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好き嫌いは、分かれる。特に、若い人には、嫌いという意見が多く出るかもしれない。主人公は、ナチスの迫害に果敢に立ち向かうわけでもないし、地下運動で地道な抵抗を続けるわけでもなく、収容所での過酷な労働に耐え忍ぶわけでもない。彼の才能を知る人々によって、窮地を脱し、自身の無力に涙し、飢えと虚無感に絶望しながら、ただひたすら、息を殺し、食料を漁り、逃げ惑い、隠れ住むだけである。ただ、それが、痛い。痛ましいまでに、人間の、生きることへの自我を曝け出していて、痛い。そして、彼の自我を支えていたのは、ピアノを弾くこと。廃墟になった病院の中、朦朧とした意識の中でも、あるはずのないピアノを弾いていた姿は、胸に迫る。そんな一方で、生きることへの自我を支えていたはずのピアノを前にしても、缶詰を離そうとしない姿、ドイツ将校の差し入れた食料を泣きながら食べる姿は、哀れなまでの極限を描いている。「神に感謝をすればいい」。その才能によって人々に助けられ、生き延びた彼に出来ることは、ピアノを弾くことだけ。本作を観ながら、やはり戦争は嫌だなぁと、思う。被害者になることよりも、自分や自分の家族の為に、もしかしたら自分こそが無意識に弱者を踏み躙る加害者になるかもしれない可能性が、嫌だ。好き嫌いは、分かれると思う。それでも、大掛かりな仕掛けもなく撮られた本作は、当時のポーランドを扱った映画としては渾身の一作であり、エイドリアン・ブロディの演技は、秀逸である。ただ、一人の視点から描いた作品だけに、もうひと押しという部分は、ある。
【由布】さん 9点(2003-02-18 22:27:55)
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