841. 続・忍びの者
《ネタバレ》 シリーズ第2作。今回も監督は山本薩夫で前作同様社会派監督らしい目線もあるのだけど、前作の織田信長に加えて今回は徳川家康や豊臣秀吉が登場し、本能寺の変などの歴史上の出来事がわずか93分の間にぎっしりと詰め込まれており、今回のほうが前作よりも娯楽映画としての面白さは上だと思うし、話も前作より面白かった。しかし、少々エピソードを詰め込みすぎな感じがするのはちょっと残念な気もするし、五右衛門が釜茹でにされる直前にエンドマークが出るのもいかにもこの後の3作目につなげようとしている感があってなにかすっきりしないままなのもちょっと不満が残る。それに一部前作と演じる俳優が違う登場人物がいるのもちょっとなあ。でも、さっきも書いたように前作よりは面白いので今回も一応7点。それにしても森蘭丸を演じる山本圭(監督の甥)が若い。 [DVD(邦画)] 7点(2009-08-06 13:15:04) |
842. 忍びの者
雷蔵主演の忍者映画。社会派で知られる山本薩夫監督の作品ということでちょっとかたいかなと見る前に思っていたが、確かに単純な娯楽映画という感じは受けないものの、それでもなかなか面白かった。雷蔵の忍者役というのは初めて見たが相変わらずクールでかっこよく、それでいて演技もうまい。しかし、この映画ではそんな雷蔵よりも、やはり二つの顔を持つ忍者集団の頭領を演じる伊藤雄之助の存在感あふれる怪演ぶりがもっとも印象的で、中でも普通の老人という感じから突然ものすごい動きをはじめるあたりはインパクトが大きく、また不気味で怖い。まさしくこの役は伊藤雄之助ならではだと思う。そしてその部下を演じる加藤嘉もなにか不気味な演技を見せていてこちらも印象的。ただ、信長を演じる若山富三郎は体格が良すぎで、以前に見た「尻啖え孫市」で弟・勝新が演じた信長と同じくちょっと違和感を感じるのだが。続編もあるようなのでそちらも見てみよう。 [DVD(邦画)] 7点(2009-07-30 12:39:00) |
843. 富士山頂(1970)
のちにNHKの「プロジェクトX」でも取り上げられた富士山頂への2年間に渡る台風観測のための気象レーダーの設置工事を当時実際に気象庁に勤務していた新田次郎の小説をもとに映画化した作品。主演の裕次郎がプロデューサーも担当しており、「黒部の太陽」などと同じくビデオ・DVD未発売ということで、取りあえず今回の放送を見てみた。裕次郎と勝新の共演など、大作映画らしく出演者は豪華で、それなりに見ごたえもあるものの全体としては淡々としていてそれでいて大味な部分もありドラマとしての盛り上がりがあまりなく見終わってもそんなに印象に残らない感じ。でも、裕次郎と勝新の共演は同年の「待ち伏せ」より本作のほうがしっくり来ていると思うし、日活映画で裕次郎と共演することの多い芦田伸介、宇野重吉といった名優たちも良かった。渡哲也はあまり出演作見てないが、本作よりもっと後のほうがいいような気がする。勝新の本作での役名が「朝吉」で、これだけ聞くと「悪名」しか思い浮かばない。映画の評価としては本当は5点でもいいのだけど、おそらく今回のような機会でもなければ見れない映画だと思うのでおまけで1点プラス。予告編だけ見たことあるが、「黒部の太陽」がいつか見てみたい。 [地上波(邦画)] 6点(2009-07-22 18:57:24) |
844. 配達されない三通の手紙
野村芳太郎監督によるサスペンス映画。「危険な女たち」と同様に外国文学の映画化作品で、印象としてはそれほど深みもなく分かりやすい2時間ドラマ的な映画で、はっきり言って凡作なのだが、期待していなかったからか思ったよりは面白かったかな。(物足りなさもだいぶ感じるけど。)出演者も豪華でそれぞれの役者の演技を見ているだけで安心して見ていられる映画なのだが、中でも、終盤の栗原小巻の演技はかなりのインパクトで印象に残り、この女優のうまさを感じさせる。神崎愛がフルートを吹くシーンはなにかストーリーと絡むのかと思っていたが、たいして意味もなく、ただのサービスカットだったみたいで無くてもよさげに思う。彼女と一緒に手紙の謎を追う日系人のキャラクターもいかにもという感じだった。松坂慶子はうまいんだけど、今年既に何本か出演作を見てるせいかこういう役柄というのはちょっと違和感を感じる。その母親を演じる北林谷栄を見ていてつい「となりのトトロ」で声を演じていたカンタのばーちゃんを思い出してしまった。 [DVD(邦画)] 5点(2009-07-21 13:50:05) |
845. その木戸を通って
市川崑監督が1993年に手がけた作品で、市川監督没後の去年11月に追悼上映として初めて劇場公開されたハイビジョン撮影の時代劇。原作は山本周五郎。「幻の名作、ついに公開」という触れ込みだったが、90年代の市川作品といえば外れが多い印象が強いためにあまり期待していなかったし、多少、製作会社の話題作りみたいな浅ましさも感じた。しかし、そんな不安は見ているうちに吹き飛んだ。市川監督らしい独特の映像美がこの作品でも健在で、元々はハイビジョン実験用のテレビ作品として作られた作品らしく、撮影もフィルムではなくVTRだが、明らかに映画を意識して作っているという感じがする。それに、同じ市川監督の「竹取物語」(いや、話の印象としては「つるー鶴ー」のほうが近いかも。)を思わせるようなストーリーながらイマイチだったあちらに比べるとこの作品はかなりの低迷期にあったこの時期の市川作品の中では佳作といえる出来になっており、ひょっとしたらこの作品が市川監督の90年代の作品の中ではいちばんいい気がするし、ラストシーンの余韻の残し方も良かった。出演者に目をやると、ストーリーの鍵となる記憶喪失の女をミステリアスに演じる浅野ゆう子が特によく、苦手な女優だが、こんなにいいと思ったのはおそらく初めてだろう。主演の中井貴一や、その他市川組常連俳優たちもいい味を出しているが、フランキー堺が市川作品に出演しているのはちょっと珍しい。 [DVD(邦画)] 8点(2009-07-15 20:19:47)(良:1票) |
846. 眼の壁
《ネタバレ》 松本清張初期の小説を映画化したサスペンス。監督は大庭秀雄、主演は佐田啓二という「君の名は」のコンビ作。佐田啓二の単独主演作を見るのはこれが初めてのような気がするが、いかにも正統派二枚目という感じでカッコイイし、演技にも安定感があるので安心して見ていられる。鳳八千代、朝丘雪路(若い!)ら女優陣も魅力的で、映画自体も松本清張原作らしい作品に仕上がっていて面白かったものの、難点を言うと会計課長を自殺に追いやった詐欺組織に挑む一介のサラリーマンに過ぎない主人公を何がそこまで駆り立てるのかイマイチ最後までよく分からなかった。自殺した課長の無念を晴らしたい一心で行動してるようだが、それでは少し動機が弱いというか。この課長と主人公の関係をもっと描いていれば主人公にも感情移入しやすかっただろうし、ドラマとしてももう少し広がりが出来たのではないかと思うとちょっと残念で1点マイナス。 [DVD(邦画)] 5点(2009-07-07 11:22:53) |
847. 黒の奔流
自分を無罪判決に導いてくれた弁護士を愛してしまうヒロイン役の岡田茉莉子の情念のこもった演技はさすがと思わせるし、その弁護士を演じる山崎努のワルぶりも物凄く、二人とも実にハマリ役で素晴らしくこの二人の演技を見ているだけでも見応えのじゅうぶんある映画で、ストーリー的にも面白い映画ではあるんだけど、なんか全体的にドラマとしては平凡な印象で物足りない感もあり、もう少し演出にもパンチが欲しかった気がするし、もっとうまく料理していればひょっとしたら傑作になったかもと思うとちょっと残念。ただ、さっきも書いたように山崎努と岡田茉莉子の演技合戦は非常に見応えがあるし、平凡な印象ながら、それでも見て損のない映画だと思うので6点。 [DVD(邦画)] 6点(2009-07-01 21:36:36) |
848. 波の塔
汚職事件を担当する検事が容疑者の妻と不倫関係になるというサスペンスメロドラマ。監督は岩下志麻主演の「古都」で京都をこれでもかと言わんばかりに美しく撮り上げ、格調高い傑作に仕上げていた中村登なのだが、本作はそつなくまとまったプログラムピクチャーという感じ。主演の有馬稲子は確かに魅力的で演技もうまいと思うものの、なにかしっくり来ない感じがしたのも事実だし、個人的にはどちらかと言えば助演の桑野みゆきの方が好みだ。検事役の津川雅彦の演技ははっきり言って下手で、今もそんなに好きな俳優ではないが、それでも今のほうがいいと思える。ストーリーはどちらかと言えば汚職事件の絡んだサスペンスよりも、主役二人のメロドラマに焦点があてられてる感じであるが、深みはあまり感じられず、普通に昼ドラでやってそうなレベルなので正直見ていても退屈。しかし、ラストシーンは印象的だった。 [DVD(邦画)] 5点(2009-06-25 13:36:38) |
849. 名探偵コナン 瞳の中の暗殺者
《ネタバレ》 かなり久々に見たコナンの映画だったけど、長年見てなかったせいか、なんかあまりにもくさすぎるし、最後、小学生にしゃあしゃあと動機を語る犯人とか普通はありえん展開にも唖然となってしまい、また、コナンの使う道具はどこか007に出てくるメカのような荒唐無稽さで、後半あたりは推理ものというよりはアクション映画のような雰囲気になっているのでちょっと興ざめ。ストーリーはなんとか見ていられるレベルにはなっているが、それでもつっこもうと思えばいくらでも突っ込めるような感じなので正直言ってあまり面白くなかった。(まあシリーズ見慣れてればさして気になるようなことではないんだろうけど。)白鳥を演じている塩沢兼人が懐かしい。これが劇場アニメでは遺作になるのかな。早世が惜しい役者の一人だ。 [DVD(邦画)] 4点(2009-06-23 03:06:24) |
850. 天城越え(1983)
「砂の器」でもそうだったが、本作もサスペンス・ミステリーよりは人間ドラマに焦点が置かれた重厚で深みのある作品で、天城峠の美しいロケーションも素晴らしい。しかしなんといっても田中裕子。今まで何本か映画やドラマで見てるけど、こんなにも美しく、妖艶な魅力を放つ彼女を見るのは初めてな気がする。とくに犯行を自供したあと雨の中でびしょ濡れになるシーンはなんともいえない美しさでついウットリしてしまう。はっきり言ってこれなら主人公少年でなくてもこちらも惚れてしまいそうなくらいとにかく美しく、そして切ない。中盤の取り調べのシーンの演技もかなりの熱演で今まで田中裕子に対してこういう激しい演技をするというイメージがあまりなく、どちらかといえば少し病弱そうでおとなしい役が多いイメージが強かったため、かなり驚いた。そんな田中裕子にすっかり魅せられてしまったからか、ラストはやるせない気持ちになった。最初に書いたように重厚で深みのある映画で、映像も美しいのだが、やはり田中裕子の存在がこの映画の質をかなり高めているのは間違いないだろう。じゅうぶんに傑作といえる映画である。 [DVD(邦画)] 8点(2009-06-17 20:38:18)(良:2票) |
851. 彩り河
今年は松本清張生誕100年で、秋頃には東宝で「ゼロの焦点」のリメイク版が公開されるが、本作はそれまで松本清張原作映画の最新作だった作品。たぶん二時間ドラマのような雰囲気なんだろうなあと思いながら見たが、やはりその通りで、ヒロイン役がサスペンスドラマの印象が強い名取裕子というのもあって一層そういう感じの映画に見えてしまうんだが、まったく期待していなかったからか見る前に思っていたよりは面白かったかな。でも脚本4人がかりにしては主人公の背景や主人公とヒロインが結ばれていく過程はかなり適当に思えるし、ドラマに深みも感じられず、結局二時間ドラマのような安い印象しか残らないんだけども。三国連太郎の相変わらずの悪役ぶりは本作でもいかんなく発揮されていてすごい。当時まだJACのアクションスターだった主演の真田広之の演技はまだかたく、今でこそ世界的な活躍を見せている演技派の一人だが、この頃の真田広之は(そんなに見たわけではないのだが。)アクション映画に出ている時のほうが良いと思う。そういえばJAC時代の真田広之を深作欣二監督の映画以外で見るのはこれが初めてのような気もする。 [DVD(邦画)] 5点(2009-06-09 14:10:54) |
852. 真夜中の招待状
《ネタバレ》 野村芳太郎監督のサスペンス映画というと松本清張原作という印象があるが、本作は遠藤周作が原作。主演の女優は確かにキレイだけど、妙にオカルトチックな要素が入っているのにはちょっとひいてしまった。ストーリーもはっきり言ってあまり面白くなく、野村監督の演出も平凡で、1月に見た「わるいやつら」に続いてあまり出来のいい映画には思えない。出演者も何か地味な印象だが、小林薫の若さにはちょっと驚いたし、丹波哲郎が催眠術をかけている姿はやはりちょっと胡散臭く怪しかった。米倉斎加年のこういう役って初めて見たような気がする。宮下順子は良かったが、この人物にはもう少し背景のドラマに深みがあると良かった。ラストの空港のシーンでの主人公の心変わりもあれではただ単に嫌な女にしか見えない。もうちょっと脚本も練ってほしかったなあ。 [DVD(邦画)] 4点(2009-06-02 12:53:23) |
853. 楊貴妃
溝口健二監督のカラー映画は本作と「新・平家物語」の二本。「新・平家物語」がイマイチだったのであまり期待はしていなかったが、話が壮大なわりに上映時間は90分と短く、ドラマに深みを感じることができない上に後半はえらく駆け足になってしまっているのでかなり物足りなく感じる。楊貴妃(京マチ子)と皇帝(森雅之)がお忍びで出かける祭りのシーンが印象に残るのだが、それ以外は溝口監督の演出も精彩を欠いている感じで、いままで見た溝口監督のほかの作品と比べても平凡な印象しか残らず、はっきり言ってあまり気乗りしないまま引き受けてしまったのではないかとも思えるような凡作で、ちょっと言い過ぎになるかもしれないが、この前の大映のカラー映画「地獄門」がカンヌでグランプリを受賞したことで調子に乗った永田雅一社長(溝口監督に絶大な信頼を寄せていたという。)に溝口監督がいいように使われただけという気もしてきて、そう考えると残念としか言いようがない。「新・平家物語」と同じく5点という評価だけど、この映画は今まで見た溝口監督の映画の中ではいちばんつまらないと思う。 [DVD(邦画)] 5点(2009-05-26 13:34:17)(良:2票) |
854. 座頭市鉄火旅
《ネタバレ》 シリーズ15作目。今回は市の仕込み杖があと一人斬ったら折れてしまうという衝撃の設定。なのでシリーズではちょっといつもと違う印象の映画に仕上がっていて面白かった。ドラマ重視のつくりで夢の中で杖が折れて市が斬られるというシーンは杖があと一回しか斬れないことへの市の恐怖心がよく出てるシーンでとても印象に残った。そしてなにより刀鍛冶を演じる東野英治郎が味のあるいい演技を見せていて市に仕込み杖の事を話すシーンや娘のことを話すシーンなど市とのやりとりのシーンがいい。その娘を演じる藤村志保も先週見た「座頭市喧嘩旅」より今回のほうが良かったと思うし、「座頭市喧嘩旅」と同じ安田公義監督が手がけていることも興味深いところであるが、いずれにせよ今回のほうが話としても面白くみごたえがあった。クライマックスの今回の殺陣シーンは市の仕込み杖に関する話だっただけにいつもよりもよけいにカタルシスが感じられるものとなっていてシリーズの中でもとくに印象に残る。またシリアス目のストーリーの中にあって市のとぼけた表情や、コミカルな仕草、水前寺清子や藤田まこととのやりとりが雰囲気を和ませているところも良かった。 [DVD(邦画)] 8点(2009-05-19 13:44:47) |
855. 弁天小僧
のちに「切られ与三郎」でも歌舞伎を題材にした伊藤大輔監督がそれ以前に同じく歌舞伎の世界を映像化した時代劇で、主演も同じく雷蔵。歌舞伎のワンシーンがそのまま雷蔵らによって演じられる劇中劇のシーンもあって雷蔵の映画俳優としてだけではない歌舞伎俳優としての魅力も伝わってくるし、相変わらずの演技のうまさも感じられる。伊藤監督の演出ぶりや、宮川一夫の作り出す映像美、西岡善信による美術セットも素晴らしくいかにも大映らしい完成度の高い映画で、なかなか楽しめたものの、個人的には「切られ与三郎」のほうが好きだな。あと説明台詞が多いのがちょっとくどく感じてしまったのが残念。遠山の金さんを演じているのはまだ下積み時代を送っていた頃の勝新であるが、やはり勝新はこういう白塗りメイクの二枚目風より座頭市のような濃いアウトロー役のほうがかっこいいと思う。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2009-05-14 19:40:24)(良:1票) |
856. 座頭市喧嘩旅
シリーズ5作目。今回も勝新演じる座頭市の存在感と殺陣に相変わらず凄さを感じるし、市がヤクザの抗争に用心棒として参加するという展開は新鮮に感じられる。しかし、じゅうぶん楽しめる作品に仕上がっていると思うものの、まだ初々しさの残る藤村志保演じるヒロインがあまりにもお姫様然としていてか弱すぎるし、脚本的にもなにか強引さが感じられるのが残念だった。それでも安田公義監督の演出は手堅く、クライマックスの抗争前に二つのヤクザが対峙しているシーンの緊張感や、市が双方の親分を斬ってしまうシーンなどは見ごたえがあり、脚本が強引なわりに出来としてはそんなに悪くないと思うのでぎりぎり7点。でも、1作目の脚本を書いていた犬塚稔脚本だっただけにもう少しドラマに充実感が欲しかった気もする。ところで安田監督はもう一本、藤村志保をヒロイン役に「座頭市」シリーズを撮っているみたいなんでそっちも見てみようかな。 [DVD(邦画)] 7点(2009-05-12 18:49:30) |
857. 宮本武蔵(1973)
《ネタバレ》 加藤泰監督が松竹で手がけた「宮本武蔵」。先に内田吐夢監督、中村錦之助主演の東映版5部作を見ているわけだが、本作はあのシリーズ5本分と同じ話を2時間半にまとめているためにかなりダイジェスト的な仕上がりになっていて、関が原のシーンの後、いきなり武蔵が村へ帰ってきて千年杉に吊るされたり、その後もやたら早い展開で、吉野太夫や、箸でハエを捕まえるエピソードなど東映版で印象的だった部分がカットされまくりで、映画に深みがないのは残念。特に中盤あたりは吉岡兄弟との対決や一乗寺の決闘が足早に描かれておりちょっと見ていて疲れる。武蔵とお通のラブシーンや、小次郎に怖気づいた武蔵が一度は勝負の申し出を断るなど、本作オリジナルらしきシーンもあるのだが、全体的に見るとやはり大味な凡作という印象しか残らない。キャストにしても武蔵を演じる高橋英樹は濃すぎるし、(錦之助の武蔵ってここまで濃くなかったような。)又八を演じるのがフランキー堺というのも違うだろと思ってしまう。それにお杉ババを演じるのが本作で脚本を書いている野村芳太郎監督の「八つ墓村」で濃茶の尼を演じていた任田順好で、なんかただ単に怖いだけの存在に描かれてるのも不満が残る。沢庵和尚を演じているのが笠智衆というのも御前様にしか見えず違和感を感じた。ただ、お通と小次郎に関しては東映版よりもこちらの松坂慶子と田宮二郎のほうがいいと思う。特に 小次郎を演じる田宮二郎は東映版の若い高倉健よりも断然渋くてかっこよかった。 [CS・衛星(邦画)] 5点(2009-05-09 01:06:09)(良:1票) |
858. 新・平家物語
僕も今まで溝口健二監督の映画は白黒作品しか見ていなく、カラーの溝口作品を見るのは今回が初めての体験だった。(溝口作品見るのもかなり久しぶり。)撮影はいつも通り宮川一夫で、やはりこのコンビの作り出す映像は最高に美しいと思うものの、「雨月物語」や「近松物語」、「山椒大夫」といった白黒作品の圧倒的な美しさとは何か違う気がするし、確かに完成度は高い映画なんだけど、これら後世に残るような名作と比べると平凡な印象が残ってしまうのがちょっと残念だし、黒澤明監督と同じく、溝口監督もカラー作品よりは白黒作品のほうがいいと感じるし好きだ。前年デビューしたばかりの雷蔵が主演で、見る前は初々しさが目立ってあまりうまくないのではと思っていたが、(失礼。)デビュー2年目とは思えぬ演技でそれほど違和感もなくなかなか良かったと思う。 [CS・衛星(邦画)] 5点(2009-05-07 12:12:06)(良:1票) |
859. 太陽を盗んだ男
長谷川和彦監督の第2作。長谷川監督の前作である「青春の殺人者」は前半のインパクトに対して後半がダラダラだったし、本作も賛否両論があるみたいな感じだったので期待せずに見た。主人公の教師がなぜ原爆を作ったのかとか、そういう背景は一切描かれていないし、ストーリーもめちゃくちゃで荒唐無稽としか言い様のないもので、退屈なシーンも少なくないが、単純に娯楽映画として見る分には思ったより面白かった。主演の沢田研二と言えば深作欣二監督の「魔界転生」で演じていた天草四郎役が強烈に印象に残っているが、本作でも「原爆を作ってしまう理科教師」というインパクトのある役を演じていて印象に残る。長谷川監督は胎内被爆者であり、この主人公が自ら作った原爆によって被爆し、原爆症に苦しむシーンもちゃんと入っているあたりに長谷川監督の反核メッセージのようなものも感じられた。対する刑事を演じる菅原文太はまだヤクザ映画の雰囲気が抜けていない感じ。「王選手のホームラン」などは少し時代を感じてしまうものの、製作当時である70年代の雰囲気がなかなか良かった。それから忘れてはいけない、バスジャックする老人を演じる伊藤雄之助。出番は少なく、またこの頃はもうかなり晩年だったと思うけど、やはり本作でも出てくるだけで強烈な個性と存在感を発揮していて印象に残る演技を見せている。 [DVD(邦画)] 7点(2009-05-05 03:21:29) |
860. 翔んだカップル オリジナル版
《ネタバレ》 相米慎二監督のデビュー作で、鶴見辰吾とダブル主演をつとめる薬師丸ひろ子にとっても初主演となる映画だが、アイドル時代の薬師丸ひろ子=角川映画というイメージなので本作が角川映画ではないことにまず驚く。内容としては話はアイドル映画にありがちなラブコメ青春映画なのだけど、力のあるワンシーンワンカット演出が効果的に使われていて、とても映画的な作品になっているし、これによってデビュー作の本作から相米監督の個性が既に確立してしまっているのがすごい。とくに俯瞰映像での長回しシーンが強烈に印象に残る。それだけではなく、鶴見辰吾演じる田代も、薬師丸ひろ子演じる圭も活き活きとしていて、ここにも相米監督の演出のうまさを感じるし、この監督はただ長回しだけではなく、きちんと主演のアイドル(女優)を魅力的に魅せることのできる監督なのだと今更ながらに改めて思う。圭が田代に向かって言う「私、キレイ?」というセリフがとても印象的なのだが、これに圭の田代に対する気持ちがすべて込められているようで見ていて切なさが込み上げてくる。クジラのアドバルーンが何の脈略もなく出てくるシーンのシュールさも好きだが、やはりラストのモグラたたきのシーン、正面から長回しで撮影していることもあってこれもどことなくシュールに感じるものの、既に書かれている方もおられるが、そこに流れるメインの4人の微妙な空気感がよく出ていたのがうまい。出演者のクレジットは鶴見辰吾が薬師丸ひろ子よりも先に出ていて、実際視点は圭よりも田代にあるのだが、たぶん角川でやっていたら逆なんだろうなと考えてしまった。(だからどうこう言うわけではないけど。)本作は2バージョンが存在していて、20年前にも一度見ているが、その時見たのも初公開版ではなくこの「オリジナル版」だったかもしれない。(2022年8月29日更新) [CS・衛星(邦画)] 7点(2009-05-02 00:15:20) |