鮮の工作員が実戦配備前のアメリカ軍の最新兵器を持っていたり、防衛システム「ケルベロス」がバンカーでのみ操作可能で、ペンタゴンの介入すら受け付けないという理解不能な仕組みになっていたりと、ツッコミどころ満載。リアリティとか論理的整合性を求めるタイプの映画ではないものの、観客を2時間は騙しておける程度の方便は準備して欲しいと感じました。。。 基本設定以外の点でも、脚本は迷走気味。例えば、冒頭でファーストレディが事故死するので、これが本編に大きな影響を与えるのかと思いきや、メインのドラマにはまったく関与してきません。本作は万事がこの状態で、序盤にて、主人公と奥さんの間には何らかのわだかまりがあることが匂わされるものの、その伏線はスルーされたり、また、ファーストレディの死を巡って主人公と大統領の間に確執があるのかと思いきや、そういう展開も特になく、「何のためにその伏線を入れたのか?」と困惑させられる点が多くありました。演技力メインの激シブ出演陣も、この脚本では実力を発揮できません。 [ブルーレイ(吹替)] 5点(2013-11-24 02:25:56)(良:1票) |
408. スターダスト(2007)
『ロード・オブ・ザ・リング』と『ハリー・ポッター』の大ヒットに触発され、ファンタジー映画が乱発されていた時期に製作された一本。大したヒットにならず終わったので今の今まで鑑賞してこなかったのですが、これが見てビックリ。結構な完成度だったので驚かされました。『ロード・オブ・ザ・リング』のような重厚長大な大作ではないためジャンルの代表作にはなりえないものの、中規模作品としては、実に理想的なレベルでまとめられています。。。 ファンタジー小説では、読者は世界観を一から理解する必要があるし、登場人物の数も多くなりがちです。読み返しの利く書籍ならともかく、観客の側が能動的に情報量をコントロールできない映画という媒体においては、そのような雑多な要素をどうまとめあげるのかが大きな問題となります。『ロード・オブ・ザ・リング』のように、当初より3部作構成で製作されることが決定しており、シリーズを合計すればタップリとした上映時間を稼げる作品であれば、そうした問題への対処も容易にはなるのですが、大半の映画はそれほど恵まれた環境では製作されません。まず1本撮り、ヒットすれば続編を製作。第1作については、単品で成立する程度に話をまとめておく必要があります。そして、多くのファンタジー映画はここで躓きます。物語をコンパクトにまとめるという過程において、原作が持っていた魅力的な要素を多く切り捨ててしまい、焦点の定まらない凡作が出来上がってしまうのです。。。 本作についても、3つのパーティが同時に動き、さらには冒険に絡んでくるサブキャラの数も多く、かつ、舞台の移動も盛んであり、一本の映画の枠に収めるにはなかなか厄介な素材だったと言えます。しかし、マシュー・ヴォーンはこの複雑な物語を、奇跡的な手腕でまとめてみせています。各キャラクターの背景や行動原理を的確に伝えており、また、端正なビジュアルによって世界観の特徴も表現できており、観客に情報を与えるという作業を非常にスムーズにこなしているのです。特に感心したのは、感動の高ぶりとともにイヴェインが光を発するという処理であり、この設定を挟むことで、ドラマが非常にわかりやすくなっています。また、この原作には性や暴力が少なからず含まれているのですが、ヴォーンはそうした毒を描くという点でも躊躇しておらず、その結果、血の通った真っ当な物語として仕上がっています。 [DVD(吹替)] 8点(2013-11-18 00:46:39)(良:2票) |
409. トリプルX ネクスト・レベル
《ネタバレ》 ヴィン・ディーゼルには去られたものの、予算もスケールも前作よりアップし、更なるアクション大作を目指した第2弾。・・・のはずだったのですが、本作は完全に期待外れの出来に終わっています。私は前作をまったく評価していないので、本作についても過大な期待をせずに鑑賞したのですが、それでも本作には楽しめる点がほとんど見当たりませんでした。。。 コードネームxXxは使い捨てであり、ミッションの都度、適任者が任命されるという新機軸が本作より導入されています。今回のxXxはストリート育ちにして元ネイビーシールズ隊員であり、上官への反逆罪で服役中のダリウス。ダリウスが服役するきっかけとなった事件にはギボンズも当事者の一人として居合わせていたのですが、片やダリウスは服役中、片やギボンズはNSAの現場指揮官にまで出世と、この時点で設定に不整合が生じています。脱獄したダリウスはかつて仲間だったストリートのブラザー達を集め、白人エリートが起こそうとしているクーデター計画の阻止に走るのですが、このあらすじの時点で、この映画がどの観客層を取りに行っているのかが見え見えになっているという点でもマイナス。ストリートの黒人が拍手喝采する内容を狙いすぎて、少々いやらしくなっているのです。。。 ダリウスを演じるアイス・キューブは『ゴースト・オブ・マーズ』で宇宙の荒くれを演じた人物であり、B級映画においてはなかなかの存在感を放っています。悪人っぽい顔つきも良く、「毒をもって毒を制す」というこのシリーズのコンセプトは、彼の存在によって前作以上に立っていると言えます。ただし、彼の体型はずんぐりむっくりで手足が短いため、立ち姿やアクションがまったく決まらないという致命的な欠点を抱えています。また、ストリートのワルだった、シールズ時代には名狙撃手だったという設定上の経歴もアクションにはまるで反映されておらず、設定と物語が正反対の方向へ進んでいくというマズイ脚本となっています。。。 冒頭をピークとして、以降は図ったように盛り下がっていき、クライマックスに待っているのは雑なCG丸出しでやる気の感じられないチェイスシーン。『007/ダイ・アナザー・デイ』のリー・タマホリも、本作ではやたら雑な仕事をしており、演出のレベルの低さにも問題を感じさせられました。 [ブルーレイ(吹替)] 4点(2013-11-17 03:22:00) |
410. ラブ & ドラッグ
《ネタバレ》 アン・ハサウェイのキャリアコントロールの巧さには、つくづく驚かされます。『プリティ・プリンセス』のヒットで名を売ったものの、強力なライバルがひしめくラブコメの世界ではすぐに行き詰まり、早々にキャリアは低迷しました。しかし、『ブロークバック・マウンテン』でスパっと脱いだことで再度注目を集め、ラブコメにとどまらないフィールドを獲得するに至りました。そして、『ブロークバック~』以後の安定軌道から更なる高みを目指して出演したのが本作なのですが、ここでも予想以上の脱ぎっぷりの良さで高い評価を獲得し、後の『ダークナイト・ライジング』や『レ・ミゼラブル』につなげています。普段はセクシーを売りにしていないものの、裸が高く売れるタイミングでは躊躇せずこれを武器として使うという判断力の的確さと思い切りの良さ。長期のキャリア形成に失敗したかつてのスター達(ジュリア・ロバーツ、メグ・ライアンetc…)にとっては、羨ましくて仕方がない資質だと言えます。。。 本作は難病ものであることを徹底的に隠し、エッチなラブコメという先入観を持つ観客に対して、後半パートでショックを与えるという方向での宣伝戦略をとっていました。そのため、原作としてクレジットされているノンフィクションも隠れ蓑に過ぎず(原作にマギーは登場しない)、営業マンのサクセスストーリーを期待して観ると、少なからずガッカリさせられます。では、難病ものとしてはどうかというと、こちらでも微妙でした。本作が提示するテーマには、実に深いものがあります。「いま現在愛しているとはいえ、以後何十年にも渡って苦しい介護をせねばならない相手に対して、自分の人生を捧げるという決断ができますか?」という難題を観客に対して問いかけているのです。主人公・ジェイミーとマギーの間には、愛だけでは乗り越えられない大きな壁がいくつも立ちはだかっています。ジェイミーはその壁の前で立ちすくみ、一度は負けてしまうのですが、それでも最終的にはマギーを抱え込むという決断を下します。その物語は美しいのですが、果たしてこの映画は、介護の苦しさについてきちんと描いているだろうかという点で、私は違和感を覚えました。この映画の作り手は「綺麗事ではない」と何度も何度も繰り返しながらも、結局のところ、汚い部分・苦しい部分を観客に見せていないのです。これでは、底の浅い感動作止まりではありませんか。 [ブルーレイ(吹替)] 6点(2013-11-17 02:43:17)(良:2票) |
411. 劇場版 天元突破グレンラガン 螺巌篇
《ネタバレ》 テレビシリーズ視聴済です。『紅蓮篇』ではかなり荒っぽい要約がなされていてかなり驚かされたのですが、当『螺巌篇』においてもテレビシリーズ未見の人を突き放すような端折り方がなされていて、二度驚きました。テレビシリーズ第2部のクライマックスだったテッペリン攻略戦をまさかのダイジェスト処理、ロージェノムの存在を明確に説明しないままテレビシリーズ第3部に該当する本編をスタートさせるという強引な構成には笑ってしまいました。「テレビシリーズを見ていない人は、この映画の対象ではありませんよ」と、製作側が序盤で宣言しているのです。。。 で、本編ですが、不完全と言う他なかった『紅蓮篇』から一転して、本作はかなりうまくまとめられています。テレビシリーズ第3部は少々グダグダな展開が目立っていたのですが、当映画版ではムダな場面の統廃合により物語全体をスリムにしており、テレビ版以上に通りの良い話として作り替えているのです。独立した一本の映画として成立する程度にまでまとめられており、やや投げやりだった『紅蓮篇』と比較して、本作の脚本は相当頑張っています。また、テレビ版では扱いの悪かったアークグレンラガンの活躍場面が大幅に増えており、ロボの動かし方のバランスも改善されています。。。 ただし、クライマックスのグランゼボーマ戦はやりすぎの域に達していて、少々覚めてしまいました。ラーメン二郎並みに濃く、かつ、完璧のさらに上を行く仕上がりだったテレビ版最終回を超えるクライマックスを作ろうとして、映画版は無茶をしすぎたようです。天元突破の大安売りなどは見たくありませんでした。あそこは、テレビ版の熱いクライマックスを再度見せてもよかったように思います。 [DVD(邦画)] 7点(2013-11-13 01:28:05) |
412. 劇場版 天元突破グレンラガン 紅蓮篇
《ネタバレ》 テレビシリーズ視聴済です。マジンガーZとガンダムとエヴァンゲリオンと宇宙戦艦ヤマトと勇者シリーズの良いとこ取りをして、その上、オタク臭い小理屈を抜いて子供でも理解可能なアニメを作る。そんなことが可能なのかと思いますが、それをやってのけたのが『天元突破グレンラガン』なのでした。それだけ充実した内容だけあって、テレビシリーズはどのエピソードも濃厚100%。通常のアニメであれば3~4話を費やすであろうエピソードを1話に詰め込むという展開もザラであり、すべての回が1秒たりとも捨てる場所がないほどに作り込まれていました。。。 そこに来て、この劇場版です。テレビシリーズの前半13話を2時間に編成し直した内容なのですが、当然の如く、これ単品で『グレンラガン』を理解することは不可能です。製作側も一見さんお断りの姿勢を明確にしており、黒の兄妹やロシウといった重要人物との出会いをダイジェスト処理で済ませるなど、なかなか思い切った端折り方をしています。では、この映画の存在意義は何なのかと言うと、それは、サブキャラのエピソードを大幅に切り捨ててシモンの成長物語に特化したことで、テレビシリーズ以上に男気溢れる作品となったこと。さらには、ドルビーデジタルによりブラッシュアップされた音響や、クライマックスにおける四天王の合体ダイガン「ドテンカイザン」の登場など、映画版ならではの楽しみも追加されており、ファンサービスも程々になされています。テレビの視聴ありきの不完全な総集編なので全面的な支持は与えられませんが、これはこれで楽しめる映画ではあると思います。 [DVD(邦画)] 6点(2013-11-13 01:26:33) |
413. 欲望のバージニア
《ネタバレ》 実話であることを売りにしている本作ですが、ハリウッドにおける”based on true story”は非常に範囲が広く、本作についてもフィクションとして見るのが無難のようです。と言うのも、原作を書いたのは主人公・ジャック・ボンデュラントの孫にあたるマット・ボンデュラントであり、幼少期におじいさんから聞かされていた自慢話を小説化したものだとか。年寄りの昔話ほど信用できないものは他にないわけで、実際、ありえない程イカれた捜査官に、ありえない程生命力の強い次男と、実話と言うにはムリのある展開のオンパレード。話半分どころか、話3分の1か4分の1くらいのつもりで鑑賞なさってください。。。 内容は、ハリウッドで頻繁に製作されるアウトローものであり、特段に変わった試み等はなされておらず、一から十まで王道に徹しています。際立った傑作・秀作の類ではないが、この手の映画の黄金率に当てはめて堅実に作られてはいるので、深く失望させられることもありません。監督は、ひたすらに陰鬱な終末SF『ザ・ロード』で世界中の観客の心を粉々に砕いたジョン・ヒルコートですが、『ザ・ロード』に続き、本作でも湿っぽい演出を披露しています。物語は一家の三男・ジャックの成長譚であり、中盤にはジャックのちょっとしたサクセスストーリーも織り込まれているのですが、この監督の個性の賜物か、まったく爽快感を味わえないという点は、唯一、本作で独特に感じた点でした。展開はチンタラしており、インパクトある見せ場もないのですが、この湿っぽさのおかげで、物語には一定の緊張感が維持されています。どこまで意図されたものなのかは分かりませんが、なかなか面白い塩梅の映画だなと思いました。。。 この手の映画は若手俳優の豪華共演を売りにする場合が多いのですが、例に漏れず、本作もなかなかのメンツが顔を揃えています。登場場面の多さは役者の知名度と完全に比例しており、ジェイソン・クラーク演じる長男がいてもいなくても変わらない程の薄い存在感だったことはお気の毒でしたが、一方で、トム・ハーディ演じる次男のかっこよさは頭一つ抜けていました。いざとなればメリケンサックを取り出して相手をボコボコに殴りつけるバイオレンス野郎にして、惚れた女に背を向けて死地へと向かう任侠野郎、最高ではないですか。シャイア・ラブーフなんてどうでもいいから、もっとこいつを見せて欲しいと切に願いましたとも。 [ブルーレイ(吹替)] 7点(2013-11-13 00:36:13)(良:2票) |
414. オズ/はじまりの戦い
3D版ブルーレイを鑑賞。 『死霊のはらわた』の監督がディズニーでファンタジー大作を撮る日が来るとは、一体誰が想像したでしょうか。しかも、題材は『オズの魔法使い』。MGMが1939年に制作した実写版は現在に至るまでアメリカの国民映画の一つとして位置づけられており、本作は、そんな超名作の姉妹編にあたるという、アメリカ人にとっては只事ではない立ち位置にある作品なのです(日本でいえば、『七人の侍』の続編を撮るようなものでしょうか)。さらには、1954年に『オズの魔法使い』の続編の映画化権を取得して以降、ディズニーは60年近くに渡ってこの企画を温めてきており、まさに社を挙げての大プロジェクトであるという側面も持っています。そんな映画をホラーの巨匠・サム・ライミに任せるとは、ディズニーもなかなか思い切った人事をやるもんだと感心したもので、ライミとディズニーがどんなコラボレーションを披露するのか、大変楽しみな映画でした。。。 そんな期待とは裏腹に、ライミは完全に個性を消してディズニーの望む映画を撮ることに全力を注いでいます。人が死ぬことはないし、直接的な暴力描写もない。主人公は勇気とエンターテイメント精神で悪い魔女を追い出すことに成功します。悪い魔女だって、観客の前で悪さはしません。「私は悪い人です」という話し方をするだけです。1939年ならともかく、現在の観客がこんな映画で手に汗握ることはできませんね。悪い魔女に負けた場合、どれほど恐ろしいことが起こるのかという煽りがなければ冒険は盛り上がらないし、痛みが描かれなければ戦いに感情移入はできません。『ナルニア国物語』でやったのと同じ失敗をディズニーは繰り返しているのです。人畜無害な娯楽などアニメの世界でしか通用しない、実写にはある程度の毒が必要だということに、早く気付いてもらいたいものです。。。 お話の方も、長年に渡って温めてきた割には特徴のない平凡なものでした。サム・ライミが1993年に撮った『死霊のはらわたⅢ/キャプテン・スーパーマーケット』とまったく同じ話で、ディズニーほどの大スタジオが練りに練り上げたお話にはどうやっても見えないのです。これだけの大きな企画なのに、何のサプライズもない脚本がよく通ったなと、変なところで感心してしまいました。本国では大ヒットしたため続編も製作されると思いますが、私はこれ一本で十分です。 [ブルーレイ(吹替)] 4点(2013-11-12 01:32:39) |
415. キャビン
《ネタバレ》 個人的に、ホラー映画の進化は『悪魔のいけにえ』で終わっていて、以降はシチュエーションを変えながら同じパターンを繰り返しているのみだと感じています。ホラーの作り手達も同様のことを考えているのか、『スクリーム』を皮切りに、『スリザー』や『フィースト』といった、ホラー映画あるあるを柱としたホラー映画は少なからず製作されています。本作もそんな作品のひとつなのですが、世界最強のオタク・ジョス・ウェドンが脚本を書き、それを『クローバーフィールド』のドリュー・ゴダードが監督したとなれば、ただの映画ではないだろうとの期待をさせられます。。。 が、しかし、内容は驚く程グダグダでした。被害者と仕掛人を交互に映し出すためスリルが持続しないし、さらには過去のホラー映画を上回るほどのインパクトある殺戮場面も作り出せておらず、正直言って眠かったです。「これはホラーのパロディですから」と言って作り手側が真剣勝負から逃げているような雰囲気さえ感じて、少々不快でもありました。「これでいいのか、ウェドンさんよぉ」と、心の中で何度も何度も叫びましたよ。。。 が、しかし、舞台が地下の実験施設に移り、話の核心部分に触れた辺りから、映画は異常な勢いで疾走をはじめます。『モンスターズ・インク』実写グログロ版、本当に最高でした。中盤をグダグダにしていたのも、このクライマックスを盛り上げるためだったのねと非常に納得。「疑ってすまんかった、ウェドンさん」と、心の中で何度も何度も謝罪しましたよ。モンスターパニックでお腹いっぱいになった後に、ダメ押しのシガニー・ウィーバー投入。この畳み掛け方は非常に素晴らしいと感じました。さすがはジョス・ウェドン、オタク心のくすぐり方をよくご存知で。 [ブルーレイ(吹替)] 7点(2013-11-12 01:31:20)(良:2票) |
416. 偽りなき者
《ネタバレ》 男女平等意識の強い北欧において、数少ない「男の本分」たる鹿狩りのイメージが度々登場したり、クララの父は長男にばかり目をかけて娘は部屋で大人しくしていればいいと考える家父長制の権化のような人物だったり、主人公が放り込まれるのは女性だけの職場だったりと、作品の至る所に男女の対立構造が見て取れます。さらに、主人公を追い込んだものは何だったのか、救ったものは何だったのかという点までを考慮すれば、本作の裏テーマはジェンダー問題ではないかと思います。。。 また、「男性から見た女性の姿」の表現も、本作の特徴となっています。疑惑を知った時の園長先生やクララの母親の反応がそれなのですが、感覚的に受け付けないと判断した時点で、いかなる弁解にも耳を貸さなくなるあの態度。主人公の言葉が耳に入ることすら汚らわしいと言わんばかりに園庭を逃げ回る園長先生の姿は滑稽でしたが、男性であれば、人生のうちで一度や二度は似たような目に遭わされたことがあるのではないでしょうか。粗野な男も悪いのですが、聞く耳を持たなくなった時の女性の頑なさには手強いものがあります。さらには、主人公が息子に会うことを徹底的に妨害する元妻の存在など、本作には、監督が女性に対して抱える恐怖心や反感というものが随所に見て取れます。。。 センセーショナルな内容である上に、上記の通り監督の個人的な女性観が全体を貫いていることから、本企画は独りよがりの内容になってしまうリスクを多分に孕んでいたと言えるのですが、その点を抜群の構成力で乗り切ったという点には感心しました。例えば事件の発端部分。【恋心を拒否されて、女の子が小さな嘘をつく→園長先生は、管理者としての責任からセラピストを呼ぶ→セラピストは、性的虐待があったという先入観から少女に対して誘導尋問を行う→専門家によるお墨付きを得たことで、架空の犯罪が事実として一人歩きをはじめる】。主人公は、事件発覚後の数日間は自宅待機を命じられており、初動段階で誤解を解消する機会を得られなかったという細かい動きまでよく考えられており、まったく隙がありません。事件の解決部分にしても、教会という舞台を選択して加害者と被害者以外のオーディエンス(神を含む)を多数配置したことで、「この環境であれば、主人公の熱弁は聞き入れられるだろう」という説得力を持たせています。 [DVD(字幕)] 8点(2013-11-10 02:42:25)(良:3票) |
417. ザ・マスター
貫禄を見せるフィリップ・シーモア・ホフマンと、彼に全力でぶつかっていくホアキン・フェニックス。そして、影の実力者らしき静かな存在感を見せつけるエイミー・アダムス。確かに、彼らの演技合戦は素晴らしいレベルに達しており、見て損のない映画に仕上がっています。その一方で、この映画が一体何を言いたかったのかという点については腑に落ちない点が多く、アカデミー賞で演技部門には複数ノミネートされたものの、作品内容に係る部門でのノミネートがなかったという評価には、非常に納得がいきました。。。 本作はサイエントロジーの設立から拡大までを描いた作品だということで、本国では大きな論争を生みましたが、実際には、宗教や信仰というものはそれほど大きく扱われていません。教祖様の教えは科学と宗教を折衷したインチキ臭いものだが、アル中の主人公・フレディは、そのデタラメな教えによって人生を救われてしまう。この点を深く掘り下げれば、「信仰とは何か?」という哲学的な映画になったはずなのですが、勿体無いことに、本作はその点を見事にスルーしているのです。では本作で何が描かれているのかというと、インチキ教祖と信者の間に生まれた謎の友情。暴力に訴えてでも教団と教祖様を守ろうとするフレディは完全にイカれており、教祖様の周囲でも、「あの人はヤバいから切ってしまおう」という声が根強いものの、なぜか教祖様はフレディに対して特別な思い入れを持ち、決して切りません。フレディもフレディで、教祖様の巻き添えを食って留置所に入れられた時には、「なんだよ、この教え。インチキじゃないか!」と信仰をはっきりと否定するものの、その後も教祖様と行動を共にするという意味不明さ。本作は信仰の物語ではなく、異常者同士の歪んだ友情を描いた物語なのです。。。 しかし、二人の間の友情がどうにも消化不良。監督が言わんとすることは頭で理解できるものの、ドラマチックではないので心に響いてこないのです。『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』の仮想的な親子関係や、『マグノリア』の憎んでも憎みきれない肉親への愛情物語などと比較すると、PTAの演出は随分落ちたなと落胆させられました。撮影技術や役者への演技指導といった表層的なスキルについては熟成を感じさせられるものの、主題の煮詰め方については、寧ろ退化しているように感じました。 [ブルーレイ(吹替)] 6点(2013-11-10 02:41:42) |
418. クロユリ団地
さすがはJホラーを代表する監督・中田秀夫による作品だけあって、伏線の張り方や落とし方は非常にしっかりとしています。Jホラー特有の陰惨な空気も見事に醸成されており、丁寧に作りこまれた良作だと言えます。主演の前田敦子も、小慣れてはいないものの演技を全力でやりきっており、役作りのために自分を相当追い込んだことが伺えます。最初は、アイドル映画だと思って舐めた目で見ていたのですが、実際にはかなり本格的なホラー映画だったことは嬉しい誤算でした。。。 以上、褒めるべき点の多い作品ではあるのですが、ひとつひとつの場面が妙に長いために、全体としてチンタラした映画だという印象を受けたこともまた事実。静かな場面の積み重ねからいきなりショックシーンで観客を驚かせることはホラー映画の常套手段なのですが、観客の眠気を誘うほど静かな本編では、ショックシーンの勢いも削がれてしまいます。 [ブルーレイ(邦画)] 6点(2013-11-06 01:11:45) |
419. バレット(2012)
シュワルツェネッガーの『ラスト・スタンド』と併せて見たので余計にそう感じるのですが、60代後半でここまでの体力を維持し続けているスタローンの役者魂には心底恐れ入ります。シュワ氏が完全におじいちゃんとなり、小走りすらキツそうだった『ラスト・スタンド』と比較すると、上半身裸での格闘や、ジェイソン・モモアとのタイマンを余裕でこなす本作のスタローンは、本当に輝いて見えます。その一方で、歳をとって年季の入ったスタ氏の顔は、若々しさとは別方向での迫力を見せており、老いと若さが絶妙にブレンドされた現在のスタローンは、映画史上でも非常に稀なポジションにいると言えます。。。 ウォルター・ヒルの演出は、良くも悪くも昔ながらのものでした。勢いや迫力よりも風情を重視した演出により、殺し屋稼業というものをじっくりと映し出そうとしているのです。老いた殺し屋と若き刑事との掛け合いなど、それなりに見るべきものはあるのですが、その一方で、21世紀のアクション映画としては残念すぎるほど展開がチンタラしているという欠点も気になります。陰謀の正体も大したものではなかったし、こんなどうでもいい謎解きに観客を付き合わせることなどせず、もっとストレートに情念をぶつける内容にした方がよかったのではないかと思います。ジェイソン・モモア演じる殺し屋が非常に良かっただけに、黒幕ではなく彼をフィーチャーした殺し屋バトルにでもすれば、より盛り上がったのではないかと思います。 [ブルーレイ(吹替)] 6点(2013-11-06 01:10:45)(良:1票) |
420. ラストスタンド
合理性よりもエモーションを重視したアクションを得意とするという点において、キム・ジウンはジョン・ウーの流れを汲む監督だと個人的には考えているのですが、本企画はそんなキム・ジウンのハリウッドデビュー作としては妥当なものだったと思います。物語は意図して大雑把に作られており、いかにかっこよく、いかに面白くするかという点に最大の関心が払われています。登場人物は全員非現実的なのですが、作り手側がそれを面白がって作っているので、演出にきちんと余裕があるのです。適度に笑わせ、適度に興奮させる。アクションの迫力も水準以上であり、監督として必要な仕事はきちんとこなせていると思います。。。 問題はシュワ氏でした。『ターミネーター3』以来10年ぶりの主演作ではあるものの、『エクスペンダブルズ』シリーズで観客に対する顔見世が終わっているため、レア感は失せてしまっています。さらには、不遇の時期にも細々と俳優業を続けてきたスタローンとは違い、シュワ氏は別業種で時間を費やし過ぎたために、アクションのキレも、主演俳優としてのカリスマ性もなくなっており、そもそも演技が上手くない人が、余計下手になって帰ってきただけの映画に終わっています。主演がこれでは厳しいですね。ラストの殴り合いなんて、あまりの迫力のなさに驚いてしまいました。本作を見ると、体力と威圧感を維持し続けているスタローンがいかに凄い役者であるかがよくわかります。 [ブルーレイ(吹替)] 6点(2013-11-06 01:09:38)(良:1票) |