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《ネタバレ》 貧民街で暮らす人達の姿を赤裸々に描く群像劇。爪に火を燈すようなぎりぎりのどん底生活では、良くも悪くも人間性が浮き彫りになる。トラウマになるほど悲惨な挿話もある。性にまつわる問題が多い。挿話の束ね役は、いつも超然としている彫金師の長老。泥棒に財布を進上するちゃめっ気があり、六ちゃんの電車ごっとに付き合い、偽薬で自殺志願者を救い、刀振り回す男をさばき、病気の乞食父子を援助しようとする。大活躍だ。一見救いのない話が多いように見えるが、微かながら光明はある。妊娠した娘は、元凶である叔父と別れることができ、傷害罪は問われず、勤労青年とも仲直りできた。生物学上の父親が違う家族では、父子の絆が確認できた。夫婦交換の夫婦では、夫婦の絆が確認できた。無愛想の妻の家では、妻との絆が確認できた。自殺志願者は、生きている意義を知った。六ちゃんの家は、母が知恵遅れの子を心配をしているが、子は母の心配するほど成長してきている。不義の妻の家では、夫と十分な和解は叶わなかったが、夫は妻の作った食事を食べるなど妻を許す兆しを見せ、妻は夫と別れて新しい人生を踏み出すきっかけを掴む。乞食の親子は異色。子はあっけなく死ぬ。施された食べ物で食あたりを起こすという皮肉。しかしこの子は幸せであったと信じたい。父の為に物乞いの毎日。父の空想に付き合う日々。それでも愚痴一つこぼさなかったのは、父のことが好きで、一緒の生活が幸福だったからだろう。監督初のカラー作品で、監督の敬愛するゴッホの絵のように荒々しく、色がどぎつい。ストーリーはおいておくにしても、力強く生命感溢れる映像は心証深い。ゴッホが監督したかのような内容と仕上がり。後に「夢」でゴッホを描いているのも偶然ではないだろう。ゴッホは自殺し、監督も公開の翌年自殺未遂を起こす。芸術家は”狂気”を持ち合わせている。六ちゃんの運転する電車は空想。乞食の建てる家は想像。空想や想像だけの世界で生きていれば苦悩はない。だがそれは現実逃避に過ぎない。”映画という現実”を創り上げるために監督がどれほど苦悩し、苦労したか。生身の監督の悶え、もがく姿が投影されている気がする。ある意味自画像といえるかもしれない。ラストでは電車の絵に光明が射す。最後まで希望を失わない姿勢に感動。大阪万博の年にこの映画を創るとは何と不器用な。時代設定を戦後すぐにすればもっと感情移入できた。
【よしのぶ】さん [DVD(邦画)] 6点(2012-07-12 07:25:54)
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