1781. 用心棒
《ネタバレ》 それまで、どちらかというと芸術性の強い娯楽作を主に撮っていた黒澤明が、肩の力を抜き娯楽性に重きをおいて作られた傑作。とにかく三船敏郎のかっこよさに尽きる。その外見、台詞、刀さばき、飄々とした姿勢、そして時折り見せる弱者に対する優しい視線。侍はやはりこうじゃなくっちゃ。 [DVD(字幕)] 8点(2012-08-16 17:26:19) |
1782. 蜘蛛巣城
《ネタバレ》 凡百の日本の時代劇とは一線を画する哲学的なストーリーと、それを彩る陰鬱とした映像美はさすがに見事としか言いようがない。後の傑作「乱」を髣髴とさせるダークな世界観と、ラストそれを切り裂くかのように画面狭しと降り注ぐ矢の雨あられ。本当にその独特の幽玄の世界はとても良い余韻となっていまも心に残っている。 [DVD(字幕)] 7点(2012-08-16 17:19:14) |
1783. 生きる
《ネタバレ》 確かに力強い映画であることは分かる。黒澤明の才気が縦横にみなぎっているのも伝わってくるけれど、どうにも個人的にそれが説教臭く感じてしまった。良い映画だとは思うけど、個人的には他の黒澤作品のほうが好き。 [DVD(字幕)] 6点(2012-08-16 17:07:21) |
1784. 羅生門(1950)
《ネタバレ》 必ず勝つと信じてアメリカと開戦したのに、蓋を開けてみれば完膚なきまでに叩きのめされ、それまでの価値観や常識のなにもかもが灰燼に帰してしまいそうな危機的状況にあった、敗戦後の日本。当時のそんな状況にあって、若き日の天才・黒澤明がまるで時代の要請に応えるかのごとく作りあげた古典的名作。芥川龍之介の作りあげた殺伐とした平安期を舞台に、隠された藪の中で織り成される、3人の男女の陰湿な愛憎劇。各々に秘められたエゴとプライドを照射するかのように降り注ぐ日の光が、今にも何かが狂ってしまいそうな美しいモノクロ映像となって炙り出されていく。そこにあるのは、まるで見栄とプライドと欲望のために、誰も責任をとらぬまま始めてしまったあの戦争の愚かさと同じものだ。それでも、最後に提示される今にも消えてしまいそうな微かな希望は、時代を経た今でも決して色褪せることはない。 [DVD(字幕)] 8点(2012-08-16 17:01:14) |
1785. ドライブ・アングリー3D
《ネタバレ》 どうしようもなく馬鹿馬鹿しいけど、それでもそれがひどく面白い、そんな映画を撮ろうとして見事に失敗してます。なにより変にストーリーに謎を持たせようとしたのか、話が見えてこず途中でだれる。それでも役者陣は豪華で良かった。高級食材を、料理をしたことのない素人が調理したような映画。 [DVD(字幕)] 4点(2012-08-16 16:51:06) |
1786. ミックマック
《ネタバレ》 ジャン・ピエール・ジュネ監督のこれまでのキャリアに裏打ちされた円熟すら感じる佳作のコメディ映画。良い意味で力が抜けていて、「ロスト・チルドレン」や「アメリ」のように肩肘張らずに観ることが出来てただ単純に楽しい(その二作が駄目と言ってる訳じゃないですよ)。相変わらず社会からあぶれてしまった個性的な登場人物たちや、その面倒臭い作戦の数々、どれもこれもが子供の頃を思い出して幸せな気持ちになってしまう。個人的に、フランス映画って嫌いなんだけど、そんななかで次作を心待ちにしてしまう数少ないフランス人監督の一人。 [DVD(字幕)] 8点(2012-08-12 17:45:03) |
1787. アメリ
《ネタバレ》 大人に成り切れない、どこかに少女のように純粋な心とそして子供特有のある種の残酷な毒を残したまま成長してしまったアメリ。自分が大好きなものは心の底から応援するけれど、許せないものは徹底的に排除しようとする。そんな彼女の唯一の心の支えは、豊かな想像力が織り成す空想の世界――。まぁ簡単に言うとよくいるイタい女性なんだけど、その人物造形が奇跡のように魅力的!!フランスのお洒落な街並みで繰り広げられる、自分の大好きな人を今よりほんの少しだけ幸せにしてあげようというアメリの数々の〝悪戯〟も、その動機があまりにも純粋な心から発せられているから、素直に応援したくなってくる。かなり独り善がりだけど、ね(笑)。そんな彼女を客観視するような、早口で捲くし立てるナレーションもグット。そして現実と極力関わらないように生きてきた彼女自身の不器用な恋の行方……。ふわふわとした荒唐無稽なお話が、ジュネ監督のセンス溢れる演出と映像美によって、奇跡のような美しい世界へと昇華されてしまっている。素晴らしいとしか言いようがない。日々の生活に疲れたとき、人間関係に悩んだときなどに、子供の頃のおもちゃ箱をそっと覗き込むように、何度も観返したい映画の一つ。 [DVD(字幕)] 10点(2012-08-12 17:26:38) |
1788. ロスト・チルドレン
《ネタバレ》 初期のジャン・ピエール・ジュネの、その独特の映像美といつかは醒めると分かっている悪夢のようなストーリーは、若干荒削りさが目立つけれど、それでも十分に魅力的。良いですね、この湿潤でありながらどこか乾いた世界観、特に毒を注入するように訓練されたノミと、少女の流した涙が流れ流れてその少女を救うというところはとてもわくわくさせられました。 [DVD(字幕)] 7点(2012-08-12 17:15:41) |
1789. サマーウォーズ
《ネタバレ》 80年代に大量に作られた、ドタバタラブコメの現代版のような映画。やはり新しいのは、そのネット上の世界を表すシャープでポップな映像美だろう。現実とネットの世界がシンクロし、夏休みに訪れた田舎の裏山と世界の危機が同時進行で収斂されていく演出は確かに見事だった。ただ、その余りに童貞中高生が夢見そうなラブコメ世界は、個人的に辟易させられてしまったのでこの点数。 [DVD(字幕)] 6点(2012-08-12 11:00:21) |
1790. コンテイジョン
《ネタバレ》 丁寧に作られたパンデミック・スリラー映画。豪華な俳優人の抑えた演技が緊迫度を増していて、ソダーバーグの手堅い演出が光っている。映画が始まってから約二時間、緊張の糸が途切れないのがすごい。ただ、それが余りにも優等生なつくりに仕上がっていて、幾分物足りないようにも感じる。この群像劇のなかにもっと一人くらい人間的な壊れたキャラクターが欲しかった。監督が過去に撮った傑作「トラフィック」に出てくる、子供のために麻薬を売り捌く母親のような。 [DVD(字幕)] 6点(2012-08-12 10:49:28)(良:1票) |
1791. グリーン・ランタン
《ネタバレ》 なーんにも期待しないで観たせいか、そこそこ楽しめた。これまで手堅いアクション映画を手掛けてきたマーティン・キャンベル監督らしく、今作もまぁ突っ込みどころは多いけれど二時間飽きずに楽しめる。宇宙規模の大戦争と、いけてない科学者の横恋慕を同列に扱うのはさすがにどうかと思うけど。 [DVD(字幕)] 6点(2012-07-29 17:10:16) |
1792. ヒア アフター
さすがにイーストウッドも年を取ってしまったのか、死を変に神秘主義的に描き出したどちらかというと退屈な作品。これまでのイーストウッド作品は、その重厚なテーマをなるだけ宗教色を排除して描くところが魅力だったのだけど、これはちょっと宗教色が濃すぎてげんなりしてしまう。 [DVD(字幕)] 5点(2012-07-26 16:12:01) |
1793. グラン・トリノ
《ネタバレ》 妻に先立たれ、孤独を紛らわすために酒に溺れ、それが原因で家族から疎んじられると、ますます自分の殻へと引きこもり、そしてさらに酒に溺れてしまうという人生の終盤で悪循環に陥ってしまったイーストウッド演じる偏屈で頑固者の嫌な爺さん。そんな彼の自宅の隣に、アジア系の家族が引っ越してきたことから始まるヒューマンストーリー。ともすれば説教臭くなったり、建前だけの薄っぺらい映画になりがちな題材なのに、そこはさすがイーストウッド。どんなにゴミのような人間にだって、いつかは輝くような日が訪れるかもしれない。老い先短い命と引き換えに、偏屈な爺さんはささやかな決断を下し、そして最後は素晴らしいものを少年に遺すことが出来た。それがグラン・トリノだけではないことは、もちろん少年が一番よく分かっている。淡々としながら深く、静かでありながら熱い、慈愛に満ちた良作。 [DVD(字幕)] 8点(2012-07-26 16:07:16) |
1794. チェンジリング(2008)
子供を奪われた母親が陥っていく地獄のような世界を重厚に描き出している。見事なまでに女優魂を見せたアンジーが、そんな苛烈な現実を乗り越えようとする母の愛情を鬼気迫るような演技で表現している。そんな彼女を支えてくれたものは、ただ息子と会いたいという希望。人間の生きる力強さが、神々しいまでに胸に迫る。 [DVD(字幕)] 7点(2012-07-26 15:57:54) |
1795. 硫黄島からの手紙
かつての敵国人であるイーストウッドが、戦時下の日本人を変に美化するでも逆に貶めるわけでもなく、極めて中立的に描写することで日本人監督とはまた違った客観的なメンタリティを描きだしている。良い部分も悪い部分も含めて、誰もが愛する人が住む祖国を守るために戦っていたのだという、そんな当たり前のことを思い出させてくれたイーストウッドにただ感謝するばかり。 [DVD(字幕)] 7点(2012-07-26 15:48:24) |
1796. 父親たちの星条旗
あの有名な写真の裏に隠された真実を巡る戦争映画なんだけど、後半はその後、復員してからの生活に焦点が移る。そのせいかテーマがぶれてしまったような印象をもった。姉妹編の「硫黄島からの手紙」との関連性もいまひとつ感じられず、イーストウッド作品としてはあまり出来は良くなかった。「手紙」のために作られた試作品といった印象。 [DVD(字幕)] 4点(2012-07-26 15:41:18) |
1797. ミリオンダラー・ベイビー
《ネタバレ》 どうしようもない貧困家庭に育ち、出口の見えない閉塞状況をひたすら這いずり回るように生きてきたマギー。そんな八方ふさがりの自分の人生から必死に這い上がろうと、彼女は偶然出合った老トレーナー・フランキーと共に女子ボクシングの世界でチャンスを掴もうとする。だが、彼女を待ち受ける現実はどこまでも苛烈で残酷だった。前半の絵に描いたようなサクセスストーリーから一転、物語はひたすら奈落に突き落とすかのように陰鬱な展開へと突き進んでいく。多様な解釈が可能な本作のなかで、もっとも重要なテーマは恐らく〝神の不在〟だろう。神なき現代社会において、人にとって〝赦し〟とはなんであるのか。極限の苦難に苦しむ彼女のために、血反吐を吐くほどの懊悩を重ねたフランキーは、最後、彼女が望んだ〝赦し〟という名の罪を犯す。神の定めた倫理に背いてまで、罪を背負う決心をした彼の決断は、永遠に答えなど出ない深い問題を僕らの心に突きつけてくる。正直、重たい作品で観終わったあとの絶望感は半端じゃないけど、それでも現代という不確かな時代に生きる者なら、一度は観ておくべき、イーストウッドの傑作だ。だからといって、カップルで観るとかは、止めといたほうがいいだろうけど(笑)。 [DVD(字幕)] 8点(2012-07-26 15:34:45) |
1798. トゥルー・クライム(1999)
手堅く作られた、社会派サスペンス。イーストウッド監督作品としては、珍しくエンタメ要素の強い作品なので、比較的気軽に楽しめる。最後は少々ご都合主義に過ぎるきらいもあるが、最後まで緊張感を持って観ることができる良作。 [DVD(字幕)] 6点(2012-07-26 15:15:08) |
1799. パーフェクト・ワールド
《ネタバレ》 冷酷無比な脱獄犯に誘拐された少年、アメリカののどかな田舎の風景の中で2人はただひたすら無軌道な逃亡の旅を続けてゆく。社会から脱落したどうしようない犯罪者であるケビン・コスナー演じる主人公だが、次第にその少年にとって一生忘れられないであろう大切なことを教えてくれる。だが、彼は凶悪な犯罪者として射殺される。どんな人間も、人によっては大切な人になれるという、いかにもイーストウッドらしい深いテーマをもった作品。冒頭からループする、ケビン・コスナーの最期の満足気な死顔がとても印象深い余韻を残してくれます。 [DVD(字幕)] 8点(2012-07-26 15:11:33) |
1800. ウィンターズ・ボーン
確かに一人の少女が過酷な状況のなか、必死に生きる姿を変に美化することもなく淡々と描くところは好感が持てる。その背景として閑散とした冬の地方社会が象徴的に描かれ、ほとんど効果音のない演出方法と相まって独特の雰囲気を醸成している。しかしこれは好みの問題でもあるのだけれど、いかんせん展開がたるい。個人的には、一人の少女の力強い生命力のようなものを、もっとエネルギッシュに描いてほしかった。 [DVD(字幕)] 5点(2012-07-26 15:03:26) |