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《ネタバレ》 登場人物に感情移入しながら一歩引いて物語を鑑賞するという従来の映画の殻を破り、映画の中に入って心地よい映像と音楽に身をまかせて体験(トリップ)するタイプの映画。粒子の粗いフィルム、俳優のカメラ目線、人体の極端なアップ等、妙に生々しい演出になっている。何よりも映像のリズムを重視している。男が警官を射殺する場面の極端に省略された編集に注目。これだけで従来にない映画とわかる。又アングルを固定して多カットでつなぐ手法は、外での撮影の場合、背景がどんどん変わる。それでいて会話はぶつ切になっていない。何とも斬新な手法だ。言葉は途切れることなく、背景音楽のように流れ続ける。会話のほとんどは気の利いた愛の科白や人生の警句で、それはそれで心に残るが、それがそのまま意味を持つというよりも、サブリミナルのように意識下に語りかけてくる。ストーリーの流れもタメやユーモアがなく、ノンストップ状態。俳優以外の人(エキストラ)がカメラや俳優をのぞき込んだり、まるで観客が映画撮影の現場に居あわせているようでもある。このように意図的に作成された言葉と映像のリズムに乗る事により、従来にない疾走感を体験できる。◆物語は単純。車の盗難を稼業とする男が警官を射殺してしまう。男は惚れている女の所に行き、ローマに行こうと誘う。女は男を愛しているかどうか分らない。男が女を愛しているといえば言うほど嘘に聞こえる。パリでしたい事もある。迷っている間に男は刑事に追い込まれる。女は密告し、男は射殺される。◆男は人生に絶望しかけており、息も絶え絶え(breathless、英語の原題)だ。その象徴が煙草を吸い続ける事であり、しかめっ面をする事。てっとり早く金を稼いで、女とヤリたいだけ。だが最後に男は気づく。「くやしいけど女のことが頭から離れない」初めて恋を知ったのだ。次の瞬間男は射殺される。「最低だ」という科白は女にではなく、自分に向けられた言葉。◆女は愛よりも自由を選んだ。妊娠していることも気にしていない。だが朗読するフォークナーの「野生の棕櫚」は「医学生と人妻が駆け落ちするが、人妻は堕胎手術に失敗して命を落とす」という内容で、女の将来を暗示する。◆唇を指でぬぐう仕草は、強い決意の表れ。女はラストシーンでこの仕草をするが、それは男との別れの決意。そしてカメラ目線で観客と一瞬向き合い、背を向ける。女と観客の体験が終了したのだ。
【よしのぶ】さん [DVD(字幕)] 8点(2011-09-11 03:16:30)
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