1. カメレオンマン
偽ドキュメンタリーという笑わせる手法を取っているものの、その向こう側にひそむ心はとても厳しく、そして優しい。周りと全く同化してしまう行為は、孤立への恐怖や好かれたいという気持ちから周りに合わせて自分自身を見失ってしまうという、社会との関わり方についての普遍的な悩み。それをしめっぽくせず笑いに変えてしまうセンスが素晴らしい。精神科医のミア・ファローのおかげで自分を失わなくなった主人公は、その後多々のトラブルでまた症状が再発する。やはり努力してもダメなのか。そう思ったところで今度は他人と同化してしまう体質のおかげで命が助かり、英雄として迎えられてしまう。彼は言った。「人間おかしくなれば何でもできる」。大事なのは周りに合わせることでもなく、自分の欠点を無理に責めることでもなく、常に自分自身を主張することでもなく、欠点を含めた自分自身を受け入れること。そしてできれば自分を助けてくれる大切な人がそばにいてくれれば、こんな幸せなことはないだろう。笑った後に心がきれいになっている、大傑作。 10点(2005-03-03 00:47:06) |
2. クリエイター
小学生の時、上半身だけの男の子「ケニー」の同時上映で見て以来、20年振りに見た。当時は哀しくも前向きなラストにジーンときたものだが、今見るとそれぞれの人物設定が何とも中途半端で伝わりづらい。30年前に妻を亡くした博士は妙に明るい人だが、それが悲しみを紛らわせているポーズ、というエピソードは無い。ただそういう人としか思えない。他の登場人物も突然怒り出したり興奮したり、感情の動きに説得力がイマイチかけているのだ。映画に都合のいいように人間が単純にできているわけではないけど、そういう深さは無く単に詰め切れなかったのだろう。助手の恋人の病気もいらないと思う。しかしそれらの不満点を差し引いても海岸での決意のラストがしっとりとした名シーンであるという感想は、20年の月日を経ても全く変わらなかった。 7点(2005-02-01 17:41:19) |
3. ヤング・マスター/師弟出馬
最初はシリアスものかなと思わせて、いつのまにかお馴染みのコメディタッチに。冒頭の人情話は一体何だったのか。かろうじてストーリーはあるものの、テンポのいいアクションをうっとり見ているうちに忘れてしまいそうな軽いストーリー。手と足をつないだ手錠をどうやって外したのかも気になる。つっこみどころは満載なものの、時間が経つのを忘れるほど楽しい映画でした。 8点(2005-01-11 01:05:20) |
4. ツィゴイネルワイゼン
言葉による一切の解説を拒むかのような映画。どんな映画かと人に問われたら説明する自信はない。悪い夢を見ていたような144分だった。 10点(2004-12-23 17:53:30) |
5. ガープの世界
《ネタバレ》 ありそうで無い話が次々に起こる不思議な物語。途中から忘れそうになってしまうけど、あの母親は間違いなく精神的に病んでいる。そんな病人が時代のヒロインとして祭り上げられることがもう病んだ社会への皮肉になっていると思う。ガープの嫁も「見つかったらやめる」という自分勝手な理由で浮気し続け、ばれてとんでもないことになったら「傷ついているのは自分だけだと思ってるの?」と開き直る。これも病気。意表をつかれたラストまで全編通じて伝わったことは、「女性とは性別ではなく、病名である」ということだった。 9点(2004-12-15 19:31:20) |
6. ドグラ・マグラ(1988)
《ネタバレ》 原作は数年前に必死で読み終えたきり触ってもないですが、異常で危険な雰囲気はとても良く出ていたと思う。特に正常と気違いの境界線は考えてみれば曖昧なものだ、という演説はほぼ作品の肝と言ってもいい。原作が狂人の書いた小説を軸にしているとしたら、映画は狂人の見た夢という感じ。軸は決して外してない。よくここまで映画化したものだ。終わり方が予想外に綺麗だった。 9点(2004-06-05 00:15:29)(良:1票) |
7. 機動警察パトレイバー
頭が良すぎて神の視点に立ってしまった男の孤独な犯罪。後藤隊長という捜査する側に意外な理解者が現れ、帆場は幸せだったろう。かなり手の込んだストーリーで完成度は高いが、キャラ設定のために登場人物の内面を固定せざるを得ないアニメ独特のやり方が、映画としては深みが無いという弱点と限界を露呈している。 8点(2004-05-29 01:25:06) |
8. 炎のランナー
親や教師が子供に見せたいような映画。スコットランドという国柄なのか、信仰に対する迷いが無さ過ぎてちょっと気色悪い。皆妙に大人で、建前に対する本音も見えない。そもそも建前と本音の区別も無いのかもしれない。「現にこういう性格の人たちだったんだ」と言われればそれまでだが、とにかく気色悪い。ヴァンゲリスに1点。 1点(2004-05-29 00:51:57)(良:1票) |
9. コックと泥棒、その妻と愛人
《ネタバレ》 序盤、ただ不快なだけなヒゲ男の傍若無人な振る舞いが理解できなかったが、途中でふと気づく。どんなに高級で上流ぶったレストランでも食事という行為は排泄やセックスと同レベルの本能にもとづく行為である。そこに気づいてから、この映画は上品とか下品とかいう言葉で人間の上下を分けようとしている人間に対する手の込んだ皮肉だということが理解でき、どっぷりのめり込んだ。しかもその後、腐敗した肉のコンテナに全裸の男女が押し込められるシーンで、冷凍のブタも腐ったブタも、人間も、同じ肉に変わりは無いという根性の悪い強烈な皮肉がまたも表現される。参った。インパクトのあるラストへのくだりはやや力技っぽかったが。ジャン・ポール・ゴルチエの絢爛な衣装が皮肉をより一層利かせるのに一役も二役もかっている。傑作。 10点(2004-05-29 00:26:23)(良:1票) |
10. 戦場のメリークリスマス
たけしと坂本龍一のセリフが聞き取りにくくて弱った。アメリカの戦争映画にありがちな、何か違う日本軍像を日本の監督がやってるとこが面白い。暴力シーンでカメラがさっぱり動かないのも好き。話全体で見れば特に大きな出来事もない地味な話だけど、厳しい戦時中に兵士たちが見た一時の夢、という感じで見ればとても良い話だ。ラストはなぜか涙があふれてしまった。 9点(2004-05-13 01:22:34) |
11. ガンジー
ガンジーの一番偉大なところは、周りの自分への扱いが良くなっても悪くなっても自分を変えないところ。そのためにはとてつもなく強い意思と信念が必要で、誰でも簡単にできることではない。ただただ、本当にすごい人を見た。 9点(2004-04-23 01:10:27) |
12. ミッション
心の中に生ずる怒りや憎しみを消し切れなかったメンドーサがとても悲しかったです。 7点(2004-04-23 01:01:57) |
13. ダイ・ハード
警察やFBIの偉いさん、マスコミ等社会的な力に対するコキおろし方が妙なコンプレックスすら感じさせるほど極端。いくら何でもあんなに馬鹿じゃないと思う。コンプレックスと言えば、一人で命をかけてがんばっているのに全然分かってもらえない、という切なさも劣等感の強い人にはありがちな心理で、その辺りが圧倒的な共感を呼んだのだろう。そして深い孤独の中で、妻を救いだすという目標と、自分の苦しみを分かってくれる唯一の理解者。そこから生まれる勇気と希望。アラン・リックマンの粋な存在感、派手な爆発、スカッとする小ネタの数々と、隅々まで気の行き届いた傑作。 10点(2004-04-15 01:08:58) |
14. ミッシング(1982)
渋い社会派ドラマ。戒厳令という存在そのものが不気味でいい感じ。しかし政治が介入してくるドラマというのは、個人の力ではどうにもならないだけに何とも言えないやり切れなさが残ります。 7点(2004-04-14 01:16:02) |
15. スキャナーズ
頭ボーンだけの色モノ映画かとなめてかかってたら、意外と深くてびびった。薬害問題まで絡むとは。プルプルするサイキックバトルシーンは耳鳴りのような音に救われている。あれがなければ相当変。 7点(2004-04-07 17:31:32) |
16. ラストエンペラー
何をするわけでもなく、したいことがあるわけでもなく、明るい未来も無い。セリフにも出てくる「観客のいない劇場」という言葉がぴったりの虚無感。贅を尽くしたスケールの大きさがさらに虚しさを引き立てる。他者の都合のためだけに生きさせられた一人の男の哀しい人生をじっくり味わえた。 9点(2004-04-07 12:03:34) |
17. パリ、テキサス
《ネタバレ》 心に大きな傷を持つ鬱病患者が、自分を癒すために他人の人生をひっかきまわす不愉快な話。傷の原因は自分たちが自己に執着しすぎたために起こった悲劇なのに、何も反省が無い。最期は自己満足の表情で終わり。ふざけんな。学校からの車道をはさんだ帰り道は非常に良かったけど、帳消しになるほどイヤなラスト。 6点(2004-03-29 02:30:55)(良:1票) |
18. スカーフェイス
《ネタバレ》 感情的で上昇志向が強くて心の狭い成り上がり者が、順調に破滅していく話。効果音の使い方にB級の匂いがしたのは多分デ・パルマ監督の嗜好なのでしょう。妹への病的な執着、ボスの女への横恋慕等女を絡めたエピソードもじっくり楽しめた。ラストの死に様はもはや芸術。 7点(2004-03-29 02:25:44) |
19. セールスマンの死(1985)
見終わった後の重たい感じも、語っている内容もとても素晴らしいけれど、人の話をさえぎって話す場面が異常に多く、少し不自然にやり過ぎだと思った。現実を受け入れる勇気も強さも持ち合わせないプライドの高い弱い男が、精神的な逃げ場を失って妄想の世界の住人になってしまうという、決して他人事と笑えない話。ただひたすら重い。 8点(2004-03-29 01:34:53) |
20. さよなら子供たち
冷ややかで苦くて残酷な映画。心に刺さる厳しさがある。普段は妙に大人びていて冷めた感じの2人が無邪気にピアノを弾くシーンが素晴らしい。それだけに、あまりに重いラスト。美しい映像がさらに残酷さを際立たせている。 8点(2004-03-21 22:16:24) |