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《ネタバレ》 この映画は能楽『安宅(あたか)』を原作として制作された。筋はほとんどそのままで、地謡の部分をニュージカル仕立てにしている。エノケンの強力を加えてコミカルにしてある他、エノケンが飛び六方の真似事をするなど、歌舞伎の「勧進帳」の影響も強い。黒澤流古典の換骨奪胎で、枯淡な能舞台をそのまま映像に写したような静かで落ち着いた趣がある。淡麗な水墨画の巻物を見るようだ。歌舞伎では見得を切ったり、六方を踏んだり、大袈裟な演出で観客を惹き付けるが、本作ではあくまで抒情的演出を貫く。弁慶の勧進帳の披瀝と山伏問答の場面は実に見事。役者としての品格がある。現在この役を演じきれる役者がいるだろうか?◆戦時中は検閲官がいて、監督は常に彼らと丁々発止やりあっていた。やれアメリカ的だ軟弱だと文句をつけられ、様々な理由を以て企画した作品、脚本がことごとく中止決定となり、半ばヤケになって、遂に誰にも文句のつけようのない古典に題材を求めた。フィルムや予算の制限があり、ロケは撮影所の裏山でするという簡易方式。シーンも3つしかない中編。元々次の作品につなげる為の中継ぎの意味しかなかった。一種の逃げである。監督は無意識の内に自分を判官に見立て、判官贔屓に自らの心を慰めていたのではないかと想像する。撮影中に終戦を迎え、間もなく完成したものの、今度は「主君への忠義」の内容がGHQコードに触れ、発表禁止扱いに。つくづく運の無い作品である。◆まだ駆け出し監督にとっては経験を積んだという意味が大きいだろう。初めての時代劇。エノケン強力のキャラは、「乱」の狂阿弥につながる。山中の場面は「羅生門」の予習。機転で関所を通る場面は「隠し砦の三悪人」にも出てくる。経験がよい財産になっているのだ。
【よしのぶ】さん [インターネット(字幕)] 6点(2011-10-01 02:10:31)
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