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イニシャルKさんの口コミ一覧[この方をお気に入り登録する

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661.  新・座頭市物語 《ネタバレ》 
「座頭市」シリーズ3作目で初のカラー作品。初期作品とあってかまだそんなに派手な殺陣シーンはないが、その分、市の内面の描写がしっかりとしている。市がヒロインに求婚されて本気で堅気になろうと決意する展開はどこか「男はつらいよ」シリーズの寅さんのようではあるが、このシリーズではちょっと珍しいし、市を兄の敵と狙う男がそれを知ってわざと賭博で負けるのもべたではあるが、ちょっとウルッとくるものがある。剣の師匠(河津清三郎)を倒した市がその妹であるヒロインに「やっぱりこんな男です。」と言い残して去っていくラストシーンも切なかった。ただ、この剣の師匠の人物描写が浅く、ラストの対決もここがもっとしっかりとしていればもっと違う印象になっていたと思うし、ドラマとしても深みがあるものになっていたのではないかと思うと少々残念な気がする。とはいえ、久しぶりに見る座頭市(そういえば大映の時代劇もかなり久しぶりに見た気がする。)で、全体的にはなかなか楽しめた。
[DVD(邦画)] 7点(2011-09-02 01:40:58)
662.  喜劇 駅前開運
社長シリーズと並ぶ森繁久弥主演の喜劇映画シリーズである駅前シリーズのひとつ。第1作「駅前旅館」の豊田四郎監督が再登板している。このシリーズを見るのはその「駅前旅館」以来2本目であったが、シリーズの開始10年という年に作られた本作はやはりシリーズ末期の作品で、あまり面白みを感じられない。(「駅前旅館」もそんなに面白くはなかったけど。)このシリーズは地方ロケが多いらしく、今回の舞台は赤羽。「宝くじ踏切」と呼ばれる開かずの踏切が開くのを待っている人々の光景はいかにも昭和という感じだし、ゴミ焼却炉の煙の問題を背景として出してくるところに当時の世相がうかがえ、その辺りは興味深いが、主演の三人のやりとりをはじめ、笑いの部分になるとなんかイマイチなのが残念で、ぜんぜん楽しめないことはないのだが、せっかく森繁、伴淳、フランキーという喜劇俳優たちを用意しているのになんかもったいない気さえしてしまうし、(その分、脇で出ているナベプロ時代の藤田まことなどが頑張ってるような印象はある。)豊田監督の演出にもやや精彩がない感じ。女優として芝居をしている黒柳徹子を初めて見たけど、やっぱり若いなあ。でもしゃべり方とかは今とあんまり変わっていないような気がする。
[DVD(邦画)] 5点(2011-08-25 00:24:39)
663.  男たちの大和 YAMATO 《ネタバレ》 
出所した角川春樹の復帰第一作で、「北京原人」のあと、映画の仕事から干されていた佐藤純弥監督にとっても久々の新作となった大作戦争映画。公開当時は佐藤監督の映画を見るのに抵抗があったのと、角川春樹というのにも今さら感があったのだが、「新幹線大爆破」を見たあとなんとなく佐藤監督の映画を見るのに抵抗がなくなったことで、とりあえず見てみた。当初、脚本としてクレジットされていた野上龍雄がトラブルで降板し、脚本も佐藤監督一人によるものだが、脚本に関してトラブルがあったことをあまり感じることはなく、思ったよりはまともな(少なくとも「ローレライ」よりは)映画だった。しかし、レイテ沖海戦のシーンは描写があっさりしすぎており、戦闘シーンも大和乗組員たちの悲壮感があまり感じられず、実物大の大和のセットの迫力ともあいまっていかにも角川春樹らしいなあという思いのほうが先に立ってしまうし、最近の美術さんは「汚し」を知らないのかと思うほどいつまで経ってもセットがキレイなのは違和感がある。(そりゃ、撮影終わったあと、展示するのを考慮してるのかもしれないけど、リアリティーなさ過ぎ。)沈没シーンも東宝の「連合艦隊」のようなドラマチックさはない。生き残った神尾(仲代達矢)の回想形式で進んでいくが、合間合間に入る現代のシーンはけっこうくどく、とくに神尾が心臓発作を起こして倒れている間に若き日の神尾(松山ケンイチ)が戦死した戦友(内野謙太)の母(余貴美子)に会いにいく回想が流れるのは、意図としては分かるのだが、なんだか強引な気がするし、倒れた神尾を真貴子(鈴木京香)が介抱するのも、鈴木京香の見せ場をとりあえず作っておいたという感じしかしない。はっきり言って現代のシーンは最初と最後だけでよかったのではないかと思う。全体的に見て、さっきも書いたようにまともな反戦映画であることは感じられるが、やっぱりそれよりも先に角川春樹の映画だなというのが来てしまい、見終わってあまり残るものはないように感じるし、同じテーマの映画なら「連合艦隊」のほうが好きだな。白石加代子が神尾の母役で出演しているが、この人には金田一シリーズなどで怖いイメージがあり、出ている間もずっとそのイメージが抜けなかった。先週まで「緋牡丹博徒」シリーズを見ていたせいかどうかわからないが、寺島しのぶがお母さんの富司純子にちょっとだけ似て見えた。(富司純子のほうが好きだけど。)
[DVD(邦画)] 5点(2011-08-16 14:05:07)(良:2票)
664.  TOMORROW 明日 《ネタバレ》 
黒木和雄監督の「戦争レクイエム」三部作の一作目。原爆を題材にした物語というとだいたいが原爆投下後の人々の人生を描いたものがほとんどだと思うのだが、この映画は昭和20年8月8日の長崎を舞台に原爆が投下されるまでの24時間を描いている。派手さはないが、原爆投下の前日も当たり前のようにいつもどおりの「今日」を生きている人々の日常がなんのてらいもなく淡々と描かれているだけなのだが、だからこそ、その日常を一瞬にして破壊する原爆の恐怖が見ている側にリアルに伝わってきて見終わってなにかジワジワとくるものがあり、原爆投下後を描いていないのもあり、彼らはその後どうなったんだろうと考えると切なくて悲しく、とくに出産を終えたばかりのツル子(桃井かおり)と、その生まれたばかりの赤ん坊、結婚したばかりのヤエ(南果歩)とその夫(佐野史郎)には、戦争さえなければ、原爆さえ落ちなければ明るい希望の未来が待っていたはずだと思うとやりきれない。原爆はこのように希望に満ちた人々さえ容赦なく飲み込んでいくのだなと改めて感じることができたし、黒木監督がこの映画を通して伝えたかったメッセージもそこにあるのではないかと感じる。同じ年には広島原爆で被爆し、全滅した移動劇団「さくら隊」を描いた新藤兼人監督のドキュメンタリードラマ「さくら隊散る」も製作・公開されているが、本作と「さくら隊散る」の2本は本当に「原爆」というものを真正面から考えさせられる映画だと思う。追伸 長門裕之と原田芳雄が出演しているが、二人とも今年亡くなってしまったのは残念。
[CS・衛星(邦画)] 8点(2011-08-15 14:37:53)
665.  悪霊島 《ネタバレ》 
監督 篠田正浩、脚本 清水邦夫。これだけ聞くとATG映画を思い浮かべてしまいそうになるが、角川映画の金田一ものである。あまりいい評判を聞かない映画で、全然期待していなかったが、まあ思ったよりは楽しめたし、石坂浩二の金田一に慣れてしまっていて見る前は多少不安のあった鹿賀丈史の金田一も悪くはない。しかし、時代設定が1969年で金田一と知り合う古尾谷雅人演じる青年がヒッピーだったり、テレビからコント55号のバラエティー番組が流れているのは違和感を感じる。しかも、そこに袴姿の金田一がいるというのもなんか浮いて見える。金をかけて使用権を獲得したという劇中に流れるビートルズの曲や冒頭に流れるジョン・レノン射殺のニュース映像もイマイチ意味がよく分からないし、ただ使いたかっただけのようにも思える。それに金田一もので洋楽というのはやっぱり合わないな。岩下志麻が演じる双子が実は同一人物であったという展開も早い段階で読めてしまい、意外性はない。ただこの岩下志麻の狂気じみた演技はやっぱりはまっていて、岸本加世子の首を絞めるシーンや、伊丹十三を殺そうとするシーンなどは、彼女が演じているからこそよけいに恐怖を感じられるものになっていると思う。撮影は宮川一夫で相変わらず撮り方もうまい。劇中に人間の手首をくわえた犬が登場するのは同じく宮川一夫が撮影を担当した「用心棒」を思い起こさせていて、セルフ・パロディーかと思ったがおそらく偶然だろう。
[CS・衛星(邦画)] 5点(2011-08-13 14:08:42)
666.  市川崑物語 《ネタバレ》 
岩井俊二監督がもっとも影響を受けたという市川崑監督について描いたドキュメンタリー。ひたすら市川監督の誕生から「犬神家の一族」リメイク版に至るまでの経歴を字幕で追っているだけでドキュメンタリーというよりは市川監督について書かれた書籍を画面越しに読んでいる感じではっきり言ってあまり面白くはない。しかも、金田一シリーズのところで市川監督の演出の特徴である細かいカット割り(1976年の「犬神家の一族」での遺言状が読まれたあとのシーン。)を流しておいて分析でもするのかと思ったらそれで終わっていたり、金田一シリーズの部分の字幕も「タイトルクレジットが見たこともないフォントになっていた。」とか、「そのままもう一回見た。」、「一週間後友達を連れてもう一度見に行った。」などというかなり低次元の主観的なものになっており、岩井監督が金田一シリーズ、とくに「犬神家の一族」に思い入れが深いのはじゅうぶん分かるのだが、これでは他人と映画の話をしていて、相手を無視して自分の好きな映画について勝手に一人で熱弁をふるっているのと同じにしか見えず、僕も市川監督の映画は好きだが、さすがに正直、それがどうしたのと思えてくるし、一人の人物に迫ったドキュメンタリーというならばもっと踏み込んだ映画にしてほしいところで、せめて「ある映画監督の生涯 溝口健二の記録」のように関係者(と本人)へのインタビューで構成したほうがよかったのではないか。実際、「どら平太」の頃にNHKで放送された市川監督についてのドキュメンタリー番組ではそういう構成であったが、明らかにそっちのほうが面白かった。(ちなみにその番組には岩井監督もインタビューを受けるひとりとして出演している。)最後のほうで「犬神家の一族」リメイク版のタイトルロールがノーカットで流れるのだが、そこに来て、ひょっとしてこれはドキュメンタリーの皮をかぶった、新作映画をPRするための宣伝用映画だったのではないかと気づく。そう考えると今さらこの映画を見る価値はほとんどないのではないかと思えてきて、見たこと自体をなんかむなしく感じてしまった。
[CS・衛星(邦画)] 3点(2011-08-12 02:29:55)
667.  緋牡丹博徒 二代目襲名 《ネタバレ》 
シリーズ4作目。今回は原作が存在するためか、これまでの3本とややストーリーの趣が異なっており、音楽担当も主題歌を手がけた渡辺岳夫から木下忠司に変更されているのだが、ほとんど違和感もなく楽しめた。おじ(嵐寛寿郎)の遺言により、国の鉄道事業を請け負ったお竜(藤純子)が川船頭たちと対立するという筋立てだが、川船から鉄道への移り変わりをテロップで説明するというのは、このシリーズでは珍しいような気がする。小沢茂弘監督の映画はこれで初めて見たが、やはり東映時代劇をやっていた監督らしく、娯楽映画としての見せ方を心得ていて飽きさせない。ラストの決闘シーンも見ていてかなり盛り上がることができた。それに今回もお竜はカッコよく、藤純子は個人的にはどちらかと言えば富司純子と改名してからのほうがいいと思っているのだが、このシリーズをずっと見ていると若い頃の彼女もいいなあと思えてきて、思わずこのシリーズの次回作が早く見たいなと感じるようになった。3度目の登場となる高倉健も相変わらず渋い。あえて難を言うならば長門裕之を前半で退場させてしまったのはなんかもったいないし、若山富三郎演じる熊虎が登場しないのは少し残念な気もするが、まあそれでもおもしろかったんだからいいか。残念といえば行きつけのレンタル屋に1作目からこの4作目までしか置いてないのも残念だ。このシリーズ機会があれば残り全部見てみたい。
[DVD(邦画)] 7点(2011-08-10 02:24:54)
668.  緋牡丹博徒 花札勝負 《ネタバレ》 
シリーズ第3作。加藤泰監督の任侠映画はこれで初めて見るけど、冒頭の汽車にはねられそうになった盲目の少女をお竜が助けるシーンからこの監督らしいクローズアップが効果的に使われており、雨や雪なども1作目の山下耕作監督が作り出す映像美とはまた違う美しさがあって印象的だ。お竜の母性は前作でも描かれていたが、今回は目が治った少女に「お母さんは自分よりキレイだった。」といって励ますシーンが叙情的に描かれており、お竜の母性が前作よりも深みをもって描かれているのがいい。シリーズ2度目の登場となる高倉健が雪の中で見せる哀愁(この人には本当に雪景色がよく似合う。)も加藤監督ならではと思える映像美と相まっていて素晴らしかった。1作目以来の登場となるおたかを演じる清川虹子もいいが、なんといっても清川虹子とともに抜群の存在感を見せつけるアラカンが印象的で、老いてはいても親分としての凄みと貫ろくをじゅうぶんに感じることができる演技を見せている。熊虎親分が啖呵を切るシーンも、このシリーズではコメディーリリーフ的な存在なだけにいつもの若山富三郎の凄みを利かせた演技とは少し違う印象を受ける。全体としては1作目よりは多少劣るかもしれないが、加藤監督の格調高い演出が利いていて、シリーズの中でも評価の高い作品というのがうなずける映画になっていると思う。面白かった。
[DVD(邦画)] 8点(2011-08-04 01:30:28)
669.  淑女は何を忘れたか 《ネタバレ》 
冒頭の女三人の井戸端会議のシーンからとにかく会話のテンポがよく、最後まで全く飽きることなく楽しめた。小津安二郎監督の喜劇といえば「お早よう」だが、この映画でも斎藤達雄と桑野通子のやりとりの面白さや、ドアを使ったギャグ、飯田蝶子(始まってすぐの車からおりて来た派手派手しいかっこうにびっくり。)と吉川満子の「バカ」、「カバ」というやりとりなど思わず笑ってしまうような軽妙な描写で本当に喜劇の演出がうまい監督なんだと思わずにはいられない。それに「お早よう」でも子供をイキイキと描いていたが、この映画でも地球儀を使って地理を教えていた岡田(佐野周二)を尻目に遊びに来た友達と地球儀で遊びはじめる子供の描き方がすごくイキイキとしていて楽しい。(このシーンのとんがらがっちゃ駄目よという鼻歌もいい。)ワンカット本人役で登場する上原謙の使い方も笑える。どの人物も魅力的に描かれているが、大阪からやってきた小宮夫妻の姪 節子を演じる桑野通子が可愛らしくて印象的。桑野みゆきの母親で、もちろん出演作を見るのは初めてなのだが、あらためて戦前の女優の美しさというものを感じた。もちろん節子のキャラクターもいい。後半は妻の尻に敷かれている小宮が妻にゴルフに行くとウソを言って出かけたのが妻にバレてしまいという展開で、なんだか現代の夫婦とあまり変わらないと思えてしまう。というか戦前の日本にもこんな夫婦いたんだなあ。ラストシーンはエロスを感じさせる演出になっているが、それをあまりいやらしくならずに上品に描いているのが見事。小津監督というのはどうしても和風な作風のイメージが強いけど、この映画はハイカラな雰囲気で、小津監督がアメリカ映画から受けた影響は本当に大きいんだなとこれ一本見ただけで感じることができる。
[CS・衛星(邦画)] 8点(2011-07-28 17:55:13)
670.  緋牡丹博徒 一宿一飯 《ネタバレ》 
シリーズ第2作。コミカルなシーンやキャラクターを増やすなど前回よりも娯楽性が増していて、今回も面白かった。脚本も書いている(今回は野上龍雄との共同。)鈴木則文監督の映画はこれが初めて見たのだけれど、前回の山下耕作監督の演出との違いも見ていて面白いし、それにお竜を演じる藤純子が前回よりも美しく感じるのは、やはり鈴木監督が自分で脚本も書いているからというのもあるのかもしれない。鶴田浩二はあまり東映の映画では見てないけど、なんかこう、粋なかっこよさを感じる。ドラマとしては前回に比べてやや物足りない感があるものの、それでも笠松(天津敏)に騙され、犯されたことを悔いて死のうと考えている菊池(村井国夫)の妻をお竜が説得する場面や、西村晃と白木マリの夫婦の絆が感動的だった。でも最後、鶴田浩二が射殺されるのはなんか強引に感じるし、笠松組のナンバー2みたいな菅原文太の最期もえらいあっさりとしているのがちょっとなあ。この二つ、とくに鶴田浩二扮する風間周太郎とお竜の別れはもっと別な形のほうが良かったんではないか。たとえ殺されるのであってももっとドラマチックな何かがほしかった。面白かったのは確かだけど、個人的にはお竜のキャラも含めて前回のほうが好きかなあ。
[DVD(邦画)] 7点(2011-07-27 02:33:36)
671.  緋牡丹博徒 《ネタバレ》 
藤純子主演の任侠映画シリーズ第1作。藤純子の主演映画を見るのはこれが初めてで当然このシリーズを見るのも初めてという状況だったんだけど面白かった。藤純子(富司純子)といえば大林宣彦監督の「ふたり」の美加と千鶴子の母親役の印象が強く、若い頃の東映での出演作で印象に残っているものが少なかった(まあ、あまり見ていないというのもあるんだが。)のだが、この映画の藤純子は美しく、そしてかっこよくてもうこの映画一本見ただけで藤純子がなぜ当時人気があったか分かるし、もちろん今、見ても純粋にいいと思える。山下耕作監督は花を使った演出がうまいからと本作の監督に抜擢されたそうだけど、お竜が一度は堅気になろうとしたが、父親を殺されたことで再びヤクザの世界に戻る決心をするその心情を、牡丹の色が白から赤に変わることで表現する演出をはじめ、ところどころに牡丹の花のショットを挟むことによって血生臭いヤクザ映画に美しさを与えている。お竜が財布を水の中に捨てるシーンも彼女の悲しみをよく表現したシーンだろう。「私は男になった。」と口では言っていても女は女。そんなお竜のつらさがしっかりと描けているからこそ、主人公であるお竜=矢野竜子という女性を描いた人間ドラマとしても深みのあるものになっている。それに片桐(高倉健)と加倉井(大木実)の関係にもドラマ性を持たせるなどただの勧善懲悪ものではない深さを感じさせているのが良い。脇のキャラもよく、山本燐一扮するフグ新とか、おたか(清川虹子)の息子である吉太郎(山城新伍・・・だったんだ。)など印象に残る脇役が多かった。普段凄みを利かせた役柄の多い印象の若山富三郎がお笑い担当でコミカルな演技をしているのはかなり意外な感じがする。
[DVD(邦画)] 8点(2011-07-21 15:43:22)(良:1票)
672.  海がきこえる<TVM> 《ネタバレ》 
映画専門な感のあるスタジオジブリには珍しいテレビ用単発アニメ。ヒロインがこれまで見てきたジブリアニメのヒロインと比べてかなりイライラする性格(ひょっとしたらジブリアニメのヒロイン史上最悪かも。)だったり、未成年の飲酒シーンがあったりして、(冒頭のお断りテロップにビックリ。)これ、本当にジブリなのかと一瞬思ってしまったが、同時にそこがちょっと新鮮に感じられたりもした。高校生の青春を描いたアニメとしてはむしろよく出来ていて、友情や恋など「耳をすませば」のような青臭さを感じてもおかしくないのにそれをあまり気にせずに見られたのが不思議。同窓会前夜に昔殴ってしまったことを謝る松野には自分にもそういうところがあるかも知れないと思い、つい感情移入してしまった。同窓会のシーンも印象的で、とくに「私たち、狭い世界に生きてたんだね。」というセリフに昔の自分を思い出してしまい、当時の自分の価値観というものがいかにどうでもいいものであったかを思い知らされるときがあるのでなんだか共感できたし、すごくリアリティーを感じ、ちょっぴり切なくなった。いつも欠席している同窓会だけど、今年はちょっと行ってみようかという気にも少しなったかな。全体的に見てジブリっぽさはあまり感じられない作品で、実質若手スタッフ育成のための企画だったようだが、最近のジブリアニメにはないよさ(本職の声優使ってる以外で。)は確かにある作品に仕上がっている。
[地上波(邦画)] 7点(2011-07-17 02:01:29)
673.  サマーウォーズ 《ネタバレ》 
田舎の雰囲気はいいし、登場する一族の面々もいい味を出していて、この一族の絆はよく描けていたと思う。しかし、それがどうもネット上の仮想空間で起こっている事件との釣り合いがうまくいっていないように思うし、面白いんだけど、なにか詰め込みすぎな感じ。細田守監督初のオリジナル作品ということだが、終盤は「デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!!」そっくりの展開で、正直、もっと頑張ってほしいと感じた。それでも、栄の部屋の黒電話や、何度も出てくる一家全員で食卓を囲むシーンなどレトロ感がよく出ている演出がいいし、有名芸能人による吹き替えもそんなに気にならなかった。(これは普段テレビを見ないせいで、馴染みのある人が少ないせいもあるのだが。)とくに、栄を演じた富司純子がよく、アニメ声優として見るのはおそらく初めてだと思うけど、素直にうまいと思えた。見終わってとくに何かが残る映画かと言われれば正直微妙な気がするのだが、栄が家族に宛てた手紙を読むところは思わずジーンとさせられる。侘助というキャラクターは伊丹十三監督がモデルだそうだが、「お葬式」での山崎努と同じ名前なので、やはりオマージュなのだろう。さっきも書いたけど、仮想空間の混乱と田舎のある一族の絆を描くというのにちょっと無理を感じるし、どちらか一方だけをテーマに据えたほうがよかった気もするが、おそらくヒット要素として仮想空間の混乱を描いているのだろうけど、二つの要素を混ぜたことでドラマとしての深みがそれほど感じられず、個人的には仮想空間での事件という要素はなくてもよかったんじゃないかと思う。(そうなると地味すぎる映画になってしまうが。)あまり自分の評価は高くないけど、はっきり言って「時をかける少女」のほうがドラマとしての見ごたえはあったと思う。さらにいえば、細田監督は東映アニメーションの出身なので、オリジナル作品を作るとどうしても東映アニメーションの少年ジャンプ系アクションアニメ的な要素が入ってしまうのかもしれない。ところで、小惑星探査機が原発に落下しそうになるクライマックス、東日本大震災後の今見たらなんか現実の原発で起こっていることと妙に重なってしまって少し怖かった。(このシーンを理由にしばらくこの映画のテレビ放送はないかも。)
[DVD(邦画)] 6点(2011-07-12 23:17:27)(良:1票)
674.  告訴せず 《ネタバレ》 
堀川弘通監督が「黒い画集 あるサラリーマンの証言」に続いて松本清張の小説を映画化したサスペンス。主演が青島幸男なのだが、実際に政治家でもあった彼が義兄(渡辺文雄)のわけありの選挙資金を持ち逃げするうだつの上がらない男を演じている時点でなにかブラックなギャグにしか思えないなどサスペンスというよりは風刺喜劇という印象のほうが強いのだが、主人公が常になにかに怯えているという心理描写も見事であるし、小豆相場で儲けた主人公が後半酷い目に遭うのも同じ監督のせいか「黒い画集 あるサラリーマンの証言」と共通するものがあり、見る前は面白くないかもなあと思っていたのだが、けっこう面白かった。でも、「黒い画集 あるサラリーマンの証言」と比べてしまうとやはり物足りない感じがして傑作とまではいかないかな。(作られた時代が違うせいもあるだろうけど。)ヒロインを演じる江波杏子が色っぽく、思わず見とれてしまった。「黒い画集 あるサラリーマンの証言」で刑事役を演じていた西村晃や「砂の器」の加藤嘉、大臣を演じる小沢栄太郎といった脇の面々の演技もやはり安心して見ていられる。改名前の樹木希林が主人公の妻を演じているが、この頃から独特の存在感を発揮していて、やっぱり樹木希林はあまり変わっていないなと思う。小沢栄太郎の部屋の窓の中央に見える国会議事堂がとても印象的で、ラスト、それがアップになって終わるという余韻の残し方がうまい。
[DVD(邦画)] 6点(2011-07-05 14:32:39)
675.  カンゾー先生 《ネタバレ》 
今村昌平監督といえば自分の中では今やすっかり日活時代の川島雄三監督の助監督というイメージが強くなってしまっていて、監督作を見るのも10年ぶりくらい。晩年の作品ということもあってか、あっさりした作風なのだが、今村作品にそんな馴染みがない(「楢山節考」以前の監督作は見ていない。)せいか、思ったよりはなかなか楽しめた。最初はヤブ医者が主人公の軽い喜劇のように感じていたが、次第に主人公の人間ドラマに焦点が移されていく。医者として肝臓炎をなんとかしようと思うあまり研究に没頭し、成功譚になって終わりなのかというところで、そう簡単にはいかないぞとばかりに屈折を味わう主人公の人間的な弱さが描かれていたのが良かった。登場人物たちも主人公はじめ、坊主やモルヒネ医などは癖のある人物に設定されており、どことなくではあるが、川島監督の映画に近いものを感じるのはそれだけ今村監督にとって川島監督の影響が大きいからなのかもしれない。「サヨナラだけが人生じゃ。」という鳥海のセリフに川島監督を思い浮かべずにはいられない。それと山谷初男の遺体を墓から掘り出すシーンにブラックさが感じられるのもいい。柄本明は主演というイメージがなく、少し不安に思ったが、飄々と好演している。しかし、途中降板した三國連太郎の代役として鳥海の役からスライドして主人公を演じているのだが、「開業医は足だ。」をモットーとしていて、走るシーンが多く、本当にこの走るシーンを三國連太郎が演じる予定だったのかはちょっと疑問が残る。まだ無名時代の麻生久美子が初々しくも大胆な演技を見せていて、今までも何本か出演作を見ているが、どちらかと言えば地味な印象が強かっただけにちょっと新鮮に感じた。広島に原爆が落ちたあとのキノコ雲を舟の上から見ているラストシーンがなんかシュール。このシーンを見て「黒い雨」につなげたいのかと一瞬思ってしまった。「黒い雨」には9点つけてしまっているが、それでも今まで見た今村監督の映画の中では本作がいちばん見やすくて楽しかったし、なによりも今村監督の映画を見ていて川島監督の影響を初めて感じられたことが嬉しい。(といっても「楢山節考」や「黒い雨」を見た頃は川島監督の映画もまだそんなに見ていなかったのだが。)「黒い雨」より点数は低めで、思ったよりは面白かったと最初に書いたけど、個人的に今村監督に川島監督の助監督というイメージが強くなってしまった今となっては本作のほうが「黒い雨」よりは好きかもしれない。
[DVD(邦画)] 7点(2011-06-30 15:54:05)
676.  アウトレイジ(2010)
「全員悪人」と謳われているとおり本当に全員がワルで、またそれぞれが個性的に描かれていて面白かった。出演者がたけし以外は全員、北野武監督の映画に出演するのは初めてというのも異色。登場人物が次々殺されていく映画をというところから企画が始まったらしく、とくに後半は殺人のオンパレードで、普通なら目を背けたくなるようなシーンの連続なのになぜか安心して見ていられるから不思議。ヤクザを演じる俳優陣は國村準、石橋蓮司といった強面はもちろん、あまりこういう役をやる印象のない加瀬亮や三浦友和といった面々まで好演している。とくに三浦友和がなかなかいい。逆に山王会会長を演じた北村総一朗は確かにうまいけれども「踊る大捜査線」でのとぼけた署長役の印象が強すぎて(ほとんどあの役しか見たことがないのもあるが。)どんなに凄んでも笑えてしまう。たけしの最近の監督作を見るのは「座頭市」以来だったが、全体的に「座頭市」と同じく娯楽に徹している感じで見やすくなっているが、つい最近「その男、凶暴につき」や「3-4X10月」を見たばかりなので、それらと比べるとセリフの量が増えて見せ場が派手になり、初期の映画にあったどこか冷徹な雰囲気もあまり感じられなくなっているのは少々残念。「座頭市」や本作のような娯楽に徹した作風も面白いし、嫌いではないが、個人的には初期の監督作品のような独特の静けさの中に狂気を感じさせる映画のほうが映画監督としてのたけしらしさを感じられて好きだな。
[DVD(邦画)] 7点(2011-06-23 13:33:20)(良:3票)
677.  修羅の群れ(1984)
山下耕作監督が手がけた松方弘樹主演のヤクザ映画。ヤクザの世界に飛び込んだ一人の男の生き様を描いた年代記ものなのだが、ドラマがやや駆け足ぎみで物足りないと思うものの印象的なセリフも多く、全体的にはそこそこ楽しめたといったところか。ナレーターが小池朝雄だったり、脇に菅原文太や北大路欣也が出ているのでつい最近まで見ていた「仁義なき戦い」シリーズを思い浮かべてしまうが、山下監督の演出は画に落ち着きがあり、撮り方もキレイ。(深作欣二監督の手持ちカメラによる荒々しい映像も好きだが。)松方弘樹は貫ろくのある存在感で主人公を熱演していて、子分の菅原文太を「おい」呼ばわりするのもいちいち迫力がある。一方の菅原文太も良かったが、こちらが「仁義なき戦い」シリーズを見終わったばかりというのもあってか、ほとんど同じ演技にしか見えないのがちょっとなあ。松方弘樹の兄貴分を演じる鶴田浩二は本当に味のある演技で、若い頃より晩年近くなったこの頃のほうがいい芝居をしているように思う。(といっても若い頃の東映での出演作はほとんど見たことがないのだが・・・。)俳優が本業でない演歌歌手も何人か出ているが、中でも主題歌も担当している北島三郎(モロッコの辰役)が意外にいい演技をしていたのが印象に残り、ちょっと新鮮に感じた。(北島三郎、そんなに好きでないけど。)
[DVD(邦画)] 6点(2011-06-14 16:02:40)
678.  網走番外地(1965) 《ネタバレ》 
高倉健が一躍大スターとなるきっかけとなった作品で、このあと「昭和残侠伝」とともにシリーズ化された一作目。東映時代の高倉健の主演映画を見るのがまだ3本目なのだが、ストイックで寡黙なキャラをこの頃から演じている・・・と思ったら高倉健がほかの囚人たちと一緒に陽気に裸踊りをするシーンは自分の高倉健に対するイメージを覆すもので、今見るとかなり新鮮に感じられる。前半がとくに面白く、雪道に捨てられたタバコの吸殻を拾ってうまそうに吸うシーンが妙にリアルだし、アラカン演じる老人服役囚と高倉健演じる橘との絡みも印象的だ。しかし、後半はなんちゃって「手錠のままの脱獄」になってしまい、終わり際も南原宏治が母親の名前を口にするのがやや唐突に感じてしまったのがちょっと残念だったかな。出演者の中ではやはりアラカンが存在感があり、日本映画草創期の俳優らしい威厳を感じさせていて印象的だった。彼が八人殺しの鬼寅だとほかの囚人に明かすシーンは見ていてなんだか笑えるが、同時にそのシーンがこの映画におけるアラカン最大の見せ場だと思う。そうそう、石井輝男監督の映画を見たのはこれが初めてだったのだが、カルト映画の監督と聞いていたからあんがいオーソドックスなつくりに逆にちょっとビックリ。(最初に書いた高倉健が陽気に裸踊りするシーンはこの監督ならではのことなのか?)まあ最初からいきなりカルトな映画を見るよりはこのほうが入っていきやすいかもしれない。
[DVD(邦画)] 7点(2011-06-08 23:27:53)
679.  鴨川ホルモー
タイトルだけ知っててどんな映画か全く知らずに見たのだが、漫画が原作かと思うような話で実際、少年ジャンプのバトル系漫画に青春映画の要素を加えたみたいな感じ。オニと呼ばれるCGキャラが出てきたときには本当に予備知識がなかったため、これはどんな映画なのかと思ってしまったのだが、何も考えずに最後まで楽しく見れた。ただやはり、時間の関係か、詰め込みすぎの印象もあり、連ドラのほうがよかった気もする。青春映画としてはオニやホルモーのインパクトのせいもあるのかもしれないが、なにかドラマや登場人物の描き方が薄く感じた。とはいえ、「げろんちょりー」などのオニ語は個性的だし、全体的にばかばかしくて笑える。(オニ語に日本語訳字幕スーパーが出るのもよく考えたら別に普通なのにそれも笑えてしまう。)映画としてはとくに印象に残るようなものではないが、さっきも書いたように何も考えずにボーっと見るにはちょうどいいかもしれない。栗山千明を見るのは10年前に見た「バトル・ロワイアル」以来だったのだが、一度しか見ていないせいかあまり覚えておらず、(柴咲コウと印象がかぶってるのかもしれない。)見ている間ずっと芦名星を栗山千明と勘違いしていた。(おいおい。)
[DVD(邦画)] 5点(2011-06-07 14:40:22)
680.  天国にいちばん近い島
大林宣彦監督が「時をかける少女」の原田知世と高柳良一を再び起用した角川映画。「時をかける少女」は大林監督らしい世界観と、原田知世の初々しさ、それに芸術性の高い作品でとても好きな映画だが、この映画は一応、ストーリーとしては根暗な主人公がニューカレドニアを旅する中で成長していく姿を描きたいようだが、ドラマとしての盛り上がりがほとんどない薄い映画で、大林監督らしさもあまり見られなく、「姉妹坂」同様に何の変哲もないただのアイドル映画というしかない出来になっている。印象に残るシーンも少なく、強いていえば主人公が風呂の中で泣くシーンと戦死した夫を弔う乙羽信子くらいしか印象に残らないのだが、ニューカレドニアの美しさは少しは伝わってくるし、主題歌も良い。でも、正直言うと(あまり言いたくはないが)角川春樹が事務所の看板女優である原田知世とCM出身の大林監督を使ってニューカレドニアをPRしたかっただけの映画のようにも思えてしまう。さっきも書いたように普通のアイドル映画という印象で、そこまで駄作とは思わないけど。
[CS・衛星(邦画)] 5点(2011-06-03 23:04:40)
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