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1.  チリ33人 希望の軌跡 《ネタバレ》 
この出来事が数十年前のものであれば、それこそ事実に目をつむって脚色し、最大の盛り上がりを作り上げたり、救助の足を引っ張る自然の要素や人的被害などもふんだんに入れたことだろう。しかしこれはつい最近の出来事。日本でも頻繁に報じられた事件ゆえ、制作サイドは事実に根差したものにするか、エンタテインメント化するか、企画の段階で悩んだことだろう。そして前者を選んだ。そこを理解せずに映画としては…とかは面白くなれれば高得点にならない、では切ない。 おそらく、閉じ込められた人々が現状を理解し、自分さえ助かればいいという映画上のステレオタイプな人間がいなかったからこそ助かったのだ。助かりたいならみんなでじっとしていようという、知り尽くした採掘マンだからこそ同じ結論にたどり着いたのではないか。最も難しいこと貫いた彼らの精神力と、何とか助け出したいという地上の人々の気持ちがなしえた奇跡を、盛り上がらない中で感じる作品ではないだろうか。 ここまで俳優が豪華なのは、これは世界的にヒットするという皮算用の結果なのか、だれもが知る奇跡の事件に賛同した俳優が多かったのかはわからない。 ただ、やたらヒーロー化した人物がいないのが映画全体の好感につながっているように感じた。
[CS・衛星(字幕)] 7点(2020-05-21 22:10:04)
2.  男はつらいよ お帰り 寅さん 《ネタバレ》 
CMが秀逸。寅さんの面白おかしいセリフの数々、少し寂しそうな現在の登場人物の表情。寅さんの迷言、名言が今を生きる人々や観客に突き刺さる構図を予想させる。過去作の「男はつらいよ」で描かれていることを知っているから当然だ。 しかし鑑賞してみると、その予想はかなりの肩透かし。なぜか湘南ボーイの桑田佳祐の「ひとり紅白」が唐突に始まる。おそらく数多くのひとがラストの渥美さんの歌唱でほっとするのを考えれば、彼の起用は失敗だったとおもう。渥美さんなき作品の宣伝フックのためとはいえ、この発想は間違いだ。寅さんファンである桑田さんとしてみれば、OPの歌を断るわけも無い。彼が悪いわけではない。ただ、この話を彼に持ちかけた松竹側の自信の無さが残念だ。でもこの中身に不安を覚えたのは仕方ないと、見続けると痛感する。 光男は「三丁目の夕日キャラ」とダブるのは致し方ないとしても、別に何かに行き詰っているわけではない脱サラ小説家。娘もストーリーや妻の死別に絡んでこない都合のいい存在。妻の3回忌に再婚を勧める周囲を描くのであれば、妻との思い出が必須なのにそれもなし。そうなるとただただ後藤久美子との再会に誘導されるだけだ。これはまさに「ニューシネマパラダイス完全版」を見た気分。見なくてもいいものを見せられていく感覚。特にがっかりしたのが、空港最後で妻の死別を告白するという行為。これは私だけでなく寅さんもがっかりしたに違いない。男は最後までかっこつけるもんだ。寅さんの「顔で笑って心で泣いて」を続けているからこそ「男はつらいよ」なのだ。光男ではなくさくら目線で作った方がよかったのではないかとすら思える。 テーマがぶれているというか、見えないままという意味で本作品は直感で3点。寅さんと過去のマドンナの登場シーンも「ニューシネマパラダイス」を彷彿とするというレビューを散見するが、入れ方が唐突過ぎて登場シーンの段積みという表現以外はまったく違う。「ニューシネマ~」はアルフレッドがつないだフィルムの試写という現実シーンの体裁だが、本作の過去シーンは、光男も生まれていないころのマドンナも登場するいわゆる回想シーンだからだ。渥美さん亡き作品は過去を振り返るしかないし、見る側も当然それを望む。それならば、あの回想シーンを生かすストーリー展開になぜしなかったのか?光男の生まれていないころのマドンナまでも思いをはせるストーリーに出来なかったのはあまりに残念だ。そういった意味でも、内容面のちぐはぐさを隠し、期待を持たせてくれたCMがやはり秀逸といえる。もし内容が素晴らしければあのようなフェイクCMにはしなかっただろうけど。 ただ、そのことを差し引いても寅さんと当時のマドンナの輝きには圧倒される。そこだけでプラス3点。それほどまでに寅さんの表情が素敵だ。
[映画館(邦画)] 6点(2020-01-04 00:29:09)(良:4票)
3.  シンデレラ(2015) 《ネタバレ》 
まず、ケネス・ブラナーに拍手。ディズニー映画にケネス・ブラナー?若いころは「自分」を前面に出した作品も多く、やや自己顕示旺盛な印象だったか、この作品は自身の出演はおろか、職人監督的な手腕が随所に出て素晴しい。ディズニーの誰でも知っている作品をここまで見事に映像化したのは正直驚いた。フェアリー・ゴッドマザーにかつての同棲相手だったヘレナ・ボナム=カーターを選ぶあたりは実に興味深い。彼女自身の女優「力」を信じ、彼女もそれに見合った演技で、わずかな出演にもかかわらず、この物語の最大のキーワードである「魔法」に説得力を持たせている。常に曲者を演じ続けてきたインパクトはここでも十二分に発揮されている。リリー・ジェームスも当初は継母の娘たちの一人としてオーディションを受けていたのが面白い。グレース・ケリーのような骨格と気品が実に主人公にぴったりだ。王子役も超二枚目というよりは、誠実さあふれる王様の一人息子の雰囲気が出ていて新鮮だ。ケイト・ブランシェットは、おそらくベテラン女優としては一番演じたい継母役を楽しく演じている。彼女の目つきや顔の角度、照明など、継母描写にここまで気を遣うのはケネス・ブラナーがこの大女優に敬意をはらっている証拠だ。作品のなかでも力を入れて撮っているのがわかる。新人と大女優、かつて恋愛関係もあった性格俳優と、実にバランスのいい印象だ。この作品のなかでも一番のシーンはドレスへの魔法。コレには思わず感嘆の声が出てしまった。 他のレビューにもあったが、なぜガラスの靴だけ魔法が解けなかったのか?シンデレラ最大の謎(?)かもしれないが、この映画ではその理由が少しわかった。 シンデレラの母が常に語っていたフェアリー・ゴッドマザーの存在。つまりあの魔法使いは、昔から人々の暮らし、特に善良な人々を見守ってきた存在。今回はたまたま親切にされて登場したわけではなく、彼女に幸せをもたらすために現れたのだ。つまり舞踏会に行くためだけの魔法はなく、王子の誠実さもすべてお見通しだからこそ二人を結びつけ幸せにするために魔法を使ったのだ。 シンデレラという物語はあくまでエラ本人目線で描かれてきたが、もしかすると王子の前にもフェアリー・ゴッドマザーが別な形で登場していたのかもしれない。たとえば、主人公二人は結婚のあと、あの舞踏会のことを語り合うかもしれない。そのときシンデレラは「ガラスの靴だけなぜ魔法が解けなかったのかしら?」と気づくだろう。それを脇で聞いている王子は、こっそり微笑むかもしれない。そして窓の外を観るとあのフェアリーゴッドマザーが口に人差し指を当てて「内緒にね」と王子にだけ微笑む… ヘレナ・ボナム=カーターが演じたからこそそんなことまで想像してしまう。 なかなかの名作だ。
[映画館(字幕)] 9点(2016-12-28 12:47:56)
4.  イントゥ・ザ・ウッズ 《ネタバレ》 
それぞれ有名なストーリーをきれいに交錯して見せた前半は実にスムーズで心地よい。うまくいったはずなのに事態は急変、の中盤は、先の読めない面白さで「さあ、どんな奇想天外なクライマックスに導いてくれるのか」とわくわくさせられる。しかし、後半はいただけない。ブロードウェイミュージカルという確固たる原作の映画化が裏目に出た。ミュージカルのいい意味でのあいまいさ、筋が通っていなくても、楽曲と演者が素晴らしいからよしとしよう、というストーリーの雑さが、かえって映画化で目立ってしまった。巨人の女は悪いことをしていない、といった矢先に退治しようとなったり、長男王子とパン屋の妻の不義、さらにその妻の強引な夫への愛の論理、いつのまにか死んでいるジャックの母、妻の死を引きづらないパン屋、舞台ではごまかせても、映画となれば「?」となる。メリル・Sも歌声は特筆すべきもののキャラがぶれる。魔法が出なかったと思えば、最後は使えたり。死んだ牛を蘇らせることができるので、当然先に述べた妻や母もそうすると思ったのも肩透かし。プロデューサーももっとがんばって舞台原作者を説得し、映画版ラストを変えるべきだった。残念。
[映画館(字幕)] 6点(2015-03-30 03:08:10)
5.  テルマエ・ロマエ
ヤマザキマリの奇抜な原作を、シャレで作っている感覚に好感が持てる。CGも、ローマにおける日本人俳優も「真剣に見る」作品ではない約束事としていいと思う。ただ、残念なのはオペラ楽曲のBGMだ。「喋喋夫人」や荒川静香で有名になった「トゥーランドット」など関係ない楽曲はリサーチ不足だ。この点を改善すれば、意外とよく考えられている映画になったのだが。
[CS・衛星(邦画)] 6点(2015-03-08 14:39:49)
6.  フッテージ 《ネタバレ》 
主人公がイーサン・ホークだったので、彼なら後半に事件の真相を知ってあえてそれを食い止めようとするのではと思ったのですが、単に「怖がらせておしまい」でした。逆に言えば、イーサン・ホークだから期待感を持って見続けられたわけで、プロデューサーの勝ちとも言える。でもこの手の作品ばかり出ていたらやばいぞイーサン。
[CS・衛星(字幕)] 6点(2014-04-13 09:51:29)
7.  イルカと少年
実にバランスの良い映画だ。引きこもりがちな少年、学校に行かせようとする母、足を負傷した名スイマーの従兄、寂れて経営難の水族館、そして尾ひれのないイルカ。様々な人々の再生をここまで消化できている脚本は意外と少ない。これを可能にしたのは、わずかながらのカットでありながら登場する人々やひと目見てわかる演出、そして豪華過ぎるキャスティングだ。予備知識無しで見てみたらアシュレイ・ジャッド、モーガン・フリーマン、クリス・クリストファーソン気負いなく登場する。彼らは子供の心を理解するだけの包容力をすでに持ち合わせた雰囲気だから必要最低限のセリフとシーンで十分表現できてしまうのだ。そして、イルカによるヒーリングもすでに一般的にだから、違和感なく見事にテーマを描き出す。子供向きとか動物モノとかそういうこととは関係ない。完成度はすごい。監督は「アンタッチャブル」でアル・カポネの脱税容疑に目をつけ、カナダ国境で大活躍のオスカー・ウォーレス役で有名なチャールズ・マーティン・スミス。
[CS・衛星(吹替)] 8点(2012-11-18 17:58:56)
8.  サンクタム 《ネタバレ》 
大自然の畏敬の念をうたいながらも、それを味わう以前に人間の浅はかさや向こう見ずな冒険心が目に付いて最後まで心を揺さぶられなかった。 冒頭の主人公の少年が水底に落ちながら、最後に目を開けるシーン、で大筋は判明。さてさてどんな展開か、と期待して見たがお世辞にも爽快感があるとはいえないサバイバル。パニック映画の突然の悲劇ではなく、自ら危険を承知で突き進むから、それぞれに欲望がうごめき、人間関係もざらついているのがそもそもしっくり来ない。キャメロンの「アビス」は偶然別な知的生物に遭遇したりして、目先が変わるが、この作品はあくまで洞窟の難関クリアだけだ。次から次に起こる問題も「今度はこれね」という一本調子に思えてくる。主人公たちの親子のテーマが、最後に奇跡的な活躍をしなければならない息子の伏線であると同時に、冒険家としての目覚めと成長を醸したいのだろうが、彼自身にあまり魅力を感じないせいか、なぜか「どうぞご勝手に」となってしまった。映像が素晴らしいだけに「アバター」と同じ印象。 
[CS・衛星(字幕)] 5点(2012-08-22 18:04:33)(良:1票)
9.  アンストッパブル(2010)
トニー・スコット印の正統派アクション。現代のアクションのお手本のようなカット割とカメラワークでこの上ない緊迫感を演出している。どれほど繰り返し撮影を行っていたのだろう、わずか2、3秒(長くても5秒以内!)を丹念に積み重ねている。同じシーンを何度も何度もカメラ位置を変えて撮影し、あたかもひとつのシーンのようにつないでいる。わずか1分の描写も相当な時間と労力がかかっている。走る列車は並走する車かヘリからの撮影だが、そのカットの多さもすごい。ヘリを何機も接近&低空で飛行させているのだ。その努力があってこその映像、スピード感演出は惚れ惚れする。無駄な人物描写を極力省きすぐに事件を起こさせるストーリー展開も見事。いかに列車を止めるのかという本題に十分時間を費やせるからだ。この映画、あまりにも演出が際立っているため「この俳優じゃないと成立しなかった」がない、ある意味「俳優殺し」の映画とも言える。でもそんな映画があってもいい。
[CS・衛星(吹替)] 9点(2012-01-09 01:15:42)(良:1票)
10.  ジュリエットからの手紙
不思議な映画の魔力を秘めている作品、それが鑑賞直後の印象。ベタで先が読める展開が「つまらない」ではなく、「だからこそ良かった」と素直に受け止められる。初見なのに「こういう映画好きなんだよなあ、もう1回見よう!」と思いながら見ている気分。まさに録画していたスポーツの勝ちゲームを見ている気分なのだ。ストーリーに翻弄されないから、映像や演技をしっかり堪能できる「余裕」や「安心感」を与えてくれるのだ。イタリアの美しい風景や50年前の恋人探しのクレアの少女のような美しさ、それを手伝うソフィのナチュラルな可愛さを感動できるのはまさにこのシンプルなストーリーのおかげなのだ。さらに感動を高めているのは、実際にヴェローナで「ジュリエットの秘書」たちによって行われている「ジュリエットレター」というなんともロマンチックなやり取りにすでに心打たれているからだ。おそらく今は亡きゲイリー・ウィニック監督やプロデューサーのエレン・バーキンもこの事実に相当ほれ込んだに違いない。それにしてもヴァネッサ・レッドグレーブが素敵過ぎる!あのブルーアイズの美しさは最近の洋画界でも特筆もの。彼女の瞳が50年をすべてあらわしているのだ。普通に考えれば、夫が亡くなって初恋探しをすることに後ろめたさを感じる可能性も無いわけではないが、彼女の立ち振る舞いと美しさはその夫としっかり愛情ある夫婦生活を送ってきた自負と威厳がある。おそらく亡くなった夫もあの世から応援しているかもしれない、とまで思えてしまう。一方ソフィも二人の男性の間で揺れ動くと思いがちであるが、すでにすれ違いはニューヨーク時代にさりげなく披露されており、別れは時間の問題であったことが伺える。ご都合主義、出来すぎと思いながらも、納得できてしまうのはそんな出演者の演技と演出によるものと感じずにはいられない。本来なら8点かもしれないが、震災以降の自分にとっては亡き監督と出演者への感謝の気持ちと、自分のメンタリティが映画によって救われるという「映画の魔力」を再認識させてくれた意味でプラス1点。
[試写会(字幕)] 9点(2011-05-17 10:00:08)(良:4票)
11.  アウトレイジ(2010) 《ネタバレ》 
冒頭のボッタクリバーに引っかかるサラリーマンが秀逸。すべての発端は彼から始まったのだ。このやり取りがリアルなおかげで次に仕掛ける罠に私は完全に引っかかってしまった。痛い映画という表現が良く使われるが、この映画はそれが主ではない。殺しの部分をリストラやいじめに置き換えると社会のあちこちの縮図に見えてしまう。学校や職場やクラブやPTAなど集団社会で少なからず起こりうる展開だ。北野作品初出演の豪華な俳優陣の細かい芝居も見ごたえアリ。見る人によってそれぞれの役作りが楽しめる。特に北村総一朗に頭をはたかれた後の三浦友和の表情と顔色の悪さが好きだ。頭をはたかれるシーンは2度あるが、2回目の表情が感慨深い。1回目のカチンときた表情が見事に消えているのだ。これはその後の展開を示唆する重要な表情だ。さらに顔色メイクも素晴らしい。明らかに酒で肝臓を患っている土気色。よほどの酒量を示す割に三浦の飲酒シーンがほとんどない。北村総一郎の前では従順な態度。それはあくまで表向きであるということ表しているのだ。三浦友和一人ピックアップしてもネタは尽きない。それにしても、この映画は観るたびにいろいろな発見がある作品。北野武監督に限らず、何度でも楽しめる作品は久々だ。はやくDVDでチェックしたい。
[映画館(邦画)] 8点(2010-06-13 00:43:58)(良:2票)
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