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日本人にとって、切腹というコトを口にするのは、ちょっと微妙な感情、一種の居心地の悪さが伴う訳で、それは、いわば日本を代表する風習のひとつでありながら、自分自身はそれを決行する自信が全くないこと。何かと耳にはする「切腹」という言葉と、その意味する実態が想像を絶することとのギャップ、しかし世が世なら自分もそれをせざるを得なかったかも知れないという恐怖(武士だけの行為ではない。近代でも自らそれを行った例が多々あるとのこと)。あと、世のSMマニアの中には切腹マニアというのもいて、そのテの本や写真集もあるそうで(三島の『憂国』だってその一例だ)、それも居心地の悪さの原因かも知れないけれど(笑)。さて本作。ひとつには物語の構成の妙が我々を釘づけにするんだけど、“切腹”を正面から捉え、しかもそれを痛々しく理不尽に描いているのが、強烈この上無い。切腹ってのは、腹膜まで切ろうとすると非常に苦しいものとなり(腹筋を切り裂くのがまず大変)、浅く切ってすぐ介錯してもらうのが楽で良いらしい(とモットモらしく言ってるのがこれまた居心地悪いんだが)。それを何と、竹光での遂行を迫られる理不尽さ、その苦痛はいかばかりか、画面からヒシヒシと伝わってくる。なのに本作の音楽担当が「たけみつ・とおる」とはこれまた何と理不尽な。それはどうでもよいが。後半、物語は一変、いや、視点が変われば物語も変わるということ。強い立場、迫る立場、追いつめる立場であったはずの人間が、実は追いつめられていってる、というその過程が、別の意味でコワイ。何ものかにとらえられている存在であることには、皆、変わらない。この凄惨なクライマックスは、一種のエンターテインメントでもあるのかも知れないけれど、そこには同時に、秩序が内側から自壊していく恐怖もある。いやむしろ、秩序の虚飾が内側からが崩壊してなお、秩序の外枠だけがガランドウのように残り続けていくことの恐怖なのかも知れない。
【鱗歌】さん [CS・衛星(邦画)] 9点(2012-09-29 03:47:41)(良:1票)
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