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《ネタバレ》 巨匠は“画力”が凄い。飛行機が生物のように息づく。関東大震災の地震の迫力、逃げ惑う群集の緻密さ、雲の描きわけ、背景の草原の草や流れる水も生き生きとしていた。ゴッホの絵画を観るような生命の躍動を覚え、夕日を眺めているような懐かしさも覚えた。画だけでも観る価値がある。世界に誇れるアニメだ。あえて苦言を。堀越二郎の物語だから、ゼロ戦の完成で終点だろうと予想していたが、九試の完成で終ってしまった。ゼロ戦登場はラストの残骸と夢想の編隊のみだ。堀越氏の最も苦労した太平洋戦争時代を飛ばしたのは、「戦争と人間」という主題を避けたかったからだろう。「美しいもの=飛行機」の夢を追い求めると、戦争兵器の設計に関わざるとえなかったという苦悶は感じられない。二郎の人物像の掘り下げが不十分で、生身の人間として映らない。積極的に行動することは少なく、本質的に受け身なのだ。仕事は与えられたものを文句もいわず淡々とこなし、対人関係で問題を起こさない。性悪な人も登場しない。恋愛も受け身だ。菜穂子の女中を助けたあとは、偶然の再会、菜穂子から告白、菜穂子が病院を抜け出し、押しかけ結婚、菜穂子去ってゆく。「美しい姿だけ見せたかった」というが、恋人同士ならまだしも、夫婦間でそんな美学はありえないだろう。本音で語り合い、共に苦労し、助け合ってこそ真の夫婦である。又「愛と死」が主題なのに「死」を描かなかった。特攻によるパイロットの死、妻の死、大空襲、無数の戦没者。戦闘機と死は切っても切れない関係だ。死を描かずに戦闘機の設計者の人生を描くのは不可能だ。残念ながら、底の浅い人物描写でしかない。主人公の愛、苦悩、喜び、怒り、憎しみ、悲しみが感じられてこそ、心の糧となり、感動があり、人間は素晴らしいと思えるのだ。二郎は戦争、妻の死を経ても成長していないと思う。それは妄想の中での師匠との軽い対話でもわかる。「君は生きねばならん。その前に、寄っていかないか?良いワインがあるんだ」日本の敗戦をこれほど軽く描いた例は稀有だ。意味ありげに特高や反ナチのドイツ人が登場したりするが、本筋とは無関係。一本、筋の通った筋書が出来ず、どこを終点にしようか、迷った跡がある。風の使い方は良かった。風で飛んだ二郎の帽子を菜穂子が掴み、風で飛んだ菜穂子のパラソルを二郎が押さえる。愛も戦争も風のように過ぎて行った。けれど生きてゆこう、夢の翼に乗って。
【よしのぶ】さん [DVD(邦画)] 8点(2013-09-25 22:26:41)
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