1. 毒薬と老嬢
《ネタバレ》 コーエン兄弟の先祖みたいな映画だな、と思った。フランク・キャプラ=ちょっといい話の監督という小さいイメージが見事に崩された。とにかく色んな偶然が重なり、しかも(ほぼ)無理なく練りに練って組まれている。登場人物の行動理由も感情の流れに素直で見事の一言。ものすごい構成力。正直ケイリー・グラントのギャーギャーうるさいところや、目をひん剥く「わたしコメディしてますよー」というクドい表情にはうんざりで、減点したい。監督の演出に応えただけなのかもしれないが、本当にコメディ俳優として人気があったのか甚だ疑問だ。しかしそんなイヤなところも消し飛んでしまうほどの感動を覚えてしまった。映画終了5分前に主人公が出生の秘密を知らされる映画があっていいんだ、と。とにかくブチ切れて突き抜けてる大傑作。 10点(2005-02-02 01:34:17)(良:1票) |
2. 我が道を往く
これだけ善人ばかりが登場していてもちっとも嫌味でないのは、多分それぞれが自分のやりたいようにやった結果だからだと思う。しかしこの映画のいう「我が道」は、自分のやりたいことをやる、という意味ではなかった。「作曲家になるか、我が道を往くか」というセリフが出てくるように、「我が道」とは神から与えられた使命とかそういう意味であり、信仰に対してとても真面目で誠実な映画でもある。その手の映画は嫌いなのだけど、ビング・クロスビーの浮浪雲のような飄々とした姿に何となく説得させられてしまった。現実をあるがままに受け入れ、良心のままに行動することが「我が道」なのだな、と。作中歌「Going My Way」の、「やがて浮かぶ微笑みを旅の道連れに~」の部分がたまらなくいい。 9点(2004-06-05 00:08:12)(良:2票) |
3. 晩春
《ネタバレ》 いい年して嫁に行かないのも困るが、いざ行くとなると寂しい、複雑な親父心。その父親の寂しさを、最後の最後までとっておいてラストでドカン。泣いてしまったじゃないか。 9点(2004-05-23 01:55:46) |
4. カサブランカ
とてもチンケなメロドラマ。ヒロインの自己中、自己陶酔っぷりにうんざりした。映画史上最強のクソ女ではなかろうか。何がひどいと言って、単に不安と寂しさから自分の意思で不倫しただけのくせに、都合の悪い部分にはほとんど触れず、戦争に絡んだ大義名分で自己を正当化し守ろうとする卑劣さ。自分の外見をしっかり計算に入れているずる賢さ。映画自体も、舞台がそもそも人々が動けない街であり展開も緩慢、会話シーンは妙に寄っててエド・ウッドの映画を思い出した。イタイ女性のためだけの映画ってとこでしょうか。 4点(2004-04-07 11:58:55)(良:2票) |
5. わが谷は緑なりき
《ネタバレ》 単なる善人ばかりが出る映画でもないし、ことさらに悲劇ばかりを見せつけるわけでもない。本当の人間がいる。あれだけ威厳に満ちていた父親が段々しょんぼりと小さく見えてくる様。朗らかだった母が、寂しさからどんどんひねくれていく様。とても細やかでリアル。祝い事がある時は共に盛り上がっていた村人たちが、心無い噂でコロッと集団で態度が変わる田舎の恐ろしさから牧師の情けないキレっぷりまで、喜怒哀楽に溢れた素晴らしいドラマ。 10点(2004-04-07 11:47:51)(良:2票) |
6. 失われた週末
音楽やそれに伴う雰囲気は結構緊迫してますが、内容はそんなに大した話じゃない。偉大なる小品という感じ。しかし中毒になる心理はかなり伝わった。やりたいことがあるのに自信がなくてできない。そういう自分が嫌いで嫌いで仕方なく、もううまいとも思えなくなった酒を飲んで一時の現実逃避。救いの手を求めているはずなのに、手を差し伸べてくれる真面目でしっかりした兄がコンプレックスの対象になってしまい、ひねくれてしまう。一途に愛してくれている女性も負担に感じて拒絶してしまう。そのジレンマに苦しむ様子がつらく、刺さった。同じことを自分もしていないか、と。 7点(2004-03-21 22:35:07) |
7. 深夜の告白(1944)
探偵がいない倒叙ミステリーという感じ。女性が最後までどういう人間か結論づけてないところが印象深い。男の友情を描く部分はとても好きなのですが、主人公が口の達者なスカした営業マンということで、あまり親しみが持てなかったのが不満点です。 8点(2004-03-09 23:30:59) |
8. 第三の男
ジャンルとしてはサスペンスだと思うのですが、とても内面的に鋭い作品。特に女性心理の描写がえぐい。アンナに対して「ヤな女だなー」と途中までは思っていたのですが、結局アンナは、ハリーを愛していたのではなく、強すぎる自己愛から来るプライドを満たしてくれる男を要求していただけの、人を愛せない寂しい女なのだな、と哀れに思えた。 9点(2004-03-07 02:11:33) |
9. 天井桟敷の人々
昔の名作ってことで、前衛的でわけわからんかったらどうしよう、という不安を抱きながら見ましたが、かなり面白かったです。いかにもフランスらしく、自分の内面を理屈っぽく皮肉やユーモアを絡めてしゃべるしゃべる。白い男バティストの芝居、ギャランスの男に精神的に甘えず余裕を持って袖にする成熟した女っぷり。これらももちろん良いのですが、一番のシーンは2部で親分が伯爵に会いに風呂場に行くところ。傍観者である子分の顔にゆっくりと近づき、その表情で何があったかを伝える表現手法にしびれました。脇役にもそれぞれの味があり、時間の長さを感じさせない名作です。 10点(2004-03-06 04:23:07) |
10. 自転車泥棒
《ネタバレ》 見た後落ち込む、という予備知識を持って見ましたが、それほどではなかった。むしろ理不尽な社会に対する怒りや絶望をこんな昔から分かってくれてた人がいたんだ、と癒された。盗もうかやめようかを葛藤する終盤の演技が秀逸。 8点(2004-02-27 21:48:17) |
11. 素晴らしき哉、人生!(1946)
力技で泣かされた感じ。作風は嫌いじゃないはずなんだけど、どうも主人公の芝居がイヤだった。一本調子で飾ったしゃべり方を延々と続けられてうんざり。それでも、現在の自分に絶望しかけた時には、こんな自分でもまんざら捨てたもんじゃないと思わせてくれる良い作品。 8点(2004-02-27 21:40:28) |
12. 市民ケーン
もしリアルタイムで見ていたら、その後の孤独を描いた諸作品が全て焼き直しに見えてしまったのではないか、と思わせるほど本質をズドンと突いた作品。前半はやや退屈だったが、後半は時間を忘れた。すごい映画だ。 9点(2004-01-24 02:39:53) |