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《ネタバレ》 芥川龍之介と黒澤明の夢のコラボ。人間の心の怖さ、脆さ、危うさ、人間不信、人間愛を描いた作品。原作「藪の中」では三者三様の別々の矛盾した物語が述べられ、真相は語られないる。対して本作では、解答編すなわち杣売の目撃談が語られる。非常に丁寧に作られた作品で、映画作りに対する真摯な態度に頭が下がる。先ずは時代背景。疫病、飢饉、台風、火事、盗賊の横行、羅生門の放棄死体等の話題を出し、人民が荒廃している様子が示される。その象徴が半壊放置の羅生門。次に事件のあった日のうだるような暑さ。ぎらぎら輝く太陽、木漏れ日、顔に映る葉影、玉の汗、光る刀、岩清水…枚挙に暇がない。この暑さが事件の外因になっているのだから重要だ。そして人間不信に陥った杣売、僧の心の状態を表現する大雨。こういった道具立てに手抜きがない。映像も例えば、開始15分30秒に騎馬の多襄丸が夕日を背景に疾走するワンショットの目の覚めるような美しさ。映画に対する意気込みが違う。意図せず芸術になっている。恐ろしいと感じた場面がある。それは「青葉を鳴らして涼しい風が吹いた」という偶然が、多襄丸に女の顔を見せ、犯行の動機になった事。偶然により大きく狂わされる人間の運命というものに震撼した。もう一つ。武士は被害者なのだが、思いめぐらしてみれば、そもそもは多襄丸の口車に乗って刀や鏡を安く手に入れようと欲を起こしたことに非がある。ほんの少しの欲が顔をもたげたばかりに殺されることになってしまう悲運。人知を超えたものだ。そして女の美しさ。美しいことは罪だろうか?多襄丸が女をものにしたいと思ったのも美しさの故だ。美しいという美徳が罪悪の原因にもなるという撞着。菩薩にも魔性になる女の変化。価値観が揺り動かされます。最後に、恥の文化。恥は名誉を重んずる事で人間を人間たらしめる。証言が矛盾するのは、対面や体裁を取り繕う気持ちが強いから。無意識に自分自身を騙し、信じたいものを信じてしまう事もあるだろう。人間の心がいかに危うい価値観の上に成立しているか、それを認識させてくれる稀有な作品です。最後のメッセージは明快で、人間の本来持っている善の部分を信じたいということ、赤ん坊の未来は明るいということ。大雨の後の雲間に希望の光が射してくる。とても単純だけども、とても力強い演出です。ヒューマニスト黒澤明ここにあり!
【よしのぶ】さん [DVD(邦画)] 9点(2012-07-11 16:33:52)
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