121. 山猫
《ネタバレ》 タイトルの「山猫」とはシチリア一帯を統治するファブリッツィオ家の紋章。劇中においても「獅子と山猫は去り、ハイエナと羊が生き残る」という台詞が出てきたこともあり、没落の象徴をタイトルに持ってきたことがよりタイトルに深みを感じさせているように思えます。 既に語り尽くされていますが、やはり後半の舞踏会の豪華絢爛さは素晴らしく、この映画の主題を踏まえて言うならば、最後の輝きを解き放つが如くの一大シークェンスでしょう。 貴族社会が時代の流れと共に地に落ちゆく様とバート・ランカスター演じるファブリッツィオ自身の老いとをシンクロさせることによる相乗効果で、主題となるストーリーがより引き立つような感じが出ていて面白く、しかも映画の終盤に進むにつれて、それが徐々に色濃くなりながら語られているところが凄く印象に残りました。(特に、小部屋にまで入り込んで来た数珠繋ぎでダンスをする若者の輪の中に躊躇いもなく溶け込んでいったタンクレディらと、動きの激しいダンスのそばを独りで歩く公爵の後ろ姿との対比!) 一方のタンクレディは、時流に順応する才を持つまさに次世代の担い手として相応しい男として描かれ、アラン・ドロンは他の出演作での貧しい中で苦労しながら生きる役よりも本作のような気品のある役でこそ彼の本領が発揮されると思いました。 またアンジェリカの方はと言えば、美しいとしか彼女を称賛する言葉が出てこないというのと(“美しい”以外には何もないというストーリー設定だから、当然と言えば当然ですが)、彼女が登場するシーンの時にはBGMが優雅な曲調に変わっていたのが誇張が過ぎる感じがして気になってしまいました。 やはり何と言っても、豪華絢爛さばかりが注目されがちな部分はありますが、広大な丘陵を一面に見渡すショットや、埃まみれの家で若者二人が密かに愛し合うシーンなど、オープニングクレジットから芸術的な場面が目白押しで、ヴィスコンティらしくどのシーンにも妥協を感じさせない力強さを感じました。 [映画館(字幕)] 7点(2013-02-03 02:45:41)(良:1票) |
122. 勝手に逃げろ/人生
《ネタバレ》 「お尻の割れ目が気持ちいい」や「ゴダールさん、後ろから犯して下さい」とかはまだ序の口。 DVD上映でしたけども、映画のスクリーンで修正のかかっていない性器を見たのは初めてですし、放送禁止用語は勿論、表現の内容まで結構ヤバい映画。 突然F1のマシンが出てきたり、「名前は?」「マリリン」「馬鹿にするな」で、改めてちゃんと自分の名前を言うシーンは地味に面白いです。 全編に渡ってスローモーションが至る所に出ていましたが、特に意味があってやっているようには見えませんでしたし、スローになった所に共通する何かというものも分からなかったです。 新鋭の監督じゃあないんだから、実験作みたいなのを作るのはいかがなものかという気がします。 [映画館(字幕)] 5点(2013-01-26 19:20:41) |
123. 殺人幻想曲
《ネタバレ》 緩急のつけ方が凄くハッキリしている映画ですね。 ちょっと重箱ですが、オープニングの空港での再会時、主役二人の熱いキスシーンとその他外野のクロスカッティングのシーンでは、外野のショットは空港の喧騒があってそれがBGMっぽくなっているのに対しキスする二人に切り替わると音が聞こえなくなっていて(恐らくロケとスタジオのクロスカットしている)、これが意図してそうしたかはかなり疑わしいですが、二人の世界を誰にも邪魔される事が出来ない雰囲気を作り出しているようで、結果的に上手いラブシーンになっていると思いました。 少しストーリーが進むと私立探偵が出てきて、夫が怒り狂って怒鳴り散らしているシーンとそうでないところでもオンとオフの差が激しいですし、やはり何と言っても指揮をしている最中の妄想と現実との差が面白可笑しく描かれているところ、特に現実世界のグダグダ感が笑えます。 台詞の過剰さがやや鼻についたのと、妄想3回というのも少々クドく感じられましたが、小物遣いや脚本も良く出来ておりコメディの要素もなかなかの出来で、更にワーグナーやチャイコフスキーの楽曲が楽しめたりと見どころ満載の映画に仕上がっていると言えるでしょう。 主役の指揮者はコメディ俳優ではないと思いますが、タクトの振り方がとんでもなく下手糞で毎回吹き出してしまいそうになったのと、ヒロイン役のリンダ・ダーネルが美人だった事で、ちょっとオマケして6点。邦題も上手いですね。 [映画館(字幕)] 6点(2013-01-26 17:43:08) |
124. ならず者(1943)
《ネタバレ》 「ならず者」をググると、撮影当時から上映に至るまでの良からぬエピソードが、まぁ出るわ出るわ。 けど、そんなに言われるほど悪くはないかと思います。 例えば、影を巧みに操り画面にアクセントを加えたりするところなんかは結構好きな演出。ラッセル嬢が両手を縛られているのが影で写し出されていたり、山で野宿した時の帽子のシルエットから本人が出てきた時などは面白い方法だと思いましたし、部屋の中で人物が画面から消えた後も影が通り過ぎるまでちゃんとカメラを回し続けるショットが何度も出ていたところは、ちょっと地味ですが渋くて良いと思います。 また、最後にリオがビリーに抱き付くショットとパットが柱を抱えるショットとの対比を強調するかのように二つのショットを被せたシーンなどを見ると、一部のセットでの撮影と思われるシーンはあったものの、画面を作ることにまでしっかりと意識を向けていたことが伺える作品であると思います。 他にも、モノクロ映像の光の当て方なんかは一級品で、西部劇なのでテンガロンをかぶった人物が多く、顔に対しては上から光を当てるわけにもいかず、かと言って下から光を当て過ぎてしまえばホラー映画のような顔つきになってしまうところ、上下から射す光のバランスひとつ取っても良い塩梅になっていますし、野宿のシーンや馬房のような暗闇での撮影も不自然に明るすぎたりもせず、かつ要所要所にのみ光が当たっていたりするところを見るに、映像に関しては総じて良い出来栄えであると感じました。 ストーリーは決してテンポは悪くないと思うのですが、途中でインディアンが都合良く出てきたり、ドクとビリーとの間に仲間意識が芽生えるまでの描写がやや足りないところなど、確かに変なところは見受けられたと思います。 オープニングで、部屋の手前から扉を開けて中に入る一連の長回しから、カメラの動かし方にこだわりを感じ期待を持って臨んだのですが、部屋の中からこんな風に仰々しく登場するパットが、前半の途中辺りからヘタレキャラが顔を覗かせてしまっているところを見るに、折角のこの良く出来たオープニングも過剰気味と言うか無駄な演出のような気がして、ちょっと勿体無く思えてしまいました。 [映画館(字幕)] 6点(2013-01-16 23:01:22) |
125. 中国女
《ネタバレ》 壁に書かれた文字に痺れた。うろ覚えですが、「曖昧な考えを映像にし、戦わせよ」とか「明確な主張を持った少数派は、もはや少数派ではない」とか内容もさることながら、文章の壁に対する占有率だとか文章全体のスクェアのフォルムや個々のフォントの感じなど、これはもうアートと呼ぶしかなく、ただひたすら格好良い。本棚に並んだ赤い本の赤の比率、赤一色の部屋やトリコロールカラーのインテリア、4:3の画面に役者の顔を正面から捉えたショットの連続などなど、“ゴダール”を感じさせる映像のオンパレードがとにかく気持ち良いです。 台詞の内容やストーリーなどは、分かる人にだけわかればいいと思いますし、製作された時代背景はおろか、世界史の知識なども持ち合わせていない自分にとっては、耳から入ってきた内容をレビューするなんてまず無理なので、視覚的なレビューのみで打ち止めさせて頂きます。 ところで、映画の上映後に廣瀬純さんの講義が行われるということで拝聴する。 彼の解説によると、「不可能性を自ら作り出しそれを打破する映画」「赤vs緑」などと話されていましたが、映画同様の難解な講義であり理解が及ばず大変恐縮で、こうやって低い点数のレビューを綴るのもまた、情けない気持ちになってしまう映画なのでありました。 [映画館(字幕)] 5点(2013-01-14 21:02:23) |
126. キング・ソロモン(1950)
《ネタバレ》 ハッキリ言って、ストーリーは面白くない。 意地っ張りの勘違い女は見ていて腹が立つし、悪夢にうなされているもんだから彼女の中にきっと何か心配事や抱え込んでいるものがあるのだろうとか想像したりもしましたが、ザクッと髪を切ってササッと水を浴びたらケロッと治っちゃうし、おまけに彼女の心がアランに傾いていく過程の描写もハンパなもんだからラストの二人の後ろ姿を見てもスッキリしない。また、何処となく現れた土人が王になり彼に見送られてサヨウナラってのもご都合主義的にしか思えませんでした。 とか何とか言いながらもそこそこの合格点をあげちゃうのは、ロケーション撮影の素晴らしさ故に他ならないのですが、とにかくもう、サバンナの野生の動物たちとの絡みが凄く、実際にライオンなどの猛獣との鉢合わせシーンの多さに驚きました。 よくありがちなのが、動物と役者を別々に撮った映像を繋ぎ合わせ、あたかも本当に鉢合わせしているかのように見せる方法なのですが、この映画では俳優の身代わりを立てることがあるにしても、ほとんどのシーンで両者をワンショットの中に収め本当にニアミスの状況を撮っているのが凄い! 中でも特筆すべきは、山火事で慌てふためく動物たちが向かって来るシーンで、あれだけの大群が一斉に走り回る状況はほぼリテイクは不可能だと思われるので、一発勝負のワンテイクで撮ったと考えるのが妥当でしょう。という事は、藪の中に潜んでいた役者たちも影武者と交代する間もないとなれば、彼らも動物に踏まれながらの決死の撮影であったに違いありません。 また、話が進むごとに複数の部族が次々と出てきましたが、どの部族との絡みでも皆しっかりと演技をしていて、全員に撮影というものを理解させる努力を考えると非常に良い仕事をしているなという印象です。 これだけの作品なのだから、当然スタッフの中には動物に襲われて怪我をした者もいただろうし、病気で途中離脱した者もいた事でしょう。点数のほとんどは彼らの労力と苦労に対してと言っていいくらいです。 余談ですが、土人との通訳役の人はカメラが回っていない時にはスタッフとの橋渡し役をやっていただろうとか、また献上品として鹿と塩を持参していたやつも本当に撮影の謝礼としてプレゼントしたんだろうとか、いろいろ考えてみると楽しい映画ですね。 [映画館(字幕)] 7点(2013-01-13 18:36:06) |
127. キートンのゴルフ狂の夢(囚人13号)
《ネタバレ》 前半のゴルフのシーンで、カップイン寸前のところで犬にボールをかっさらわれるシーンが本当にアッという間の出来事で笑ってしまって、しかもその犬がボールをコレクションしていたりして、ここでもクスッとなってしまいます。 敵をバッタバタと続けざまに倒していくシーンなど普通に面白いギャグが出ていた中で、必見はズバリ所長室で大男と戦うシーンでしょう。 キートンが後ろに吹っ飛ぶアクションは、出来るだけ飛ぶ距離が大きい方が当然笑いも大きくなるわけで、よく見ると殴られた瞬間に5,6歩後退りしてから自力で後ろにダイブ!という何とも滑稽極まりない姿・・・なんですが、平面のスクリーンに奥行きを感じさせようとする努力の跡が感じられるのはちょっとした注目ポイントで、キートンが殴られたことによる笑いと同時に「う~ん、流石キートン!」と唸ってしまうような要素とが入り混じっていて、非常に面白いシーンです。 「この時代にしては凄い」だとか、「ゥン十年も前の映画でナンタラカンタラ」とかいう表現でレビューするのって馬鹿げていると思っている自分としても、今回だけは言わせて頂きたい。 カメラを動かしてポジションやアングルを変えてみようとする発想がようやく根付いてきたこの時代に、画面に奥行きを出そうとする意識を持っていたのは、キートンが時代の先を行っていたということの表れでしょう。 3D映像で奥行きなんかエンジニアの腕ひとつでどうにでもなる現代の映像作家たちには、是非ともこういった工夫を凝らす姿勢を見習ってほしいところです。 [映画館(字幕)] 7点(2013-01-13 12:49:10) |
128. キートンのマイホーム(文化生活一週間)
《ネタバレ》 これはキートン映画の中でも1,2番を争う面白さ。 後ろをチラ見する運転手から逃げようと、車を乗り移るシーンはキートン映画ではありがちなアクションなんですが、「おぉ~スゲェ!!」という驚きと「相変わらず馬鹿やってんなぁ~」というホッコリした笑いとが湧いてきて、やはり毎度のように楽しませてくれます。 驚きというのが大事なポイントで、笑いというのは多かれ少なかれ驚きを含んでいなければならないわけですので、そういう意味ではとても良く出来た笑いと言えるでしょう。 完成した家で繰り広げられるネタに関しても、コメディ映画の中だから許されるような常軌を逸したものばかりで、これまた良い。 キートンを追いかけていた男が2階のドアから外に吹っ飛ぶシーンの大ジャンプには大爆笑ですし、また細かいところですが、家の外に据え付けられていた洗面台の壁をクルッと回すとただの外壁になった所も、すき間が全く見えなくなるほどの完璧な設計だったのが妙に面白かったです。 家の構造も、風で回転したり樽を下に入れて移動出来たり・・・って、あの家の基礎はどうなってんだ?とか言うのも全部コメディだから許されちゃう(笑)。 やはり何と言っても、最後にホッと一安心させておいて油断した瞬間に大クラッシュ!っていうのが、超がつくほどの絶妙のタイミングなもんだからもう爆笑必至。 上映時間わずか20分の小品で最後に上手く笑わせてくれれば、どんな映画でも例外なく面白くなっちゃいます。 これがキートンの初期の作品だと知って、観終わってからも驚きを与えてくれるキートンには、改めてその凄さを再認識させられました。 [映画館(字幕)] 9点(2013-01-11 01:10:47) |
129. 石の花
《ネタバレ》 原作はもちろん知らないんですが、たぶん冒頭で出てきたようなロシアの一地方で代々語り継がれてきたような説話か何かでしょう。 物語の雰囲気や映像面の気合の入り方なんかを見ても、そんじょそこらの映画とは格が違うというか、気品すら感じさせる作品に思えます。 ただ、ちょっと細かい部分にアラが見えてしまうのが非常に惜しく、結婚を決意した時の思いつきのようなモノローグの流れとか、石の花を見たいと願い洞窟の中に行ってから出てくるまでの会話の内容とか、物語をおかしくしてしまうような箇所が他にもまだまだありましたし、それと若干音量が大きすぎたのとオフレコが耳障りだったのも良くなかったです。 ロシア映画の伝統なのか分かりませんが、とにかく映像が非常にしっかりしていて、瞬く間に花が一面にパァーッと咲くところや、湖面を映したフィックスの映像で季節の移ろいを表現したシーン、洞窟内の煌びやかな映像など全てセットでの撮影でありながらも・・・と言うよりは、セットだからこその美しさが全開に出ていたと言って良いでしょう。 リメイクは、確かにストーリーは良くなるかもしれませんが、映像面の格は落ちるでしょうから難しいところですね。 [映画館(字幕)] 6点(2013-01-09 00:32:10) |
130. サリヴァンの旅
《ネタバレ》 オープニングの劇中劇が終わったところからの超長回しはインパクト絶大! 前半、旅に出るたびに(ダジャレではありません)再び戻ってきてしまうくだりは面白かったのですが、後半以降がやや失速気味。 最初、道を歩いている時に少年の車に乗せてもらってカッ飛ばすシーンのアクションは必見で、カーアクションは一部映像の合成があったもののそれでも十分に見ごたえのあるシーンでしたし、またバスの中のハチャメチャ振りも実にコミカルに撮れていたりする抜かりのなさは、流石スタージェスと言ったところです。 後半の5ドル紙幣を配って歩く辺りからが少々落差が出てしまっていて、特に気になってしまったのが、教会でディズニーのコメディアニメで大笑いする観客→「世界に幸せをもたらすのはやはりコメディなのだ!」の流れ。ちょっと安直でストレートすぎる風に思えましたし、更に詰めると、サリヴァンを襲った浮浪者が靴を含めて自分の着ているものと交換した描写がなかったのも良くなかったと思います。 よく考えると、冒頭の映画は何故コメディ映画じゃなかったんだろうとか、最初に向かうのがスラム街ではなく何故農家で仕事を手伝っていたんだろうとか、色々と疑問が湧いてきてしまったりして、粗さあり落差ありで少々勿体ない作品のような気がしました。 [映画館(字幕)] 6点(2013-01-06 22:18:29) |
131. ミニヴァー夫人
《ネタバレ》 “ワイラーに外れなし”の法則を見事に打ち破ってくれた一本。 序盤に出てきた夫婦揃っての浪費ネタが後に生きてない。 ドイツ兵が現れたネタも、後に生きてない。それに、夫に報告しようとせず隠す理由も不明。 軍艦に全く迫力がない。 タイトルが内容と一致していない。孫娘も結婚したらMrs.Miniverになるのだから、二人のMrs.Miniverとバラの花とを絡めたストーリーでないとこのタイトルは不自然なものになってしまう。 序盤で、ミニヴァー夫人がバスを下車するシーンがダメ。帽子屋に戻る時の方向がバスが進むのと同方向になってしまっている。 キャロルが品評会の辞退を頼みに来たシーンのカメラワークがダメ。ヴィンとのツーショットになるように思わせ振りに右方向にパンしたショットは、ここはカットを割ることでヴィンを会話に入り込ませるべき。そもそも二人が口論するシーンは不要で、最初から仲良くなっていても全然問題ない。 プロパガンダだか戦意高揚だか何だか知りませんが、とにかく自分の知っているワイラーではなかった事は確か。 [映画館(字幕)] 4点(2013-01-01 22:30:57)(良:1票) |
132. 男になったら
《ネタバレ》 ルビッチの初期の作品と思わせる、上映時間も1時間にも満たない小気味の良い映画です。 小気味が良すぎて少々唐突な部分も見受けられ、コートを入れ違えて着てしまった所や、叔父さんのシーンがいきなり船内に切り替わってしまっている所など、若干の荒さは感じられるものの、総じて楽しい映画と言えるでしょう。 主人公の女は、博打は打つわ煙草は吸うわ酒は飲むわの三拍子揃った良いキャラクターで、且つメイドのおばさんや叔父さんも一緒になってスパスパと煙草をふかしたり大きいグラスに替えて酒をカッ食らったりと序盤からコミカルな雰囲気が出ていますし、パーティーのシーンでもバイオリニスト兼指揮者の奇妙なアクションが繰り返されたりして、噴き出してしまう所は色々とあったと思います。 やはり、“男は男らしく、女は女らしくあるべき”という教訓も映画のテーマとして感じられ、まだルビッチらしい精錬された印象は弱いものの、一流監督としての片鱗は十分に感じ取ることが出来、後の傑作群へのステップになっていると思わせる一本です。 [映画館(字幕)] 6点(2012-12-29 18:57:10) |
133. イヴの総て
《ネタバレ》 舞台演劇をテーマにした物語であるにもかかわらず実際に舞台で演じるシーンが出てきたのは皆無で、実際の舞台のシーンと言えば幕が下りるシーンを袖から撮った数ショットのみという、何とも特異な映画という気がします。 新旧の女優をはじめ、彼女らを取り巻く人々の舞台裏での人間関係に的を絞って描いており、主演2女優は勿論のこと脇を固める助演陣の演技もオスカーに多数ノミネートされるだけのことはあってやはり素晴らしく、非常に目を見張るものがありました。 自分の好みの観点で言うと、あまり脚本に頼った感のある映画は好きになれないことが多く、更に高飛車な女が皮肉タップリに罵る映画もそれだけで無条件に嫌いになってしまうのですが、これほどの力作となると話は別。 マーゴの台詞ですが、よくもまぁあれほどのイヤミを考えつくなぁと感心させられる程の台本ですし、Eveとevilを掛けて貶したりするのも面白いです。イヴに関しても化粧室でカレンを呼び出しての会話なども、イヴの言葉遣いが徐々に変わっていく様(お座りになって→座ったらどうなの)は非常にスリルに満ちたワンシーンで、この辺りからの彼女の本心の出し方などは必見と言えるでしょう。 2点ほどケチをつけさせていただくと、マーゴが実際に演じるシーンがなかった事もありイヴがマーゴを師と仰ぐ理由や背景のようなものが見えてこなかったのと、ガソリンを抜いてマーゴを本番に間に合わなくさせたのが「私は自分の行いを恥じた」という台詞のみであった事が若干説明不足のような気がしてしまいました。 とは言っても、やはり映画の前後半でイヴの印象に驚くほどのギャップが出るように感じさせるシナリオは非常に卓越しており、オープニングのストップモーションの時に感じられた可憐で謙虚なイメージが再度動き出してからのシーンではそれが見事に消えてなくなった代わりに狡猾な悪女のイメージが新たに出てきたのは、女の怖さに他なりません。 「All About Eve」はシンプルでありながらも深みも感じさせ、まさにベストなタイトルですし、邦題も下手にいじらないで大正解。 最後に出てきた女も、彼女の説明する「掃除係がドアを開けたままだったから入った」という説明は到底信じるに足らず。恐らく策を巡らして忍び込んだのでしょう。「一流になりたいのなら彼女にノウハウを聞け」という台詞にドレスを自身に合わせ陶酔する姿でのエンディング。上手い! [映画館(字幕)] 8点(2012-12-28 23:56:38)(良:1票) |
134. 生活の設計
《ネタバレ》 オープニングの電車の中のワンプロットはかなり好きなのですが、そこから先がどうしても受け入れ難い。 これはもう好みの問題なのでハッキリ言って説明がつかないですけども、過剰に脚本に頼ったような印象があってそれが一番の理由であることは間違いないのですが、3人の誰かがくっついたり離れたりという事の動機やその後の行動なんかがあまり面白いとは思えなかった事や、映像面で魅力的なシーンが少なかった事も理由の一つだったように思えます。 例えば、最初のパリへ向かう電車の中でのシーンでは、二人がスケッチブックを開いて自分たちの寝顔を見つけるくだりなんか、文字通り“3枚目”に出てきたりして楽しいですし、その前のハッと目を覚ます表情も面白かったりするのですが、男二人で部屋を掃除して身なりを整えているシーンで、破けてしまったワイシャツが生きることなく放置されたままで話が進んでいってしまっていたり、椅子をずらした跡に顔を出したゴミも同様にほったらかしのままでいたところは、ちょっと手抜きに思えてしまいますし、更にその後のシーンでも見た目に楽しめるシーンはほぼゼロだったと思います。 ノーセックスに関しても、品のないルビッチももう初めてではなく、この台詞が出る頃はつまらないストーリーにも慣れてきた頃だったのでどうでもよく思えてきたり・・・。 それよりも、一番よくわからないのがこのタイトル。一体何が「生活の設計」なんですか? [映画館(字幕)] 5点(2012-12-22 23:26:54) |
135. 名犬ラッシー 家路
《ネタバレ》 Lassie Come Homeで邦題を名犬ラッシーとしてしまいそうなところ、敢えて「家路」としたセンスは見事。 前半のスコットランドに行くまでのストーリーは、家庭内の環境や親子関係の描き方などにアラが出ていてちょっとお子様向けな印象があったのですが(公爵がやたらと高圧的だったり、金がないと言いながらもモリモリとおやつを食べている)、その一方で後半の「家路」を突き進むラッシーの描写は良かったです。 道中の過程で4つのプロットが挿入されていて、羊飼いの犬とのバトル、老夫婦に助けられ、行商人に女王様扱いを受け、ビルの窓から飛び降りて怪我を負いながらもはるばるとヨークシャーの自宅まで辿り着くまでの過酷な旅は、どのプロットにもハラハラドキドキさせられたりホッコリと心温まるような物語があったりと非常に見ごたえのあるものだったと思います。 この映画のラッシーは出てきたどの人間にもなつこうとはせず余り愛想が良いとは言えない雰囲気を出していて、誰にでもすぐになついてしまうような犬もそれはそれでまた可愛らしくて良いのですが、ご主人様の所にのみ近づいて行って愛情を受けようとする姿はまさに忠犬ぶりを感じさせて格好良かったです。 [映画館(字幕)] 7点(2012-12-22 10:27:35) |
136. サボタージュ(1936)
《ネタバレ》 サボタージュというのは、要はテロの事ですね。 子供が持つ小包が爆発するという内容は観る前から知っていた事を差し引いても、あまり面白くは感じられませんでした、というか、ちょっとストーリーが弱い。 最初に出てきた砂についてもキーアイテムのようにも成り得ていないですし、テロを実行する過程や背景も描き切れておらず(世間の目を海外から反らせるなどという台詞のみで終わってしまっている)、ラストの映画館の爆発も唐突過ぎる印象ですし、ヴァーロックの人物描写についても爆発の後の異様に平然とした態度でいるのも理解に苦しんでしまいますし、入場料の払い戻しのワンプロットも単発ネタのままで終わってしまっているのもイタい。 つまるところ、本題に関わる話は掘り下げが弱く、そうでないものに関してはただ付け加えただけという印象しか残らない映画でした。 [映画館(字幕)] 4点(2012-12-20 01:07:06) |
137. 旅情(1955)
《ネタバレ》 始まって3分で観る気が失せる。汽車の中での女の厚かましい態度に、この女にあと100分付き合わされるのかと思い冒頭からゲンナリさせられてしまいます。 この時点で、この映画のどこかで馬鹿デカい声でわめき散らすシーンが出てくるだろうと想像はできていて、案の定ヴェネチアングラスの所でそんなシーンが出てきたものだから、だんだん観るのもバカバカしくなってきてしまいましたし、怒鳴り散らすとかするのではなく、もうちょっと洒落を効かせてウイットで返すとかすれば面白いと思うのにそういう事が出来ないのだからここは作り手のセンスの問題で諦めるしかなさそうです。 ホテルのテラスでの食事のシーンで一組ずつ去っていって最後に一人取り残された時や運河沿いの段差に座っている時もあからさまに悲しげな顔ですし、サンマルコ広場のオープンカフェで飲んでいる時もこれまた分かり易くニコニコしていたりと、要は演出が全て大味で登場人物の心情を描く力量に欠けているのがありありと分かってしまいます。 また、「空腹ならそこにあるものを食え」なんてとてもじゃないけど品があるなんて言えないですし、「失望」と「ショック」を入れ替えての掛け合いなんかいかにも作り話の中にしか出てこないようなリアリティを欠く台詞回しで、脚本にも問題ありでしょう。 おまけに、ラブシーンと花火のクロスカッティングなんて露骨の極み。ここまで来ると、もう失笑しか出てこない。 とどのつまり、このデヴィッド・リーンという人はやはり「アラビアのロレンス」「戦場にかける橋」のような大作にこそ本領を発揮する人であって、どう逆立ちしても男女の細やかな心情を描く人ではないと思いました。 唯一、恐らくオールロケで撮ったであろうヴェネチアの風景がその場の空気感や臨場感を感じさせてくれて良かったのですが、一方で、序盤で駅舎を出ようとした時と部屋の窓を開けて女主人と会話をしている時の2か所で人物にほとんど光が当たっていない状態が出来てしまっていて、折角の「旅情」を感じさせるオールロケの撮影スタイルがかえって仇となっていたように思えます。 普通、背景の方が明るい場合は手前から光を補うか、もしくは主観ショット&風景パンとかで話を進めるなど、アイディアで切り抜けたりも出来そうな所でそういう工夫を凝らさないわけですから、これはもう力量と言うより手抜きと言うべきかもしれません。 [DVD(字幕)] 5点(2012-12-15 18:28:59) |
138. 白夜(1971)
《ネタバレ》 全体を通してみるとなかなか自分好みの映画なのですが、序盤を振り返ると妙な違和感を感じます。 ヒッチハイクをしているシーンでカメラがパッと引いてみると他にも大勢の人が路上に立っていて笑ってしまうようなショットが入っていたり、花畑の中を鼻歌を歌いながら歩く主人公を見る人たちを捉えるカメラも主人公の男を滑稽に描いている感が出ているので、中盤以降では感じられなかったものの、映画を見終わってからの結論としては、女に振り回されたりして「男ってやっぱり馬鹿な生き物」という映画だったのかもしれません。 また、ロケーション撮影が多くそれだけで心地よさが感じられ、雨で濡れた道の光の反射具合や窓ガラスに映り込む街灯の光など、自然で微細な光が画面を慎ましく彩っていて現実的なイメージが感じられる一方、BGMは楽曲と一緒にミュージシャンたちも同時にス~ッとタイミング良く入り込んできたりしていたりと、逆にこちらは非現実的で御伽噺っぽさが出ていたので、不思議な演出をする映画だなぁと思いました。 最後は、下宿人が出てくるのはわかって見ていましたが、雑踏の中に紛れて現れるという過度に劇的な登場の仕方ではなかったのがかえって良かったですし、二人に対してのキスの仕方に差をつけるところなんか、いかにもフランス映画らしさが出ていて面白いですね。 街を行き交う女の尻を追っかけたりと本業が疎かになり、同じような所を描いていた主人公でしたが、ラストで色が塗られていない所に筆を入れる姿で幕を閉じていたのは、馬鹿な生き物ではあるけども、人生の再出発を感じさせる終わり方で感動的ですらあります。 [映画館(字幕)] 7点(2012-11-18 15:12:19)(良:1票) |
139. ル・アーヴルの靴みがき
《ネタバレ》 カウリスマキ映画は2本立てで観た「ラ・ヴィ・ド・ボエーム」に続いての2作目なのですが、こちらは一転してカラーで明るい感じ。というか、悪い意味で画面がヴィヴィッド過ぎてかなり違和感のある光の当て方に感じました(特に室内シーン)。 画面の明るさや光加減だけでなく、序盤でコンテナを開けて見るシーンの不法入国者たちの出で立ちも不自然というか凄く奇妙な印象で、全員皆綺麗な服装でしかもやたらと顔色や肌ツヤも良く、おまけに子供が逃走する時の緊迫感のなさやコンテナの中の人を一人一人ゆっくりと捉えるカメラの動きなど、かなり異質な雰囲気を感じ取りました。 また中盤辺りで、ベトナム人が子供を警察から守り逃げさせようとしたシーンでもどことなく動きに乏しい感じがあったり、最後の病室の中に立っている奥さんの立ち方とかも演技している感がありありと出ていて、どうしても最後まで違和感が拭えないままで観ていました。 ストーリーを見るに、黒人の子供が上手いことロンドンに向かうことができたり、夫人の病気が全快したりといった非現実的な御伽噺的な物語であるため、それに合わせるように過度に明るい画面を作ったということなのでしょうか。 何れにしても、スタジオのセットでの撮影がほとんどでロケーションの自然な空気感が感じられない映画はやはり好きにはなれないと再確認した映画でした。 [映画館(字幕)] 5点(2012-11-16 23:43:17) |
140. ラヴィ・ド・ボエーム
《ネタバレ》 モノクロ映像が抜群に格好良い。 特に、室内シーンの抑えの効いた雰囲気はどのショットも皆素晴らしく、自分が今まで観てきたモノクロ映像の中でも1位2位を争うほどだと思います。まさか、1992年の映画に絶賛すべきモノクロ映像が存在するなんて夢にも思いませんでした。 ストーリーは、残念ながら個人的にはあまり好きではないタイプのものでしたが、モノクロの映画らしく、貧しい芸術家たちの生き生きとした姿を時にユーモアを交えながら描くというクラシックな感じが出ていた気がしました。 自分の愛した女が病に倒れ、医療費を捻出すべく絵や車などを売る姿は特に印象深いシーンとして心に残ります。 映画の中で流れる音楽が、作曲家の奏でる曲も含め効果的に用いられていましたし、ラストの「雪の降る町を」も、とても良い雰囲気が出ていたと思うのですが、もし他の国の人が観たら、突然の日本語に違和感MAXなラストに感じられてしまうのでしょうか? しかし、我々としては日本を贔屓してくれる人に対してはどうしても好意的な感情が生まれてしまうので、より味わい深いラストに感じられるのです。 [映画館(字幕)] 6点(2012-11-16 22:40:06) |