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《ネタバレ》 いろんな意味で、これはとんでもない映画であります。ストーリー展開や後味の悪さときたら、『ファニーゲーム』を凌駕しているんじゃないでしょうか。 床に線を引いただけでのドッグヴィルの集落は、演劇では昔から良く使われている表現でさほど驚きはしません。そして開幕から70分過ぎるあたりまではある意味イイ話で、何も知らずに観ている人はハートウォーミングな映画だと勘違いしてもおかしくはないでしょう。独立記念日の会食が過ぎたあたりから住民の本性が表出してきてお話しはだんだん身も蓋もない方向になって行きますが、住民の中でも最悪なキャラはやはりトムでしょうね。生まれ故郷のホワイトトラッシュの吹き溜まりで燻っているニートのくせに、自分は優秀だと勘違いして愚かな住民相手に牧師気取りで偉そうに説教までする、もう最悪です。こういうちょっと勉強ができるバカほど始末に負えない奴はいません。父親の金をくすねてグレースに罪を擦り付けてからのこいつの言動には反吐が出そうです。 物語が始まってからしばらくは登場キャラ全員に好感が持てたのに、終わってみればだれ一人として感情移入できなくなっている(もちろんグレースもね)ところがこの映画の脚本の凄いところです。また、ストーリーテリングの緩急の付け方は絶妙で、ラース・フォン・トリアーの脚本家としての技巧は大したものだと認めざるを得ません(腹立ちますがね)。グレースがドッグヴィルを抹殺する気になるところなんて、その数分前には想像もつかない展開じゃないですか。実の娘に銃をぶっ放すような危険な男ですけど、「住民への懲罰として犬を殺して壁に打ち付けておこう」なんて(グレースに比べれば)ぬるいこと言ううぐらいで、終わってみればジェームズ・カーンが唯一感情移入できるキャラだったのかも… この映画のテーマはやはり「傲慢」ということになるんでしょうか。母親の前で一人ずつ子供を射殺させるのはもちろんのこと、いくらクズの集まりとは言っても住人を全員抹殺させるグレースこそが傲慢の極致なのかもしれません。でもあの殺戮の場面で、嫌悪よりも快哉やカタルシスを感じてしまうこと(自分もです)に気づいて愕然とする人も多いでしょう。悔しいけどこれこそがラース・フォン・トリアーの意図するところで、闇の中から奴の笑い声が聞こえてきそうです。
【S&S】さん [CS・衛星(字幕)] 9点(2020-02-29 22:12:31)
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