61. アメリ
パリ・モンマルトルの魅力を最大限に引き出したポップな映像美とコミカルな内容とは裏腹に、 子供には見せられないような際どい描写も結構多め(実際そういう区域らしい)。 原作付きとは言え、奇人変人だらけなのもジュネ監督らしい。 この映画はオドレイ・トトゥの魅力によって大成功したと言っても良い。 可愛らしく、不思議で、至福に満ちたガーリッシュ・ファンタジー。 [DVD(字幕)] 7点(2019-05-16 19:25:50) |
62. ベルヴィル・ランデブー
過度なまでのデフォルメ、頑なに最小限に抑えた台詞、シュールでブラックユーモアに富んだ展開と、フランス産アニメーションの意気込みが感じられる。日本にもアメリカにもない独創性で癖の強い作風ながら、老婆の大活劇が主体であるため難解なわけでもない。とにかくリズミカルな音楽が今でも耳に残るくらい素晴らしい。この世界観にもっと浸りたいと思ってしまうからこそ、夢から覚めたような寂しげなラストがより余韻を引く。 [DVD(字幕)] 8点(2019-04-28 00:43:24) |
63. ハンコック
《ネタバレ》 マーベルでもDCでもない完全オリジナルで、強大な力があるが呑んだくれの嫌われ者のヒーローという設定が新鮮。ニュースでもYouTubeでも実在していること前提に描いており、如何に主人公が本当のヒーローへと生まれ変わっていくかの過程に胸が熱くなる。ところがサポートする男性の妻の正体が明らかになったあたりから雲行きが怪しくなり、作品のトーンもスピードも下がっていくばかり。その男性の広報するマークもあまり活かされていないので、せっかくの設定が勿体ないよ。 [DVD(字幕)] 4点(2019-04-23 00:31:40) |
64. ミックマック
武器輸出国のフランスだからこそ、思う部分はあるのだろうが、逆恨み当然のイタズラにしてはやりすぎな上、ターゲットの二つの武器会社には繋がりがないのでそれほど深みが感じられない。むしろ浅いからこそ、社会から爪弾きされた奇人たちが何を仕掛けてくるかコミカルに見ることができるかもしれない。深いメッセージなんてないのかもしれない。それでもジュネらしいポップな世界観が繰り広げられる中、イタズラの総仕上げがローテクすぎて楽しい。 [DVD(字幕)] 7点(2019-01-22 23:21:32) |
65. Mr.インクレディブル
スーパーヒーローの本音と建前を描いた『ウォッチメン』の設定を意識しながらも、これより分かりやすく、かと言って深刻になりすぎないバランス感覚で、スピード感あふれるエンターテイメントに仕上がっていた。歴代のピクサ―作品では5本の指に入る出来。自分らしさと生き甲斐を見出せず、生きづらさを抱える"力のある者たち"が岐路に立たされながらも奮闘する過程が熱い。彼らだって一歩拗らせらばシンドロームみたいになっていたわけで、往年のヒーロー葛藤ものでは頭一つ抜けている。ピクサー(&ディズニー)でこれほど死が視覚化されているものは他にはなく、なかなか容赦ない作りなのが良い。 [DVD(吹替)] 8点(2019-01-22 23:09:06) |
66. マガディーラ 勇者転生
バーフバリの原点だけあって、荒唐無稽の無茶苦茶なストーリー。現代劇と歴史劇を輪廻転生で強引に繋げ、ラブコメと踊りとアクションで一気に突っ走る、良くも悪くもインドらしさ全開。バーフバリ以上に荒削りで中弛みもあるが、このアホ臭さとチャラさが逆に元気が出る。終盤のクライマックスなんて「ホントこれで良いのかよ?」なノリ。エンドクレジットもやっぱり踊ります(笑)。 [ブルーレイ(字幕)] 5点(2019-01-04 19:00:59) |
67. バーバー
カラー版にて視聴。色が付いていても映像美は特筆すべきものがある。キャッチコピー通りの、少しでも人生を変えたい男が雪だるま式に取り返しのつかないところまで落ちていく。コーエン兄弟のテクニックが随所に注ぎ込まれた到達点であり、ベートーベンの穏やかなピアノソナタが、常に仏頂面のソーントンに哀愁を添える。 [DVD(字幕)] 6点(2018-12-24 22:02:19) |
68. エグザイル/絆
《ネタバレ》 空いたスケジュールの合間合間に撮影し、台詞も基本アドリブ。ほとんどプライベートフィルムに近いのにこの完成度。『ザ・ミッション/非情の掟』の続編意識はあるが、直接的な繋がりはないにせよ、見た方が一段と楽しめる。悪ガキみたいな天真爛漫さと銃を構えた時の男たちの渋さに悶える。仲間の弔い合戦の壮絶さと滅びの美学が光る男のファンタジーだ。 [DVD(字幕)] 6点(2018-12-24 21:59:38) |
69. ハリー・ポッターと賢者の石
リアルタイムで原作にハマった世代であるし、全部は再現できないと分かってはいても2時間半で堅実にまとめ、退屈しないで楽しめたので概ね良かったものの、児童書とはいえ如何せん演出が子供騙しで幼稚すぎやしないか? 監督が監督なので仕方ない気がするが、見ていて恥ずかしい・・・ [映画館(字幕)] 5点(2018-12-01 01:35:47) |
70. グラン・トリノ
タイトルからしてアクションもののように思えるが、 イーストウッドの映画とは思えない低予算で地味な人種問題ものだ。 それもアフリカ系ではなく、アジア系というあたりが珍しい。 暴力には暴力で応えてきた彼の代表作『ダーティハリー』シリーズのセルフパロディ要素がちらつき、 そんな老い先の短い男が不寛容の世界において最期の答えを提示する。 対立と交流を織り交ぜたオーソドックスな筋書きながら、重厚さを出しつつサラッとした味わいに、 イーストウッドの貫録と余裕が感じられる。 欠点も少なくないが、それでも許容してしまうような温かさがある。 [映画館(字幕)] 7点(2018-12-01 01:32:36) |
71. チェンジリング(2008)
《ネタバレ》 中盤から猟奇殺人が絡むとは。映画では触れていないが、少年への性的虐待も含まれ、村の名前を変えるほど凄惨な事件だった。だからといって、そこにフォーカスすることはなく、腐敗権力に立ち向かうシングルマザーの闘いを貫く。闘う女の象徴である、アンジェリーナ・ジョリーを主役に据えたのはらしいと言える。重く救い難い映画が続いたイーストウッドだが、本作では彼女に"HOPE"(希望)と言わせる。最期まで息子が生きていると頑なに信じたらしく、希望の強度と狂気が表裏一体であればあるほど、女性が自立して生きていくには困難な時代であったと強く印象づける。 [DVD(字幕)] 6点(2018-12-01 01:28:27) |
72. ウォーターボーイズ
男子高校生がシンクロでひと夏の思い出を作るたったそれだけのお話。主人公たちの大根演技やら、空回りのギャグやら、そういう細かい部分は置いといて、ただひたすら「エールを送ろう!」という善意を一直線に押し通す。期待はせず単純に楽しむだけなら思ったほど悪くはない。 [地上波(邦画)] 5点(2018-12-01 01:25:07) |
73. ブラディ・サンデー
《ネタバレ》 最悪の結果を招いたのは対立だけでなく、北アイルランドのデモ隊とイギリス軍、各々の連携が取れてなかったのだろう。エネルギーの余った若者たちが暴徒化しなければ、本部の指揮と現場の意思疎通が取れていれば、その歯車の噛み合わなさによる悪い偶然が取り返しのつかない事件に発展していく。煽情的に盛り上げることを避け、極めて淡々と描いているが、最後まで飽きさせない構成力。ただの再現ドラマとして細部まで描くのではなく(というよりできない)、その日その日の即興的な演出がむしろ現場を目撃したような迫真さを生み出すことに成功している。世界が事件に関心を持ってもらう意味では、グリーングラス監督の意図は正しい。エンドロールの"Sunday Bloody Sunday"が痛切に響く。 [DVD(字幕)] 8点(2018-11-03 13:21:48) |
74. ユナイテッド93
《ネタバレ》 最後まで動悸が収まらない。勿論、本作は娯楽映画ではない。膨大な資料と電話のやり取りからどこまで911に迫れるか。いつもと変わらない日常から地獄絵図に変わる光景を、一機の旅客機を中心に一気に見せるグリーングラスの演出力に引き込まれる。テロリスト及び乗客乗員が全員死亡した以上、どこまでが真実か分からない。陰謀論を唱える人もいるだろう。ただ、双方の"神に祈る"行為が、「こうあって欲しい」という理想のすれ違いにおける悲劇であることがことさら強調されているように思えた。911後、現代の宗教戦争の様相になっていくが、あくまで"その日"の事態だけを描き、思想・感傷をできるだけ排したフラットで真摯な姿勢が伝わる。 [映画館(字幕)] 9点(2018-10-22 20:01:58)(良:1票) |
75. マトリックス レボリューションズ
ちゃぶ台をひっくり返したような結末にただただ唖然。大ヒットしたらシリーズものを作らざるを得ないけれど、仮に一作目でコケていたら、それはそれでカルトムービーとして愛されていただろう。元々三部作構想なら、より複雑なものにしようと作っている本人たちですら、己の理解を超越して収拾できなくなっているように感じる。 [地上波(吹替)] 3点(2018-10-13 09:04:34) |
76. ナイロビの蜂
《ネタバレ》 原題を直訳すると「忠実な庭師」。つまりのほほんと暮らす我々のことである。アフリカで起こっている現実を変えようとしている情熱的な活動家の妻の理念は尊い。だが殺されて、汚名を着せられては職責的に重大な立場にある夫がやりきれない。危険な地だと分かっていて赴いて捕えられて殺される、その報道による心ないバッシングを目にする。自分たちに無関係なことに首を突っ込むメリットはどこにあるのか、むしろ迷惑被るだけ巻き込むなという残酷な結論だけど、グローバル経済で享受している豊かさを無意識に手にしている以上、どこかの途上国が犠牲になっても何も出来ないのだ。そのリスクを背負う覚悟も余裕もないから見て見ぬふりをする。ラブストーリー主体の前半の回想は退屈だが、夫が動き出してからの切れ味鋭い編集は流石メイレレスで、現実が足についている分、引き込まれてはいても自己犠牲に至るほどの説得力が足りなければ問題定義としては中途半端と言わざるを得ない。たとえ夫婦のしたことが最後に報われたとしても。 [映画館(字幕)] 5点(2018-10-13 08:46:00) |
77. ミュンヘン
《ネタバレ》 イスラエル側の視点だが、パレスチナ側にも配慮した描き方。ターゲットの中には家族がいて、銃を下ろしてとなだめようとする人間がそこにいた。そして計画が座礁に乗り上げ、報復が報復を呼ぶ泥沼状態、そして離脱。安らぎであるはずの妻との性行為ですら、テロリストと同化して苦しみから逃れられない、そのカットバックが圧巻。当時まだ建っていた貿易センタービルが911を連想させるあたりはあざといが、報復は今でも終わらない消化不良感が後を引く。近年、アメリカの大使館をエルサレムに移転した際に、パレスチナ側に多くの死傷者が出た。和解されたと思いきや、当時のイスラエル首相が自国民に暗殺された出来事もあり、報復を止めるには根絶やしにするしか道が残されてないのか。当事者ではない以上、他人事でしかない、そんな厭世感が漂っている。 [映画館(字幕)] 7点(2018-10-13 08:23:57) |
78. ブラッド・ダイヤモンド
《ネタバレ》 個人的には肌に合わなかった。ダイヤモンドという富と栄華の裏で、どれだけの犠牲がアフリカの小国で生まれているのか、分かりやすくメッセージに富んだ娯楽作として仕上げているあたりは流石。でも、その片棒を担いでいるハリウッドには言われたくない。安価のエコカーを所有して環境保全をアピールしている臭いに近い。シエラレオネが平和になったのかも怪しく、いつの時代も裏から手を引いて莫大な利益を得ている奴はいるものである。『ナイロビの蜂』同様、知っていても何もしてあげられない、むしろグローバル社会が作り出した裕福さに手を貸している現実がそこにある。 [DVD(字幕)] 4点(2018-09-30 01:04:02)(良:1票) |
79. リトル・ミス・サンシャイン
《ネタバレ》 ストーリーは良くできている。前半で祖父が死ぬも全編に渡ってその存在が空気をまとい、道中で家族の一人ひとりが次々挫折を味わいながらも娘が最後の希望になって一致団結する。ところが、終盤のコンテストを滅茶苦茶にした展開がどうも受け入れられないのは、たとえ虚栄のコンテストだとしても「他人に迷惑かけるな」という考えが日本では根深いからだろうか(人の足を引っ張ればまとめて罰せられる"五人組"という連帯責任だ)。何かを得るには挫折は避けられない。馬鹿にされて終わるのかもしれない。でも、最後に笑えればそれでいい。家族は多くのものを失ったが、本当に大切なものを手に入れた。 [DVD(字幕)] 5点(2018-09-30 00:57:17) |
80. ヴェラ・ドレイク
《ネタバレ》 まるでドキュメンタリーのように描かれる淡白な演出は、堕胎という深刻な問題を扱っている故か。キリスト教が重要な立ち位置を根強く残す時代、ごく普通の中年女性が善意で行っているそれは、倫理的に許されるものではないが、性暴力による望まぬ妊娠であるものなら、妊娠した女性も生を受けてしまった子供も不幸になるだけだろう。その命に価値があるか否か、綺麗事で片付けられないことをヴェラ・ドレイクは理解しているかは分からないが、罪に対して無知だとしても救いたい気持ちは本物なのだろう。奇跡が起きるわけもなく、法は容赦なく彼女を裁く。彼女の帰りを待ち続ける残された家族のショットが善意の対価、喪失の大きさを突き付ける。現在でも女性蔑視の構図は変わらないまま。老いを受け入れたような達観さのあるイメルダ・スタウントンは名演。 [DVD(字幕)] 5点(2018-08-10 19:41:53) |