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《ネタバレ》 カワサキのカワといえば大抵は三本川の川なのに珍しく、河童の河だと名乗る河崎。30分もかけて本屋を襲撃したのに肝心の広辞苑を広辞林と間違えるそそっかしい河崎。シャロンとマーロンの小噺を「楽勝」で語る河崎。ボイスレコーダーに遺った、失ってしまった者たちのその声を、彼は一体どれだけの回数聞いたのだろう。河崎曰く「可笑しいな」の「しいな」と同じ響きの名前をもつ椎名は、人は好いけれど、隣室の住人が孤独なブータン人だと分かるとそれ以来深入りを避け、バスの乗り方が分からず声をかけてくるインド人の前を逃げるように通過する、典型的な日本人でもある。Bob DylanのBlowin' In The Windを口ずさみながら引っ越しのダンボールを片付ける椎名と、その背後に、奇跡に出会ったような笑顔で立つ「となりのとなり」の河崎。彼らが鴨とアヒルであるならば、「鴨とアヒルは違う」と悪気なく言う鴨の本をアヒルはどんな思いで盗んだのだろうか。それを思うと、どうしようもなく胸が痛む。原作に忠実な映画の宿命として、本作は原作を超えてはいないだろう。ミステリーに付き物である謎解きの答え合わせのような冗長さ、社会的弱者が鬱屈の捌け口として単独で行う場合がほとんどであるだろう動物虐待の犯人像を見るからに素行の悪そうな三人組にあてがうウソ臭さ、あまりに流暢な現在のアヒルの台詞回しなど、小説であれば誤魔化せても映画だからこそ浮き上がってしまうそれらを映画として巧く消化しきれない下手さは、どうしても拭えない。けれどそれでも下手なりに誠実に物語ろうとするこの映画が好きだ。ラスト、「もう一度」犬を救おうと車道に飛び出すアヒル。反復は過去と現在の状況の変化を強調する。彼のしたこと、そして失ったもの。一度目の時のように「犬を助ける俺が殺されるわけがない」という絶対的な法則を、罪を犯した彼はもう、もたない。映画はそんな彼にどんな結末が下されるかを不遜に描いたりはせず、誠実に、省く。彼のしたことが善いか悪いか、そしてアヒルは赦されるのか赦されないのか、その答えは神のみぞ知る。描かれるのはただ、車道に迷わず飛び出し行く彼の、それでも決して失わなかったもの、それだけだ。そして鴨がそうしたように、コインロッカーの中で電池が切れるまでBlowin' In The Windを歌いつづける神様に、映画もまたアヒルのため、ただただ切に祈るのだ。
【BOWWOW】さん [DVD(邦画)] 8点(2009-11-21 15:21:00)(良:2票)
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