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よしのぶさんの口コミ一覧[この方をお気に入り登録する

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601.  静かなる男 《ネタバレ》 
アイルランドの片田舎が舞台。素朴で、大らかなで、伝統を守って暮らす人々の中に、ヤンキーのソーントンが移住してくる。メアリーを一目見て気に入り、いきなり結婚を申しこんでびっくり。ソートンはリタイアした身で、50歳くらいと思っていたので。ソートンが始めて自分の家に入ったときにメアリーがいて、いきなりのキスにもびっくり。メアリーは野生そのままの女だけど表情は豊か。伝統的な意味の強い「持参金と嫁入り道具」に執拗にこだわるのには、理解できませんでした。最後のほのぼのとした大団円に水を差すようですが、二人の結婚生活はうまくいかないと思いますよ。外国人が異文化に溶け込むにはお祭りのような通過儀礼が必要。それがクライマックスのソーントンとダナハーの大喧嘩。要するに、これを見せるための映画ですね。わっしょい、わっしょい。みんな楽しそうですね。「静かなる男」が静かでなくなったとき、村に溶け込めました。ケンカをやめさせるべき神父や牧師までもが高見みの見学で、賭けまでするのはどうかと思います。アイルランド人蔑視に取られないかと心配になります。酒とケンカと賭け事とお祭の好きな人向けの映画。古きよき伝統、理想郷と取るか、打破すべき因習と取るかは意見が別れそう。何しろ奥さんをずるずる引きずってゆきますからね。完全な男社会です。「これで奥さんを殴りなさい」と枝を渡した奥さんって親切?サブストーリーは、試合で相手を殺して、人を殴れなくなった元ボクシング・チャンピオンが殴れるようになるという成長物語。これは描写不足で不発ぎみ。そもそもソーントンという人物像がよく見えてきません。年齢不詳。無口であまり心を開かないですね。バラは似合わないと思うけど、父親が庭にバラを植えていたのを再現するんですよね。でも競馬のときどうして未亡人の帽子をとったの、教えて!忘れられないのは都会生活を説明するのに「溶鉱炉で熱した鋼鉄を胃に飲み込むのさ。だがな、強くなりすぎると折れやすい」という名台詞。たったこれだけで都会生活のハードさと孤独が見えてくる。感服しました。作品の意図はわかるのですが、田舎の人を馬鹿にしているような印象がぬぐえず、あまり楽しめませんでした。 御者ミケリーンのキャラは好きですが、定型で作りすぎ。多様な価値観社会の現代には支持されない映画かもしれません。
[DVD(字幕)] 5点(2009-09-26 07:46:25)
602.  レベッカ(1940) 《ネタバレ》 
ヒロインに魅力を感じず、前半は退屈でした。レベッカ(以下R)の存在感は抜群だったが、新夫人は名前も無い(Jと仮称)。何かあるとすぐ不機嫌になるマキシム。いつもおびえているJ。シャワールームからの突然のプロポーズ。シンデレラ物語のはずなのに、幸せを微塵も感じさせないカップルの誕生です。マキシムは家名を重んじてRと離婚しなかったのに、どうして両親も何の後ろ盾もない庶民の娘と結婚したのでしょうか。庶民の娘が上流階級の家に後妻に入ってもやっていくのは大変だという無駄な知識が得られました。貴婦人になるのは大変なんですね。マキシムはRを憎んでいたのに肖像画やRの刺繍入りのものを目に付くところに置いてくのはどうしてだろう。Rのことを思い出させること言うと不機嫌になるくせに。矛盾している。舞踏会の衣装騒動は大げさでしょう。夫に叱られ、泣いて、ダンバース夫人に文句を言うと「家から離れなさい。生きている理由もない。飛び降りたら楽よ」突拍子もないですね。Rの存在を風に動くカーテン、船の遭難を霧で表現するなど光る演出がありました。Rは殴られ、倒れ、工具に頭を打ちつけて死んだ。頭蓋骨に外傷がある。2月後に見つかった溺死死体は判別不能でしょう。マキシムは余計なことをせずに死体を放置しておけばよかったのです。事故死とされるでしょう。又は海へ転落したと見せかければよかった。船を沈める必要はないはずです。理性を失っていたのでしょうか。Rは癌で余命が少ないことを知ると、夫に他人の子供を妊娠したと嘘をつき、自分を殺させようとした。愛憎が混沌として捻じ曲がっていたのでしょうか。理解不能、サイコです。「幸せな二人を見たくない」という理由で屋敷に火を放ち自殺したダンバース夫人もサイコ。Rに同性愛の感情でもあったのでしょうか。後半二転三転する展開に拍手。ホームレスのベンにだけは心が和みました。いい味出してます。えっ、オスカー受賞!R同様理解不能。
[DVD(字幕)] 7点(2009-09-26 04:17:46)
603.  見知らぬ乗客 《ネタバレ》 
ストーリーが二転三転、読めない展開が最後まで続く良質のサスペンス。交換殺人理論が提示される導入部は最高。ガイが妻に離婚を反故にされ殺意を覚えながらアンに電話しているとき、後ろに列車が通り、交換殺人の男が暗示され、次にブルーノの両手のカットとなるつなぎは芸術的。まもなくこの手で絞殺が行われるのだ。小道具の使い方は抜群。非常に感心したのは母親の描き方。ブルーノのゆがんだ性格は母親の異常な愛情、甘やかしすぎが原因。BRUNOと刺繍した時代遅れのネクタイに暗示される。盲目的に息子を愛し、大人になっても爪を切ってやり、誰が見ても異常な絵を描き、アンの言葉に全く耳を貸そうとしない。ブルーノは母に甘えきっており、その反動で父を殺したいほど憎むのだ。ネクタイはアンが真相を見抜くのにも使われる。次は眼鏡。ガイの妻ミリーの眼鏡に映る絞殺の様子は印象的なショット。眼鏡をしたアンの妹ミリーを見て、老婦人の首を絞めながら失神するブルーノ。彼の異常性を的確に表現している。ユーモアもある。だがガイがブルーノの家に彼の父を殺害に行ったあとから、面白みが薄れる。その理由:①なにも男2人と遊園地で遊んでいるところを殺さなくても。もっと目立たない場所で。②ライターを事件数日後に現場に置いたところで何の証拠にもならない。③テニスが素人っぽい。④ライターを溝に落したり、取るのに手間取ったりするが間抜けっぽい。あそこでライターを取り出す必要がないし、細長い道具でさっさと取ればいい。⑤日没を待つ理由がない。⑥対決場面がメリーゴーランドではゆるい。高速回転させても怖くない。せめて大観覧車などの高所で。⑦早く警察に相談しましょう。ブルーノを拘束して強制捜査すれば、ボロが出るはず。彼からの手紙や鍵があるのだから。⑧アンが警察に相談もせず、ガイにも黙ってブルーノの家に行くのは論外。最後に:コリンズ教授、この酔っ払い!あんた本当の「見知らぬ乗客」だ。
[DVD(字幕)] 7点(2009-09-25 23:05:25)
604.  ライムライト 《ネタバレ》 
舞台出身のチャップリンの原点が確認できる。主人公は、世間に忘れられた老喜劇役者カルヴェロ。自殺未遂を図ったバレリーナのテリーを助け、生きよと励ます。「死は避けられないが、生も又避けられない。宇宙を動かす力、木を育てる力が君の中にもある。それを使う勇気と意志を持て」絶望から立ち直ったテリーだったが、精神的弱さから足がマヒして歩けない。ある日カルヴェロは舞台に失敗して、もう終りだとひどく落ち込む。テリーは「今こそ芸人魂を見せるのよ」と激励し、立ち上がり、歩けるようになった。舞台に復帰したテリーは才能を認められ、プリマとしての地位を得る。同時にかつての片思いの音楽家とも再会する。だが、テリーの心はカルヴェロにあり、結婚を申し込む。カルヴェロは身を引き家を出る。辻音楽師に身をやつしていたカルヴェロと再会したテリーは、まだ彼を愛していた。そんなとき、彼の記念公演が行われ、久々の大当りを取る。だが、舞台から落ちて動けなくなってしまう。テリーの舞台を見守りながら静かに息を引き取る。悲劇だが、舞台で死ぬのは彼らしい死に方で、本望だろう。「私は死にます。だが私は何回も死んでいます」は名台詞。愛する人が亡くなったのを知らずに踊るテリーのクロスカットが涙をそそる。傑作にあげる人も多いが、気になるところがあり、鑑賞を妨げる。①若い二人は結ばれるべきだった。②音楽家の影が薄い。③つり銭や楽譜の数をごまかすのはまずい。④テリーのバレエが吹き替え。(と思う)⑤劇場で娼婦らしい女が紳士を誘う場面の意味が不明。テリーの姉が夜の女として働きテリーを育てたことと関係あるだろうか。⑥最後の舞台でテリーが「不安なのでサクラを用意した」と言う場面があるが、あれは不要。舞台で最後のライムライトを浴びることでカルヴェロの人生が終るのだから。る。⑦テリー役の女優さんの声はオードリー・ヘップバーンそっくり。(これはうれしい)
[ビデオ(字幕)] 8点(2009-09-25 05:26:12)
605.  チャップリンの殺人狂時代 《ネタバレ》 
ヴェルドゥは30年間真面目に銀行に勤めていたが、戦争による不況のあおりでクビになり、苦悩と混乱の中、妻子を養うためのビジネスとして殺人を選ぶ。偶然出会った娘を毒薬の実験に使おうと食事に誘う。娘は彼と似た境遇だった。戦争で不治の病となった夫の世話をしていたが、お金に窮し、窃盗をして入獄。入獄中に夫は死亡した。愛を信じないというヴェルドゥに娘は言う。「愛は犠牲、母が子に感じるように。愛を信じる、子供のように。夫のことは信仰で生きがいだった。夫のためなら殺人だってしたわ。愛は信実で深いもの」ヴェルドゥは苦笑する。それは彼がかつて信じていた愛だったから。「愛を信じすぎてはいけない。冷たい世間と闘わなくては」と忠告。娘は答える「希望を失いかけていたけど改めて信じたくなった。冷たくて醜い世間だけど親切が美しくするわ」娘に自分の姿を見たヴェルドゥは殺人をやめ、金銭を恵む。数年後に再会。ヴェルドゥは株で破産し、妻子を失っていた。娘は軍需産業の社長の愛人となり、裕福な生活を送っていた。ヴェルドゥは言う。「今の方が幸せ。恐怖と不安から逃れられるから。悪夢の世界から覚めた気分。失意は心の感覚を麻痺させる。人生を捨てたい気分だ」娘は言う。「人生を捨ててはだめ。人生に退屈はないわ。運命に従って生きるのよ」ヴェルドゥはこの運命の言葉に従い自首する。裁判で「みなさんにすぐに会いますよ」と発言するが、これは同じ罪悪の時代を生きているので、死後行き着く先は同じという意味。死刑前に今まで飲んだことがないと言ってラム酒を飲むが、これは好奇心が残っていることで、人生に希望を失っていないこと。ラム酒は希望の象徴。それを飲んだあと、陽が射して明るくなる。愛を信じる心を取り戻した瞬間だ。心憎い演出である。娘とヴェルドゥはコインの表と裏、善と悪、太陽と夜。両者の運命に戦争が大きく関わることで、戦争を支持する社会への強烈な風刺となっている。数百万人単位で人が死ぬ戦争を批判するには、大量殺人をしてみせる必要があった。毒には毒をである。実在した殺人鬼の話を元に、ここまで昇華させるのは天才の所業。たっぷりの毒と笑いと愛を堪能あれ。孤高の人、チャップリンでしか成し得ない不滅の偉業である。
[ビデオ(字幕)] 10点(2009-09-24 23:13:48)
606.  じゃじゃ馬ならし(1967) 《ネタバレ》 
ドタバタの舞台の演出をそのまま映画でやっても大仰すぎてつまらない。オチが、妻はどんな場合にも夫に従っていればよいという女性蔑視ともとれる内容になっており、気後れがする。また男勝りの女性が、従順になってゆく過程がぶっとんでいて理解できない。とんでもないあばずれ娘なので、夫の家でも暴れるのを観たかった。夫の方が理不尽に暴れており、不幸な家庭としか思えない。そもそも常識的に女性の顔も知らずに、持参金目的だけで結婚を決めた結果がうまくいきはずがない。そこをもっともっとユーモアのある演出で補うべきだった。雨に打たれ、池に落ち、食事も抜かれ、妹の結婚式に着てゆくドレスや帽子も破かれては、カタリーナがかわいそうに思えてしまう。映画の意図としては失敗だろう。また全体を通して、シェイクスピアが見たら目をそむけるであろうような下品さと猥雑さに満ち満ちている。ドリフのコント以下であろう。頑張っている主役二人が哀れである。
[DVD(字幕)] 4点(2009-09-24 17:48:40)
607.  陽のあたる場所 《ネタバレ》 
ジョージは貧しい母子家庭で育った。教育もろくに受けておらず、職を転々とする典型的な労働者階級。ところが親戚に上流階級の実業家がいて、工場での職を紹介してくれた。成功への階段の一歩である。職場で知り合ったアリスは貧しい農家出身。職場での恋は禁止だったが、偶然映画館で出会ってみると、境遇が似ているためたちまち意気投合し、恋に落ちる。ところが、彼が上流階級の美女アンジェラと出会うことで運命が大きく動く。二人は共に一目惚れ、まさに運命の人である。男の心はアリスから離れる。蛇足だが、もし、アンジェラとアリスの身分が逆であっても躊躇なくアンジェラを選ぶだろう。当時「世界一の美貌」が銀幕に輝いています。アリスは妊娠しており、結婚を迫る。このときのジョージは誠意が足りない。別の恋人が出来、心が完全に離れていることを言わないのだ。言えば道が開けたかもしれないのに。男のどっちつかずの態度に業を煮やすアリス。新聞でアンジェラとの交際を知ると、逆上。近くまで押しかけ、会わないと全てをぶちまけて自殺すると脅迫。この女として最低の行動が身を滅ぼすことに。どうして医者の勧告に従い両親に相談しなかったのだろう。そのころ、ジョージは昇進し、アンジェラの両親に認めてもらい、婚約にまでこぎつけていた。恋と成功と上流者階級への仲間入りの一歩手間の状況。長い日陰暮らしから「陽のあたる場所」へようやく移れるのだ。だが、その後の展開は悲劇へまっしぐら。映画ではぼかしているが、ジョージの殺意は明らか。原作でも殺意あり。目撃者や状況証拠もジョージに不利。アリスの妊娠が判明した時点で実質死刑決定である。同情の余地はない。裁判では自分に不利なことも誠意をもって語っているが、手遅れである。裁判ではテクニックが重要であり、誠意はなじまない。どこまでも世間知らずだ。彼は牧師にいわれ、自分に殺意があったことに気づき、神に助けを求め、心のやすらぎを得る。死刑直前アンジェラが面会に訪れ、今でも愛していると告げる。二人の愛情がそこまで深いわけでもなく、空虚さを感じる。ジョージの行動は行き当たりばったりで、アンジェラの人間像には深みがない。裁判でアリスの家族が一切登場しないのはアンフェアだ。被害者はアリスではなく、ジョージのように描かれているのはどうしたことか。アリスへの心からの贖罪が無い限り、本当の魂の救済はない。ふと思った。
[DVD(吹替)] 7点(2009-09-24 14:54:28)
608.  2001年宇宙の旅 《ネタバレ》 
人類の叡知を遥かに越えた未知の高度知的生命体がある。「神」に近いが、「神」では誤解を招くのでXと仮称する。Xは400万年以上前に地球に飛来し、第1モノリスを設置。Xが地球に生命の芽を植えつけたのかは不明。BC400万年に原人が第1モノリスを発見し、触れた。これでモノリスが原人の意識に作用し、原人は知的進化を遂げ、道具を使うようになる。道具の象徴である骨を投げると瞬時に宇宙船に変貌する。Xにとって数百万年は一瞬のこと。月で第2モノリスを発見。人が触れると(太陽に触れると)木星に信号を発した。第2モノリスは、人類が月に到達するレベルにまで進化したことを第3モノリスに知らせる発信機。木星探査の宇宙船が木星に近づく。探査目的はモノリスだが、添乗員には秘密。パニックを恐れたためだ。探査目的の秘密と、添乗員の命令に従うことは相反するので、宇宙船を制御する万能コンピュータHALは矛盾を抱えた。故に異常をきたし、エラーを起こす。添乗員が自分の抹殺を企んでいるのを知ると、逆に彼らを抹殺しようとする。ボウマンはただ一人生き残り、HALの切り離しに成功。そのとき本当の探査目的を知る。宇宙船が第3モノリスに近づくとスターゲイトが開き、異次元空間(他銀河)に移動、ボウマンは肉体を離れ、意識だけの状態に。そこでは時間軸がゆがみ、高齢の自分、死の直前の自分もいた。来世では宇宙を漂う赤ん坊に。人類は新たなる進化の段階を迎え、肉体を持たず、意識だけの知的存在に。それの象徴としてスターチャイルドが映し出される。HALの反乱は、万能を誇る人類の叡知もいまだ不完全であることの象徴。だから進化しなければならないのだ。この映画の最大の特徴は、神に近い知的生命体が人類を産み、進化させているという概念の提示。これは衝撃的。鑑賞後そら恐ろしいほどの畏敬の念に打たれるのは、それが同時に神の存在も身近に感じさせるからだ。会話や解説は極力廃し、映像と音により無意識に直接働きかける斬新な手法。数百万年単位で繰り広げられる、人類の誕生と進化の壮大な物語。美しいデザインと高い芸術性。宇宙船が子宮なら、HALは母。母を越えて、新しい人類の誕生。象徴性に富む内容。Xの概念が、実際の人類の意識の進化に貢献しているように思える。今もなお観る者に衝撃を与え続ける。映画を越えた映画、傑作中の傑作。最大の賛辞を込めて言おう。この映画がモノリスそのものなのだ!
[DVD(字幕)] 10点(2009-09-24 09:00:15)(笑:2票) (良:8票)
609.  ジュラシック・ジョーズ 《ネタバレ》 
あー、見ないほうがいいといわれるとつい見てしまう人間の習性が憎い。後悔の念でいっぱいです。本当に見て欲しくなかったらどう言えばいいのだろう?映画の感想より、そんなことを考えてしまうくらいの低レベル。恐怖0、サスペンス0、スペクタクル0、人間ドラマ0です。これに較べるとテレビ用B級映画が大作に思えてくるから不思議。「ジュラシック・ジョーズ」の題名は詐欺罪が適用可能でしょう。恐竜もサメも出てきません。おっと、あんまりけなすと間違って見てしまう人もいるので、ほどほどで留めていかないと。怖いもの見たさということもありますからね。ハリボテの魚がときどき顔を出す海岸物語といったところです。
[DVD(吹替)] 1点(2009-09-23 15:17:55)
610.  ヒッチコックの ファミリー・プロット 《ネタバレ》 
ジョージ(タクシー運転手)とブランチ(ニセ霊媒師)<以下GB>、アーサー(宝石商)とフラン<以下AF>の二組のストーリーが途中から交差する構成。GBはおまぬけで下品、完全にコメディ路線。AFは誘拐犯で殺人も辞さないシリアス路線。最後までかみ合わないままで終わってしまった印象がある。アーサーは成功した宝石商なので、犯罪に手を染めているのが不自然。GBがエディ(アーサー)を探すのは遺産相続のためなので、いい話。それなのに命を狙われたりするので、落ち着かない。ちぐはぐなのだ。そこを狙ったとしたらかなり高度なユーモアだ。一層AFもコメディ路線にすれば楽しさが盛り上がったのに。エディが育ての両親を殺したという設定のせいで、重くなりすぎた。おまけにその理由も不明のまま。誘拐の方法など、どこかとぼけた味わいがあるだけに惜しい。マロニーはがさつな殺人鬼で、事故死してしまう。これも重い。アーサーは実はエディというネタばれはもっと引っ張ってもよかった。ブランチのキャラがとてもチャーミングなので、彼女を中心に構成しなおせばよいリメイクが作れると思う。ブランチがサーサーを探して尋ね歩くところはキレがあった。「あなたは山羊座ね」「しし座よ」「だと思ったわ」の会話がツボでした。GBを隠し部屋に閉じ込める方法も大うけ。ラストでブランチが宝石のありかを見つけますが、その説明がつかないですね。シャンデリアがゆれて偶然落ちてきたほうがまだ納得。GBらしいオチになります。やはり映画は脚本が命ということを再確認。
[DVD(字幕)] 6点(2009-09-23 12:46:39)
611.  めまい(1958) 《ネタバレ》 
高所恐怖症のめまい、亡霊のめまい、悪夢のめまい、恋のめまい、罪悪感のめまい。いろんなめまいを見せてくれます。めまいと言うテーマが一貫して映画にちりばめられていて、それで評価が高いのでしょう。サスペンスと思っていたらラブストーリー。人間ドラマや心理描写が巧みというより、感情表現に徹してます。主人公の感情がそのまま映像になるよう工夫されており、それが斬新さですね。ヒロインが好みじゃないので感情移入できず。人妻、きつい目、太い眉、弱弱しい性格、どこに魅かれる要素があるの?前半のマデリンの部分は、夫婦で芝居をしてジョンを騙しているとすぐに分かりました。それ以外に考えられないからです。目的は何か?と案じていたら飛び降り自殺。ああ、交換殺人だとピンと来ました。案の定死体を検分しません。退屈でした。後半ネタバレしてからがらりと変貌。視点がジュディの恋する女心に変わります。愛を受け入れたいが真実は語れない。切ないです。感情移入しましたが、ジョンの性格が変りすぎて違和感が大。サイコになってます。ジョディが転落したのは罪悪感のため。尼僧の影が殺した女に見えて驚愕したのです。が、単なる事故転落死にしか見えないのは残念。本当に罪を受けるべきはエルスターなのに。だからカタルシスが得られないのです。気になったこと:①妻殺しにあんな手の込んだ芝居する?②ジュディは何故同じ町に住み続ける?エルスターも何故彼女を放っておくのか。③エルスターはお咎めなし?カルロッタのネックレスが証拠になると思うけど。④評決早すぎ!⑤アニメは幼稚すぎ。⑥マッキトリックホテルでの謎は?支配人もグル?⑦ミッジがカルロッタの肖像画に似せて自分を描いたのはジョンに振り向いてほしいから。それならその前に行動にでればよかったのに。⑧愛する人に二度も死なれたジョン。もう立ち直れないでしょう。⑨キスのシーンで波がザッブーン。狙いすぎですよ。
[DVD(字幕)] 7点(2009-09-23 08:14:14)
612.  逃走迷路 《ネタバレ》 
戦前の映画でこれほど凝った映像を撮っていることに驚きました。心奪われるシーンが多いです。とりわけ火事の場面が出色。じわじわ画面を覆う不気味な黒い煙。食堂で順番に振り向いて立ち上がる群衆のカット。消火に入った男が直後に退路を絶たれ、紅蓮の焔の中に倒れる。何度も見たいシーケンスです。放水するダム。映画館で劇中映画と現実の銃撃戦のシンクロ。横転した巨船。自由の女神のシーンで次々と切り替わる視点。ゆっくり転落してゆく悪党。象徴性に富んでいます。ロマンスも楽しめる。ケインを信用しないパットが心開いたゆく経緯も面白い。激しく喧嘩しているのを見た老譲が「なんて仲いいんでしょう」と羨ましそうに言うところはツボ。蛇嫌いなのに「蛇使い」にされる。ケインにではなく、ケインを助けようとするサーカスの団員に心動かされてケインを信じるようになるのは斬新と思いました。他にもケインを善人と見抜く盲人、ケインを助けるトラックの運転手もナイスなど印象的な人物が目立ちます。最も驚いたのはヒゲ女ですが…。性善説を前提にした映画ですね。一方で悪党も善人らしく描かれているのはどうか?物腰の柔らかい大牧場主やチャリティー好きのサンセット夫人、嬉々と自分の家族のことを語る工作員。ちょっと待てよと言いたい。複雑な人間像を狙ったのはわかるが、巨悪として描かないと物語が成立しないと思う。敵役は上流階級のようなのでそのように描いたのか?祖国(ドイツ)のために身を捧げる殉教者として敬意を表しているのか。文化の違いからくる誤解なのか、しっくりきません。脚本も迷路にはまってしまったのでしょうか。そのせいか悪者が間抜けに見えてしまいます。気になったところ:①パットはソーダシティからどうやって抜け出したの?②ケインは地下室でスプリンクラーを作動させたあとどうやって脱出したの?③パットは部屋に閉じ込めらているのに注文したジュースが届き、お金を払っていた。④フライが自由の女神の階段で拳銃を落とした。そんな!ここは拳銃を持っているフライにケインが勇敢に立ち向かっていくほうがいいでしょう。⑤パットの看板文字や本の題名の小ねたは冴えていた。だが、パットが有名モデルであるという設定は生かされていなかった。
[DVD(字幕)] 8点(2009-09-23 03:03:42)
613.  知りすぎていた男 《ネタバレ》 
半世紀前の映画の演出法は現在とは随分違っていたんですね。いろいろと勉強になりました。オーケストラのシンバルと共に暗殺が行われる。旅でマッケナ夫婦に近づいてきた怪しい男が殺される。秘密を知った夫婦の息子が誘拐される。夫婦は自分たちだけで息子を探し出そうとする。歌で息子の居場所が判明。息子を探して戻ってきましたのオチ。極上の設定ですね。北アフリカの異国情緒とオーケストラも堪能でき飽きません。サスペンスなのにユーモアが随所に見られるのが特徴。またホテルに知人が大勢押しかけてきたり、剥製屋でドタバタを演じて見せたり、「息抜き」の部分があります。また敵のエージェント夫婦が高齢で善人だったり、拳銃で撃たれても血は見せない。これらは観客に安心してみてもらうためでしょう。当時の観客にとって息子が救助されてハッピーエンドになるのは当たり前だったでしょう。展開に手に汗握り、画面に釘付けになるような昨今のリアリティを追求した演出は望んでなかった。そういう要望に応えた演出でしょう。あざとい演出とは無縁で、品のよさを感じました。現代映画を見慣れていると、テンポがのろく、ゆるく感じられます。製作時代を考慮し、頭を切り替えて観る必要がありそうですね。気になったところ:①ジョーが暗殺現場を知ったのは警部に助けを求めにアルバートホールに行ったためで全くの偶然。たまたま警部が首相を警護していた。脚本でここが一番弱い。②サイレンサーを使えばいつでも撃てた。③大使館の敵ボスが捕まっていない。④子供があんな指笛を吹けるの?⑤スナイパーの顔はインパクトあった。音楽に合わせて乱闘、転落するシーンは絶品。⑥マッケイは大使館に子供がいるとどうしてわかった?ある意味「知りすぎていた男」だ。
[DVD(吹替)] 7点(2009-09-22 21:37:45)(良:1票)
614.  刑事コロンボ/秒読みの殺人<TVM> 《ネタバレ》 
殺人に関して。時間がなかったとはいえ、ミスが目立つ。関係者しか入れない、テレビ局の重役室で拳銃をぶっ放せば、まず内部犯行が疑われる。かつ手袋を映写室に置きっぱなし、拳銃をエレベーターの天井に置きっぱなしはいただけません。けどテープの時間を聞きながらの部分はサスペンス感がありました。肝になるアリバイトリック「フィルムの パンチ」は目新しく感心しました。警部が遠近両方メガネから殺人犯は知り合いだとする推理は見事と思いました。ここで内部犯行説が決定。アリバイトリックを見抜いたのは、映写技師が戻ってきた直後の場面を覚えていたから。近頃のテレビは暴力シーンが多いと嘆く伏線がちゃんとあり、脚本みごと。犯人を騙すニセ拳銃トリックはずるいです。ニセ拳銃を回収したからといって犯人とは限りませんしね。裁判では証拠にならないでしょう。もっとも感心したのは、犯人ケイの人生を鮮やかに浮かびあがらせていること。小さな家に生まれ、強い上昇志向を持ち、男性社会の象徴ともいうべきテレビ局で男と対等に渡りあい、成り上がろうとした。恋人である上司が昇進して、成功も恋も両方手に入れたと思った瞬間、別れ話となり、昇進の見込みもなくなる。それに逆上しての犯行。だが感情は抑えて、キャリアウーマンらしい冷静な殺人。一見動機としては不十分に思えるのですが、あの上司がいる限り昇進はありえないことを考慮すれば十分だったと考えていいでしょう。この女性ケイの過去を知っているので、ついつい感情移入してしまう。観る側は警部ではなく、ケイの立場になり、警部の行動にいらついたり、はらはらしたりする。丹精込めて作成した作品「プロフェッショナル」が、不本意な形で放映され、それの責任をとらされてクビに。さらにその放映がきっかけでアリバイトリックがばれる。切ない展開ですね。その一方でこんな自己中心的な女ははやく捕まってしまえとも思う。アンビバレントな感情を起こさせる強力な個性の持ち主です。犯行がばれても「私は負けないわ」と強気で言い放つケイにどんな人生が待ち受けているのか。そのとき出される「パンチ」。ケイのこれからの人生の暗示ですね。
[DVD(吹替)] 7点(2009-09-22 13:27:51)(良:1票)
615.  シェルブールの雨傘 《ネタバレ》 
ここでの歌詞は詩ではなく台詞。日常会話にメロディをつけただけ。ちょっとぞんざいな印象を受けました。で、踊らないんですね。歌も吹き替えだし。オペラの手法に近いわけですね。でストーリーですが、「ギルなしでは生きられない」と言っていた16歳のジェヌ。愛する人の子供をみごもり、まずはめでたしと思っていたら、出産前に別の男と結婚するという怒涛の展開へ。なぜ!なぜ!なぜ!たった9ヶ月も待てないの。男は戦場で死にそうな目にあっているというのに。とても切ないです。「太陽と死が一緒だった」戦場の様子が描かれてないので、女性に同情が集まるのでしょうね。男は不利だ。二人の間に誤解があったわけではないのに。結局、お金のためですか…。女なら愛に生きてほしかったです。カサールはジュヌをろくに知りもしないのに「理想的な女性」などといって結婚を申し込む。妊娠を知っても「僕達の子にしよう」などと平然。どんな性格?カサールは失恋の痛手を知っているのだから、ここは援助だけして、身を引きましょう。帰還したギルの心は荒み、仕事は辞めるわ、娼婦に手を出すわで大変。でも叔母の遺産とマドレーヌの献身のおかげで立ち直る。叔母の遺産というところが安易すぎますが。で、数年後の再会へ。ここはよかったですよ。「元気だったかい?」「ええ」「子供に会う?」「いや」ほんの短いやりとりの中に、数奇な運命をたどった二人の押し隠した心情が思いやられてじーんと来ました。二人とも世間並みに家庭を持ち「不幸ではない」が、もしもあのときという思いが心を去ることはない。でもこの再会で少しはふっきれたことでしょう。余韻の残る東洋的な結末で、感心しました。どうでもいいけど気になったこと:傘店なのに傘がおどろくほど少ない。病床の老いた叔母までが歌わなくてもいいのに。最初の方で二人が歩いてなくて台車に乗って移動するシーンがあったけど、ばればれ。ギルのアパートの壁ぼろすぎ。ジュヌのアパートの壁紙はあんなにきれいないのに。あの娘は大きくなったら本当の父親に会いたくなるんでしょうね。そのときは会ってあげてください。もうひとつの「雨傘(保護者)」として。
[DVD(字幕)] 6点(2009-09-21 01:40:51)
616.  クラッシュ(2004) 《ネタバレ》 
娯楽映画ではない。心の中では触れ合いを求めているのに、お互いの不信感のせいで、衝突(クラッシュ)してしまう人々のお話。不信の原因は人種の違い、文化の違いが大きい。英語が話せないからコミュニケーションが取りづらい。不信を増長させるのが銃の存在。不信が恐怖にまで拡大する。黒人は英語を話すが、犯罪者が多いので信用されない。黒人も白人を嫌う。ハリウッド映画を観るかぎり、人種や文化の違いによる衝突は永遠に続きそうです。希望はサンドラの「あなたは親友よ」と言った場面。あれは理屈ではなく、抱き合ったときに自然に出てきた感情。肉体が触れ合えば情も移る。単純なことだけど重要。透明マントで娘は助かったが、そのことで店主はあの娘は自分のために降りてきた天使だと思う。何と信じやすい人だろうか。そのキレやすい性格とあいまって、将来が思いやられる。というか殺人未遂で逮捕だろう。正義感の強い白人が、根の善い黒人青年を射殺するのは悪趣味と思った。観客に衝撃を与えるための演出。二人は同じお守り持っていて、そのせいで悲劇が起こった。皮肉にもほどがある。死んだ黒人の兄が刑事で、その母は兄より弟を愛している。兄は不当に扱われる。親子の間にもクラッシュがある。兄は思慮深く、清濁併せ呑むことのできる「大人」である。が、セックス中に電話を取ったり、母に「今白人をやってる最中だ」などと空気読めない発言をする。弟の敵は討てそうもない。タイ人を開放し、お金を恵んでやった黒人は、いつ成長したのか。ちょっと説教されただけ。未消化です。ディロンの差別意識は根深く、やみそうにありません。全体的に皆さんキレすぎです。もっとリラックスしましょう。本質的なことを言えば、「他人を信用するとは、自分を信用すること」。心を磨き、自分を確立することが未来を切り拓きます。脚本に作為が目立ち、人間の本質を描いているとは思いませんでした。皆さん後半で性格が変りすぎです。またタイ人を知性のない非文明人のように描いていますが、あれこそ人種差別による偏見ではないでしょうか。脚本にもクラッシュを発見。
[DVD(字幕)] 7点(2009-09-20 13:43:08)
617.  恋人までの距離(ディスタンス) 《ネタバレ》 
変った観点からいうと、夫婦喧嘩も役に立つことがあるということ。一種のバタフライ・エフェクト。運命が動き出した瞬間が夫婦喧嘩とは面白い。これは内容にも関係します。二人の人生には苦しみや悩みがあり、その中で最大のものが愛情が続かないということ。ジェシーは恋人と別れたばかりで、親は離婚している。セリーヌも恋人と別れて殺意を抱くほど憎み、祖母は夫でない人をずっと愛していたという秘密があった。それが恋に対する恐れとなり、お互い惹かれながらも恋心に制限をかけていた。だが話をしてみると会話が弾む、弾む。恋の初期段階の男女のマシンガン・トークショー。共に知的で情より理性にまさるタイプ。内容は哲学的なものが多い。ここで重要なのは別れるまで14時間しかないということ。恋愛のタイムリミットもの。心に制限していても、夕暮れの観覧車の中でついキスを。女性のほうから誘いますね。「私とキスしたい?」男は断れませんよ。いい雰囲気になったところで電話ごっこ。女性の方から告白。つられて男も告白。お互い目を見ながらは、照れ屋の日本人には無理。セックスも女性から言い出す。恋愛がスムーズに運ぶには女性がさりげなくリードするのが一番。ここまでくればソウル・メイトと気づきます。行きずりの恋なんて論外。それでも理性にまさる二人は、もう会わないつもりで別れようとします。が、ここで「もう一度会いたい」と男が言い。「そう言って欲しかったの」と女がキラーワード。情が理性の壁を突き破った瞬間です。爽快でした。やっと気づいたんですね。二人は間違いなく再会しますよ。ところで「運命の出会い」のための演出過多なのが気になります。占い師が女の未来を語り、「人はみな星くずから生まれた」と言う。女と同い年だった13歳の少女の墓。ミルクセーキのような甘い詩をプレゼントする詩人。「ここに来て」という歌詞のレコード。結婚式をイメージさせる教会。赤ん坊をイメージする誕生の踊り。環境が人間より強いと感じさせる絵。虹の中で死んだ祖父を見た。別れた恋人を殺したい欲望。無心論者とホームレスの挿話。ちょっとやりすぎでは?と思いましたよ。それとも恋愛にはこれくらいのしつこさが必要でしょうか。とにかく、これほど知的な恋愛映画は他に知りません。限りある時間は貴重、人生でも恋愛でも、ということも学びました。ところで牛の芝居を観たかったのは私だけ?
[DVD(吹替)] 7点(2009-09-20 09:05:23)(良:1票)
618.  恐怖の報酬(1953) 《ネタバレ》 
ゴキブリで遊ぶ子供。一目で貧しいとわかる埃まみれの町。強烈な導入部です。そこは人生の掃き溜め。一度紛れ込んだら容易には脱出できない。人々は仕事にあぶれ、仕事にありついても食べるのがやっと。鉄道は無く、道は途切れ、脱出するには高額な飛行機代が必要。みな退屈で心が荒み、とげとげしい。そして本筋へ。ニトロの運搬です。報酬の額より人生の再出発ができることが重要。そのためには死をも恐れない男たちの物語。前半の人間ドラマのせいで無理なく後半の冒険ドラマに感情移入できます。冒険には障害がつきもの。一人は恐怖でヘタレになる。一定速度で走らないと危険ななまこ坂。腐った木材に載って行う切り返し。道路をふさぐ巨大な岩。原油の池。四人の素性が少しづつ語られ、友情が芽生えたり、たがいしたり、こちらも起伏も半端じゃない。ジョーがヘタレになったのは、まだ若いと思っていたのに、年をとった自分を認識したから。そこに恐怖が入り込んだ。マリオはジョーを頼りにしていたが、若さゆえの怖さ知らずで立場が逆転。報酬のためにはジョーを轢くことも厭わない。だが根っからの悪人ではないので、ジョーが死ぬと涙が止まらない。人間のエゴと弱さを痛烈に描きます。ビンバは強制労働の経験があり一度死んだ人間。一番芯がしっかりしています。ルイージは塵肺で余命はわずか。死を覚悟しているので、ダイナマイトの導線を消しにゆく勇気がある。彼がニトロを手にして咳をする演出は絶妙。だがそんな二人は爆死。その様子は詳細には描かれません。巻きタバコが爆風で吹っ飛ぶのみ。彼らの死は所詮無名の人の死であり、社会にとって取るに足らないもの、塵芥にすぎないことの象徴。故にその詳細が語られることはないのです。それがわかっているマリオは彼らを「負け犬」呼ばわり。が、それは自分に向けた言葉で、自分への鼓舞です。常識あるジョーは、その言葉をたしなめます。あくまでも対照的な二人。そう描くことで、二つの生命を浮き立たせます。両者共に死にますが、死に様もまた対照的。悲劇の二重奏です。この悲劇にリンダの悲劇が加わります。彼女は野生娘ですが、マリオを一途に愛していたのは痛いほど伝わってきました。マリオが成功したのに死んだのは、恐怖から開放されたから。あまりに凄まじい恐怖だったので、心が浮かれすぎ、思わぬ油断につながりました。これもまた「恐怖の報酬」です。
[DVD(字幕)] 9点(2009-09-20 03:50:19)
619.  スティング 《ネタバレ》 
面白い映画ですね!さあお芝居の、はじまり、はじまり。紙芝居形式で、章ごとにイラストを配す。一見邪魔に見えるけど、肩を張らないで観てくださいという意味でしょう。軽妙な音楽をあいまって小粋な演出です。トランプ詐欺のオチは全すり替えという低レベルのものですが、その前にコンドーフがトランプの腕を披露しているので見事は手腕に見えるわけです。また披露の最後に少し失敗しますね。それも見てるので、最後までハラハラするわけです。このように伏線が効いてます。競馬詐欺でも、アナウンサー役が「いいのがない」とぎりぎりまで捜していたり、電信屋のオフィスを作るときもぎりぎりセーフというタイミング。演出がうまいですよ。フッカーは大金を得てもギャンブルですってしまうような子供だったが、最後は報酬を受け取らないほどに成長。彼の成長物語としても観れます。演技で光るのがニューマン。トランプ詐欺のときの演技は神がかりと思えるほど。堕落した詐欺師からボスへの変身ぶりは見事。ロネガンやヘン顔の手下など脇役の演技もうまい。愛を込めてアラを捜すと。最初の路上詐欺は三人組なのに、二人組とされているのはどうして?黒人差別の色濃い時代にルーサーが黒人で、黒人のための白人が復讐?復讐というが、路上詐欺にあった男はそのせいで殺されている。この男の死に責任があるはず。フッカーとコンドーフは女の趣味が悪すぎ。サリーノ(女殺し屋)はどうやってあの店の店員になれたのか?目撃者など気にせず殺して逃げればいいのに。詐欺師の同業者名簿って何?FBIの事務所オンボロすぎ。最上の詐欺は騙されたことにも気づかせないことだそうが、電信詐欺はそのうちバレそう。敵ボスの損失が50万ドルでは、破産に持ち込めない。敵ボスは足が不自由なので同情してしまう。敵ボスはもっとクールで冷酷な自分津にしたほうがよかった。ポーカーであんなに熱くなるのではたいした奴じゃない。敵が強くて大きいほど詐欺が成功したときのカタルシスが得られるのだから。とはいえ、一度観れば一生心にスティング(突き刺さる)する映画です。
[DVD(吹替)] 9点(2009-09-19 20:40:13)(良:2票)
620.  ミッドナイト・ラン 《ネタバレ》 
マフィアの裏帳簿が許せず、お金を騙し取って慈善団体に寄付してしまう会計士デューク。犯行発覚後にマフィアのボスに手紙まで出す。このすっとぼけた犯罪からして人を食っています。彼を追う二人の賞金稼ぎとマフィアとFBIの四つ巴の怒涛の展開。その過程を楽しむ映画です。それにしても飛行機恐怖症で乗車拒否されるなんておかしいですね。鉄道は大好きだからつい笑顔に。護送中なのに質問攻めにする。登場人物の中で最も変っているのはデュークです。キーマンです。ジャックは元刑事で正義感はありますが、賞金が目的なだけ。もう一人の賞金稼ぎマービンは脇役なのに出すぎ。同じような展開が続くと飽きます。デュークが小型飛行機に乗る場面は不要でしょう。飛び立つわけではなし、意味がないです。本当に飛行機恐怖症だったとしたほうがおかしみが残ります。同じ理由で、デュークがFBIに扮して店からお金を騙し取るところも不要。やるならもっと彼らしい、生真面目な方法にすべきです。FBI捜査官もマフィアも保証金会社の二人もキャラが立っていて、楽しませてくれます。基本的に相手を出し抜こうとあくせくするのですが、反対に出し抜かれてしまうのですね。そのおかしみの繰り返しです。ほろりとさせる場面もあります。ジャックが別れた妻の家に行く場面。9年ぶりの再会というのに、お金を借りに行くのです。娘がやさしい子に成長していて、貯めたお金を使ってくれという。それだけは受け取れないと断るジャックの父情。彼は妻に未練があり、彼女から贈られた腕時計を大切にしていたのですが、旅の最後でこれをデュークに贈ります。未練を断ち切ったのです。これは娘の成長を見届けることができたから。又彼が警察を辞めた経緯にデュークが騙したマフィアのボスが関わっていて、それがデュークとの絆ができる一因となります。よく練られた脚本と思います。ラストで、ジャックは賞金をあきらめデュークを逃がします。友情のためですが、同時に賞金稼ぎから足を洗う決心をしたのです。ここで終わりであれば最高でした。デュークが隠し持っていたお金を渡すのは蛇足です。ジャックにとってお金は不要のはず。お金を稼ぐことばかりに腐心していた自分に気づき、精神的に成長したのですから。無一文であるからこそ、「歩いて帰るか」の台詞が効いてきます。無一文でも心の中は晴れやかです。来世でも観たい映画です。
[DVD(字幕)] 8点(2009-09-19 07:12:20)(良:1票)
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