| 作品情報
レビュー情報
《ネタバレ》 脳内オチ系の話であることは冒頭から察しが付くのですが、監督もそこを隠すつもりはなく、観客にあらゆる点を疑ってかかられることを想定して全体が組み立てられています。オチを隠そう隠そうとして失敗する作品が多い中で、本作はある程度の割り切りのもとで作られているため、作り手と観客との間での温度感の差ができていません。これは見事な判断だったと思います。
虚構と現実の混ぜ方がよく、観客の先読みをうまく利用して仕掛けを作っています。例えば、主人公を取り巻く女性たちの扱い。本作には2人の女性が登場しますが、この手の作品を見慣れている観客ほど、主人公と二人っきりでの登場場面しかないスティービーを妄想の産物であると疑うのではないでしょうか。ネタが割れてしまうと、スティービーは物語の真相とは無関係なデコイであることが分かるのですが、そこにジェニファー・ジェイソン・リーをキャスティングし、ヌードまで披露させて何かしら重要なキャラクターであると錯覚させた辺りの騙し方はうまいものだと思いました。 細かい点では、何気ない日用品に現実と妄想との間の橋渡しの役割をさせている点も興味深く感じました。例えば冷蔵庫。あれだけガリガリに痩せたトレバーはこの1年まともな食事をとっていないことが推測され、ならばあの冷蔵庫は1年間ほとんど開かれていないはず。トレバーの生活において冷蔵庫はタイムカプセルのような役割を果たしており、その中には彼の妄想の源流となる何かが詰まっていると見せかけているのです。観客の深層心理においても、しばらく開けていない冷蔵庫には底知れない気味の悪さがあります。外食が続いた後で久しぶりに冷蔵庫を開くとカビの生えたごはんですよが出てくるような経験は誰もが身に覚えがあるだけに、開けてみたいけど、中にはとんでもなく怖い過去の遺物が眠っていそうで開けたくない、できればフタをしたままにしておきたいというトレバーの心境とうまくシンクロさせています。 そんなミスディレクションの一方で、妄想に入る前には主人公がうたた寝をしかける描写を毎回きちんと入れており、演出面でインチキをしていない点が好印象でした。物語は一定の法則性の中で描かれており、すべてのピースがきちんと嵌るように作られています。監督は自分自身に制約をかけて「なんでもアリ」を許していないため、見終わった後にも納得感の高い作品となっているのです。 【ザ・チャンバラ】さん [DVD(吹替)] 7点(2016-01-26 16:22:12)(良:1票)
ザ・チャンバラ さんの 最近のクチコミ・感想
|