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《ネタバレ》 村上春樹の短編小説がベースになっているとの事で、登場人物が皆淡々としているが、それがだんだん心地よくなってくるのが正に村上ワールド。そこにチェーホフの戯曲を前面に押し出すことによって、多分、原作は読んでいないのであくまでも多分、そのことで原作小説よりも主人公家福の苦悩がより深く表現されているのではないかと想像すると、本作は映画として大成功だったのではないかと思う。チェーホフのテキストを口にすると自分自身が引きずり出されると語る主人公。妻の死によって、罪悪感を含む喪失感を抱えることになった彼にとっては、自分自身を引きずり出す行為が必要だった。前に進むためには。専属ドライバーの女子も家福と同じ心の傷を持ち、車中でカセットテープを聞き共にチェーホフに触れることによって、同じく自分自身が引きずり出される感覚に陥ったのだろう。二人は決して恋仲なんかになるわけではなく、互いの傷を交換し、自分たちは大丈夫だと確認し合う。身近な人を亡くした時、そこに居るはずの場所がぽっかり空いてしまった時、「喪失感」という新たな感情が生まれ、それは空いてしまった場所を埋めるかのようにそこに居座る。言いたかった言葉、伝えたかった感情を向ける相手がいなくなると、その言葉や感情は宙ぶらりんとなり、喪失感と一緒に仲良くいつまでも残ってしまうのだろう。自分自身を引きずり出し、悲しみや辛さを認め、今世は絶えて生き抜くしかない。そんな人生観はとてつもなく切ないが、逆にあっけらかんとしていて物凄く前向きだ。ドライバー女子の最後の表情は、それまで見たことのない柔らかな微笑で、ああ前進したんだなと思える素敵なラストシーンになっている。
【ちゃか】さん [インターネット(邦画)] 8点(2024-12-19 18:29:51)《新規》
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