561. スポットライト 世紀のスクープ
《ネタバレ》 カトリック教会の性的スキャンダルというタブーと言える領域に切り込んだ、 ジャーナリストと事件の関係者達の姿を描いた、実話をベースにした作品。 地味に冷静に彼らの姿を追いながらも見応え十分、久々に硬派な社会派ドラマを見たという思いです。 次から次に神父や弁護士などの関係者の名前が出てくるのですが、 ボストンの新聞社の精鋭チームが丁寧に緻密に地味な作業を進めていくかのごとく、 緊張感を常に保ちながら、実に丁寧に緻密にストーリーが展開していく。 作品は当然ジャーナリストの側に立ちながらも、その過程の中でジャーナリストとしてのあり方にまで言及していく。 トム・マッカーシーは本作の前の2作はコメディを発表してきましたが、 その前の「扉をたたく人」や本作のように社会派の作品でも今後、期待したい人です。 [DVD(字幕)] 7点(2016-12-11 16:07:04) |
562. 神様メール
《ネタバレ》 パソコンが必須アイテムになってしまった現代社会。そのあたりの事情は神様と言えども同じのようで・・・。 何となく可愛い感じの邦題にDVDのパッケージ。新感覚の宗教映画といったところですが、 この映画、結構挑戦的。ブラックユーモアではあるのですが、 主人公の女の子は神の子ども。ということは父は何と神様。その神様が一番病んでいるように見える。 この娘が父のパソコンにイタズラして、下界の人間にあるメールを一斉送信してしまったから、さあ大変! まず娘が下界にやってきて、次に神様である父もやってきての騒動が描かれるのかと思っていたら、 娘が出会う人間達とのエピソードは予想に反し真面目に作られています。 もっと娘が地上の人間社会を冒険するアドベンチャー的要素があっても面白かったかとは思いますが、 親父が地上で散々な目に会う笑いドコロがいいアクセントになっています。 地上にやって来た神様と人間の交流を通して描かれる一風変わった現代社会への皮肉が面白い。 [DVD(字幕)] 6点(2016-12-03 21:29:23)(良:1票) |
563. サムライ(1967)
アラン・ドロン、そしてサムライとくれば、今では香水の方が有名なのかもしれないですが、 本作の襟を立てたトレンチコートとソフト帽をかぶった彼の姿は、アラン・ドロンを言われて思い浮かぶ姿の1つです。 彼が逃げる姿をひたすら追い続ける。やはりこの人にはフレンチ・ノワールの世界の中で何かから追われている姿がよく似合う。 ベラベラ喋らない。無口で無表情のクールな殺し屋。そんな姿を見ているだけで退屈しない、アラン・ドロンのカッコよさ。 [DVD(字幕)] 7点(2016-12-03 21:25:57) |
564. マダム・フローレンス! 夢見るふたり
《ネタバレ》 戦争の時代に活動した伝説の音痴の歌手、マダム・フローレンスを演じるメリルが初めて歌うシーン。 ”ハッホッハッホッホ~~~~~!!”思わず笑ってしまいました。 メリルが極めて高い歌唱力を持つ女優さんであることは、「ハリウッドにくちづけ」などの映画でも明らかです。 そんな彼女の音痴っぷりは必見ですが、変わることのない彼女のパワフルな歌声は見事でした。 メリルはこの実在の人物を実に大らかに楽しそうに演じています。近年の作品では「ジュリー&ジュリア」の彼女を思い出します。 メリルの独壇場の映画と言いたいところですが、パートナーを演じるヒュー・グラントもまた良かった。 これまでにもラブコメを中心に、ちょっといい加減だけど憎めないキャラを演じれば抜群だったヒューさん。 本作で演じる役は微妙な役どころですが、ラブコメでこんな役を演じ続けてきた彼ならではの良さが出まくっています。 彼女の歌を絶賛する音楽愛好家の人々。その一方で彼女の知らないところでは常に彼女の歌声を嘲笑する人々もいる。 彼女が歌うと思わず笑ってしまうのですが、この2通りの人々を見ていると、途中からは複雑な気持ちにもなる。 それでも、病気と闘いながらも音楽を心から愛し、自分の歌を愛してくれる人のためにレコードをプレゼントし、 命を懸けて戦場で戦った兵士達のためにカーネギーホールで歌おうとするフローレンスと フローレンスの周囲から批判や嘲笑を徹底的に遮断し、彼女を守り支える夫。 そんな2人の姿に切なさも感じるのですが、ほっこりした気持ちにもさせてくれる夫婦の奮闘記でした。 [映画館(字幕)] 7点(2016-12-01 18:16:05)(良:1票) |
565. クラッシュ(2004)
《ネタバレ》 冒頭のドン・チードルの”触れ合いとぶつかり合い”の語り。 鑑賞後にこの冒頭の語りがとても印象に残る作品でした。 本作には様々な人種の人々が登場する。人種差別主義者もそうではない人も登場する。 人々の暮らしの中に普通に存在してしまっている銃の存在。 アメリカに住む市民なら誰もが、多少なりとも本作に登場するような人に出会い、 触れ合いもぶつかり合いも経験したことがあるのではないかと思う。 特定の主人公は存在せず本作の登場人物も誰もがアメリカの一市民であり、 これらに対し本作は特にこれといった解決策を見出している訳ではないですが、 現状では誰にも解決策なんて見出すことができないんだから仕方が無い。 その上でポール・ハギスはアメリカ社会の現状の一端を語り、アメリカ市民に問いかけようとしたのか。 それでも、序盤から人種差別的な行動や発言を繰り返す、主役級のマット・ディロンやサンドラ・ブロックですが 彼らの序盤からのぶつかり合いの果ての触れ合いに少し救われたような気がします。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2016-11-26 17:40:16) |
566. 暗い日曜日
《ネタバレ》 名曲「暗い日曜日」まつわるエピソードは聞いたことがありましたが、 その曲をモチーフにした、こんなストーリーがあったとは・・・。 あまりにも美しい1人の女と3人の男。それぞれの人物像と、彼らの心の配置が見事という他に無い。 戦争の時代を描いたドイツの映画特有の重さはあるのですが、 「暗い日曜日」の旋律の如く美しく悲しく、そしてエロティックでサスペンスフルで、何と上品な映画か。 3人の男のうち2人は戦争中に命を落とす。しかし、イロナには新しい命が宿っている。 ラストで作品は冒頭に続く現代に戻る。60年の時を経ての3人目の死。あの店で、あの曲が流れている中で・・・。 店の奥で息子が母の誕生日を祝っている。洪水の後も、彼女は洪水を忘れることなく力強く生き抜いたのであろう。 とても静かですが、重みを感じさせるラスト。そして常に死を感じさせる作品でありながら、 鑑賞後の後味は上質のワインでも味わった後のような余韻が残ります。 [CS・衛星(字幕)] 9点(2016-11-20 16:36:38) |
567. コップランド
ハーヴェイ・カイテル演じる悪徳刑事とその仲間たちが住む、NYPDのベッドタウンが作品の舞台。 この町で警察に憧れていながらも警官になれない、不器用な保安官を演じるスタローンが意外にはまっている。 カイテルもこういう役はお手の物(いつも通りもうちょっとキレてくれても良かったかな)だし、レイ・リオッタの熱演も良かった。 序盤、デ・ニーロとカイテルの対立の構図が見えた時は面白くなりそうだったのですが デ・ニーロの役がほとんど機能しておらず、豪華キャストは持て余し気味。 次第に不正が蔓延る警官の町で孤立した保安官の立場や、その鬱憤が明らかになっていく。 見る者のストレスもたまる展開が続く。いつスタローン保安官がブチ切れて怒りの鉄拳が炸裂するのか?と思っていたのですが、 さすがに「ランボー」のように豪快に町を破壊することは無いものの、最後はしっかりスタローンの映画となっていました。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2016-11-18 18:11:16) |
568. トレヴィの泉で二度目の恋を
《ネタバレ》 映画が始まり、最初に聞こえてきた声「マルチェロ!」。そしてTVに流れているモノクロの映画。それは「甘い生活」。 シャーリー・マクレーン演じる虚言癖がありちょっとブッ飛んだところもある、それでいてチャーミングなばあさん。 年は取っても彼女のパワフルなコメディエンヌぶりには全く衰えなしです。 そしてクリストファー・プラマー演じる偏屈だけど、それでいて品を感じさせるじいさんの2人の恋。 想像していた以上に2人が笑わせてくれる。しかしそれでいて品を感じさせ見る者をホロリともさせてくれる。 2人の味わい深い共演が素晴らしい。 近年でもRアッテンボローの「あの日の指輪を待つきみへ」で2人は共演しており、息もピッタリな所を見せてくれます。 終盤に2人はローマに旅立つ。そしてあのトレヴィの泉へ・・・。 あの名シーンのマストロヤンニとアニタ・エクバーグに、プラマーとマクレーンの姿が重なり合う。 2人の世界がモノクロに変わる。何とも素敵な、「甘い生活」に捧げられたオマージュ。 その後すぐに突然訪れるラスト。多くを語らないのもまた良かった。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2016-11-15 21:29:25) |
569. 荒馬と女
あまり見返したい映画ではないのですが、すごく印象に残っている映画です。 マリリン・モンローとクラーク・ゲーブル。本作が主演の2人共に遺作となってしまいました。 また本作から数年後、モンゴメリー・クリフトも若くしてこの世を去りました。 邦題「荒馬と女」よりも”適合できない者たち”という原題がとてもよく分かる作品です。 ラストでゲーブルは「時代は何もかも変わってしまった。新しい生き方を探さなきゃな。」と言う。 この台詞を象徴するかのようなモノクロ映像の中にいる、時代から置いてけぼりになってしまったような哀愁漂うカウボーイ達。 そしてマリリン演じる時に精神的な不安定さを見せる離婚したばかりの女。 終盤、馬を取り囲む男達に対し、荒野の真ん中で泣き叫び感情を爆発させるマリリンの姿には胸が張り裂けるようです。 彼女の中で、この役を演じる女優マリリンと、この頃の1人の女性ノーマ・ジーンの境界線はどこにあったのでしょうか・・・。 しかし50年代の作品で見せるような天真爛漫さは無いですが、時折無邪気さも見せる本作のマリリンはとても美しい。 今に見ると何とも言えない悲しさを感じる作品です。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2016-11-12 19:22:01) |
570. 旅するジーンズと19歳の旅立ち
《ネタバレ》 ハイスクールを卒業してアメリカ各地の大学に進学していった4人のその後。 最終盤まではジーンズの存在感も前作以上に薄くなってしまって、最後は無くなってしまいました。 でも、それで当然。すれ違いも出てくるし大人になるにつれ悩みも増えるし自分のことで忙しくなってくる。 4人が恋や友情やそれぞれの人間関係に悩み苦しむ時間帯が多いので、映画としては前作の方が楽しい。 でも、大人になっていく、前作より成長した彼女達の姿が確かにありました。 続編としては健闘している作品だと思います。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2016-11-10 16:59:51) |
571. 旅するジーンズと16歳の夏
産まれてからずっと何をするのも一緒だった4人の女の子が、初めて離れて過ごした16歳の夏休み。 冒頭のジーンズの試着がいい。身長も体型も違うはずなのにみんなサイズがぴったりの不思議なジーンズ。 これは一心同体の4人の象徴のよう。 この手の映画の定番、ひと夏の恋もあるけどそれだけじゃなく、 4人それぞれの出自や家庭の事情、それを乗り越え成長していく姿が良かった。 これから4人一緒じゃない時間も少しずつ増えていくんでしょうね。 本作のキーアイテムであるジーンズの活躍の場はそんなには無かったけど、 ジーンズが奇跡を起こしてみんなの夢が叶っちゃいました!よりは友情の証程度のこんな感じで良かったと思う。 最後はカーメンが笑顔になってくれてほっとしたな。爽やかな余韻を残す青春映画の佳作です。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2016-11-10 16:57:23) |
572. 刑事コロンボ/死の方程式<TVM>
先日某チャンネルで本作と「もう一つの鍵」と、2本続けて放送されていました。 このシリーズも作品数が多いので面白いもの、つまらなかったものと色々ですが、 この2本を続けて見て改めて思ったのは犯人にもある程度の人間力が無いと面白くないということです。 本作の犯人は相当なインテリで、かつ大きな会社の社長の甥で次期社長と目されている男。 しかしチャラすぎ、軽すぎ。言動があまりにも浅はかで警部の相手として弱すぎです。 ロープウェーで犯人がまんまと警部の計算通りに尻尾を出すラストは面白かったですが、 本作も「もう1つの鍵」と同じく警部にとっては楽な事件でったでしょう。 もうちょっと警部に苦労させてくれないと作品としては面白くないですね。 [CS・衛星(吹替)] 4点(2016-11-05 00:38:57) |
573. ブロークン・トレイル 遥かなる旅路<TVM>
TV用に製作された作品ですが、これは映画館で見たらいいだろうな。 雄大な西部を行く500頭の馬と、遥かなる旅路の様々な人間模様を大らかに描く。 叔父と甥、そして序盤にもう1人、音楽家を志す若者が仲間に加わる。 いい具合に不器用で強く、いい具合に優しく紳士であるこの男達が実にいい。 売り飛ばされようとしていた所を彼らが助けた中国娘達が旅に加わり、更に他の町でも仲間が増える。 仲間が増える出来事の度に彼らの魅力が増す。最初は彼らにも怯えていた中国娘達が次第に綺麗に見えてくる。 その旅の道程は現代が舞台のロードムービーと比べるとテンポは良くありませんが、ゆったりとした3時間が実に心地いい。 しかし、西部開拓の時代も現代も、全く変わることの無いアメリカン・ロードムービーの風景がある。 それはアメリカン・ロードムービーの、僕の好きな風景である夜の焚き火とその語らい。 音楽家を志す若者のフィドルに合わせて皆で踊るシーンは特にお気に入りのシーンです。 こんな平和な風景だけではなく、この時代ならではの悪者も出てくる。そのクズっぷりも良かったと思う。 旅の仲間の中には命を落とす者もいる。ウォルター・ヒルらしいハードさも加わります。 本作は何と言っても主演ロバート・デュバルの映画。 「あなたは不幸よりも幸せになることの方が怖いのね。」この終盤の台詞を見事に体現していました。 いかにも不器用そうな甥役のトーマス・ヘイデン・チャーチも良かった。ささやかに挿入される叔父と甥、それぞれのロマンスも。 久しぶりにグレタ・スカッキが見られたことも嬉しかったです。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2016-11-02 23:47:05)(良:1票) |
574. 刑事コロンボ/もう一つの鍵<TVM>
序盤の犯行時の順番にあれれ・・・?とは思ったんですけどね。 以降もシリーズのお楽しみである、警部が犯人の仕掛けた巧妙なトリックを1つ1つ崩し、 じわじわと犯人を追い詰めていくという見どころがまるでありません。まあ、あの犯行ではそれも仕方無しです。 シリーズの犯人像も様々ですが、こんなに小物感全開の人も珍しいです。 富も地位も名声もある大物の犯人の前に苦戦を強いられることも多いですが、 今まで僕が見た中では、警部にとって最も楽で簡単な事件でしたね。 [CS・衛星(吹替)] 4点(2016-11-01 20:52:53) |
575. 大頭脳
ベルモンド主演のフレンチ・ドタバタ・アクションバカコメディ。 やっぱりこういう映画のベルモンドはいいですね。 刑務所を脱獄したフランス人小悪党とその相棒、イギリスの怪盗紳士、イタリアンマフィアのボス。 演じるのはベルモンドとブールヴィル、デヴィッド・ニーヴン、イーライ・ウォラック。 全員が見事に持ち味を発揮しています。 同じブツを狙う3組の能天気な小競り合いが最後まで本当に面白い。 笑えるもの、今に見るとスベッているもの、様々ですがくだらないギャグをこれでもかと挿入してきます。 強奪計画を手下に説明する際に使われるアニメーションが面白い。 今後何が起こるのかを見る者にも実に分かりやすく提示してくれる。 3組の視点をテンポよく切り替えながら、最後に利するのは誰だ?という最終盤のドタバタまで な~んにも考えずに楽しめる作品です。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2016-10-31 19:08:30) |
576. ある過去の行方
ある女と彼女の2人の娘、その女と再婚しようとしている男と彼の1人息子、 その女と離婚しようとしている男。1つ屋根の下、あまりにも複雑な事情や思いが絡み合う数日間のドラマ。 大人達、思春期の娘、まだ幼い子ども達。それぞれの微妙な心理の変化や、噛み合わないそれぞれへの思い。 それはサスペンス的であり、終盤に再婚相手の男とその妻の過去を明かしていく過程はミステリー的要素を含みながら、 抑揚の少ない作風ですが、その中に少しずつ彼らの思いを浮き彫りにしていくその様は時に鋭さすら感じさせる。 自らこの素晴らしい脚本も手掛けたファルハディ監督の卓越した手腕を感じます。 まだ40代半ばと若く、これから先どんな傑作を世に送り出してくれるのか目が離せない監督の1人です。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2016-10-31 19:05:32) |
577. アイガー・サンクション
《ネタバレ》 中盤までのスパイサスペンスと終盤の北壁登攀を見せる山岳アクション。 見どころは勿論北壁登攀。しかしそこに至るまでが非常に長く感じられました。 ジョージ・ケネディ、ジャック・キャシディといった個性派がイーストウッドの脇を固めているのですが、 コロンボの名犯人役、ジャック・キャシディの使い方が勿体無い。 旧友役ジョージ・ケネディは好演でしたが、出てきた瞬間にきっとこの人なんだろうなと・・・。 スパイサスペンスとしての結末は結構お粗末です。 山岳映画としては、スタントに頼らないイーストウッドの姿と、 まだCGに頼れないこの時代の映画だからこその圧倒的臨場感とリアリティがあります。 北壁登攀の山岳アクションが素晴らしかっただけに、全体として見れば惜しい作品です。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2016-10-27 21:12:53) |
578. マダムと泥棒
《ネタバレ》 何かあると警察にいちいち通報するお婆ちゃん。警察にとってはちょっと厄介者ですが、 そのおとぼけ具合と正義感。本作の様々な要素の伏線となる、お婆ちゃんのキャラを決定付けるこの冒頭が最後まで効いています。 音楽家に扮する泥棒一味に何とも味のある顔ぶれが揃っていて、彼らのドタバタぶりだけでも十分面白いのですが、 その上を行く魅力と存在感を見せるお婆ちゃんを演じた女優さんがあまりにも素晴らしいです。 ワルには違いないですが音楽家に扮し、お婆ちゃんの前では紳士的に振舞う泥棒達。それがもたらす笑い。 作品の至る所にちりばめられた英国調の笑いがたまらない。 終盤はかなりアクの強い展開となりますが、汽車と煙の使い方が絶妙。 お婆ちゃんが疲れて寝てる間に、泥棒一味は結果的には自分達で自分達を罰してしまい、 目覚めればお婆ちゃんは一夜にして大金持ちになっていました。めでたし、めでたし、でいいのかな? [CS・衛星(字幕)] 8点(2016-10-25 21:50:19) |
579. オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ
アダムとイヴの一風変わったラブストーリー。2人は人間ではなく吸血鬼。 ジャームッシュ流、新感覚のヴァンパイア映画。 現代のヴァンパイアにもスマホはもはや欠かせない日常生活のアイテムの1つであり、 you tubeも欠かせない娯楽の1つか。しかし彼らにとっても現代社会は決して過ごしやすくはないようです。 生きにくい現代社会への皮肉に、ジャームッシュ独特の音楽のセンスに心地よいオフビート感とユーモアは本作でも健在。 ある意味だらだらと綴られていく、彼らの夜の闇に包まれた日常。 そんな彼らの日常に途中から投入されるお茶目でおてんばの妹、ミア・ワシコウスカの存在も効いています。 全く異なった趣を見せるデトロイト、タンジールの人気の無い深夜の街の風景。 それは美しくも、彼らの孤独感を表しているようでもあります。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2016-10-19 16:16:50)(良:1票) |
580. 拝啓天皇陛下様
これまでに寅さんを何回見たか分からない僕にとっては、渥美清=寅さんのイメージがあまりにも強すぎるのです。 しかし本作の見ている間はずっと、不思議と寅さんを思い出すことはありませんでした。 本作の中ではすっかり渥美清=ヤマショーになってしまっていました。渥美清の凄さを改めて思い知らされます。 渥美清が笑わせ泣かせてくれます。生涯の友に振り回されながらも受け止める懐の深さを感じさせる長門裕之のムネさんも実にいい。 冒頭で語られるヤマショーの生い立ちに、当時の農村の窮状を思わせる手紙。当時の若者が避けては通れない軍隊生活と戦争。 そして戦後の混乱期。ヤマショーが徴発と言いながら鶏を農家から盗んでくる。 昭和22年ごろと言えば、まだまだ遅れて復員してくる人もいたであろう貧しく苦しい時代。 戦中と戦後の境界線が曖昧になってこんな騒ぎが起こることもあったのかもしれません。 ヤマショーも少しずつ終戦後の暮らしに順応し始めたかに見えましたが、しかし・・・。 戦中から終戦直後にかけて、男と女も、誰もが戦争に人生を翻弄された時代。 ヤマショーとムネさんの出会いと別れと再会の中に、そんな時代の世相と時の流れをとても巧く重ね合わせていく。 ヤマショーのキャラクターもあり、ブラックユーモアも含みつつあっけらかんとした作品の空気の中に、 戦中から終戦直後を生きた庶民の苦しかった日常を描き出す。いい泣き笑いのある人情喜劇でした。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2016-10-16 18:16:29)(良:1票) |