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《ネタバレ》 時代の移り変わりを経て、幸か不幸かその毛色がガラリと変わってしまう映画がある。『Wの悲劇』はまさにそんな映画の代表例だろう。女優の野心やエゴ渦巻く演劇界を描いた本作だが、20年以上の時を経た現在、公開当時のシリアスドラマとしての機能は完全に破綻し、もはやブラックコメディーのごとき様相を呈している。驚くのは、作者本来の意図に反してサスペンスからコメディーへとそのジャンル自体がガラリと一変してしまったこの映画が、それでも途轍もなく面白いということだ。密室殺人を描いたありきたりな原作ミステリーを敢えて劇中劇とし、そこで起きる殺人と、それを演じる女優の身に起こるスキャンダルとが「身代わり」という共通項でシンクロしていく二重(W)構造。そしてその身代わり役としての和辻摩子を「演じる」ためにスキャンダル女優を「演じる」劇団研究生三田静香をさらに「演じる」薬師丸ひろ子の姿から、人間の人生における二重三重の演劇性にまで言及する脚本の巧さ。この練りに練られた巧みさが本作に骨太な厚みを与えているのは間違いない。たとえ表層のシリアスが時を経て突っ込みどころ満載の滑稽な笑いに変色はしても、その根本の重厚な骨組み自体はゆるがないということだろうか。さらに言えば薬師丸ひろ子、三田佳子、高木美保(新人)ら女優陣の過剰に大仰な舞台型熱演もまた、もはや迫真性を超えて観る者の笑いを誘いつつ、けれど本物の人生を虚構のように「演じ」ざるを得ない人間の滑稽や悲しみを根底に謳う本作には実にふさわしい。駆け出しの劇団研究生におろおろと泣きすがる三田佳子も、スキャンダラスな裏事情を腹式呼吸で説明しながらナイフ片手に突進していく高木美保(新人)も、そしてスカートの裾を拡げていじらしい泣き笑いを見せる薬師丸ひろ子も、彼女たちはいついかなる時も悲しいほどに、その役を演じる一人の女優として、そこに立つ。たとえ心から愛した男のためにフラッシュライトを浴び涙を流せなくても、たとえそのナイフが本物の血に染まってしまっても、あるいはたとえその別れが本物の永遠の別れであっても、彼女たちが人生を演じるその舞台から降りることは、決してないのだ。
【BOWWOW】さん [DVD(邦画)] 9点(2010-01-24 02:38:05)
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